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第六話『刻印開放』(2/4)

 マイはリルカと初めて生身で向かい合っていた。小柄で可愛らしい少女だ。あんな化物染みた操作技術の持ち主だとは思えない。


「コックピットを両断された時はヒヤリとしたわよ」


「それでも貴女は生き延びてみせた。とんでもない生存への嗅覚よ」


「死ぬのは嫌だからね。人が死ぬのも、自分が死ぬのも、私は嫌だ」


「変なの。人は皆死ぬのに」


 リルカは、心底不思議そうにそう言う。


「貴女は、人に死んでほしくないって思ったことはないの?」


「私の両親は私が産まれてすぐに死んだわ。育て親も子供の頃に死んだ。難しいことを考えるのはつまらない。私はぱーっと戦って、ぱーっと死にたいんだわ」


 マイは、咄嗟にリルカの頬を叩いていた。


「最後の一瞬まで生き延びようと足掻きなさい。それが前回の戦いでの、貴女と私との間にある差よ」


「……だって、苦しむのが人生じゃない。長く続かないほうが良いわ」


 俯いて、拗ねたようにリルカは言う。


「けど、死んだら踊ることも出来ないわよ」


 呆れ混じりにマイは言う。


「それはつまらないなあ。一度しかないって不便よね。楽しい瞬間だけが続けば良いのに」


「その、楽しい瞬間を勝ち取るために私達は戦うのよ……」


「そっかあ」


 リルカは顔を上げて、表情を和らげた。


「そう考えると、少し幸せな気分になれるね」


 そのくるくると変わる表情にマイは苦笑するしかない。


「貴女って、まるで子供ね」


「悪いけど、まだ子供よ。凄腕のね」


 メイが駆け寄ってきた。


「パイロットの死亡によって、エクストラモデルは生体コードを変えられるそうです」


「まあ想定内ね。ハクア博士は、タイプマリの再稼働を念頭に置いて話していた」


「私が、乗ります」


 マイは、一瞬絶句した。


「貴女は、確かに腕があるわ……」


「最後まで、傍で戦わせてください。お姉さまの傍で」


「ずるいなあ。タイプマリが一番使ってて面白いと思うんだけどなあ」


 リルカは子供のように拗ねている。

 マイとメイは、それを無視して見つめ合っていた。

 二人共、真剣な表情だ。

 先に折れて苦笑したのは、マイだった。


「私ね、この戦いが終わったら、旅に出ようと思うの」


「故郷が欲しかったんじゃないんで?」


 メイが不思議そうな表情になる。


「発言力を持った英雄に居残られると、やり辛いんだってさ」


「勝手な……」


「あんたも、その旅についてくる?」


 メイが、一瞬間の抜けた表情をした。その顔が、みるみるうちに華やいでいく。


「何処までもついていきます、お姉様!」


「お姉様呼びはやめなって。マイさんで頼むよ」


「はい、マイさん! 私、旅のお供します! 荷持でも夜伽でも!」


「夜伽?」


 リルカが不思議そうな表情になる。


「子供の前で変な言葉を使わない」


 マイは、メイの頭を軽く叩いた。

 そして、なんだか笑えてきてしまって、そのまま笑った。

 メイもリルカも、不思議そうな表情をしている。


 刻印開放の儀式の日がやって来た。

 エクストラモデルのパイロットとその候補合わせて五人は、ハクア博士に誘導されて北東にある旧魔導スーツ開発所に移動していた。

 メイとリルカはタイプハクアの手の上、ハクア博士は自ら先頭を飛んでいる。


「それにしても何度見ても違和感あるよな。生身で魔法を使えるなんて」


「遥か昔の時代ではこれぐらい当然でした。炎や氷を操り念動力を可能にする魔術、回復や治癒に特化した神術、そして身体能力の向上に充てる体魔術。名の知れた旅人ならばいずれかの使い手だったものです」


「ハクア博士はどの力に通じているのですか?」


 そう訊ねたのはルキだ。


「全てに均等に秀でています。私は魔力内包量が人より多い。感情がすり減る前は神術しか使えませんでしたが、感情を捨て去った結果、全ての術に精通しました」


「感情がすり減るだなんて大仰な」


 からかうように言うのはダイカだ。


「数えてるだけでも三桁は生きてますからね、私……」


 ハクア博士が呟くように言った言葉に、一同驚いた。


「百歳ならまだしも、三百歳になった頃には感情はすり減ってましたよ。友人知人も皆死んで、彼らが作った国や守ろうとした国も滅びて、残るのはいつも虚無感だけです。長い目で見れば蟻の仕事のようなものですよ、人間の一生なんて」


「それでも、貴女は人の繁栄する道を選ぼうとしている……」


「そうですね」


「それは、何故ですか?」


 マイの問いに、ハクア博士はしばし考えた後、振り向いて珍しい苦笑顔を見せた。

 まるで、懐かしい温もりに触れたかのような、そんな表情だった。


「義務感、ですかね。かつての仲間達が、星の奏者をあのままにしておくなと背を押すのですよ」


 一同、地下施設の入り口に辿り着いた。

 ハクア博士がスイッチを押し、入り口が徐々に下降して行く。

 相変わらず、幻聴の激しい地だった。


「なにこれ、すごーい」


 リルカはタイプハクアの手から身を乗り出して、周囲の声を聞いている。


「触れておくことも大事ですよ。彼らは、集積された魔力の残滓。触れることは魔力量の増加に繋がります」


「っへー!」


 そのうち、入り口は一度停止し、ハクア博士の操作によって再び下降を始めた。そのうち、深い下層に辿り着いた。

 魔導スーツが通れるような大きな入り口が、五つある。


「我は古の英雄の力を求める者なり。エクストラモデルの適応者たる資質を持つ者なり。それに応じて開け、道よ!」


 ハクア博士の声が響き渡る。

 四つの扉が開いた。

 リルカとメイは地上に降り立ち、白い光が差し込む扉をしげしげと眺めている。


「タイプハクアを除いた四人は、進みなさい」


 四つの扉に、各々、別れて入って行く。扉が閉まり、再び闇が周囲を満たした。


「私の扉はないので?」


「もう、おわかりでしょう」


 マイは、頷いていた。博士の年齢を聞いてから、薄々感じていたことだった。


「やはり、貴女がタイプハクアの原型、ハクアなのですね。ハクア博士」


 ハクア博士は頷いた。


「ええ……魔力の内包量が多いだけの神術士だった。その私が、後の時代に英雄と呼ばれるようになり、その魂を分割してタイプハクアが出来上がった」


 ハクア博士は赤い眼鏡の縁を押し上げた。


「そして、刻印開放の前に貴女には教えておきましょう。貴女には力となるかもしれません。タイプ、ハクアの秘密を……」


「タイプハクアの、秘密……?」


「魔力貯蔵量はタイプマリが著しく高く見えます。しかし、そうではないのです。元となる人物同様に、魔力貯蔵量はタイプハクアが一番高いのですよ。それが、タイプハクアがエクストラモデル五番機となった理由。終盤まで開発が遅れた元凶です」


「エクストラの、5……」


 マイの言葉に、ハクアは頷いてみせた。


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