9話〜刹那、睦月遥希の本音を感じた。〜
朝。
「お兄ちゃん元気ないね、どったの?」
「まーな。」
「お兄ちゃん、もしかして弥生さん達いなくなって悲しくなってる!?でも弥生さん達は……」
「ちげーよ。」
俺は夢叶にデコピンをした。
「冗談だってー!また、前と同じ悩み事?」
前、というのはきっと文教堂の時の一件だろう。
「それじゃねーよ。俺は悩み多き男なんだ。」
「ふぁ!?なんかお兄ちゃんかっこよかった。」
「お前も可愛いぞ。」
「お兄ちゃんだーいすき!」
夢叶にハグされる。
朝からイチャイチャして、悩みなんてどっかに飛んでいく。
よし、もうそろそろ行くか。
「じゃあ行ってくる。」
と、夢叶に告げ、俺はドアを開けた。
5日間のゴールデンウィークが過ぎ、学校生活が始まろうとしていた。
毎年思うけどなんだろうねこの休み明けの尋常じゃないダルさ。
そりゃ五月病だぁ!ってなるよ。
だぁ!ってなんか嬉しそうじゃねーか。
いち、に、さん、だぁ!
言うと思った。
弥生姉妹は昨日の夜に木陰さんの車で帰っていった。
車か......来年18になるし免許とろうかな......
でも、外出する機会があまりないしな。
仕事も家で出来る仕事に就こうとしてるしな。
一応職務願望はあるんだ。そんじょそこらのぼっちと一緒にされちゃあ困る。
今年のゴールデンウィークはとても濃かった。
いや、いつもが薄いって訳じゃないですよ?
部屋で1人で本読んだり、アニメ見たり、ゲームしたり、寝たり。
薄いじゃねーか。
木陰さんと夢叶のコンビが本当に厄介だ。
なんというか、幼い。
小学生を相手にしてるみたいだ。
振り回されてばっかりのゴールデンウィークだった。
はあ……今年のゴールデンウィークは無駄にしちまったな……
来年は悠々と暮らそうと心に決め、俺玄関を出て、学校へ向かった。
しかし、かなり暖かくなったもんだ。
数日前までの寒さは何処へ。
俺は柔らかい春風に吹かれながら学校への道を歩いていく。
学校の玄関に入ると、そこには見覚えのある奴がいた。
弥生!?
「弥生なんでここにいるんだ?」
「はあ?何言ってんの。」
弥生が俺を睨んでくる。
「だって、お前小樽にいたんじゃねーの?」
すると弥生は呆れた口調で言ってくる。
「いつの事を話してる訳?。僕が札幌市内の高校に決まったから、2ヶ月前に小樽から札幌に引っ越してきたんだよ。」
そうだったのか。正直、しばらく会ってなかったし気にもかけてなかったから知らなくて当然だわな。
「俺ら、しばらく気まずかったから、知るきっかけがなかったんだよ。仕方ねーだろ。」
これで弥生も落ち着くだろう。と思ったのだが、余計に火が燃え盛ってしまった。
「仕方ねーじゃねーよ。お前、1ヶ月も学校にいたのに、僕がいること気が付かなかったの!?」
いや、そりゃそうだろ、普通、学校で他人の名前とか顔とか声とかそんな気にしないんだもん。
途中でそれは自分だけだと気付いたので語尾を無理矢理変えてみたら今度は文法がおかしくなりました。
「お前、1年F組だろ。同じクラスで知られてないなら言わんとすることはわかるけどよ、他クラスの奴なんて知らねーよ。」
「え、そーゆーもん?僕あんたのことずっと気にかけてたけど。っつーか、あんたも僕のクラス知ってんじゃん。」
「んあ?だって、お前、今1年F組の所から上靴取ってたじゃん。」
「はっ、い、いや、そんなんわかってたし。」
や、わかってなかったろ。
「っつーか、なんでお前が俺の事を気にかける必要があんだよ。前もいったけどよ。」
っつーか、さっきからっつーかって五月蝿いな。
ボイパかって。
「はぁ?ちょっ、そ、そーゆー意味じゃねーよ。」
するとなぜか弥生は周章狼狽する。
そーゆー意味ってどーゆー意味だよ。
弥生はちょいちよい奇々怪々な言動をとる。
まあ、なんでもいっか。
「あ、陽向ちゃんだ。おはよう!」
背後から声が聞こえてくる。
「あ、なんだかれんか。おはよう。」
かれんと呼ばれる少女はこちらを不思議そうな顔で見つめてくる。
思わず目を逸らしてしまう。
逸らした先の名札には長月とあるので、彼女の名は長月かれんだと推測できる。
長月さんは、俺の顔を伺ってから今度は名札に視線を落とし、名前を確認したようだ。
「なるほど。君が師走くんか。入学式の件で君の名前は知ってたよ。」
長月さんが俺に微笑してきた。
なんだよ。他クラスにも知れ渡ってたのかよ。
恐るべし、現代の高校生の裏。
これもSNSの普及の影響なのだろうかと頭良さそうに感心していると、長月さんが冗談じみた表情で弥生2に問うていた。
「もしや、師走くんって陽向の彼女?」
気のせいか、その時だけ、長月さんの笑顔が薄闇に見えた。
なんて可笑しい事を仰る。俺が違いますよと言おうとしたが、長月さんが問うて息をする間もない内に答えた。
「な、な訳あるか!ば、バカなのかかれんは……」
弥生が顔を赤くして必死に否定している。
「そっかぁーごめんごめん!」
と長月さんの絢爛な笑顔。やっぱ気のせいか。
……そ、そんなに俺ってキモいのかな……
一応運動もそこそこできるし、頭もいいはず。まあ、偏差値68の東門台高校に合格したくらいだし。
成績が悪いのは、あれだ、授業態度が悪いからだ。
やっぱ人間は顔かぁと落胆してると、時計が目にうつる。
なぬ!?8時だと!?
