51・国変え物語・12・立ちション国替え・2
時かける少女BETA・51
≪国変え物語・12・立ちション国替え・2≫
秀吉は、賑やかというより喧騒と言っていいほどの騒がしさを好む男である。
戦の評定でも、秀吉は居並ぶ大名や武将に勝手に喋らせておく。そうして自分は半分寝ているようにしていながら、きちんと話は耳に入っている。
「某、今言うたこと、もう一度申してみよ!」
あてられた本人は目を白黒させている。時には周囲から、さんざんバカにされたり、反対されての後であることもあるからだ。
「よう言うた。某のいうこと、もっともじゃ。儂も思いつかんかった。そのようにいたせ!」
言われた本人は大感激し、その思案の実行に全力を注ぐ。まことに人使いの名人であった。
その秀吉が、小田原の陣所の一室にこもり、じっと碁盤を見つめている。
「殿下、宜しゅうございますか?」
部屋の外で女の声がし、秀吉は珍しくうろたえた。
一つには考えていることが見透かされたような気がしたから。もう一つは、その声が紛れもなく、大坂に居るはずの美奈だったからである。
「美奈、いつのまに小田原にまいった!?」
「夕べ、ふと思い立ちまして。今夜には、また大坂に戻ります。鶴松君のお世話がありますから」
一晩で大坂から来て、その日のうちにもどるという美奈の言葉を、秀吉は疑いもしなかった。美奈という道頓の手元から引き抜いたお伽衆とも医師ともつかぬ美奈。
秀吉は、そのまま受け入れていた。役に立つ者であれば、多少の不思議さや胡散臭さは気にしなかった。秀吉自身、この胡散臭さの大親玉でもあるからだ。
「家康様の処遇で案じておられますね」
「分かるか?」
「分からなければ、こうして大坂から参ったりはいたしません。殿下のお腹は、徳川さまの国替え……ただ、切り出し方が難しい。実直者の三河衆。やり方を間違えれば恨みを買います。そこが殿下の悩みの種……で、ございましょう?」
「さすが、美奈よのう……近こう寄って存念を申せ」
美奈は、秀吉の三尺手前まで寄った。これが秀吉と二人きりの時の絶妙な距離であることを、双方が知っている。
小田原城を見下ろす丘の上に、数十の馬蹄の音が轟いた。
前もって黒鍬の者たちが、草を刈り、地ならしを程よくやっている。美奈に教えられた丘なのだが、秀吉は、自分の見回りのお定まりを偽装した。
「敵ながら、小田原は美しいところでござる。落城も間近。徳川殿と一番の名所を見ておきたいと思い立ちましてな」
「なるほど、ここならば、城が見下ろせるだけではなく、海と、はるか坂東の地が見渡せて絶景でござるな」
家康は、景色などには無頓着な男ではあるが、この景色には感動した。ただ美しいだけでなく、北条以降の坂東の経営が考えられる。そういう眺望であった。
「坂東が一望でござろう。どうれ、坂東を見下ろしながら、立ちションいたすか。徳川殿もごいっしょになされよ」
「ハハ、豪儀でござるな」
この戦国末期の二大英雄が、揃って立ちション。当人たち以外の伴の者も、思わず頬が弛んでしまった。
「小田原平定の後、この坂東の地は八か国もろとも徳川殿に進ぜよう」
「え……!?」
放尿の最中、とっさには言葉が出ない。
「東海は儂がお預かりする。城は小田原では、西に偏りすぎる。江戸に本城を構えられよ」
そう言いのけたころには、秀吉の放尿は止まっていた。家康は、まだ続いている。なんとも呑気に国替えが決まってしまった。
美奈は、そのあたりに検尿の試薬を噴霧しておいた。秀吉は人たらしのつもりであったが、おのれの企みをこえて検尿検査をやらされたのである……。




