有海「いきなりだが血を吐き続けるバイクレースだ。」凛「吐血プレイはちょっと‥‥。」
「なななな様!たまには下界を散歩してみるのもいいッスよ!凛がオトモするッス!」
「そうですね!バナナが足りなくなってきたです!」
「そうだ。有海パイセン。せっかく下半身がバイクなんだから乗せるッス。」
「1人乗りだが。」
有海は、バイク人間だ。上半身が人間、下半身がバイク。それゆえ、バランスをとるために1人以上のってはいけない。
「じゃーなななな様はやっぱりお留守番ッスね。」
「自分から言っておいて、ひどいです!」
「その前に、お願いをしたい。」
「な、な、な、なんですとー!?行ってきますのちゅー的なノリでお願いをするんですかーっ!?」
「わ、悪いか?」
「小春さんに申し訳ないと思わないんですか!?」
「思わない!」
「な、な、な、なんて恥知らずなー!わたし、見損ないました!」
「でもお願いは叶えてくれ。簡単な願いだ。」
「まさかまた世界を滅ぼしてほしい、とかじゃないッスよね。」
「もちろん、そんなことはしない。人間は許されたのだから。」
「僕は、強敵に巡り合いたい。」
「な、な、な、なんですとーっ!?闘いの末の友情、そして愛をはぐくむ気ですね!?どこまで小春さんを蔑にすれば気が済むんですかーっ!?まあ、いいですけど。」
「勝った!僕にとっての強敵=ユーフォリア!つまり、ついにこの願いがかなえば、ユーフォリアの構成員と巡り合うことができるのだ!ははははは!単純な女だ。こんなにも簡単なことはない!」
と言うわけで、相変わらず有海はぶっ放していた。有海が合体しているバイク「チャリオット@脳内麻薬盗まれない」は違法改造しているだけあって、ものすごいスピードが出る。
「ひゃっはー!流石パイセン!速度なら他の追随を許さないッス!」
「交通事故の危険性を考えると、バイク人間は好ましくはない!だが、仕方の無いことなのだ。僕は女の子の命を預かっている。だからこの『大宰有海@脳内麻薬盗まれない』となった僕は、凛を無事に送り届ける義務がある。」
「あー、風が気持ちいー!」
凛は片手で流れゆく風で受け止めた。理由は簡単だ。車の外に手を出すと乳房の感触を得ることができる。それを凛は知っていたのだ。
「そういえば、この峠の方が近道ッスよ。」
「分かった。ショートカットだ!」
しかし、峠道に入った瞬間何者かが待ち構えていた。
「おいてめえ‥‥‥‥。止まれ!」
学ランを着こんだ死ぬほど目つきの悪い長髪女がバイクとともに待ち構えていた。
「なんだこのヤンキー女!?」
「あたいの名前は未直針スズ!この一帯の平和を守る心優しきスケバン!」
スズがただものでない証拠を一つあげよう。彼女はいかにもバイク人間な人間に視線誘導されるほど愚かではなかったことである。バイク人間に乗っている女子高生のすごさも見抜いていたのだ。
「‥‥!乗っけているその女‥‥制服からして偏差値129、蟹張高校の生徒だね!?」
「そういうあんたは、偏差値5の音黒府高校の生徒ッスか!」
偏差値5の学校では生き抜くことすら難しい。彼女は観察眼だけではなく、異常な生命力をもっていたことも凛は見抜いていた。
「ふふふ‥‥高学歴への妬みが、あたいを加速させるンだよ!いまのあたいは、『BE 最速』!だれにも負ける気がしねー!」
そしてその観察眼と生命力ゆえに、嫉妬の炎が消えることはないのである。
まごうことなく、スズは強敵だ。
有海もその『アウラ』を感じとっていた。
「‥‥‥‥そうか。貴様ユーフォリアか。最速とは脳内麻薬の電流伝達速度のこと。これはユーフォリアに他ならない。強敵‥‥。貴様は、強敵だ‥‥。」
「ゆー‥‥?何だそれは。まあいい。走り屋と走り屋が出会っちまったらどうしようもねえなあ。バトルだ!」
「言っておくが、あたいの元彼は100m走 -2秒だ。参ったか!ばーか!」
「そんなこと言ったら私の友達にも、100m走 -2秒の男がいるッス!ばーか!」
「悪いが凛、闘うのは、僕とスズだ。あいつのライバルと帝ではない。」
そうして、闘いは始まる。
「よーし、構えたなあ?」
「カウントは僕がやる!3,2,GO!」
有海はスタートダッシュに成功した!