なんの為にいつも学校に来てるってんだ。
教室の静寂を味わい、本を読む為だ。
そして、徐々に人が増えて、上位グループの連中が五月蝿くて時の流れを感じるんだ!
いつも静寂を壊しやがってあいつら……
リア充共め、さては貴様らサイレントブレイカーだな!?
残念でした。静寂は英語でサイレンスでした。
俺は静寂を楽しむ為に駆け出した。
一目散に階段を駆け上がり、教室へ向かった。
教室のドアを開けた。
くそっ!間に合わなかったか!
心の中で近くの机を蹴った。
実際にやったら白い目で注目浴びちゃうからね。
水無月を中心とした上位グループが既に駄弁を弄していた。
溜め息を付き、俺は席についた。
もう五月蝿くなってしまったので、とりあえずクラスメイトを観察する事にした。
観察するには少し技術が必要だ。俺は長年に渡り培ってきた人間観察能力を最大限に駆使する。
観察する。と言ってもそのままキョロキョロしていると、「あいつ私の事ちょー見てるんですけど、キモくなーい?」と陰口を言われるのでダメだ。
べ、別に陰口言われるのが嫌な訳じゃないからな!
お、あ、俺は、あの、ただ単にクラスに平和を、も、齎したいだけなんだ……
はぁ……
頭に無音のヘッドホンを装着し、伏せる。
僅かにできる両腕の隙間から観察する。こうすることで周りからは寝ていると捉えられる。存在感もけせるし一石二鳥だ。
準備が整った。俺はひとまず上位グループの連中を観察する。
青がかった髪をしているやつが水無月だ。
確か、いかにも運動部のマネージャーっていう奴が皐月葵で、メガネをかけてるThe腐女子が清明、ツーブロが雨水で、雑用っぽいツインテールが土用だったけか?
雑用っぽいのは名前だけがでした。
いやぁ素晴らしい成長ぶりですなぁ師走さん。人の名前を覚えるようになっちゃって。
心の中で俺自身を近所のオバチャンみたいの口調で褒め讃えた。
やーもうさ、近所のオバチャンって会ったら厄介なことになるよね。
「あんたまた男前になったんじゃない?」
とか、おの甲高い声聞きたくないんだよね。
あと、あの時の通学路通ってる同級生の目が痛い。
もうやめて欲しい。シカトしただけで親にちくらないで欲しい。
それはそうとして、こいつら、上位グループの会話の基本は水無月から成っている。
今まで見てきて、他の奴から話題が出ることは余りない。
気になることがある。いつもいるはずの睦月遥希がそこにいない。という事だ。
俺は後ろの睦月の席を見る。鞄がない。という事はまだ学校に来ていない。
睦月は部活に入っていないので、朝練という可能性は皆無だ。
気になる点はそれだけじゃない。水無月と話しているのが女子だけだという事もだ。
雨水は会話には入らず、空笑いをしているだけだった。
だが、疑問は浮かぶだけであり、仮定は出たとしても、結論には結びつかない。
俺にはああいう経験がないからわからない。
ああいう経験をしない理由が、今みたいに人間関係のやりくりが面倒だから。っていうくらいだ。
女子達が水無月に向けている笑顔と、雨水の笑顔は全く別種だ。
やっぱ、友達とか彼女って、ろくに作るもんじゃないな。
「水無月」と「彼女」という単語で思い出した。
そうだ、如月に水無月の裏を暴き出して欲しいという依頼を受けたんだった。
如月はそうは言ってなかったが、恐らくあの「助けて」にはそういう意味合いが少からずはあっただろう。
水無月の裏を知るには、水無月という人間に親しくならなければならない。
正直、如月が水無月に数歩踏み込んでくれた方が手っ取り早いのだが、如月の精神的におそらく無理だ。
俺はサツエキでみたあの如月の涙を忘れない。
そして、俺は如月を救いたいと思った。それが如月にとって迷惑だったとしても、俺は如月が泣いてる所を見たくないと思った。
だから、俺は道を踏み外した。
俺と如月が、近くも遠くもなく似ている存在だからだろう。
今では如月以外の人間にも手を差し伸べたいと思えるようになった。
きっと、如月との離別があったからだろう。
如月は俺といたいと言ってくれた。俺は、トラウマがまだ残っているから、俺もだよとは言えない。
自分が迷惑がられるのがこわい。
