凛「料理回ッス!」小春「ネクスト 小春's ヒーント!」凛「味噌汁」
真夜中。
「ひゃー、きょうもひと仕事したー。」
「‥‥‥。」
小春のもとに生首が転がる。
小春の純白だったウェディングドレスは返り血を吸い、街灯に照らされ、鈍く輝く。
今日も彼女は虹の橋へと1人、解放を行ったのだ。
スイッチの入ってしまった彼女を止められる人間はいない。警察に逮捕されても、壁を破壊して逃走するだろうし、彼女を縛ること自体が不可能なのだ。ただ、凛の笛だけは本当に苦手らしいが‥‥。
「ふふ‥‥見事な腕前ですわ。」「侮れぬ。鎌裁きで御主に勝てる者はいないだろう。」
そこに、ケンタウロスに乗った姫君が1人。
「だれー?」
「あなた‥‥また会いましたわね。少し時間よろしいかしら。」
「まあいいやー」
「わー、ひろいおうち!」
「ワタクシは大富豪の一族なのですわ。これは別荘ですわよ。あなたはどこに御住み?」
「私はねー、『にじいろらんど』に住んでるんだー。」
「なんですって!?あの超巨大テーマパークに!?」
「そうだよー。」
「姫。こやつ、やはりただものではない。」
「そうですわね‥‥。」
「貴方に来てもらったのは、こういうわけなのです。」
「なるほど。料理ができないんだねー。」
小春は黒こげの物体を眺めながらためいきをついた。
「姫は必死なのだ。無礼を働くようなら、いくらそなたでも戦になろうぞ。」
BASASHI宮本は刀を小春につきつける。
「うひゃー」
「才色兼備のわたくしでも、料理だけはできないのです。明日は家庭科の時間。それがばれるわけにはいかない。それにしてもあなた、前あった時は男勝りな口調でしたのに‥‥。どういたしまして?」
ケンタウロスの『剣豪BASASHI宮本』。そして大富豪一族の令嬢、『江頭ギン』。2人は殺し屋とターゲットだったが、いろいろあって今では守り、守られる関係である。今ではBASASHIはギンを守るために活躍している。
「ふーん。じゃあいっしょに卵焼きでも作ろうー。私結構上手なんだー。」
「まあ!花嫁の下で花嫁修業とは斬新ですわ!」
「さーて、卵を割りますわ!」
割れた卵から、ヒヨコが出てきた。そして、どこかへ歩いて行ってしまった。
「うまれちゃったね。」
「そうですわね。」
「‥‥ちょっと電話借りていいかなー。」
「よろしくてよ。22階の階段Sから、西に200m行ったところにありますわ。」
「いってきまーす。」
小春は研究所に電話をかけた。応答したのはなななな様だった。
『というわけなんだー。どうしたらいいのかなー。』
『んー、とにかく願いを叶えるです!好きな料理を作れるようにしますから、もう深夜3時にはかけて来ないでくださいー!』
『こんな時間にごめんねー。おいしい料理ができたらあげるからねー。』
「あら、御戻り?」
「料理が上手くなるおまじないするよー。目をつぶってー。」
「わかりましたわ!」
ギンは目をつぶる。その間に、ギンのぱっつんおでこに『ぶんぷくちゃがま』と文字を書いた。もちろん、意味はない。
「もうだいじょうぶだよ!目を開けて!お料理上手になったよ!」
「なるほど‥‥どんなカラクリは分かりませんが、試してみる価値はあるのかしら。」
「やろやろー!」
「そこらへんにいる庶民を捕まえてきましたわ。毒味は彼に頼みます。」
ギンは指パッチンを行うと、部屋の奥のカーテンが開き、現われたのは―
「離すんや!ほどけ!ワイは、ワイはまだ死にとうない!!」
「みかどんだー。」
「助けてくれ、小春!ワイは3日前から変な料理ばかり‥‥!」
「黙らっしゃい!ワタクシの創作料理、『納豆天の川』のどこが気に入らなかったというのです!」
「全部や!!」
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「とにかく、全部基本からだよ。カレーつくろう。まずはタマネギを切ろうね。」
「わかりましたわ。‥‥宮本さん。」
「承知!」
ギンがタマネギを投げると、BASASHI宮本はその日本刀を使いバラバラにした。
「おー、いーごす!」
「自分でやれや!!」
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「とにかく、カレーをにこむんだよー。ゆっくり、やさしくねー。ほら、声が聞こえてくるよね。」
「おいしくなるように笛を吹きますわ!隠し味は、愛情。」
ギンは執事に笛を持って来させた。しかし‥‥。
「あれー、カレーが蛇になっちゃったー。」
蛇使いの笛の音を聞いたカレーの液体は細長く伸び、地面を這う。まるで、生命を持っているかのように。
「これはこれでいいわ!味わいなさい!平民!」
カレーは、帝に巻きついた。
「痛い痛い痛い!!やめーや!!カレー蛇が締めつけるんや!!!」
「うーん、失敗だねー。」
