小春「あいきゃんふらいー」有海「いっそ、揚げられてしまえばいいのだ!」
七鞠は神妙な顔持ちでなななな様に迫った。
「なななな様。ちょっと聞いてくれねえか。」
「な、な、な、何ですか!」
「今日小春が3階から飛び降り自殺した。幸い未遂だ。命に別条はなかったかがな。」
「な、な、な、なんですとーっ!?あの小春さんが、どうしてそんなことに‥‥!?」
驚きを隠せるわけもない。あの脳みそお花畑の女が、何故‥‥?
「そうだな。順を追って話そう。有海と小春は今週、ビルの屋上で花火を見ていたんだが‥‥。」
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「花火綺麗だったねー。」
「そうだな。」
ビルの屋上で観衆にまぎれ余韻に浸る2人。観客の中でもバイク人間とウェディングドレスは目立つが、花火に心動かされるのは人類みな同じ。些細な違いだそんなもん。
「それはそうと、すごいこと思いついちゃった!」
「ほう。何だろうか?」
「右足を上げるでしょ?それから、右足が着地するより早く左足を上げるの。それを繰り返したら、空を歩けることを発見しちゃったんだー!」
「なるほど、花火は全く関係ないが、素晴らしい発見だ!」
「でしょでしょー?それじゃあ、やってみるね!」
普通、屋上には落ちないように柵が作ってある。しかし小春はそれを乗りこえ、身を乗り出した。
「うわーーーーーーーーーーーーん!!」
落下する花嫁。
「小春ぅーーーーーーーーーーーーー!!」
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「なななな様、矛盾しているぞ。何故両足を高く上げても空を飛べねえんだ?」
七鞠は、デッサン人形を手に取った。人形の両足を地面に付け、右足を上げる。そして右足を固定して、左足を上げる。また左足を固定して‥‥を繰り返し、人形を上へと持ちあげていった。
「実際に人形でやってみれば、空を歩いているように見えるだろ?」
「そんなの知りませんです!飛べないから飛べないんです!」
「なななな様。でも理論上は可能に見えへんか?でもできないのはおかしいやろ。そう作った神様が悪いんとちゃうか?」
すがすがしいまでの屁理屈に、神様はやりこめられてしまった。
「‥‥‥‥確かに、おかしいかもしれないです。私のせいで、小春さんが‥‥。」
「せや。だから空中歩行ができるようにしてほしいんや。できひんほうがおかしいと思うんや。」
「わかりました!そういうふうに、ぶつりほーそくを改変します!!」
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小春が搬送された病院で、有海はまたトラブルを起こしていた。
「すいません、バイクは駐車場に駐車してから‥‥。」
「恋人のお見舞いに来ただけだ!小春は無事なのか!?」
「だから、バイクは駐車場に‥‥。」
看護師3人に腕を掴まれ引き止められる有海。当然だが、病院内にバイクは厳禁だ。
この光景を見ていた名医『香堂テル』は衝撃を受けた。
「あのバイクと人間を融合させた人間‥‥。相当な技量の持ち主だ。何者だ?私を超える神業を持った人間が存在したのか‥‥?」
そして、その衝撃は興味へと変わる。
「看護師君。下がっていてくれたまえ。」
「は、はい、香堂院長!」
3人がいなくなり、バイク人間と名医のみとなった。
しばらく沈黙の時間が訪れたが、先にきりだしたのは医者の方だった。
「安心してください。小春くんは無事ですよ。手術に成功しました。」
「ありがとうございます!」
お前敬語が使えたのか、という顔でアルミホイルぐるぐるの頭を見つめる香堂。
「‥‥こほん。現代医療の最高峰技術者を集めた、『チーム・コウドウ』。12人の力を合わせれば、どんな患者だって完全治療するように手術できるので。ただ、1人を除いての話ですが。」
「1人を除いて?それは小春か?」
「いえ違います。君です。」
「僕がか?」
有海は驚きを隠せない。自分が既に、人間でなくなっていることを再確認した。
「君はなぜバイク人間なのですか?現代医療では説明できない高度な技術を有している人間でないと、バイクと人間を結合することはできません。誰が改造したのか非常に興味があるわけです。」
「初行七鞠という名前のマッドサイエンティストだ。おそらく名前ぐらいは聞いたことがあるのでは?」
有海は意外とすんなり答えたが、相手は受け入れるのに時間を要しているようだった。
「何ですって‥‥?初行‥‥?確かに、『彼女』ならあり得るかもしれない。だが、なぜあいつが今‥‥?」
青ざめた顔でぶつぶつ喋る院長。
「彼女?何を言っている。七鞠は男だ。さて、小春に面会は可能か?」
「可能です。さっき病院内を走り回っていました。手術後だというのに元気なもので‥‥あ、いました。」
「あ、王子様だー!!」
有海を見付けたのか、小春が駆け寄って来た。患者服なのが新鮮である。今まで見てきたのがほとんどウェディングドレスだったからである。
「小春!よかった、無事だったのか!」
「そうだよー!帰ろう!」
「分かった、それではドクター香堂!非常に感謝する!」
