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8話〜否、水無月和真の優しさは偽りだ。〜

俺と夢叶と弥生と木陰さんは札幌駅の映画館に来ていた。


そこで数週間ぶりに如月と出会った。


如月になんでここにいるのか?と訪ねると、「水無月和真と待ち合わせの為。」と答えた。


「水無月和真って、あの水無月和真か?」


水無月和真、それは1年D組の成績優秀、スポーツ万能、顔も良い、いわゆるパーフェクトボーイだ。


だけど、如月と水無月がなんで映画館に?


「そうだよ。1年D組の。知ってるしょ?」


知ってはいる。だが、詳しくは知らない。水無月はどういう性格で、どういう人格なのかはまだ知らない。


性格と人格って同じか。


「おう、なんとなくなくはな。」


それはそうとして、何故クラスに順応していない如月と、人気のある水無月が映画館で待ち合わせをしているのだろう。


そしてどこに接点が会ったのだろうか。


どういう経緯(いきさつ)でこうなったのだろうか。


「っつーか、如月と水無月は何しに来たんだ?」


「ああ、私たちは映画を見に来たんだよ。」


如月はなんの抵抗もなくさらっと言ってきた。


きっとデートだ。もう言わなくてもわかる。いや、もう言ったも同然だ。


異性同士で映画なんて他にあるだろうか。


否、あり得ない。


俺がお前も孤独に生きるんじゃなかったのかーと視線を送ると、察したのか辨駁(べんばく)してきた。


「デートじゃないからね!第一、私が一緒に映画に行きたいって思うの1人しかいないし。」


前半の活力はどこへやら、後半は声が萎んでしまっていた。


いや、1人いるのかよ。その1人が水無月かも知れないじゃんと一瞬言いそうになったが突っ込むべきじゃないと思ったのでやめておいた。


まず、問題はそこじゃない。デートではない。ならばなんのために。


「じゃあなんでだよ。」


俺の言葉に如月が驚く。


「えっ!?私、映画部で、生徒に映画を紹介してるんだよ?」


映画部、か。


知らなくても無理はない。しばらく言葉を交わしてこなかったのだから。


今更ながら、ここで出会った事がかなり気まずい事だと了した。


如月も過去の事を思い出したのか、(ある)いはもともと気づいていたか、


双方が気まずい事に気付いたので、黙らざるを得なくなる。


重たい沈黙が続いた。


聞こえるのは頻りに鼓動を打つ自分の心臓の音だけだ。


ゆっくり、1秒1秒をを噛み締めるかのように時間(とき)が流れていく。


時間の流れを元に戻したかの如く、遠くから清々しい声が耳に届く。


「如月さん!ごめん遅れた!待たせたかな?」


「あ!水無月くん!全然待ってない!」


実際かなり待っていたのだが。いや、長く感じただけなのかもしれない。


ってか逆だよ。普通こういうのって女が待たせた?って聞いて、男が待ってないよ。って言うやつなんじゃねーの?。俺、そういう経験ないから知らんけど。そういう経験ないから。


大事なことなので2回言いました。


でも、そういう所でもそんなに気にならないのが、これまた上位グループで皆の人気者、水無月和真である。これがまた厭らしい。


......厭らしいんだか気にならないんだかはっきりしろよ。まあ、上位グループのやつらは基本厭らしいんだけど。


「えっと。師走くんはなんでここに?」


「ふぇ!?お、俺は妹と知り合いで暇潰しに。」


俺の名前を覚えててくれた感動と、リア充に話しかけられて動揺したのと、それに動揺してる自分が腑抜けだと思ったのと、劣ってると感じたので、思わず変な声が出てしまった。


と、と、と、って、言いすぎですね。


とっとっとって聞き覚えあるなあと思ったら「炊きたてホカホカのご飯マジうめえwwwwww」でした。


気になった人は「ハムッハフハフハフッ!!」で検索!カチッ!


にしても人気者って人の名前覚えんの得意だよな。


俺なんて人の名前すぐ忘れるぜ。


すげぇな。みな、みな......水俣病くん?


