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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
53/60

53・国変え物語14・秀吉の公開大夫婦喧嘩

時かける少女BETA・53

≪国変え物語14・秀吉の公開大夫婦喧嘩≫



 唐天竺を攻めとりたい!


 大物産会のフィナーレの宴で、秀吉は何万という諸大名や商人、町人の前で吠えるように言った。

「何を言いやす、おみゃーさまは?」

 傍らの政所の寧々が、のびやかな尾張弁で返した。

「そやかて、おみゃー。こうやって全国物産の流れの道はつけたでよ。あとは唐天竺しかにゃーだろーがい!」

 秀吉も早口の尾張弁で返し、尾張出身の大名以外は分からない、言い合いから夫婦げんかになってしまった。ただ、会話の早いテンポと、調子の面白さだけが、衆人に伝わり、西ノ丸の六万人収容の会場は大いに沸いた。


 衆人が喜んでくれたことと(大ウケしたこと)政所の寧々と、何年かぶりの尾張弁での、大げんかができたことで唐天竺は、どこかへ吹っ飛んでしまった。


「のう、一座の者たち。今の話、わしの方が正しかろう?」

「いや、大変なお国ことばであられましたので、それがしどもには判断がつきかねまする」

 徳川家康が真面目腐った口調で言うので、また万座の中で笑い声がおこる。

「これで、分からんだったら、わしの面目にゃーでよ」

 秀吉が尾張弁で子供のようにすねると、加藤や福島などの尾張時代からの、いい歳をした大名どもが少年のように爆笑した。

「こりゃ、市、虎、いい歳こいたひげずら大名が、わっぱのように笑うでにゃーわ!」

「そりゃ、無理ですわ。こぎゃーに、尾張の昔を思い出さされては、わしらものう、おかしいでかんわ!」

 近江閥の石田三成らには分からない言葉であったが、その対比の面白さに、万座の笑いは、さらに大きくなっていく。秀吉の妄想は、一大余興になった。


「そろりよ。今のわしらのケンカをなんととく?」


 秀吉は、お伽衆の中で、一番機知にとんだそろり新左エ門に聞いた。


「さようでございますなあ……田楽の笛とときまする」

「お、そのこころは?」

「は、どちらがリーやらヒーやら(理やら非やらの洒落)」


 六万人の大爆笑で、大物産会は幕を閉じた。


「ありがとう、美奈さん。あなたの指示通りやって、事なきを得ました」


 自分の居室に美奈を呼んで寧々は礼を言った。

「いいえ、政所様の機智あるご返答のたまものでございます」

「そうかしら……わたしも懐かしかったの。ああやって尾張弁でご近所のご迷惑も顧みずに夫婦喧嘩していたころにもどったようで……で、いよいよですか?」

「それは……」


 美奈は、言いよどんだ。


「いいのです。美奈さんが薬で抑えてくださっていますけど、あの人の病が進んでいるのは、わたしには分かります。貴女の手にかかれば皆命が延びると言われておりますが、藤吉郎殿には無用です。あの人の長命は天下の大乱を招きます」

「では……あと四五年かと」

「そう……四五年も尾張漫才でやっていくこともできますまい……」

「一計がございます」


 美奈の目が輝いた……。



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