小春はバイク人間の有海にのっかり、エンジンフルスロットルで研究所に帰って行った。
「麻里七‥‥。生きていたのか?これはまずい‥‥。『死神』に‥‥依頼しないと‥‥‥‥。」
研究室に2人が帰って来た。
「よかったです。小春さんが無事で。はい。退院祝いのバナナです。」
なななな様も満面の笑みで小春を迎える。
「まあ、殺人鬼が助かるって複雑な気分ッスけどね。」
凛は何か1つ、抱えるものがあがるようだ。
「ほら、新しいウェディングドレスも用意しといたで!」
帝は打ち出の小づちから、ウェディングドレスを取り出していたようだ。
七鞠も願いがかなったことを小春に伝える。
「さーて、よく聞け小春。お前のアイデアはむだじゃなかったぜ。空を飛べるようになったんだよ。人間が、自分の足でな!」
「えー?そうなんだー。」
「お前の言っていた通り、右足を上げて、着地する前に左足を上げる。それを繰り返せ!」
「わかったー。」
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来週の水曜日‥‥。
「夜王ニュースです。金田四四です。」
「凌辱の女騎士でアナウンサー、園沢要だ。」
「速報が入っていますねえ、園沢アナウンサー。」
「うむ。ホワイトハウスにウェディングドレスを着た女が乱入している。現在SWATが周囲を取り囲んでいるが、ホワイトハウス周辺の警備の人間は誰も彼女を見ていない。つまり、奴は空から現れた可能性が高い!」
「それは怖いですねえ。」
「現場から中継だ!」
「FREEZE!!」
「こちら中継です!ホワイトハウスにウェディングドレスを着た女性が侵入しております!お面をかぶっているため、顔は認識できません。」
「SWATは一斉砲撃を開始しました‥‥。飛んだあ!?」
「怪人は飛んでいます!右足を上げてそれが着地する前に左足を上げる!それを繰り返すことで空中歩行を行っております!」
もちろん、日曜日の研究所はその怪人の話題で持ちきりだった。
「今日は小春がいねえじゃねえか‥‥。どう考えても確定だろ。空飛べるしな。」
「小春の脚力はすごかった。違法改造出力増強バイク『チャリオット@脳内麻薬盗まれない』に走って追いつくことができていた。おそらくあの怪人は小春で間違いないだろう。」
有海はあの悪夢を、あの声を思い出す。ただ、今はいい思い出かもしれない。
『王子様ー待ってー!!』
「でも、それっておかしいやんけ!」
「どうした、帝。」
「ワイは100m0.02秒やねん。今までマイナス2秒ってのは嘘やったんや。ごめんな。」
「音速を超えているが‥‥。」
「と、とにかく、ワイはあの後試したんや!右足を出して、左足を早く‥‥。でもだめやったんやで!結局なななな様の願いかなってへんやん!」
帝はなななな様を見降ろす。しかしなななな様は反論する。
「ちがうですー!!ちゃんとできますですー!願いは絶対に叶うのです、どんな形であれ!」
「こういうことではないだろうか?」
「どういうことなんだよ?」
「先ほども言った通り、小春はバイクにはだしで追い付く。その脚力が、空中歩行を可能にしたのだ。『原理的に』可能になったとしても、常人の脚力では空を飛べないことには変わりはなかったのだろう。だが、小春にはそれができた。あと、帝の100m走のタイムは嘘を言っている。」
信じがたい結論だが、そこにいる皆はそれを受け入れることしかできなかった。
「なるほど。人類は100m10秒で走ることは可能ッスが、陸上選手じゃないとまず無理ッスね。そういうことッスか?」
「その通りだ。凛。」
「何でワイにはできんのや!100m 0.05秒やってのに!」
「嘘をつくな!じゃあここで走って見せろ!」
有海は帝を挑発する。
「有海。あんたがそんなミスをするとは思ってなかったで。今週の月曜日、「りか」の時間で学んだでえ。音速を超えるとなあ、押し込められた空気で衝撃波が発生するんや。ワイが走ってみたら、ここにいる人間皆真っ二つや!」
「小癪な手‥‥。」
そうこうしているうちに、小春が帰って来た。
「ただいまー!」
「どうしてホワイトハウスに行ったんや‥‥?」
「虹色に、白はないのー!有海くん風に言うとねー『許されるはずが無いんだ。』ってね。」
「‥‥‥‥。深く追求するだけ無駄ッスね。」
続く。
おまけ
「そう言えば、うしろむきに走るとどうなるんだろー」
「よーし、思いたったが吉日だー!」
「しずんだー」
「糞!アホの小春はどこに埋まりやがった!?」
「アホは教授ッス!針金2本で探すってトレジャーハンターじゃないんスから!」
「ばかやろー!俺の発明をなめるな!俺は世界一の天才発明家、初行七鞠だ!これは俺の発明、ダウジングルーラーだ!!ダウジング風車の弟なんだよ!!」
おそらく見つかるまで相当な時間がかかるだろう。なぜなら七鞠が持っている針金は良く見ると直角定規だからだ。(直角になってるやつ)仮に見つかったとしても、直角定規の淵はするどい。もしダウジングマシンが反応して外側に開いたとしても、七鞠の手は容易に抉られる。大量出血は免れない。
「みみずさん、わたしのなかにいらっしゃいませー」
「もぐらさん、わたしは大根じゃないよー」
「あはははははは!」
小春は、地中でもなお、笑っていた。