「卑怯だ‥‥。お前‥‥すごく卑怯だよ‥‥。あたい、お前のこと見くびってたよ。」
スズは有海の卑怯な戦略の前に、後れを取ったが、とにかくレースはスタート。
「言っとくが、この峠はなんと『心臓破りの丘』が4つもある!苦しみながら死にやがれ!」
「それって、マラソンの話じゃないッスか‥‥?」
「どうかなあ?やってみればわかるぞ?」
コーナーを攻めたりすることもあったが、そんなことはどうでもいい。
有海が第一の心臓破りの丘を通過したその時、事件が起こったのだから!
「右心室(心臓の右上にある部屋のこと)が破れた!ぶべべべべべ!」
有海が悲鳴を上げる。
「そう!心臓破りの丘は本当に心臓が破裂する!これは峠の合間を吹く風が低周波を生みだし、それが走り屋の熱い心臓の『鼓動』!それと共鳴して破裂するという寸法らしいがよお、あたいはどうでもいいんだよ。血を吐きながら走り続けようぜ!それが、あたいの生きる道だからな!おぼろおぼろおぼろづきよよよよよよよよ!」
スズも第一の心臓破りの丘を通過し、右心室が破裂する!しかしレースは続いている。あと3つ、心臓破りの丘を通過しなければならないのだ。
「左心室(心臓の左上にある部屋のこと)が破れた!にのののののののの!」
「左心房(心臓の左下にある部屋のこと。筋肉が一番厚い)が破れた!あばらあばらあばらぼねねねねねねねね!!」
「面白い嘔吐コンテストしてるんじゃないッスよ!?しっかりするッス、パイセン!!」
両者、血を吐きながらマラソンを続けている。2人を付き動かすものは、心臓の送り出す血液(に運ばれる栄養素)ではありえない。心臓はもう血液を送り出せていない。
そもそも、人間はそんなに科学的に出来ていないのかもしれない。
人間が血液の循環で突き動かされるわけではなかったのかも‥‥?
そう、原動力は『勝利』への『意思』ッ!!
「見届けたいッス!この戦いを、最後まで!」
凛は、瞬きをしないことを決意した!
「あきらめろ!お前がリードしているということは、『お前が先に』最後の右心房まで破れるということだ!そうすればごぼっ!!左心室、右心室、右心房、左心房全てが破裂し、心臓が壊死した結果、生命活動が停止するってことなんだよぼぼぼぼ!ぎゃははははは!!スズ様に勝てる奴はおげっ、いねえ!あたいに歯向かうやつは皆死ぬんだ!にょろろろろろろろろぼげっ!!」
血を吐きながらスズは勝鬨を上げる。スズもまた、『BE 最速』を目指した女。彼女の未来は幸福なのだろうか。それとも‥‥‥‥?
「このままじゃ、有海パイセンが先に死んでしまうッス!何か、突破口は‥‥。」
この瞬間、スズのあのセリフが凛の脳内に反芻したのだ。
『ふふふ‥‥高学歴への妬みが、あたいを加速させるンだよ!いまのあたいは、『BE 最速』!だれにも負ける気がしねー!』
「そうだ、ならあいつを加速させればいいッス!高学歴ぽいっことを言うッス!」
「聞け!0は自然数ッス!」
「こ、高学歴だ!畜生!馬鹿にするなよ!」
少しだけ、スズが加速!これにより距離が縮まる。
「よし、このまま!E=mc^2!」
「アルファベットを使ってやがる!インテリゲンチャめ!許すまじ!うおおおおお!」
「あんたも『BE』を使ってたじゃないッスか!」
「うるさい!高学歴!ばーかばーか!」
スズと有海が並んだ!
