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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
30/60

30・コスモス坂・3

時かける少女BETA・30

《コスモス坂・3》



 芳子たちの高校は、まだ6年にしかならない新設校だ。


 隣のK高校は戦前からの女学校が共学の新制高校になったもので、良くも悪くも昔の伝統が残っていて、戦後民主主義の気風の中から生まれた芳子たちの高校はK高校と人気を二分していた。

 学校の名前を『県立七倉しちくら高校』という。七里ヶ浜と鎌倉を足して二で割った名前で、民主主義的な名前と言えなくもないが、地元の人たちは『ななくら』と呼ぶ。K高校のような気風を尊ぶ人たちからは『なまくら』と揶揄される。


 伝統が無く自由だけがあるので、設立当初から、良く言えば生徒の自主性が尊重され、あたりまえに言えば野放しであった。

 それでも学校としては高い学力と、それなりの秩序を維持している。例えば生徒集会で政治的なことが話題や議題になることは珍しくなかったが、授業はきちんと受けていたし、先輩後輩の区別も厳しかった。

「まあ、入れ物が新しいだけでもましとは言えるか」

 と、外交官の父は、兄の勲が、なまくら……いや七倉を選んだ時にも文句は言わなかった。芳子と久美子も自然な成り行きで七倉に入っている。


「へへ、A定食ゴチになっちゃった!」


 朝の追突事件で、久美子は白根たち3年生に昼ご飯をおごってもらった。

「A定食、に乗りすぎよ!」

「だって、お弁当ワヤクチャにしたのは、あの人たちだもん。それに、あたしからおねだりしたわけじゃないもん。ねえ、モンローたちだってそう思うわよね?」

 と、三匹の猫を味方につけてヘッチャラ。

「でも、まさか交換にへんなこと頼まれなかったでしょうね。あの3年生たち、ずっと安保問題のことばっかし話してたから」

「どってことないよ、お兄ちゃんの写真があったら欲しいって。一枚20円。サイン入りなら30円で買ってくれるって……」

 久美子は、モンローを引き連れて、兄の勲の部屋に向かった。

「お兄ちゃんの部屋に猫連れてっちゃだめじゃないの!」

「平気平気、モンローは上品な子だから……あった、これこれ」


 久美子は、写真のネガを持ってきた。こないだの安保改定反対全学集会で、演壇で演説ぶっていたときのネガだ。


「だめじゃない、勝手にそんなの持ち出して!」

「大丈夫。明日お兄ちゃん帰ってくるから、そのときサインもらっちゃうから」

「え、お兄ちゃん帰ってくるの?」

「うん、お父さんとかち合っちゃうんで、ちょっと心配なんだけどね……」

 母の国子が他人事みたいに言って、猫たちに餌をやっていた。


 これはただ事では済まない……芳子は、そう思った。庭のコスモスたちも心なしざわめいているように感じる芳子だった。

 



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