3・The implementation test=運用試験・1
時かける少女 BETA・3
《The implementation test=運用試験・1》
エノラゲイは四国上空を通過中に日本軍のレーダー照射を受け、単機の日本軍戦闘機の射撃をうけたが、被弾はなかった。この日本軍戦闘機(所属不明)はハーフターンして第二航過で射撃を試みたが、射撃位置の占有に失敗した。
ミナは、コビナタから、このメッセージとイメージだけを受け取った。
「IT……試験運用ですね」
「そう、ミナがどう判断し、行動するか。ITだけど、運が良ければ枯れかかったブランチが蘇るかもしれない。本気でね……」
コビナタは世界の木を見つめた。目をミナに戻すと、もう姿は無かった。
「迅速性は合格ね……」
ミナは三式戦闘機飛燕に乗って、四国の上空を飛んでいた。一時方向にエノラゲイを感じた。記録よりも500メートル高い。
「思ったより……予断は持たないでいこう」
ミナは飛燕にブーストをかけ、10秒でエノラゲイと並走した。30メートルの至近距離である。
「機長、トニー(飛燕)です。ジョ-ジ、ロバート、気づかなかったのか!?」
副機長のロバート・A・ルイスは後尾機銃手と胴下機銃手に叫んだ。
「あっという間だったんです。目で追うのが精一杯でした」
同じ答えが二人の機銃手から返ってきた。エノラゲイはリトルボーイを積んでいるため、他の機銃は全て下ろしてあった。機長のポールはトニーを引きはがそうと操縦桿を操作するが、なんせ図体のでかいB29なので、身軽な動きができない。思い切って左翼の端で引っかけるようなそぶりをしてみるが、トニーのパイロットは相当な腕のようで、曲芸飛行の僚機のようにピタリと付いてくる。
トニーのキャノピーが開いてパイロットが顔を出した。高度8000である。
「機長、あのパイロット女ですよ!」
左翼が見えるクルーはみんな驚いた。キャノピーを開いたコクピットには黒髪をなびかせた少女がにこやかに手を振って、こちらを見ている。
――そっちにお邪魔するわね――
ブロンクス訛のキュートな声が皆のヘッドセットに聞こえた。
「おまえは、いったい……」
そこまで言った時には、ピンク色の飛行服を身にまとった少女が操縦席の後ろに立っていた。
「こんちは、ポールはじめクルーのみなさん。ジョ-ジとロバートはお顔みえないけど、よろしく。トニーのパイロットのミナです」
航法士のセオドアが斜め後ろから取り押さえようとしたが、軽く背負い投げにされ爆撃手のトーマスの頭に背中から落ちた。トーマスは、とっさにノルデン照準器を庇い、セオドアの足が機長の体にぶちあたったので、操縦桿が左に傾き、少し遅れて機体が左旋回した。
「コクピットは狭いんだから、暴れないでよね。モリス、ワイアット、ピストルは抜かないでね。この高度で機体に穴が開いたら大変よ」
モリスとワイアットは息をのんだ。ミナが左右に交差させた手から、銃口が覗いている。
「あなたたちは、リトルボーイを落とすことで、日本人に本土決戦を諦めさせる……そう、教わってるのよね」
クルーたちは、一声もなかった。
「それ、ウソだから。日本は、もうポツダム宣言受諾の協議に入ってるのよ」
「日本人は、そんなに甘くない。オレたちはグァムも硫黄島も知ってるんだ。本土決戦になりゃ、アメリカだけで100万、日本人は何千万と死ぬんだぞ!」
ポールが機体の姿勢を直しながら怒鳴った。
「トルーマンの陰謀よ……てのは可愛そうか。フランク(フランクリン・ルーズベルト前大統領)が死んじゃったから、その路線走るしかないんだろうけど。あと二日すればソ連が対日参戦してくるわ。それで、天皇は終戦の決意をされるの。あんたたちは、ただの虐殺者にしかならないのよ」
「機長、無人のトニーが付いて離れません!」
「あたしのトニーはご主人に忠実なの。あんたたちと違って自分の頭で考えるし」
「お嬢ちゃん、あんたいったい……」
「あたしはSavior Beta MINA……」
「第二の救済者だと?」
「とんでもない、それ以上だわよ」
ミナの瞳が鳶色に輝いた……。




