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時かける少女 BETA  作者: 大橋むつお
1/60

1・リスタート

時かける少女 BETA・1

《リスタート》         



 よくもって明日の朝だと言われた。


 菜緒子に残された数時間、数十分……数分かもしれない時間。母はそれを永遠にしたい気持ちで、弱く脈打つ娘の手を握っていた。

 父は無精ひげのまま、看病やつれした妻を庇うように抱き、その手を重ねた。


「菜緒子……菜緒子なんて名前つけなきゃよかった」

「なにを言ってるんだ。菜緒子は、菜緒子だ。菜緒子はがんばれる子だ」

「あたしの名前をとったのが良くなかったのよ」

「菜緒の娘だから菜緒子。立派な名前じゃないか、頑張れる名前じゃないか!」

 父は、妻を抱く手に力を込めた。

「この子は受け継いでしまったのよ、あたしの運命を……!」

「ちがう。受け継いだのは母さん自身のの強さだよ、母さんの運の強さだよ……」


 その刹那、菜緒子の心臓が止まった。


「菜緒子! 菜緒子! まだ行くな、しっかりしろ!」

 父の声が届いたのか、菜緒子の心音が戻ってきた。

「見ろ、菜緒子は菜緒子だ、強い子なんだ!」

「そうね、そうね、菜緒子、菜緒子……」

 

 気づくと菜緒子の足許に女医が立っていた。ぶら下げたIDがほんのり黄色く光っている。


「すみません、つい取り乱して」

「いいえ、こんな時ですもの、しっかり声をかけてあげてください」

 女医の声は聞きなれた主治医のそれでは無かった。

「……東條先生じゃないんですか?」

「申し遅れました、小日向と申します。いま東條先生から引き継ぎました」


「え……」


 両親はとまどった。

「わたしの方が助けられる可能性が高いので交代しました。とりあえず強心剤を……」

 女医は、菜緒子の胸の上から赤いペンライトのようなもので照らした。菜緒子の心音が強く規則正しくなってきた。

「心音が……」

「お母さん。お父さんのおっしゃるように名前のせいじゃありません。まして、お母さんが17の歳で患った脳腫瘍を引き継いだわけでもありません。ただの偶然です」

「そ、そうですとも。で、先生、菜緒子は治るんですか!?」

 女医は小首を傾げた。

「治ります。ただ少し……」

「障害が残っても構いません。寝たきりでもかまいません。生きていてくれさえしたら!」

「障害は残りません。ただ少し我慢していただかなくてはなりません」

「……我慢と申しますと?」

「きちんと治るまで、娘さんには会えません」

「そんなの、いくらでも待ちます。何日でも何カ月でも何年でも!」

「菜緒子を助けてやってください!」


 女医のIDがグリーンに変わった。両親は、そんなこと気にも留めなかった。


「分かりました、そのご決心が聞きたかったんです……小日向です。状況グリーン、ストレッチャーを」

 女医は、さっきのペンライトに話しかけた。数秒おいて二人のナースがストレッチャーを運び入れた。二人のナースはそっと手を添えるだけで、マジックのように菜緒子をストレッチャーに乗せた。病室のドアが開いてストレッチャーは音もなく廊下に出た。

「先生、よろしくおねがいします!」

「お二人は、ここでお待ちください」

「せめて、待合まで……」

「お約束です。治るまではご辛抱を」

 そう言うと、女医とナースたちは、廊下を足早に行ってしまった。父はストレッチャーに脚もキャスターも付いていないことに気づいた。

「ちょ、ちょっと先生!」

 五部屋向こうの角を曲がったところで追いついた……つもりだった。


 エレベーターは止まったままだった。ナースステーションの当直のナースが怪訝な顔で見ている。女医の姿もストレッチャーもナースの姿も見えなかった。


 かすかに「リスタート」という声が聞こえたような気がした……。


※ 時かける少女のリスタートです。これまでにない展開になります。こうご期待!

 



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