「とどめッス!自然数を全部足すとどうなるッスか!?」
「とても大きい数に決まってんだろぉ!」
「ちがうッス!!答えは、マイナス1/12ッス!!!!!」
「!?!?!?!?!?訳が分からねえよ!?私が馬鹿だからか!?何故マイナスになる!?うわああああああああああああ!!」
スズは加速し、有海の前に踊り出る。そして‥‥。
「くそ、しまった、前にでて‥‥ぐほおおおおおおおおおおおおおおお!!」
スズの右心房が破裂。
心臓が破裂した人間は、血液を循環させることができない。血液を循環させることができなければ、酸素や栄養素を体中に届けることができず、死に至るのだ。勝利の意思とか言ってたのはバカみたいである。人間は科学的にできているのだ。大量出血は死へと直結する。何を疑うことがあろうか。
スズは完全に動かなくなり、自動運転に切り替わったバイクのみが走っていた。
「ゼータ関数の解析接続は、s=-1ではできないッス。わたしがハッタリを使わざるを得なかった‥‥。まぎれもなく、あんたは強敵だったッス。」
しかし、まだ有海は動き続けている。
「あ、そうだ。有海パイセン!勝ったッスよ!止まるッス!」
「ぐぼぼぼぼぼ‥‥駄目だ‥‥とまれない‥‥。」
有海は既に右心房を除く3つの心臓部を破裂させている。脳に酸素を送ることもままならず、意識が混濁。自らの意思で止まることができない。
「く、こうなったら、こっちに七鞠教授を呼ぶしか‥‥。ぴぽぱ‥‥ぷるるるる‥‥。」
『どうした?凛。』
『このままじゃみんな死ぬッス!研究所近くの峠まで来てくださいッス!』
「うべべべべべべべ!とうとう右心房までやられた!無念‥‥‥!」
そして有海も4つ目の心臓破りの坂に到達してしまったのだ。
闘いが終わった。そして夕焼けは惨劇を忘れたかのように輝く。しかし、闘いは常に死と隣り合わせにあることを忘れてはいけないのだ。『闘士だったもの』は2つとも今、みじめに転がっている。今こそ称えようではないか。『BE 最速』をめざした、2人の人間、その熱き魂を‥‥。
「な、な、な、なんですかこれー!皆血を吐いて‥‥。何があったんです?」
「話すと長くなるッス。とにかく緊急処置を!」
「スズ‥‥そして有海!!」
帝も驚きを隠せない。
「大丈夫だ凛。有海とこの女の子は助かる。」
「有海パイセンとスズさん‥‥。心臓が破裂したのに、助かるってどういう原理なんスか?」
「帝、説明してみろ。」
帝は全く心当たりがなかったが、適当に言うことにした。
「わかったで!慣性の法則や!」
「慣性の法則‥‥。外側から力を加えない限り、止まっているものは止まって、動いているものは動き続ける‥‥て奴ッスよね?」
「そうや。ワイは電車を素手で止めたことがあるんや。その時、急に止まったら乗客が前に投げ出されるやろ?乗客からしたら、ものすごい力で前に押されるように感じるんや。」
「帝お‥‥‥‥。」
七鞠教授は小刻みに揺れている。
(適当なことを言ったから怒らせてしもうた‥‥。)
無茶苦茶なことを言ったことを後悔しようとした、その時の話だ。
「おまえすげえな!帝の言う通りだぜ!!」
七鞠は帝をほめたたえたのだ。
「有海もスズも、バイクに乗っていた。そのせいで心臓が破裂してもバイクの速度増減により、慣性の法則が働く。つまり血液はそのまま動き続けようとするが、身体がついていかねえ。この差が微量ながらも血液を循環させていたのさ。バイクの速度が落ちる時、またはあがる時、バイクから有海とスズに力が加わる。それが奴らの命を救った‥‥て寸法だ。」
「ん‥‥?まあ、助かるなら良いッス!」
疑問に思わない方が良いと思うなら、凛は疑問に思わない。
彼女は賢いのだ。
「とにかく心臓移植手術を行う。小春。助手を頼む。」
「はーい!」
「心臓さん、ぶちぶちだねー。」
「機械の心臓を移植する。これで2人とも助かるはずだ。帝。打ち出の小づちから適当な機械心臓を取り出してくれ。」
「ああ!これや!!」
帝は打ち出の小づち(カラーコーン)から機械の心臓を取り出した。
「なななな様にお願いしないのー?」
「俺達でできることをわざわざお願いする必要はないだろ?しかも機械人間の方がかっこいいじゃねえか。ここまでワープするのにもお願いを使ったわけだしな。」
「うーんそれにしても、この女の子の乗ってたバイクさん、とてもきれいに手入れされてるねー。あ、バイクさんの声が聞こえる。」
「‥‥そうかー。持ち主とは運命を共にしているんだ。だから、ラブラブなんだね。私と有海くんみたいなものかなー?」
「なるほどなあ。なら、有海と同じように結合させねえといけねえなあ?」
七鞠は、スズの下半身と上半身を分離し、上半身をバイクに結合させる。これでスズはバイク人間となったわけである。大宰有海はもう孤独ではない。同じ境遇の人間が、生まれたのだから。
世界はひとつ。
でも物語は続くのだ。
そして、聡明なる読者の方々も気がついたかもしれない。
これは、準オムニバスである!!
こう見えて日常系なのだ、これは!!




