七鞠「入れ替わってるー!?」なななな様「その2」
『小春。父さんだ。依頼の内容を伝える。』
「は?」
七鞠扮する小春の携帯電話に、父親から電話がかかってくる。
『今日のターゲットは、資産家江頭哲夫の孫である『江頭ギン』だ。彼女は素晴らしい人間だ。だから虹の橋に送ってくれ。顔写真は送信した。』
「だめだよー。ちょっときょうねむたいのー。」
『そうか。珍しいな。じゃあ父さんが断っておく。今日はゆっくり寝ろ。』
携帯電話を切った七鞠の頭の中は「?」でいっぱいだった。
「ふう。我ながら名演技だ。しかし、江頭哲夫の孫を虹の橋に‥‥‥‥?殺せってことだよな‥‥。あいつは父親から殺人依頼を受けていたのか‥‥。」
ただ凛が殺された時、小春の父親は捕まっていたはずである。おそらく個人でも活動し、殺し屋としても活動しているハイブリッドな殺人鬼なのかもしれない。
「江頭ギン‥‥なぜ狙われるのか?」
「ちょっといいかしら。いまワタクシの名前を呼んだかしら?」
いつのまにか、後ろにそのターゲットがいたみたいだ。全く気がつくことが無かった。
「‥‥‥‥。お嬢ちゃん。命を狙われているぜ。詳しくは‥‥‥‥。」
「そうですか‥‥。しかし何故でしょう?心当たりがありませんわ。もうすぐ死ぬであろう祖父の遺産が、全てワタクシに相続されることになっていることぐらいしか‥‥。」
「それだ、それだよ!!お前、遺産目当てで狙われてんだよ!!」
「ええっ!?」
「断っちまったのが失敗だったな。きっとほかの殺し屋も来る!逃げるんだ!」
七鞠はウェディングドレスを着たか細い手で、ギンの腕をつかむ。
「逃げるって、どこへかしら。」
「たしかにそうだ。この世は地獄だなあ!」
すこし七鞠は考えたが、結局出来ることはひとつしかなさそうだ。
「まあ、俺もなんか殺し屋らしいんだよ。俺がお前を守ってやる。」
「頼もしい花嫁様だこと。名は何と言うのです?」
「‥‥‥‥。いちいち名乗る殺し屋がいるかい?」
「いないですわね。おほほほほほ。」
「おっと、お出ましだ。」
殺し屋が現れた。ケンタウロス。明らかに尋常の者ではない。
「拙者は『剣豪BASASHI宮本』。幾多もの馬の怨念を宿した拙者の刀は、最速!」
言い終わる前から異常な早さの刀裁きを見せる。小春の殺人慣れした身体でも、翻弄されるので精いっぱいだった。気を抜けば、殺されるのだから。
「あのケンタウロスはえええええ!!こいつの身体でも追いつかねえ!」
「拙者こそ、『もののふ』。その女子の命、もらいうける!」
「ちい!流石に馬と武士の融合体はてごわいぜ!だが、空に逃げればどうだ!?」
小春の身体になっている七鞠なら、空中歩行が可能だ。
右足を上げ、着地する前に左足を上げ‥‥それを繰り返すことで可能にする空中歩行!
「空中歩行術か‥‥。邪道!」
しかし、BASASHI宮本も同様だった。武士馬も空中を歩む。
「なに、こいつ空を飛べるのか!?」
「‥‥そうか。別に空中歩行は小春の特権じゃねえ。左足が着地する前に左足を上げる。それができる奴なら、誰だって空中歩行できるのか!」
「すきあり!!斬!!」
余計なことを考えている間に、剣斬を喰らってしまった。
「いたく‥‥‥‥ねえ。俺、斬られたよな?」
「確かに、斬られているわね。痛くないのかしら。」
小春の身体からはザックリとした傷口が見え、血が流れている。だが、全く痛くない。七鞠は骨粗鬆症なので、しょっちゅう骨を折っていた。だから痛みには敏感なのだが、小春はそうではなかったようだ。
「大丈夫かしら?」
「もちろん。俺はあいつの弱点を見付けちまったからよお。」
「どういうこと?」
「あいつはサラブレッドだ。競馬用だ。」
「それがどうかしまして?」
「サラブレッドは足を1本でも故障してしまえば、後は衰弱死する。競馬で負傷した馬が安楽死させられるのも、回復の見込みがないからってわけだ!つまり、あいつを転ばせれば勝ちだ。」
しかしその勝ち筋は、早々につぶされることになる。
「無粋。拙者の原動力は、そうして死んでいった馬達の怨念。馬刺しにされた同胞たちの怨念!!故に、残る3本の足に加え、怨念エネルギーで身体を支えることも可能!」
「なあるほど。流石にその程度じゃ終わらねえか。」
相変わらずBASASHI宮本は恐るべき早さで刀を振り回す。
「だが、こいつならどうかな?」
七鞠は躊躇なく、間合いを詰める。
そして、鎌でBASASHI宮本の脚を全て刈り取った!!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「足を4本とも斬ったの!?何て躊躇の無い‥‥。」
決着は、ついた。
「殺せ‥‥。拙者はもう生きられん。今まで人間がしてきたように、殺せ。」
「‥‥‥‥。さすがに可哀想ではなくて?何か救う方法はないのかしら?」
「はあ?お前の命を狙ってきたんだぞ。何故情けをかける。」
七鞠はギンの思考が理解できない。ただ、七鞠は自分が小春に対して抱く感情も、そこまで合理的でないことに気がついていた。いま、自分が演じている女が全くの他人なら、あんな殺人鬼さっさと処分してほしいと思ってしまうだろう。
(助手だから、か‥‥?俺も、ヤキがまわったのかもしれねーな。)
「だって、そもそも人間が馬を殺してきた怨念なのでしょう?確かにこれは殺し合いかもしれないわ。でも、何だか可哀想に思えてきたの。」
「仕方ねえな。おい、こいつを運ぶのを手伝え!」
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こうしてBASASHI宮本は研究所につれて来られた。
「ええっと‥‥。バイク+人間手術のマニュアルは今はいらねえな‥‥。じゃあ馬+機械脚改造のマニュアルは‥‥‥‥。」
七鞠がマニュアルを見ていると、なななな様が覗きこんできた。
「小春さん、それ、七鞠さんの妹が残した改造人間マニュアルですけど‥‥。あんまり七鞠さんは見てほしくないそうですよ。」
「俺はいま、小春の姿してるけど七鞠なんだよ。」
「そうでしたね、ごめんなさい。」
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「なるほど。カラクリの足ならば、朽ちることもなし!‥‥恩に着る。西洋花嫁。そしてギン殿。ギン殿の度量には恐れ入った。‥‥武士として、そなたにお仕えしたい。よろしいだろうか?」
たいそう満足だろう。機械の脚を付けてもらったのだから。
「よろしくってよ!おほほほほほほ!!」
ギンは、BASASHI宮本に乗って帰ることになった。あれほどいがみ合っていたのに、もう守り守られの関係になっているのは面白いところではある。
「じゃあ、わたくしたちはこれにて帰ります。ごきげんよう!」
「ああ、達者でな!」
つづく




