第三話『荒野に轟くは予知眼の指揮』(1/3)
ダイカは地下牢に放り込まれていた。
衣食住は保証されている。悪くない環境だ。
その地下牢に、足音が響き渡った。
「女だ! 女だ!」
叫ぶ声がする。
それを、看守が静まらせていく。
そして、足音は、ダイカの牢の前で止まった。
「顔を合わせるのは初めてね」
聞き覚えのある声だった。タイプハクアに乗っていたパイロットの声だ。
凛とした顔立ちの女性だった。髪は長く、黒い。胸は大きく、スタイルは整っている。傍には、妹のような女性をつれていた。
「あんたみたいなお嬢ちゃんがあんな荒っぽい戦い方をするとはね」
感心する思いでダイカは言っていた。
「この集落に味方するつもりはない?」
「タイプリッカは奪取しただろう?」
「エクストラモデルは生体コードなしには動かない。貴方でなければ、動かせない」
「対価が欲しいな」
ダイカは、思わず言っていた。それは、心の奥底から出た、本音の声だった。
「……体を求めるのなら、殴りつけるわよ」
「そんな野暮なもんじゃねえさ」
本音から、知りたいものがあった。
「あんたが戦う理由を教えてくれれば良い」
彼女はエクストラモデルの所有者だ。場所さえ選ばなければ、女王になれる存在だ。それが何故、一つの集落の走狗となって働いているのか。それが、ダイカには理解できなかった。
「戦う理由……簡単よ。平和な世界が欲しいから。人に、死んでほしくないから」
「なら、何故、人の死なない世界が欲しい? 何故、こんな世界で他人の生き死ににそんなに揺さぶられる」
タイプハクアのパイロットは黙り込んだ。
「私も、知りたいです」
妹分らしき女性が、ゆっくりと口を開いた。
「マイさんは何処ででも王者になれる。けれども、何故それを良しとせず流れ者をしているのか。私はマイさんの、そんな部分にも惹かれたんですけれどね」
タイプハクアのパイロットは、どうやらマイと言うらしい。
マイはしばらく黙って考え込んでいたが、そのうちゆっくりと口を開いた。
「私の故郷は、魔導スーツを所持した流れ者達に滅ぼされた」
淡々とした、しかし、重い言葉だった。
「私は衣類を剥ぎ取られ、犯される寸前だった。その時、目を覚ましたの。タイプハクアが。私はすんでのところで命をとりとめた。けれども、集落の人々の命は、帰ってこなかった」
マイが、苛立ちを思い出したかのように地面を蹴った。
「平和を求めて悪い? 人々が平和に暮らせる土地があることを望んで悪い? 私は望み続けるわ。呼吸が続く限り。人々が命を大事にする世界を」
自棄になったような、そんな口調だった。
「それが、私が戦う理由。正直ね、自分自身も見下しているのよ、私は。犯されるその段に至ってやっとタイプハクアは目を覚ました。一ヶ所に留まるのが怖くて、ここに来るまで自分の力を有効活用しようとも思わなかった。私は、いつも一手遅いのよ」
「そんなことないです」
マイの妹分が、口を開いた。
「私の時には、間に合ってくれた」
「……たまたまよ」
「けど、私にとっては、大事なことなんです」
沈黙が場に流れた。
ダイカは考え込む。傷ついたこの女性が死を嫌うわけ。それは十分に理解できた。
すると、力を持ってそれを振りかざして人の命を奪った自分に嫌気がさしてきた。
「あんたのせいだぜ……」
ダイカは、口を開く。
「たまたま手に入った力を振りかざして人の命を奪った。そんな自分に嫌気がさした。この暗い気持ちを解消するには、あんたに協力するしかあるまいな」
マイが、表情を綻ばせる。
「ただ一つ、言わせてくれ。この集落は自治を認めていない。それに嫌気がさして西の集落は反発の姿勢を持った。その態度を改めない限り、反旗は起こると思うぜ」
「……代表者と、良く話すわ」
マイは何処か寂しげに、微笑んでみせた。
檻が開かれ、ダイカの手錠が外される。ダイカはマイに歩み寄って、手を差し出した。
「一時的だがあんたの仲間だ。精々仲良くやろうぜ」
マイの手が上げられる。しかし、両者の手が触れ合う瞬間、第三の手が割り込みに入った。
マイの妹分が、ダイカの手を握っていた。
「はい、握手。じゃあ仲間ですから、よろしく」
「マイさんと握手はさせてもらえんもんかね」
「お姉さまは男の人に犯されかけたんですよ? それに軽々しく触れようなんてデリカシーがない方ですね!」
「……俺、悪者?」
縋るように、マイに問う。
マイは苦笑すると、肩を竦めた。
「さあ」
どこか投げやりで、どこか面白がっているような、そんな口調だった。
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東と北の共同戦線が開かれている。
東へ向かうのはタイプハクア、タイプリッカ、そして七体のノーマルモデル。
「エクストラモデルだけで十分だぜ。殲滅には事足りる」
ダイカが、ぼやくように言う。
「そういう貴方こそ、北へ向かえば良かったんじゃ?」
メイが、何処か刺々しい口調で言っていた。
メイは何かダイカを敵視しているようだ。その理由に思い至らぬわけでもないので、マイは苦笑するしかない。
「そろそろ敵影が見えてもおかしくない頃だわ。無駄口は控えて、集中して」
「了解しました」
「あいよ」
前進を勧めていたその時、一機を除いたノーマルモデルが一斉に地面に倒れ伏した。
(足を引っ掛けられた?)
そうと気がついた時には、包囲されていた。
保護色の布を放り捨て、周囲に現れた敵ノーマルモデルに、味方ノーマルモデルのコックピットへ次々と剣が突き付けられていく。
タイプリッカは破壊の炎を両手に掲げた。
その時、網が投げられた。タイプハクアはすんでのところで逃れたが、タイプリッカは雁字搦めにされた。
「エクストラモデルのパイロット」
現れた銀色の機体が、剣をマイに向けていた。
「お前の味方の機体は我々の制御下にある。この戦いの仕上げとして、一対一の戦いを申し込む。」
マイは歯噛みする。まるで、こちらの行軍ルートから気を抜くタイミングまで全てを読まれていたかのようだ。
見事に、型にはめられてしまった。
「……味方の命は保証して」
「良かろう。では、一騎打ちだ」
「ええ、良いでしょう」
マイは剣を振りかぶって、直進すると見せかけて、六本の突起から緑色の魔導レーザーを放った。
それを前もって予測していたかのように、敵エクストラモデルは回避していく。
そして、剣と剣がぶつかりあった。
「読んだ……?」
マイは、思わず戸惑いの声を上げた。
「全て、見えている」
マイは剣をこすり合わせて敵に接近し、蹴りを放つ。
それもまた、完全に回避された。
「エクストラモデルの機動性を持ってしても……!」
「見えている、と言っているだろう!」
蹴りを受けたのは、タイプハクアの方だった。タイプハクアは地面を転がり、そのまま体を起こして地面を掴みながら後方への反動を殺す。
「こちらの機体の進路の予知! 攻撃の予知! 予知のエクストラモデル……タイプセツナか!」
「いかにも。指揮官機型エクストラモデルタイプセツナ。お前には勝機はないよ」
タイプセツナのパイロットの笑みが見えるような声だった。




