第五話『マイ対リルカ』(3/3)
「私の正体が知りたければ、タイプジンに善戦することね」
そう、ハクア博士は言った。
興味本位で命をかけるのは馬鹿らしい。
しかし、あの土地で聞いた幻聴には、人類の滅亡を匂わせるものもあった。
だから、決闘の地にマイはやって来ていた。
「嬉しいわ、マイ。あれからずっと、マイと遊びたかった。やっと遊べるんだと思うと、念願のデートの日を向かえたような気分」
「ははっ……」
(レズはメイだけで勘弁してよ……)
「マイは乗り気じゃないの?」
「私は楽しむために戦うタイプじゃないから」
「そう。じゃあ、今日は楽しいって気分にさせてあげる」
そう言って、タイプジンが剣を水平に構える。
タイプハクアも、剣を構える。
「卑怯だから先に言っておくね。私がこうやって剣を構えると、魔力が溜まるみたいなの。それを振るうと」
タイプジンが、剣を振るう。すると、岩が真っ二つになり、地面が深々と裂けた。
「こう、なんでも切れちゃうらしいの。決闘型エクストラモデルってだけはあるわよね」
「そう。私の能力は先刻承知かしら」
「完全な治癒」
「正解。貴女に勝ちはないわよ?」
「あるわよ」
リルカは、無邪気な口調で言った。
「コックピットを潰しちゃえば良いの」
子供のようなあどけない口調で、なんてことを言うのだろう。マイは、背筋が寒くなるのを感じた。
「それじゃあ、始めましょっか」
「ええ……!」
先に飛びかかったのは、マイだった。タイプジンは、軽々とマイの攻撃を受け流す。
機械仕掛けの体で、なんて見事な器用さ。決闘型を名乗るのは伊達ではないということか。マイは舌を巻く。
着地した直後に、頭を貫かれた。
メインカメラが故障し、マイはコックピットハッチを開いてそれに対応する。
「いきなりハンデが出来ちゃったかなあ!」
「言ってろ!」
剣と剣が幾重にも重なり合う。
タイプマリの剣が剛の剣ならば、タイプジンの剣は柔の剣だ。
マイの攻撃の全てを、優しく受け止め、いなす。
その度に、タイプハクアには傷がついた。
(この器用さ、接近戦は不利……!)
マイは空を飛んだ。そして、タイプハクアの六本の突起から緑色の魔道レーザーを放つ。
既にそれを読んで、タイプジンは剣を振っていた。
剣に蓄積されていた魔力が空中に振りまかれ、魔道レーザーを構成する魔力と干渉して爆発を起こす。
そのまま、タイプジンは剣を水平に構えたまま旋回を始めた。
(近接にしか道はないか……!)
マイは自らの機体を修復しつつ、大きく息を吐いた。いつの間にか、呼吸を忘れていた。メインカメラが復旧し、コックピットハッチを閉じる。
タイプジンは、剣を水平に構えている。
あの、必殺剣の構えだ。
あこに、飛び込まなければならないのだろうか。マイは、冷や汗が流れるのを感じていた。それでも、操作バーからは手をけして離さなかった。
死ぬのは嫌だ。死ぬのは怖い。戦いたくない。逃げ出したい。そんな思いが、マイの背筋をなぞる。
『人類は滅亡するしかないのか……?』
あの声が、マイの背を押した。
光の軌跡を描いてタイプハクアは前進する。それを待つのは、全てを断つ剣。
剣が軌道を描いてタイプハクアを断つ。
コックピット部位がある胸の上半分を左の腰から断たれた形だった。
「私の、勝ちぃ!」
リルカが、叫ぶ。
その次の瞬間、彼女は言葉を失っていた。
断たれたコックピット。その穴の空いた天井から、マイは顔を出していた。
コックピットを破壊されながらも肉体への一撃を回避したのだ。
「まだ動く? タイプハクア!」
コックピットは、まだ稼働中だ。
タイプハクアの剣が一つの線を描いた。それは、タイプジンの右腕を剣ごと胴体から切り離していた。
タイプハクアがタイプジンのコックピットに剣の切っ先を突きつける。
「あーあ、負けかあ……けど、面白かったなあ」
リルカが、懲りた様子もなく言う。機体は徐々に回復中だ。コックピットが修復され、メインカメラも回復する。
その時のことだった。
タイプハクアの剣が、弾かれた。鳥のように小さな何かが、剣にぶつかってきたのだ。それも、尋常な腕力ではない。
「退きなさい、タイプジンのパイロット」
人が空中に浮いていた。古びたマントで身を包んだ、顔の見えない誰かだ。
タイプジンは、腕を拾って撤収していく。
それを追おうとして前進したタイプハクアを、誰かの手が押しとどめた。誰かは徐々に押されていくが、タイプハクアも推進力を全開にしているにも関わらず中々先へと進めない。
「エクストラタイプの機動力を人間の腕で支えている……?」
マイは、戸惑うしかない。そんなことはありえない。人が魔導スーツに勝てるわけがない。
だと言うのに、目の前でその逆転現象が起こっている。
「貴女は全力を見せた。生存への嗅覚を見せた。貴女になら教えましょう。全てを。貴女になら、戦う術を与えましょう」
「戦う術、とは、誰と戦う術ですか……タイプジンを倒した今、我々に敵はいないんですよ」
タイプハクアが、前進をやめ、誰かと向き合う。
「ねえ、ハクア博士」
古びたマントで隠れた顔の下には、足元まで垂れ下がる長髪。
ハクア博士が、そこには浮かんでいた。
「エクストラモデルに存在しないはずの六番目のタイプ」
そう言って、ハクア博士は空を指差した。
「その名も、タイプ、デウスエクスマキナ」
「デウス、エクス、マキナ……?」
マイも、頭上を見上げる。そこには、空しかなかった。
次回『刻印開放』




