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第二話『敵はタイプリッカ』(1/3)

 北の集落まで十日程の時間がかかることが想定された。

 タイプハクアで飛ぶだけなら五日で済んだだろうが、ノーマルモデルが一機ついてきていたからだ。

 ノーマルモデルはローラーで地面を進む。飛行するエクストラモデルに比べればどうしても時間がかかる。


「正味、足手まとい」


「ストレートですねえ」


 夜に焚き火を囲んで晩餐を食べながら、マイはメイに率直に告げていた。

 メイは、照れるように苦笑するだけだった。


「それにしても、今までどうして北の集落に助けを求めなかったの? 大きな集落なんでしょう?」


「野盗が見張ってましたので。もしも見つかれば酷い目に合わされます」


「なるほどねえ。道が開けたってわけだ」


「マイさん、食べ終わったら夜伽のほうを……」


「いらん」


 夜になるとこの調子だ。

 マイはいい加減うんざりしていた。マイにそっちのケはない。生来、性的なことに関して興味が薄く出来ている。


「私はこれだけ待っているっていうのに」


「待たれても困る」


「私を本気にさせたのはマイさんです」


「道すがら助けただけ。私はご飯が欲しかった、貴女は命が惜しかった。ウィンウィンの利害的な関係で行きましょうよ」


「クールな所も素敵です! 私の理想って感じ」


「あんたの理想ってのは私に合わせてぐねぐねと形を変えるんでしょうね……」


 マイは溜息を吐くと、タイプハクアに搭乗した。


「そんなところで寝るんですかー?」


「夜に襲われたら敵わないからね」


「敵襲に備える。戦士の鏡ですね」


(あんたに襲われるのが怖いんだよ……)


 メイは悪い子ではないと思う。ちょっと変わっているだけで。ただ、アブノーマルな想いを受け止める度量がマイにはない。それだけの話だ。

 夜が過ぎた。

 再び二人は、北の集落に向かって移動を始める。

 ノーマルモデルの挙動に合わせて、ローペースでタイプハクアは飛んで行く。

 が、そのうち、似たような景色の繰り返しに飽きが来た。


「きゃっ」


 メイが声を上げたのがスピーカーを通して伝わってくる。

 タイプハクアが、メイの乗るノーマルモデルを持ち上げたのだ。

 そのまま、二機は飛行していく。


「この方が速いっしょ」


「落とさないでくださいね……」


「落ちたら回復したげるよ。タイプハクアの特性は治癒だ」


「怪我するのは嫌ですよう……ショック死するかも」


「私の技量とエクストラモデルを信じなさい」


 重りが増えたとはいえ、ペースは上がった。この調子なら、後五日程かなとマイは思う。

 四日程の道のりで、大きな集落が見えてきた。大集落だ。前の集落の十倍はあるだろう。


「本当に大きな集落……」


「ローラーでの移動に切り替えるよ」


 着地し、ローラーでの移動に切り替える。


「時間、かかりますよ?」


「エクストラモデルの所有者ですって堂々と進んで行くわけにはいかないでしょ。厄介事は避けなくちゃ」


「なるほど。私を助けた時は隠してませんでしたけれど?」


「緊急時は別」


「私の命の危機は緊急時なんですね!」


 メイが弾んだ声で言う。


「誰の命の危機でも緊急時だよ」


 そう投げやりに、マイは返した。

 銃を構えた五機のノーマルモデルが、二機の前に立ち塞がった。


「集落に立ち入ることを希望する方はここで魔導スーツを降りてもらいます。管理は我々の方でやるので」


「集落への接近理由を聞かせ願います」


「どっかの集落と違って警備がしっかりしてるなあ」


 マイがぼやくように言う。


「規模が違うから……比べないでください」


 メイが、弱った様子で返す。


「我々は南の集落からやって来た。庇護を求める使者だ。どうか話を聞いて欲しい」


 五機の魔導スーツのパイロットは相談を交わしているようだった。

 そのうち、リーダー格らしき一機のスピーカーから声が放たれた。


「あい分かった。入ってください、希望の街へ」


「希望の街、か。大層な集落だ」


 やや、呆れ混じりにマイはメイに通信を送る。


「私達の集落にとっては、本当に希望なんです」


 メイの切実な声に、マイは茶化すべきではないかと思い直す。


「スーツを降りる。銃口を空に向けて欲しい」


 マイの嘆願に従い、五機のノーマルモデルは銃口を空に向けた。

 マイとメイは、自機をしゃがませ、内部から出てくる。

 マイの長い髪が、風になびいて翻った。

 それを、メイが惚れ惚れとした視線で見つめている。


(調子が狂うなあ。髪、切るかなあ……)


 五機のノーマルモデルの後方から、老人が歩み寄って来た。


「庇護を受けたいとの申し出、詳しく聞きたい。我々のリーダーの方まで来てもらおうか」


「了解した。客人としての丁重な扱いを所望するよ」


「心得ておるよ」


 三人は集落の中へと入って行く。

 活気のある集落だった。店が立ち並び、買い叩こうとする声、釣り上げようとする声があちこちから響いている。

 飛び交うリギンという単語を聞いて、マイの眉が動いた。


「通貨が流通しているのか……」


 思わず、感心したような口調になる。


「我々は国を目指しているのでしてな。移住希望の労働力があるなら大歓迎といったところですわい」


 前を歩く老人が、誇らしげに言う。


「それじゃあ、我々の集落は庇護して頂けるのですか?」


「多少、距離がある。移住して貰ったほうが守る側としては効率が良い。多分、リーダーならそう申すでしょう」


「移住、かぁ……」


 メイが少し、寂しげに言う。

 その肩を、マイは抱いてやった。

 故郷を失う辛さは、マイも熟知している。


「今日は宿所に泊まってもらって、明日面会の時間を取ります。詳しい話は、事前にわしが伝えましょう。しかし、お二人は姉妹ですかな。随分と仲が良い」


「恋人です」


 その一言で、マイはメイの肩を抱くのをやめて、腕を組んだ。


「ただの行きずりの道連れです」


 老人は戸惑ったように、目を瞬かせた。

 その後、メイと老人が面談して、二人は宿所に送られた。

 そして夜、マイの手引で夜の街に繰り出した。


「それじゃあ、私が教えた男に酒を奢らせる方法を実践してみようか」


「本当にやるんですかぁ……」


 メイがげんなりした口調で言う。


「私、お酒にあんまり興味ないんだけどなー」


「成功したら私が見直す」


「本当に?」


 メイが、目の色を変えた。


「本当、本当」


 そう言って、酒場にメイを送り出す。

 メイはしばし客席を見渡していたが、そのうち男を一人見つけて、歩み寄っていった。

 見るからにぎこちない動作だ。

 しかし、交渉は上手く行ったようで、酒を一杯飲んだ。そして、うつ伏せになった。

 男がしめたとばかりに会計をして、メイを肩に抱いて店を出る。そこで、マイの踵落としを食らって気絶した。


「何潰されてんの、あんた……」


 呆れ混じりにメイを肩に抱いて、マイは歩き始める。


「私、致命的にお酒苦手なんでした……」


「先に言えよ……」


「だって、マイさんが見直してくれるって言うから、頑張ってみようかなって……」


 その一言で、マイは胸が揺さぶられるのを感じた。


「一途だなあ……」


 溜息混じりに言う。

 その日の月は、綺麗な満月だった。

 会談の時刻は、刻一刻と近づいてきている。


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