だから、気付いてあげられなかったし、気付けた今でもまだ答えは出せない。
如月は辛さに耐えて、俺に変わるチャンスを与えてくれた。
如月にそんなつもりがなかったとしても、結果的にそうなった。
だから、俺は如月に恩返しがしたい。
……呆れる程俺は変わった。
今の俺は最高に格好悪い。
§
時計が8時20分をさした頃、前方のドアから銀髪の男子にしては長髪の、いかにもいま風と言うような男が現れた。
睦月遥希だ。
「お、睦月、お前水無月達と学校来なかったのか?」
睦月は少し間を置いてから話す。
「師走くんから話しかけてくるなんて珍しいな。和真達といるのは、昼休みと放課後だけだよ。」
そっか、じゃあ登校は一緒じゃないって事か。
「家の方向ちがうのか?」
「あ、いや、同じ方向だよ。っと言うか、同じ市立中学だったもん。」
市立、という事はご近所さんということか。
なら、なんで来るタイミングが違うのだろうか。
仲良いなら一緒に来れば良いのに。
「じゃあ、一緒に来たら良いんじゃねーの?」
俺が問うと、睦月は少し黙り込む。
「僕、ちょっと和真苦手なんだ。」
「え?」
やっぱりな。とも思ったのだが、少し驚いてしまった。
「きっとそれは雨水もだと思う。和真、ナルシストな所があってさ、基本はとても優しく振る舞うんだけど、ちょっと気に入らない事があると態度が変わるんだよね。なんていうか、亭主関白っていうの?俺が1番だ!みたいな。でも、そういう所、女子には見せないんだよね。」
亭主関白って父親な。やっぱお前アホなのか。どうやってこの学校はいったんだ?
心の中で罵倒する。
まあでもなんとなく言いたい事は伝わった。
水無月の周りに人が勝手に集まるのではなく、無理矢理集められているという事だ。
皐月と清明と土用は、おそらく「水無月和真」という人気者に釣られてしまった。
彼女らは人気者の傍らにいれて嬉しいだろう。それを求めたから今あいつらがそこにいるくらいだ。
水無月は、いつでも青春していたいからそういう行動をしてまで仲間を集める。
これだけならまだ良いんじゃないかとも思う。
でも問題なのは雨水と睦月は水無月の裏に気付いている。という事だ。
そして、睦月の言ったことと、あいつらの会話を見るに女子は気づいていない。
もしなんらかのトラブルで睦月、雨水と水無月が接触事故を起こしたら、女子にまで影響を及ぼす可能性がある。
女子が水無月の裏に気付き、疎遠の関係になるだろう。そんな女子には人気者に裏切られる恐怖を覚える。
そして水無月が女子に如月にした事と同じような事をする。
水無月は王じゃない。百獣の王だ。
いらない者を蹴落とし、必要な者だけを群れにする。
睦月、皐月、清明、雨水、土用が蹴落とされる人にならない為には、
誰かが犠牲にならなければならない。
その犠牲は誰がなるのか。
誰にも必要とされなく、自己主張のないやつ。
そう、俺だ。
「睦月、俺に考えがある。」
俺は睦月に小声で説明する。
「わかった。」
睦月は納得してくれたようだ。
「実は、入学式のあの件、やらされたんだ。」
知ってる。見たもん。でもわそれは雨水じゃねーのか?
「おい、それ雨水からじゃねーの?」
「え、なんで見てたの!?まあ僕が悪いしいっか。雨水も、和真にやらされたんだ。」
俺は愕然とする。
「そう、だったんだな。なんか悪かった。」
「いや!悪いのは僕だし、謝る必要はないよ!」
睦月は笑顔で俺の謝罪に答える。
どうして睦月は俺に優しくするのだろう。
「とにかく、和真と葵達をどうにかして欲しい。」
その顔からは刹那、睦月の本音を感じた。
だが、チャイムがなったのと同時の事だったのでわからなかった。
ホームルームの間、後ろの睦月は明るい表情ではないような気がした。
それは、2つほど離れた席に座っている、如月もそうだった。
2日連続で翌日投稿になってしまい申し訳ない!
年末年始忙しいんですよ。
アニメの特別放送とかで。
よし!上手く倒置法使えたっ!!
そんな事はさておき、今回も読んでくださりありがとうございました!
年明けたら、本気出します!
以上、9話でした!
道内某所の、とあるマンションの一室にて。




