50・国変え物語・11・立ちション国替え・1
時かける少女BETA・50
≪国変え物語・11・立ちション国替え・1≫
1590年(天正18年)になると、小田原の北条氏との対立は抜きがたいところまで来た。
北条氏には家康が娘を嫁がせるなどして、縁戚関係が深かったので、秀吉は家康を通じて北条氏に再三の上洛と臣従を求めた。
「もはや万策尽き申した」
大坂にきた家康は、実直な顔で講じ果ててた顔を見せた。
実直者で通った家康の反応は、直ぐに諸大名の知るところとなり、北条討伐の世論が形成された。
上は大名から庶民に至るまで、秀吉の温情主義は知れ渡っている。
家康には東海と甲斐、信濃を任せ、あれだけ抵抗した島津や長曾我部も本領は安堵してやっている。北条にも伊豆と相模の二国は安堵してやるつもりでたが、これで、天下の形成を大きく変える機会になると秀吉はほくそ笑んだ。
小田原城の支城は子飼いの若い武将たちに次々に落とさせ、力試しの場としてやった。福島正則や加藤清正などは、なかなかのもので、全てを戦に持ち込まず、半ば以上は、和睦で事を済ませた。
この時代、秀吉の家来は二派に分かれつつあった。
尾張の足軽大将に過ぎなかったころから秀吉や、その妻寧々(ねね)の薫陶と世話を受けて育った福島や加藤などの尾張閥と、秀吉が近江の長浜で大名になって以来、秀吉の官僚になった石田三成を筆頭にする近江閥である。
秀吉は、そのことを気にして、官僚である三成にも武功をたてさせてやり、なんとか両者の溝を埋めようとした。
そこで、関東の東北部にある忍城攻略を三成に任せた。
誰にでも落とせる田舎の小城であった。ところが、三成は、調略にも、秀吉のやり方を真似た水攻めにも失敗した。秀吉が小田原を攻めて唯一落とせなかった城となり、四百年後に小説と映画の材料になった。
秀吉は、もう半年近く小田原を包囲していたが、兵たちは倦むことがなかった。小田原城の周囲は陣というよりは街であった。上方から商人や遊女たちを集め、商売や娯楽の種を尽きぬようにしたので、陣……いや、街は賑わうばかりであった。
そして、秀吉は、小田原の落城を見せてやろうと淀君さえ呼んだ。去年生まれたばかりの鶴松は、さすがに大坂に留め置かれたが、美奈を中心とする医師とも乳母ともつかぬ集団が、幼子の世話を焼いていた。
「五右衛門さん、かなり儲けているようじゃない?」
五右衛門は、珍しく若い商人のナリであらわれた。
「今は、唐物の商いで、ちょっとした御大尽さまよ」
「あら、海外貿易やってんの?」
「カイガイボウエキ?」
「あ、こんな字を書くの」
美奈は料紙に、サラリと書いてやった。
「なるほど、いい字面だ……今の言葉じゃねえな」
「三百年ほどしたら、日本でできる言葉よ」
「やっぱ、美奈は、先の時代からやってきた人間……?」
「ハハ、そういうことにしとこうか、お互い秘密を持ち合っているのは面白いわ」
「そうさな。一つだけ教えてくれ」
「なあに?」
「この先、貿易で儲かりそうな国はどこだ?」
「イスパニア。でも、この国は、あわよくば国を乗っ取ってしまう。その野心は秀吉さんや家康さんなら気づいている……その中継ぎをやっている国がいいわ。琉球やシャム」
「気持ち悪いな。オレの読みと同じだぜ!」
「明は半分国を閉ざしているし、朝鮮は商いそのものを卑しいものだって否定してる国だしね」
「ようし、大船は博多でイスパニアの図面をもとに作っているところだ。できたらすぐにでかける。で、手っ取り早く儲かる品はなんだ?」
「金ね」
「金?」
「日本と異国じゃ金と銀の交換比率が違うの。簡単に言えば金の相場が、日本は異国よりも安いの。換金するだけで数倍の儲けになる。シャムには鉄砲ね。むろん普及させてからじゃなきゃ儲けにならないけど」
「そういうのって、血が沸くな。こういうのって女の頭の方が、謎めいて面白い。ちょいと着物借りるぜ」
五右衛門はクルリと裸になると、裸のまま女に変身して、ほんの二秒ほどで着替え終わった。
「オレの変身見せるのは美奈ぐらいのもんだけどよ。どっちのオレがいい。男? 女?」
「両方!」
「お、いいってか?」
「気持ち悪い!」
「アハハハ」
「着物代に、一つ教えてよ」
「なんだい? つまらねえ質問なら答えねえぜ」
「小田原が落ちたら、天下は一応秀吉さんのものになる。でも家康さんという大物が残ってしまう。二人がぶつかり合わないような工夫ないかしらね?」
「なんだ、つまんねえ。そんなこたあ、ションベンのついででも考えるんだな」
そう言って、五右衛門は行ってしまった。
「ションベンのついで……やっぱ史実かもしれないなあ……」
美奈は、久宝寺の鐘の音を聞きながら独り言ちた……。




