第一話『エクストラモデル』(3/3)
皆が寝静まった頃のことだった。村の鐘が鳴った。そして、その鐘が爆散する音が周囲に響き渡った。
人が死んだ。メイは背筋が寒くなって、体を起こす。
野盗が強奪に来たのだ。
慌てて家を出て、魔導スーツのもとに向かう。
ビームが家に着弾して、倒壊させていった。
強奪ではない。今回は、報復だ。
駆けていく中で、メイはマイと出会った。二人して、魔導スーツへと駆ける。
その時のことだった。
眩いビームが二人の前を通過して行った。マイがメイを庇ったことで、その生命は取り留められた。しかし、メイの右腕は、肘から先が失われていた。
「あ、ああ……」
その右手には、様々な未来を掴む可能性があった。魔導スーツを操る技量もあった。全ては、断たれた。
「諦めないで!」
マイが言って、切断された腕の切れ端を拾って再び駆け始める。
「タイプハクアに私が乗れば、戦況は変わる」
涙で視界が歪むのを感じながら、メイはマイの後を追う。
そして、絶望が待っていた。
エクストラモデルには既に野盗の長が搭乗した後だった。
「ふふん、これがエクストラモデルか。起動したらお前らも逆らおうという気は失せるだろうなあ」
マイは、メイに腕の切れ端を手渡すと、淡々と歩き始めた。
「おい、近づくなよ。近づけば、その途端にお前らを消し炭にすることも出来るんだぜ」
マイは構わず、エクストラモデルの上をよじ登っていく。
「おい、やめろ。俺がこれを起動すれば」
「私の生体データ以外じゃ起動しないよ。残念だったね」
そう言って、マイは野盗の長に延髄蹴りを食らわせた。
野盗の長は落下し、肩を抑えてもがき苦しむ。
タイプハクアが起動する。
そして、その体が宙に浮いた。
顔の前で腕を交差させて、左右に伸ばす。そんな、ぐっと伸びをしたような動作を取ると、エクストラモデルの六つの突起から緑色の光が放たれた。
それは、三体の敵をあっという間に沈黙させた。
悪あがきにガトリングを放つ音がする。しかし、それすらも撃ち抜かれて爆散した。
一瞬の攻防で、勝負は決したのだった。
タイプハクアが下りてくる。そして、メイの手に掌を寄せた。
「タイプハクアに付与された特性は、治癒と感応。治癒の力が遺憾なく発揮されれば、多分……」
タイプハクアの掌から、白色の光が放たれ始めた。
意図を察し、メイは手の傷跡と切れ端を繋げようとする。
すると、傷口から腕のパーツが生え、切れ端と傷口を完全に繋いでしまった。
動く。完全に元通りだ。
「良かった。治癒の力はあんまり使ってないから、成功するって保証もなかったんだ」
心底安堵したようにマイは言う。
そして、町を見渡した。
ハクアは両手を掲げる。その中央に、白い光の玉が現れる。
光の玉は周辺の傷跡を、完全に消し去っていった。倒壊した建物も、破壊された屋根も、癒やされていく。肩を打ってもがき苦しんでいた野盗の長すらも。
これが、終末戦争をたった五体で終わらせたエクストラモデルの力。
メイは逃げ出そうとする野盗の長を組み敷くと、その姿を、ただ目に焼き付けていた。
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「これで野盗に狙われる心配はなくなった。私の仕事も終わりですね」
松明に照らされた集落の中央で、長にマイは話しかける。
「お願いを聞いてくださいませんでしょうか」
「お願い?」
「北には大きな集落がある。そこと、同盟を結びたいのです。しかし、適任者がいない。貴女にどうか、その役をやって頂けないか」
「……飯を当分奢ってくれるなら、良いよ」
「もちろん、報酬は用意させてもらいます。この集落で一番良いご馳走を」
「いやいや、普通の飯で十分よ。特別扱いされたら後が怖い」
そう言って、マイは去って行く。
メイは、その後を追った。
マイは長に与えられたホットドック片手に、時に食いつきながら歩いている。
メイは、その横に並び立った。
「マイさんのおかげで、腕、治りました」
「タイプハクアのおかげだよ。私の力じゃあない」
「けど、マイさんの意思があっての力です」
「まあ、そう言われるとくすぐったいけど、そういうことにしておこうか」
「ところで、マイさん」
「なんだい?」
「言いましたよね?」
「何を?」
「マイさんに処女を捧げるって」
マイは、食べていたホットドックを吹いた。そして、地面に落ちたそれを酷く勿体なそうにしばし眺めた。
そして、無言で再び歩き始めた。
「ついて行きますよ、私! これでも、護衛団じゃ一番の乗り手なんですから」
「集落を守りなよ」
げんなりした表情でマイが言う。
「もう、七体のノーマルモデルがあるんです。ちょっとやそっとじゃ揺るぎません」
「一人の気楽な流れ者の旅なんだけれどなあ……」
「これからは、二人です」
マイは片手で頭を抱えた。
メイはそんな動作も愛おしいと思うほどだった。
惚れているのだ、マイに。
そんな実感すら心地よく思いながら、メイはマイの後を追って歩いた。




