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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
28/60

28・コスモス坂・1

時かける少女BETA・28

《コスモス坂・1》



 目が覚めたのは、コビナタの庭の四阿あずまやだった。太ももに懐かしい違和感があった。


 そっか、スカート穿いてるんだ。ミナは指をくるりと回すと目の前に姿見が現れた。

「やだ、細井中佐の癖が残ってる」

 ミナは、開きっぱなしの膝を閉じて立ち上がると、姿見の前でひらりと回ってみた。姿見には17歳の少女らしい生成りのワンピース姿が写っていた。


「よし、らしくなってきた!」


 セミロングの髪を手櫛で整えると、鏡の中に、オフホワイトのブラウスにラベンダー色のフレアースカートのコビナタがやってくるのが見えた。


「お疲れ様。おかげで諦めていた枝が元気になったわ」


 四阿の窓から見える世界の木。どの枝が元気になったかは分からなかったが、コビナタが言うんだ。きっとパラレルワールドのどれかが生き返ったんだろう。ミナは、そう思った。

「まあ、お茶でも飲んで」

 コビナタは、いい香りの紅茶を出してくれた。

「あ、ウィスキーが入ってる」

「体と心の両方が温まるように」

「もうちょっと、入れていいですか」

 ミナは、返事も待たずにウィスキーの小瓶から、カップにウィスキーを足した。

「まあ、そんなに入れて。オッサンみたい」

「さっきまで細井ってオッサンでしたから」

 そう言いながら『ハリーポッター』の映画の中に、こんなシーンがあったことを思い出した。そうだロンのお父さんがやってたっけ。

「ごめんなさいね。こないだのアナスタシアといい、メタボの細井中佐といい、荒っぽい仕事ばかりだったものね」

「う~ん……てことは、今度は女の子でやれってことですか?」

「フフ、察しがいいわね。今度は、少し青春してきてもらおうと思ってね」

「いいですよ、楽しみですね」

「ちょっと長い青春になるかもしれないけど」

「まあ、もう一杯紅茶をいただいてから……」

 今度は、ウィスキーを入れずに飲んだ。ラベンダーの香りが強くなってきた……。


 肩甲骨の中ほどまで伸びた髪をお下げに編んでいるうちに、情報がインストールされた。今度は、ちょっと分岐点の多い世界に来たような気がした。



「芳子、ちょっと、こっち来てごらんよ!」


 お母さんが陽気な声で呼んでいる。また野良猫の子でも見つけたのかと、ややうんざり。

 足にまとわりつく三匹の猫をあしらいながら庭に出た。


「お母さん、また子猫?」

「ハハ、いくらあたしでも、猫は3匹でたくさんよ」

「じゃ、いったい……うわー、なにこれ!?」

 庭一杯に咲いたコスモスの中に、ひときわ大きな子供の手の平ぐらいのコスモスが咲いていた。

「こりゃ、オオスモスだわね」

「ハハ、なによ。まるでお相撲さんみたい」


 このあたりはコスモス坂と呼ばれている。


 戦前から自生しているコスモスで、ご近所の庭や道端もコスモスだらけ。まあ身も蓋もない言い方をすればコスモスは雑草といってもいいんだけど、秋桜の和名があるように、とてもきれい。他の雑草を時々抜いてやるだけで、ノンノンと育つ。江ノ電の海側から見ると、このあたりのコスモス色はきわだっている。


「まあ、このあたりだけでも平和にね」


 世間は来年に控えた安保改定に向かって騒然としている。兄の勲は、東京の大学で、いささか過激な安保闘争にあけくれて、この三月ほどはろくに家にも帰っていない。


「「いってきまーす」」


 妹の久美子といっしょに極楽寺駅を目指す。

 低血圧の妹に足を合わせる。

 別に妹を気遣ってのことではない。コスモスをゆっくり愛でるためだ。


 こうやって、芳子のありふれた秋の一日が始まった。



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