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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
55/60

55・国変え物語16・惜別なんだけど

てんせい少女


156≪国変え物語・16・惜別なんだけど≫




 鶴松は髄膜炎だった。


 幼児に多い病気で、二十一世紀でも子供の四人に一人が罹患するが、よほどの手遅れでない限り死ぬことは無い。

 が、この時代に髄膜炎の治療法はない。よほど運のいい子が自然治癒するだけだ。


―― この子の死が、秀吉を癒しがたいほどに狂わせて慶長の役を起こすんだ ――


 しかし、美奈への通告が遅れた。


 美奈への秀吉の信頼は、他の御殿医師らの反発をかっていた。発病から四日がたっており、二十一世紀でも「よほどの手遅れ」の部類に属する。


「なぜ、もっと早くお知らせくださらなかったのですか!?」

「淀がの……そんなことはどうでもいい。なんとか鶴松を治してやってくれ!」


 秀吉の濁した言葉で、だいたいの察しはついた。


 美奈は、加藤、福島、黒田などの尾張閥の大名と仲がいいが、石田三成を筆頭とする近江閥の大名とは距離があった。淀君は近江閥の上に浮上している。そこに御殿医師らの反発である。これが四日の遅れになった。


「鶴松を死なせたら、そちの命は無いものと思え」


 淀君は、冷たく宣告した。


 鶴松を時間を超えて運べれば、あるいは助かったかもしれない。だが、時間を超えられるのは、美奈一人だけである。


「われら奥医師にも立場というものがある。そなたが治療にあたったということは内密じゃ、よいな」


 御殿医師の親玉の正玄に釘をさされた。


「絶対助けます。邪魔だけはしないでください。鶴松君には、この国の命運がかかっているのです!」


 正玄の顔も見ないで美奈は答えた。美奈は、とりあえず高くなった脳圧を下げた。このままでは治っても障害が残る。あとは脊髄注射をして、体力の維持である。


「御尊体に針を刺すとはなにごとか!」


 正玄が怒鳴る。これでは治療ができない。


――オッサン、それ以上言うと、ここで発作で死ぬことになるぜ――


 奥女中に化けた五右衛門が、正玄の背骨の間に針を突き刺している。


――これを、もう一寸打ち込めば、あんたは心の臓の発作そっくりに死ぬ――


 正玄は黙った。五右衛門は美奈に向かって闇語りで話しかけてきた。


――必要なことがあったら言ってくれ。俺は針で人は殺せるが、助けることはできないからな――

――邪魔が入るのだけ止めて。あとは、この子の運と、時間の問題――


 治療には丸二日かかった。途中邪魔が入ってはいけないので、美奈はずっと鶴松に付き添った。五右衛門は、時には淀君自身に化けて、美奈の治療を守った。


「かかさま……」


 三日目に鶴松は意識を取り戻し、日本は大きな歴史上の失敗をしなくてすんだ。


「美奈、おまえは……時の流れを超えてやってきたんだな」

「さあ……でも、わたしの役割は終わったわ。放っておくと、日本は明を手に入れようとして朝鮮に出兵するところだった」

「俺も釜茹でにならずにすんだしな。これは豊臣のためか?」

「豊臣なんてどうでもいいの。政権を維持できるだけの組織も人のつながりもない。秀吉さんが死ねば……あとは、五右衛門さんたちの問題……ね」

「美奈……」

「あたし、そこの角を曲がったら消える。道頓さんには五右衛門さんから、よろしく言っておいて」

「ああ……」


 美奈が築地塀の角を曲がった。五右衛門は、たまらなくなって反射的に後を追った。


 築地の向こうには秋の枯葉が渦巻いていた。そこに飛び込めば美奈の後を追えるような気になった。


「美奈ああああああああああああああああああああああ!!!!」


 五右衛門は枯葉まみれになって佇んだ。



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