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「ここで、変化球だよ!」
「ワタクシ、変化球は大好きですわ!変化球とは?」
「わたがしつくろー。」
「ワタクシが、わたがしを?」
「そうだよー。この屋敷の倉庫で、こんなのみつけたんだー。」
小春は外に出てから、何かを運び込んできた。
「よいしょー。」
ずしーん、と音を立ててわたがし機が地面に置かれた。
「なるほど。それは面白いですわね。では、いざ参りましょう!」
「うーん、ちょっときびしいねー。」
「これもこれでよくなくて?」
なぜかギンが作ると全部羊になる。部屋は350匹もの砂糖でできた羊であふれかえる。BASASHI宮本は日本刀で毛を刈り取り、どこから湧いたのかわからない執事たちはその砂糖ウールでマフラーを編んでいる。
「平民!これを受け取りなさい!」
「おう、サンキューや。‥‥‥‥気持ち悪!」
帝はマフラーを受け取ったが、すぐべたべたになる。
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「これで、明日の家庭科の時間はばっちりですわ!」
「何を見て断言するんや!!ワイはべたつき締められ損やんけ!!あんたは、『BE メシマズ』や!!」
「うるさい平民!」
指パッチンをギンがすると、帝はボッシュート‥‥。
「ででーん、みかどん、あうとー!」
「花嫁さん。今日はありがとうございましたわ。」
「いえいえー。それじゃーねー。そうだ!」
「どうかいたしまして?」
「最後に、大事なことを言うねー。ごはんって、いのちのやりとりなんだよー。BASASHI宮本さんも、馬刺の怨念からうまれてるからねー。」
「その通り。拙者も、馬刺しにされた同胞の怨み‥‥いまだある。」
「なるほど。『いのちのやりとり』‥‥ゆめゆめ、忘れませんわ。」
そう。どんな食べ物も、最初は生きていた。動物も、植物も‥‥。それを忘れるなと、小春は肝に銘じさせたのだ。
そうして、小春は屋敷から出て行った。
そして執事は退散し、残るは宮本とギンだけになった。
「どう?宮本。」
「あやつはやはり、強敵‥‥。拙者がタマネギを日本刀で空中分解したときも、『いーごす』と言った。『いーごす』は『すごーい』の逆‥‥。すなわち、『全く大したことない』ということに違いないでござる。」
「今度闘ったら勝てそうなの?」
「やはり、五分五分としか‥‥。お互いに攻撃パターンはわかっている。後は、間合いと速度‥‥。」
「まあいいわ。私は目的の能力を手に入れたの。これで宮本が勝てなくても、私が‥‥。」
「姫‥‥。」
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「今日の家庭科は味噌汁を作りまーす。」
「怨怪さん、ワタクシに任せなさい!今の私は『BE メシマズ』ですわ!」
「だめじゃん!!」
メシマズの意味すら分かっていないこのお嬢様に、凛は心底うんざりしていた。
「でも残念ですわね。幽霊の貴方はこのギンの料理を食べること能はずなのよ。」
そう。凛は一度殺人事件の被害に会っている。いまいるのはクローン人間なのだが、それは秘密だ。つまり、凛は『虹色の死神』に殺された幽霊という扱いでクラスメートと交流している。
「よかった‥‥死んだことになってて‥‥。」
凛は胸をなでおろした。
「とにかく、貴方も同じグループである以上、手伝うのですわ。」
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「あきらかにこれ、駄目な奴じゃ‥‥。」
「何を言うのです。これが江頭家が手に入れた技術ですわよ。ワタクシは最強の料理を作ることができましたわ。」
「‥‥‥‥。」
家庭科室では、トラとイノシシが暴れまわっていた。トラもイノシシも味噌汁で構成されている。味噌汁が獣の形をしていると言った方がいいのだろうか?獣を模る濁った液体の中に、わかめと豆腐がのぞき見しているのだ。銃マニアの家庭科の先生は、これでもかとライフル銃をトラとイノシシに打ち込むも、液体なのですり抜けてしまう。
「ワタクシ、教えられたのですわ。料理とは、命のやり取りだと。だから、みなさんも、やり合うのです!」
そう。ギンは料理がおとなしく食べられてくれるという人類の傲慢さに、異議を示したのだ!!
「おかしいよ、江頭さん!!」
「怨怪さん、ビビっているのかしら?闘うのです!」
そうして、トラとイノシシに突かれまくって、凛は逃げまどうことしかできなかった。
「うわあああ!!もう嫌ッス!!」
「凛!」「凛!」「凛!」「凛!」
家庭科室は凛コールであふれかえっている。幽霊設定の凛しか、このバケモノと闘うことはできないのだから。頑張れ凛!負けるな、凛!でもたぶん負けるね、凛!
つづく。




