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第二話『敵はタイプリッカ』(3/3)

 マイは一機、タイプハクアを駆って西進していた。

 魔導スーツ同士の戦いには定石のようなものがある。その一つが、狙うのは脚部かコックピットということだ。

 魔導スーツのコアは現代の技術力では再現できない。魔力を鉄に流し込むと言う技術が確立されていないのだ。だから、コアだけは丁寧に残し、それ以外の箇所を破壊して敵の戦力を奪う目論見がある。

 国境沿いは、惨状だった。

 魔導スーツが六体、脚部を失って地面に落ちている。それどころか、コックピットに剣が突き刺さっている機体がいくつもあった。

 殺されたのだ。

 マイは、歯噛みしたいような気持ちになる。

 暗い気持ちと、エクストラモデルとぶつかるという張り詰めた気持ちが、マイの中で混ざり合う。


 その時、ふとした疑問がマイの脳裏に浮かんだ。何故、壊れた魔導スーツを回収しない? まるで、餌のようにそこに置いてある。

 光が見えた。

 マイは上昇する。次の瞬間、タイプハクアのつま先を巨大な魔導レーザーが掠めていった。

 拠点防衛型エクストラモデルタイプリッカ。その破壊力は他の追随を許さない。

 どうやって接近するか。それが当面の問題だった。


 炎のホーミング弾が次々に飛んでくる。それを、マイは錐揉み回転しながら回避していく。ホーミング弾は徐々に増えていく。エクストラモデルの機動性がなければ捕まって爆破されていた所だ。

 それでも、敵との距離は遠い。

 マイは、剣を振るった。炎の弾を、次々に切り落としていく。

 きりがない。

 再び、移動に切り替える。

 この悪夢のような弾幕。これがタイプリッカの持ち味。


 その悪夢のような時間にも、終りが見えてきた。

 重武装のエクストラモデルタイプリッカと、ノーマルモデルが六体ほどいるのが、確認できた。

 タイプハクアの六つの突起から緑色のレーザーが発射される。それは、ノーマルモデルの脚部を即座に奪った。

 タイプリッカは飛翔して、それから逃れる。

 動きに、鈍重さは感じられない。


「こりゃあ面白い」


 通信が入った。タイプリッカのパイロットからだ。男の声だった。


「自分がエクストラモデルかと思えば、敵もエクストラモデルか。これで勝ったほうが、ここら一帯の天下を取れるって寸法だ」


「勝てるつもりでいるみたいね」


「そうだよ。なにせお前は、この炎の弾幕からも逃れられない」


 タイプリッカの両肩の巨大な砲門から、炎の弾が幾重にも吐き出された。

 マイは挟み撃ちされる形になって、上昇した。

 雲を突き抜け、さらに高くへ移動する。

 そこに、巨大なレーザーが雲をかき回すように発射される。


 また、接近の術を失った。

 マイはタイプハクアを急静止させる。その次の瞬間、炎の弾が、レーザーが、ハクアに襲いかかる。

 それらが触れ合う直前に、タイプハクアを再び動作させる。

 炎の弾は味方同士ぶつかりあって、空中で大爆発を起こした。

 これで、接近できる。

 剣を振り上げ、マイは雄叫びを上げて突貫する。


「終わりだ」


 笑みが篭ったような通信が入った。

 雲を突き抜けて見ると、敵は巨大な炎の球体を天に掲げていた。それに向かって一直線に進んでいたタイプハクア。状況は幾分も悪い。

 炎の球体が投じられる。

 タイプハクアは、コックピットを庇いながらもそれに直進した。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「直撃ィ!」


 タイプリッカの操縦者、ダイカは、思わずそう叫んでいた。

 敵の一手先を読んだという爽快感があった。

 敵の機動力でできることは、炎のホーミング弾を紙一重で躱して自爆させること。そこに、全力の炎弾を叩き込んでやった。

 街一個も破壊できるだろうその炎弾の前に、流石のエクストラモデルと言えど大破は免れないだろう。

 パーツの破片が落ちてきて、タイプリッカの肩にぶつかった。

 そして、巨大な黒い塊が落ちてくる。燃え残りだろう。脚部と腕部を失ったそれは、丸い塊のように見えた。

 勝った。ダイカは、そう確信していた。

 その形相が、次の瞬間に真顔になっていた。


 真っ黒な塊が、まるで脱皮する虫のように焦げクズの中から銀の輝きを取り戻した。そして、白い光が放たれ、その腕部、脚部が回復していく。

 敵エクストラモデルの操縦者の雄叫びが、周囲に響き渡った。

 敵エクストラモデルは直進する。そして、タイプリッカを押し倒した。

 大地に押し付けられて、機体が悲鳴を上げる音がする。

 聞いたことがある。自己回復できるエクストラモデルがいると。しかし、ここまでの回復力だとは。

 その名はエクストラの5、タイプハクア。

 炎弾を放つか。

 いや、一手遅い。それよりも先に、敵の振りかぶった剣がコックピットを突き刺すだろう。


「ここまでか……」


 ダイカは、目を瞑った。

 衝撃があった。剣が、機体を貫いていた。

 けれども、生きている。

 戸惑いを持って、ダイカは目を開いた。


 タイプリッカは、殴られていた。タイプハクアが、自らの拳が壊れるのも厭わずに殴り続けていた。


「何故、殺した!」


 タイプハクアのパイロットは叫ぶ。


「彼らだって、生きたかったんだぞ……!」


(おいおい、冗談だろ……)


 ダイカは、そんなことを思う。

 秩序が崩壊した世界だ。何処で誰に殺されようとそれを裁く法もない。そんな世界で、命の尊さを問う? ナンセンスだ。

 しかし、そのナンセンスさに、感じ入るものがあった。

 彼女についていけば、何か面白いものが見れるような、そんな予感があった。

 ダイカは、再び目を瞑る。

 タイプリッカの砲門から放たれようとしていた火球が、消えた。


「俺の、負けだ……」


 ダイカはそう言って、四肢を重力に預けた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 マイはタイプリッカを鹵獲し、持ち帰った。

 そして、その地で衝撃の事実を告げられた。


「北の集落と東の集落が、組んで我々の集落を裏切った……」


 長である中年男性は、苦い顔でそう言っていた。

 敵は二つの集落。

 けれども、安寧の王国を目指すために、マイは止まれない。


「迎え撃ちます。私のエクストラモデルで」


「今となっては、貴女に縋るしかない……」


 そう言って、中年男性は深々と頭を下げた。


「東の敵には、エクストラモデルらしき機影が確認されている」


 その一言に、場の空気が硬直した。

 やっとのことで撃破したエクストラモデル。それが、また敵になる。

 マイの背筋は、寒くなるのだった。


「マイさん……」


 メイが、不安げな声を上げる。


「大丈夫よ、大丈夫」


 根拠のない励ましを言って、マイは微笑んだ。

次回『荒野に轟くは予知眼の指揮』

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