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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
41/60

41・国変え物語・2・道頓と美奈の出会い

時かける少女BETA・41

≪国変え物語・2・道頓と美奈の出会い≫



 美奈は道頓に見とれてしまった。


 と言って、惚れた腫れたではない。その異相にである。


 茶人のような風体から武士でないことは分かるが、造作が大きい割には威嚇を人に感じさせず、面構えは、この戦国末期の世では、一国の大名に相応しい。


「あ、そこちゃうがな!」


 なにか差配と作事に食い違いがあったのだろう、道頓ははじかれたように立ち上がった。立つと顔に似合った偉丈夫の胴ではあるが、手足が滑稽なほどに短い。


 美奈は思わず吹き出しそうになった。


 道頓は短い手足で、梯子を降りようとしたが、最初に足を降ろしたところで踏み外し、三間ほどの高さから、ずどんと落ちてしまった。

「痛、いたたた……足を、足をいわしてしもた!」

 正直に苦悶の表情を浮かべて、道頓は転がりまわった。

「だれか、医者じゃ、医者を呼んで来い!」

 年かさの配下の者が叫んだ、人足や、町人たちが周りを見まわすが、おいそれとは医者は見つからないようだ。

「利助!」

 年かさが利発そうな若者に、名前だけで命じた。若者は、それだけで分かったようで駆け出そうとした。


「わたしが診ます!」


 利助がつんのめった。


 美奈は薬箱を降ろしながら、道頓を囲む輪の中に入って行った。

「ねえちゃん、怪我も診られるんか?」

 年かさが、驚いたように言った。

「いささか……右足の下の骨ですね。これ、痛みますか?」

「痛っ!」


「骨は折れていませんが、ヒビが入ったようです。しばらくご辛抱を。そこの棒を……」


 利助が、添え木であろうと理解して、紐といっしょによこした。

 美奈は、薬箱から塗り薬を取り出し、右足の膝から下に刷り込んだ。美奈は、ほんの小娘なので、年かさや利助たちは心配げに見ていたが、当の道頓は累代の医者に診せているように落ち着き払っている。やがて添え木をあて、紐で巻き上げて治療が終わった。


「嘘みたいに、痛みが引いた。あんた若いのにすごいなあ!」


 道頓は他人事のように感心した。

「痛み止めがきいているからです。七日ほどは歩けませぬ。日に二度、この薬を……」

「でや、いっそ治るまで、うちの屋敷に来てくれへんか?」

 子供のように打ち解けた笑顔で道頓が言った。


 で、美奈は久宝寺の道頓の屋敷に、とりあえず七日間滞在することになった。


「道頓さまには、みな懐いておりますね」


 薬を塗り、添え木を当てながら美奈は正直に言った。二日目の朝である。

「ああ、有り難いこっちゃと思てる。大坂は関白殿下が来られてから、風通しがようなって、それが儂みたいなもんにもお裾分けの差配がでける」

 美奈は、道頓がおべっかではなく、心から思っているように感じられた。このオッサンに欲を持たせたら、いっぱしの大名にはなるだろうと思った。


 道頓には良くも悪くも「欲」が無い。


 人が喜ぶことをするのが好きでたまらぬ性分のようで、大坂城の外堀の作事も秀吉が喜んでくれることと、なにより、この作事で河内近在の百姓や町人に銭が潤沢に回るようになり、皆が喜んでくれることが嬉しくてたまらぬ様子であった。


「美奈はん。あんたは歳に似合わんなかなかの医道の達人やと思う。よかったら作事が終わるまで居てくれへんやろか。作事場では毎日大小の怪我人やら病人が出る。要費いりひと礼は儂が出すよって、頼まれてくれへんやろか?」


 言いようが、まるで女を口説くような熱と稚気があった。美奈は笑いながら引き受けた。


 こうして、美奈は、道頓を通して、戦国末期の歴史に関わることになった……。



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