20・大和と信濃と・5
時かける少女BETA・20
《大和と信濃と・5》
西日を背後から受け、黒々と現れた巨艦に信濃の乗員、工員、そしてアーチャーフィッシュの捕虜たちは声も無かった。
「あれが大和……?」
信濃の阿部艦長は静かに頷いた。時に昭和19年11月29日の夕暮であった。大和の乗組員も気づき、世界最大の戦艦と空母の邂逅に歓喜した。
「ラッキーだったな。君たちは世界最大の空母に乗って、世界最大の戦艦にお目にかかれたんだ。いずれ戦場で出会うかもしれん、目に焼き付けておいたほうがいい」
「こんな軍事機密を知った我々を日本は釈放するつもりですか?」
ウェンライト少佐が訊ねた。
「見せているのはガワだけだ。我々の力は身をもって知った通りだ。それに我々は戦争が終わるまで君たちを養っておく余裕が無い。そのうち仲間が増える。まとまったところで、アメリカに帰っていただく。捕虜虐待などと言われんうちにな。さ、迎えのトラックが待っている。君らの仕事は大統領に手紙を書くことだ。検閲などはしない、思ったまま書き給え。そして、しばらく不自由な生活になるが辛抱してくれ」
捕虜たちは、タラップを降り、トラックに乗せられて広島の収容所に連れていかれた。阿部艦長と細井中佐は大和の有賀艦長に挨拶に行くために内火艇に乗った。
「甲板を黒塗りにされたんですね」
「気休めだが、多少は視認しにくくなると思ってね。信濃も派手な偽装塗装だね」
信濃は薄緑の上に濃緑色で、商船のシルエットが描かれている。
「あれも気休めです。昨日易々と米潜に発見されましたから」
「しかし、返り討ちににして、52人も捕虜にしたらしいじゃないか?」
「ああ、この横鎮の細井中佐のお蔭です。空技廠もいろいろ新手を考えてくれているようです」
「これをお受け取りください。軍令部と艦政本部からの辞令です」
細井中佐は、二通の封筒を大和の有賀艦長と信濃の阿部艦長に渡した。
「細井君。君が大和の改装と信濃の艤装委員長になるのかい?」
「一応です。わたしが口出しするのは、ほんの一部です。そうだ、さっそく試しておきましょう」
細井中佐は太い体をかがめ、鞄から菓子袋のようなものを取り出した。これだけの動作でも腹が邪魔になり顔が赤くなっている。
「なんだね、この鉛筆のキャップみたいなのは?」
「25ミリ機銃用の命中精度向上蓋です。間もなく敵の偵察機が……ちょっと待ってください」
中佐は携帯用の電探の受信機を取り出し、二人の艦長にも見せた。
「これは……?」
「なかなか重宝なもんですよ」
もう慣れてしまった阿部艦長がニンマリ笑う。
「B24が三機松山沖まで来ています。この向上蓋を付けた25ミリで撃ってもらえませんか」
「いいが、よほどの低空でなきゃ、かすりもせんよ」
「まあ、お試しあれ」
有賀艦長は、砲術長に命じ、右舷舷側の一番三連装に向上蓋を取り付けた弾を装填させた。性能を測るために他の対空機銃は、沈黙させることにした。
B24は、大型の空母が入港した情報を得て確認に来たのだ。そして、対空火器が沈黙しているので、高度を3000まで下げた。
「ころあいです、撃ってください」
「3000じゃ射程ギリギリ。当たらんよ」
砲術長はニベもない。
「まあ、ものは試しだ。撃ってみろ」
艦長の指示で、砲術長は一番機銃に命じた。
「右舷二時、35度の敵機を撃つ。一斉射10発ずつ。三機とも均等に撃つ。これでいいんだね?」
砲術長は、子供に言うように確認した。
「十分だ」
細井中佐も簡潔に答えた。
「テーッ!」
最初の斉射で先頭機が火を噴き、まさかと思っていた機銃座員たちは、慌てて照準を変え、二十秒で残りの二機も火を噴いた。
「搭乗員は、落下傘で脱出します。捕虜獲得も重要な任務ですので、早急に救助してやってください。
アーチャーフィッシュの乗員を含めて、100名ほどの捕虜になった。細井中佐は、その実績をもって、軍令部に捕虜収容所の増設を具申した。




