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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
59/60

59・ビリケン攻略方・3

時かける少女BETA・59

≪ビリケン攻略方・3≫



「モス・チャイルドの当主として話させていただきます」


 雪子は、名前を二つ持っている。ハーフであることの便利さと悲しさの両方があった。子供の頃はハーフであること、それもアメリカ有数のユダヤ系資本の総帥の子であるが故の苦労であった。一族は父が亡くなるまでアリス(雪子)の相続には反対であった。


 父は、そのことをよく理解し、同時に雪子の才覚を理解して後継ぎは雪子しかないと生前から身内に根回し、マスコミを通じてその意志も表明していた。

 実際、雪子が当主・総帥の地位に着いてから、モス・チャイルドの純益は年率換算で5%伸びていた。それでも、最初の年は、亡き父の余沢と言われたが、二年目からのさらなる純益の向上で、もう雪子に反対する者はいなくなった。


 その雪子が、アリス・モスチャイルドの顔になった。


 ビリケン(寺内)は不覚にもたじろいでしまった。日露戦争で児玉源太郎に畏怖を感じて以来だった。その児玉からも言われた。

「儂ごときを畏怖してどうする。乃木の方が百倍も偉いぞ」

 寺内が、正直に怪訝な顔をしていると、重ねて言われた。

「本当に切れる刀は、鞘に収まっとるもんじゃ。寺内も、そういう目を持たにゃいかん」


 で、多少は分かるようになった。ビリケンと言われてもニコニコしていられるほどにはなった。


 目の前に居る二十歳そこそこのアリスの目が、世界屈指のユダヤ資本の総帥のそれになっていくのを。


「モスチャイルドは、まだ日本からご融資したお金を返していただいておりません」

「そんなことはない。ちゃんと契約通りの利息を付けて返済は済んでいるはずだ」

「それは、表の利息です。賢明な日本政府のことですから、お分かりいただけると思っておりましたが」

「満鉄の共同経営を断ったことかね?」

「さすがは、寺内閣下。でも、それは父の代の要求でしかありません」

「……この上、何があるというのかね」

「我々ユダヤ人は、世界中にちらばって、その国の経済に枢要な地位を占めてきましたが、けして、国そのものをユダヤのモノにすることはありません。わたしも、アメリカ人であるという顔で臨んでいます」


「……朝鮮の経営に一枚かませろということかね?」


「御明察。満州や朝鮮に対する資本参加を自由化すべきです。日本の方々は、そんなことをすれば、日本人の血で手に入れた土地や権益を失うように思っていらっしゃいますが、そんなことで駆逐されるほど日本はやわではありません。それに伊藤閣下も申されていますが、朝鮮は、開闢以来、名目上の独立を失ったことがありません。朝鮮から独立を取り上げるのは百害あって一利なしです」


「日本は、目先の利益だけで朝鮮の併合を考えているわけじゃない。ロシアの南下や、中国の影響を排除して、朝鮮の蒙を開くだけではなく、よって日本の安寧をはかろうとしている」


「朝鮮を併合すれば、その恨みは日本にだけ、数百年にわたって言われ続けます。確かに、今の朝鮮には自分の国を経営する能力はありません。かといって併合すれば千年の禍根になります。アメリカや、イギリスを加えてください。そして共同で、満州と朝鮮の経営に当たりましょう。ロシアは、数年で革命が起こり自滅していきます。我々は、今の帝政ロシアよりも、そのあとにできる共産主義政権を警戒しています。世界の力で立ち向かわなければなりません。日本一人が割を食うことはありませんし、我々も、それを望んではいません」


 突然の木枯らしが、ガラス窓を震わせた。


「さすがは、モス・チャイルドの御当主ではある」

「ハハ、ただのオチャッピーです。これは母譲りですね。父も母のこういうところに惚れたんでしょう」

 寺内が話を理解した様子なので、雪子は江戸っ子の顔にもどった。

「今日は、良いことをおそわりました」

「はて、教えられたのは、わたしのほうですが?」

「いえ、教えていただきました。庭の木の菰巻……あれは優れた管理法です。満州や朝鮮が、日本の菰に……今年は冬が早そうですね」


 寺内は、返す言葉が無かった。やがて日本は伊藤の尽力により、朝鮮の併合を断念した。裏で雪子が動いていたことは記録には残っていない。



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