41・国変え物語・2・道頓と美奈の出会い
時かける少女BETA・41
≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫
美奈は道頓に見とれてしまった。
と言って、惚れた腫れたではない。その異相にである。
茶人のような風体から武士でないことは分かるが、造作が大きい割には威嚇を人に感じさせず、面構えは、この戦国末期の世では、一国の大名に相応しい。
「あ、そこちゃうがな!」
なにか差配と作事に食い違いがあったのだろう、道頓ははじかれたように立ち上がった。立つと顔に似合った偉丈夫の胴ではあるが、手足が滑稽なほどに短い。
美奈は思わず吹き出しそうになった。
道頓は短い手足で、梯子を降りようとしたが、最初に足を降ろしたところで踏み外し、三間ほどの高さから、ずどんと落ちてしまった。
「痛、いたたた……足を、足をいわしてしもた!」
正直に苦悶の表情を浮かべて、道頓は転がりまわった。
「だれか、医者じゃ、医者を呼んで来い!」
年かさの配下の者が叫んだ、人足や、町人たちが周りを見まわすが、おいそれとは医者は見つからないようだ。
「利助!」
年かさが利発そうな若者に、名前だけで命じた。若者は、それだけで分かったようで駆け出そうとした。
「わたしが診ます!」
利助がつんのめった。
美奈は薬箱を降ろしながら、道頓を囲む輪の中に入って行った。
「ねえちゃん、怪我も診られるんか?」
年かさが、驚いたように言った。
「いささか……右足の下の骨ですね。これ、痛みますか?」
「痛っ!」
「骨は折れていませんが、ヒビが入ったようです。しばらくご辛抱を。そこの棒を……」
利助が、添え木であろうと理解して、紐といっしょによこした。
美奈は、薬箱から塗り薬を取り出し、右足の膝から下に刷り込んだ。美奈は、ほんの小娘なので、年かさや利助たちは心配げに見ていたが、当の道頓は累代の医者に診せているように落ち着き払っている。やがて添え木をあて、紐で巻き上げて治療が終わった。
「嘘みたいに、痛みが引いた。あんた若いのにすごいなあ!」
道頓は他人事のように感心した。
「痛み止めがきいているからです。七日ほどは歩けませぬ。日に二度、この薬を……」
「でや、いっそ治るまで、うちの屋敷に来てくれへんか?」
子供のように打ち解けた笑顔で道頓が言った。
で、美奈は久宝寺の道頓の屋敷に、とりあえず七日間滞在することになった。
「道頓さまには、みな懐いておりますね」
薬を塗り、添え木を当てながら美奈は正直に言った。二日目の朝である。
「ああ、有り難いこっちゃと思てる。大坂は関白殿下が来られてから、風通しがようなって、それが儂みたいなもんにもお裾分けの差配がでける」
美奈は、道頓がおべっかではなく、心から思っているように感じられた。このオッサンに欲を持たせたら、いっぱしの大名にはなるだろうと思った。
道頓には良くも悪くも「欲」が無い。
人が喜ぶことをするのが好きでたまらぬ性分のようで、大坂城の外堀の作事も秀吉が喜んでくれることと、なにより、この作事で河内近在の百姓や町人に銭が潤沢に回るようになり、皆が喜んでくれることが嬉しくてたまらぬ様子であった。
「美奈はん。あんたは歳に似合わんなかなかの医道の達人やと思う。よかったら作事が終わるまで居てくれへんやろか。作事場では毎日大小の怪我人やら病人が出る。要費と礼は儂が出すよって、頼まれてくれへんやろか?」
言いようが、まるで女を口説くような熱と稚気があった。美奈は笑いながら引き受けた。
こうして、美奈は、道頓を通して、戦国末期の歴史に関わることになった……。




