60・コビナタのインターミッション
時かける少女BETA・60
≪コビナタのインターミッション≫
珍しくコビナタは四阿のカウチで横になっていた。
「あ、ごめんなさい。帰ってきていたのね……」
「寝てらっしゃったんですか」
「ちょっと、考え事をしていてね」
視線も合わさないコビナタに戸惑って、ミナは、庭の歴史の樹に目をやった。
「あ、弱ってる……」
「そう、ミナの働きで、根本になるところは修正してもらったんだけどね。全体としては弱り始めてる」
「朝鮮の併合は中止になったんじゃないんですか?」
「ええ、あなたの働きは目覚ましい。伊藤博文とビリケンに的を絞ったのは大成功。秀吉の朝鮮侵略よりも短時間で、修正ができた。付録も付いていて、あれで日本は、イギリス、アメリカとも上手くやっていけるようになってね、大東亜戦争そのものが無くなったわ」
「じゃ、大和と信濃の水上特攻も……」
「そう、しなくてすんだ。歴史の枝分かれを見極めるのはむつかしい。あ、ごめんなさい。お茶入れるわね」
コビナタが、お茶の用意をしているうちに、ミナは歴史の樹を近くまで見に行った。
「確かに弱ってる。わたしには変化の一つ一つは分からないけど、樹に力強さがないわ……」
「朝鮮併合。日本史最大の間違いを正したのにね」
コビナタが、目でお茶が入ったことを知らせてくれた。
「日米英の三国で、朝鮮の独立を守った。でも、ソ連との戦争は避けられずに、やっぱり朝鮮戦争は起こってしまった。38度線で、南北に分かれることは避けられなかった」
「ソ連は、ナターシャを助けてことで、革命の初期で壊滅したんじゃ?」
「それが両立しないの。ソ連を叩くと、日本が出過ぎて世界中からヒンシュク。当然朝鮮の併合は避けられない。朝鮮併合を阻止したら、ソ連の台頭は避けられずに、違った形で第二次大戦が起こってしまう……」
「でも、朝鮮の併合が無くなれば、あんなに日本が悪く言われることは無くなったんじゃないんですか?」
しばしの沈黙の後、コビナタは、ため息交じりに話を再開した。
「日本の介入がもっと早ければ、半島は南北に分断されずにすんだ。日本は半島を踏み台にしただけだって……日本は、何をしても恨まれるみたい」
「そんな……」
「ちょっと打つ手がない……ミナ、ご苦労様でした。しばらく休んでちょうだい、また、あなたの力が借りられるように考えてみる」
コビナタの声を聞くと、ミナの意識が遠くなっていった。
「お母さん、お父さん、手術は成功しました」
三時間ほどの手術の後、美奈子はストレッチャーに載せられて病室に戻って来た。
「本当に、美奈子は治ったんですか!?」
「ええ、この小日向が受けあいます。再発の可能性は10%もありません。むろん、しばらくは経過観察しなくちゃいけませんから、通院はしていただきますけど」
父も母も、しばらく言葉もなかった。
「本当に…本当に、ありがとうございました!」
両親は小日向医師に深々と頭を下げた。
あくる朝、美奈子は麻酔から目覚めた。どこからかハーブティーの香りがしたような気がした……。