ついでに隣にいるの誰だっけ?あ、わかさぎさんか。


「そっか、師走くんが映画館ってちょっと意外だな。」


第二水俣病くんが俺に微笑してくる。


俺も意外だなと思ったんです。しかも、女子3人となんて。


いつからこんな子になっちゃったんでしょーね。


俺達の会話を(会話って読んでいいのだろうか。)黙って聞いていた若狭湾さんが時計を確認し、慌てた様子でイタイイタイ病くんの肩をツンツンする。


……もう、ここまで来ると全く違っちゃうな。


「水無月くん!時間!」


「ああ、本当だ!悪いね師走くん、また後でな。」


「おう。」


出来れば俺は会いたくながな。


俺も時計を確認する。


あ、やべぇ、時間過ぎてるし。


俺は劇場へ駆け出した。



§



俺が劇場に入ると既に劇場は満席に近かった。


そりゃそうだ。ゴールデンウィークの真っ昼間だ。


家族連れだって沢山いるだろう。


そこはまだ許容範囲なのだが、範囲外なのはリア充共だ。


カップルでイチャイチャしてるやつ。


劇場内なのにくっちゃべってる友達集団。


もうこいつらには憤りを感じる。


青春にはマナーってもんが通用しないんですか?


青春したら何しても許されるんですか?


え、許されるの?


やっぱ青春しようかな。青春したら俺は何でも出来るのか!?あんなことやこんなことまで!?


ぼっちやめたら卒業できるかな?とかいう煩悩を振り払うかのように、俺は座席の表示されたチケットに目を配る。


L列、K列、J列、と1列ずつ確認する。


あった。G列。


ここは前から7番目の列だ。


もうここからはチケット見なくてもわかるか、キョロキョロしたらあいつら見つかるだろう。


あいつら、結構目立つし。俺抜きだったら。


いや、逆に目立つか?「なんか、1人だけ変な奴いね?」って。


倒置法を駆使し、自虐しつつ、キョロキョロしていると、手招きしている少女を見つけた。


そこに行くと、1つ席が空いていたのでそこに座ることにした。


「お兄ちゃん、遅いよ!」


夢叶に注意されたので「悪い。」と適当に反省した。


幸い、まだ宣伝だったので本編を見遅れるということはなかった。


いや、別に見る気あった訳じゃないからいいんだけどさ。


くねくねした「No more 映画泥棒」ダンスを眺めていると、


映画の本編が始まった。


その映画は、ゴールデンウィークに相応しい、ラブコメ映画だった。


相応しい。というのは俺にではなく俺以外にという意味だ。


わかってはいるものの、一応確認しておく。


ラブコメは現実味がないのにハマれるんだよな。


映画もにフィナーレに差し掛かり、感動シーンで俺は涙した。涙の理由はあり得ない事してるのに、哀れだな。という意味だ。


泣いているのを弥生に見られて、ちょっと退かれたような気がしたが、気のせいだろう。


暗いから分かりにくいもんな。うん。わかりにくいわかりにくい。


俺達はしっかりエンドロールまで見て、劇場を後にした。


「はぁ~、面白かったね~!」


木陰さんがのびのびと欠伸しながら言ってくる。


「木陰、寝てたじゃん。」


弥生が冷遇に告げ、木陰さんがぐはっ!と声を出す。


弥生はそんなに冷たくしたつもりはないのだろう。


でも、弥生の男らしい口調のせいで冷たく聞こえたのだろう。


「弥生さんは、ドラマみたいな恋してみたいですか?」


夢叶がそんな質問をしてくる。


弥生は不意を突かれたのか、慌てている。


「え、あ、あの僕は、別にそんなの無くても良いんだが......」


「あれ?じゃあ陽向がこの前言ってたの

は......」


「バ、バカッ!ここで言うな!」


木陰さんが言ってる途中に弥生の声が被さった。


正直、こいつらが何を言ってるかはわからないがなにか弥生のプライドがあるのだろう。


俺が気にする事では、ない、だろう。


俺達は映画館を後にした。


後にした映画館には、いつもの笑顔がない如月が、ただ呆然と立ち尽くしていたような気がした。



§



12:30


もう昼だ。


あーあ、あんなやつらと無駄に1日の半分使っちまったよ......


