第六話『刻印開放』(1/4)
「デウスエクスマキナは全てのエクストラモデルを超える存在です」
ハクア博士による説明が、室内で行われている。
長、民衆の他に、マイ、メイ、ダイカ、ルキ、そして何故かリルカまでもがその列に並んでいる。
「エクストラモデルは、過去の英雄の魂を憑依させることによってその性能を得ました。その五機が起動状態に入ることで、タイプデウスエクスマキナは起動します」
挙手したのは、ダイカだ。
「何か?」
ハクアが、眉も動かさずに問う。虫けらでも見るかのように。
「タイプマリみたいな機動力を持っているんすか、そいつ」
「タイプマリを凌駕する、と言い換えましょう。繰り返し言いますが、デウスエクスマキナは全てのエクストラモデルを超える存在です」
「ひぇーっ……」
ダイカがおっかないとばかりに身をすくませる。
「起動さえさせなければ、誰の手にも渡らぬのかな?」
長が、声を上げる。
「ならば、エクストラモデルを封印し、そのまま時が経つのを待てば良いだけではないかな」
「人類がある程度発展を遂げることも、デウスエクスマキナ発現のキーの一つです。デウスエクスマキナは人類を管理している。増えすぎず、減りすぎず、繁殖しすぎず、絶滅させず、そのバランスを取る神なのです」
「管理だと……?」
「人類がある程度発展を遂げた時、デウスエクスマキナは起動し、人類の大半を滅ぼすでしょう」
「何故そんなものが世の中に存在している?」
長は、最早怒鳴り声になっていた。どうにもならない理不尽な現実に対する、怒り。
それは、マイも同じだった。
「人は同じ過ちを繰り返しすぎたのです……。魔導スーツの発明。それは戦争を飛躍的に進化させ、環境破壊への影響も大きくした。世界に人類未踏の土地などない。そう人は誇った。それに対するカウンター、地球の生命体達の意思の集合体、星の奏者が、デウスエクスマキナを作ったのです。いえ、作った……とは正しくないですね」
ハクアは、赤い縁の眼鏡の位置を正す。
「人類は見事に騙された。自ら破滅のキーを作ってしまった。デウスエクスマキナは星の奏者に唆された先人達が作った負の遺産です。エクストラモデルも、また然り。大戦を集結させるキーとして活躍しましたが、その後は人類が増えた頃にデウスエクスマキナを起こすキーと貸しました」
「タイプリッカの破壊力、タイプハクアの回復力、タイプマリの機動力、タイプジンの切断力、タイプセツナの予知眼……それを超える存在なんて、どう対処しろっていうんだよ」
ダイカが嘆くように言う。
ルキも、不本意そうだが同意している。
「策は二つあります」
ハクアが∨サインを示す。
「一つは、刻印開放。エクストラモデルの原型となった英雄達に力を譲り受け、エクストラモデルの力を向上させること」
ハクアが、立てていた指を一本折りたたむ。
「二つは、マイさんの生存本能です。それは、高い次元の戦闘になればなるほど活きるでしょう。前回の戦闘を見させて頂いたところ、可能性がある、と私は見た」
「刻印開放、ねえ……」
ダイカが頬杖をつく。
「これ以上強くなったら敵がいなくなっちゃうんじゃないかしら」
リルカが、明るい声で言う。
「俺はお前さんみたいに気楽にはなれんよ」
ダイカは、拗ねたような調子だ。
「もっと強い敵がいたら、面白いじゃない。私、戦うのって好きよ。踊るのと同じぐらい。呼吸を合わせるものだわ」
「死ぬのが怖くないかね」
「人はいつか死ぬわ。当然のことよ」
マイは、その言葉に抗いたかった。抗うかのように、言葉を発した。
「デウスエクスマキナに勝つ可能性があると言いましたね、ハクア博士」
「はい、言いました」
「その可能性は、どれほどのものでしょう?」
「……一パーセントあるか、と言うところでしょうね。現状では」
「馬鹿げている!」
長が、声を荒げた。
「その一パーセントに達するピースが揃うタイミングすら珍しいのですよ? 賭け金を全部賭けてもお釣りがきます」
「その結果、危険なエクストラモデルを目覚めさせてもか!」
「どの道、将来アレは目覚めます。先送りにするか、今処理するか、どちらかの問題でしかない」
「馬鹿らしい! 衛兵! ハクア博士が乱心した! エクストラモデルのパイロット共々拘束しろ!」
「それはさせない……」
そう、無感情にハクア博士が言った次の瞬間だった。
炎の弾が、無数に空中に浮かんでいた。これは、タイプリッカが使っていた炎の魔術だ。
全員、目を驚愕に見開かせて、その場で硬直した。
「賢明ですよ。怪しい動きを取れば、爆破します」
「ば、化物……」
そう言って、長は腰を抜かして座り込んでしまった。
「これから戦うのはそれより上位の化物です。怯んでもらっては困りますね」
無感情なハクア博士の声が、部屋に響き渡った。
マイが、手を挙げた。
ハクア博士が、淡々とそれを指差す。
マイは、頷いて喋り始めた。
「私は、滅びない故郷がほしい……いえ」
そこまで言って、首を横に振る。
「滅びない場所が欲しい。故郷じゃなくても良い。何処かで変わらずに、人が笑っていられる場所がほしい」
「経験則ですが、全ての場所は滅びます」
「それでも、私はそれを欲し続ける。その為なら、どんな強い敵とだって戦える!」
「おい、マイ……」
ダイカが、唖然とした様子で口を開いた。
「まさか……」
ルキも、まずいと思ったような様子だ。
「それでこそよ、マイ」
リルカは、目を輝かせている。
メイは、不安げに黙り込んでいたが、一つ頷いた。
「私はこの集落の滅びを回避させてみせる。その為に、デウスエクスマキナとやらとも戦おうじゃない」
ハクアが拍手をする。
「賢い選択です。ただ、滅びを待つよりは……」
拍手が重なる。ダイカ達が自棄気味に手を叩いていた。
そのうち、同調したように、全ての民衆が拍手をしていた。
崩れ落ちている長を除いて。
「では、これより、エクストラモデルのパイロットとその候補は刻印開放の準備に移ってもらいます」
「具体的にどんな方法なんだよ?」
「古の英雄と魂の結びつきを持つことで、機体を強化させる方法です。これを人に解説したのも、何回目かは忘れましたがね……」
ハクアは無感情に、そう言った。