おっと、ついつい本音が。


まあ、夢叶も弥生も木陰さんも可愛いし良いかな。


幸せです。ハーレム気分です。


......そう、気分だけ。


理想と現実のギャップに悩んでいると、俺のお腹がなった。


「あ、お腹空いたろ、フードコート行くか?」


「行きたーい!」


一番年上の木陰さんが一番元気よく反応した。


もう、この人の活力には驚かされる。一方で呆れもある、のだが。


「じゃあミスドにでも行きましょう!」


だから、それはお前の行きたい場所だろ。


「いや、ダメだ。ここなら、定食屋とかいいんじゃねーか。」


「じゃあそれが良い!」


「じゃあ、僕もそれにするよ。」


「くそぉ......お兄ちゃんの癖に生意気な......」


すぐ拗ねるなってスネ吉かって。


いや従兄の方かよ。スネ夫じゃねーのかよ。


まあいいや。


俺達はフードコートに向かう。


俺のポケットの中でスマホが振動する。


通知オフにしてない?誰だ?


スマホを確認すると、如月からの着信が来ていた。


そこには「助けて。」と表示されていた。


「悪いけど、また先行っててくんねぇかな。夢叶、場所わかるよな。」


「うん。わかるよ。じゃあ先行ってるね。」


夢叶の背は、いつもより頼りがいがあった。


俺は如月に電話かける。


如月はスマホの画面をずっと見てたのか、1コール目で出てきた。


「どうした。」


「水無月くん。私が思ってたよりも、ずっと酷い人だ。」


その電話越しの声は微かに震えていた。


「今どこにいる。」


「白くて穴の空いた変なモニュメントの前。」


「了解した。今行くから待ってろ。」


俺の足は、如月と絶縁した事を忘れ、如月の方へ向かっていた。



§



白くて穴の空いた変なモニュメント。


それは、札幌駅南口にあるモニュメントだ。


そこには悲しげな表情を浮かべた少女が立っていた。


「如月!」


「師走くん。私、恐かった。」


如月の顔には笑顔はなかった。


「何があったのか説明してくれないか。」


如月は少し黙ると意を決したかのように「わかった。」と言った。


聞いた話によると、如月は水無月に告白されたらしい。


そして如月は断った。当たり前の事だ。いくら人気者の水無月だとしても、ほぼ初対面の相手に告白してもフラレる決まっている。


だが、それだけじゃなかった。断ったのに、しぶとく言ってくるそうだ。


「俺は水無月和真だぞ。そうやってチャンスを逃がしてくんじゃねーのか?」


と。


それでも如月は断ったようだ。


それが水無月の反感を買ったのか、人目のつかないところに呼び出され、胸ぐらを掴まれたそうだ。


なるほど。だからあいつの周りには人が集まっていたのか。


集めていた。なのか。


今まで覚えてた違和感の原因はこれだったのか。


もしかしたら、水無月はずっと前から如月を目につけていて、接するタイミングを探ったいたのかも知れない。


如月が映画部に入部した事を理由にして、2人きりになるチャンスを掴んだと言う訳だ。


予想外の出来事が起きた。俺に出会ってしまったのだ。


おそらく、如月の中で最も仲の良い男子は俺だろう。この前の件を除いて。


だから、水無月が俺を見つけ、多少の焦りが芽生えたのだろう。


その焦りが如月を手に入れなきゃというなに繋がり、この事件が起きてしまった。


ってことは、水無月の優しさは偽り。ということだな。


後は簡単だ。水無月が如月に対しての恋愛感情無くせば良いのだ。


あるいは、水無月がそんな感情を忘れる事をすれば良い。


「おい、如月。」


俺の呼び掛けに、少し戸惑いながらも反応する。


「……なに?」


はぁ……すぅ……


一呼吸おく。


そして、口を開く。


「縁切る見たいの事言ったけど、やっぱやめにしないか。」


その言葉の後、空白が生まれた。


如月は口をポカンと開けている。


「お前、水無月が恐いんだろ。」


如月は静かに頷く。


「じゃあ、俺と付き合ってるふりをしてくれ。」


その時、お互い何を考えていたかはわからない。


俺自身もわからない。


ただし、如月を守りたい。というのは覚えていた。


如月な返答はなかった。


だけど、空気感でわかった。


如月の解答は。了解した。だ。


俺はまたな。と如月に告げ、フードコートに戻ることにした。


如月はまだ、黙ったままだった。

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