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凛「必殺!!催眠アルペジオ!!」小春「頭がおかしくなるよー!」七鞠「元から‥‥は禁句だな。ここでは。」

平日は、研究所には誰も来ない。ここで七鞠は生活しているのでなななな様と2人っきりである。


七鞠は、28歳にして教授。まぎれもなく頭がいいのだが、


残念ながら七鞠は理系の教授ではない。


一度科学者の道を進んだ七鞠を襲ったのは、圧倒的な才能の欠如。

研究はことごとく認められず、いじけて変な道具を作ってばかりだった。ただ、それが悪いことかと言うとそうでもない。科学者ではなくても、発明家になれないこともないのだ。ただ博士と呼ばれたかった彼は、海外の大学に再入学し、飛び級を繰り返して博士号を取った。そして職を求めた結果、教授となったのだ。彼は研究者としての才能を欲しがっていたが、適正と嗜好は別物である。


「だからなあ、俺は妹に期待してたんだよ。」

「な、な、な、なんですとーっ!?七鞠さん、文系だったんですかーっ!?」

「悪いか?」

「い、いえ、別に‥‥。マッドサイエンティストを名乗ってるからてっきり‥‥。」

「俺は科学者じゃねえけどなあ、へんなもん作る才能はあると思ってんだ。だから、計画立案の俺と、実際に作る妹の麻里七でコンビを組んでたわけだな。俺の科学力は帝と同レベルだろう。」

「な、な、な、なるほど‥‥。じゃあ、妹さんというのは‥‥。」


「ああ。麻里七は科学者の才能に満ち溢れていた。医療・化学・力学‥‥。いろんな分野で様々な業績を残したらしいが、俺にはあいつがやってること全然理解できなかったよ。そしていつの間にか失踪した‥‥。いったいどこにいっちまったのか‥‥。」


「あのダウジング風車も、原型は麻里七が作ってたんだ。ちなみに、これもだ。」

七鞠が取りだしたのは、細長い入れ物に入ったゲル状のものだった。

「これ知ってます!ぐにぐにするスライムですよね?」

「正確には違う。ちょっと取り出してみろ。」

なななな様がスライムを取り出すと、びよびよ紐のようになっていた。

「あれ、紐のようになっています。」

「ダイダランシーっていうのか?なんか小麦粉を溶いた水を握ると、固まって、またもどるんだ。そんな感じのを利用したらしい。スライムなんだが、少しの間だけ、紐になる。」


なななな様は、それであやとりをし始めたが、すぐドロドロになってしまった。

「うあー、スライムになってしまいましたー。」

「で、また入れ物に戻して固めるんだよ。」

「なるほど、そうしてまた紐にしてあやとりするんですね?」

「そうだ。これこそ、あやとりのできるスライム、『あやいむ』だ!!」

「な、な、な、なるほどー!でも普通の紐でいい気が‥‥!」

七鞠はため息をつきながら、研究所の床に座り、あぐらをかく。

「まあそうなんだよなあ。麻里七は俺を慕っていたから、俺がどんな馬鹿げたアイデアを出しても実現してくれた。このあやいむが本当はどんな物質でできているのかもわからん。」


なななな様は、あやいむをひたすら揉んでいる。その触感が病みつきになるらしい。


「だからなあ、どんな無茶な願いでも、なんだかんだ叶えてくれるお前が、だんだん麻里七の小さい頃に見えてきてなあ。」

そう。七鞠はずっとなななな様を麻里七に重ねてみていたのだ。もう帰ってくることの無いかもしれない、妹の幼少期に。

「な、な、な、七鞠さん!!そういうことだったんですか!!」

「ああ、お前はやっぱり良い神様だよ。少なくとも、俺にとってはな。」

「ありがとうございます!!」

「とにかく、俺が文系だってのは、皆には秘密な。」

人差指で内緒のサイン。

「わかりました!ないしょです!」

「ああ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さすがにあの殺人鬼は危険すぎるッス!対策を講じるべきッス!」

日曜日。凛は七鞠に強弁していた。

「その通りだ!被害者は増えるばかり!僕たちもいつ殺されるか分からない!」

実は、先日のニュースで小春は既に5人以上殺していたことが判明した。凛の願いごとによってアクティベーションされた『虹色の死神』は、もう休まることはなかったのだ。

「たしかに小春。お前は少々危険すぎるぜ。人を殺さないではいられないのか?」

「だから、あれは解放なんだってー。」

七鞠は絶句した。


「なななな様、あの殺人鬼を縄で縛ってほしいッス!ものすごく強く!」

「わかりました!」

なななな様が光を放つと、既に小春はスライムのようなもので縛られていた。

「うごー。やられたー。」

「亀甲縛り!?どこで覚えてきたッスか!?私にもするッス!」

「わかりました!」

「うひー!これっすよ!これ!最近はできない軟弱男が多いッスからねー。」

凛は顔を真っ赤にして悶えている。見られていることがなおさら興奮するらしいが‥‥。

「もうこのまま放置しておいていいんじゃないッスか?帝っち。ドラム缶とコンクリート出して。」

「沈めるつもりなんか!?殺人鬼相手でも流石にむごいわ!」

「そうか。帝。ならファラリスの雄牛を出せ。」

「焼き殺すつもりか!?流石にかわいそうやないか?」


そうこうしている間に、スライム上の紐はどろどろになってしまった。

「じゃじゃーん!茨の呪いがとけましたー!」

「最近は縄まで軟弱なんッスか!?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「埒があかないッス。‥‥そうだ!七鞠教授からもらったこれを‥‥!」

「なんだそれ?俺なんかお前にあげたか?」

「ハーモニカッス!教授が作ってくれたッスよ!」


凛は得意げに、ハーモニカを取りだした。

「あと帝っち。わたしの頭に付いてる蝋燭に、火をともしてほしいッス。」

帝と凛の共同作業が始まろうとしている。

(あ‥‥あ‥‥ワイマッチ付けれへんねんや‥‥。どうしよう‥‥凛ちゃんを失望させてしまう。)

「どうしたッスか?早く頼むッス。」

帝は高校に通っているが、学級崩壊といって差し支えがない。マッチを『りか』の授業でつけようとした時、クラスの不良仲間が黒塗りの高級車を盗んで無免許運転。理科室に突撃してきたのだ。そのせいで帝は真面目に授業を受ける気があったのにもかかわらず、マッチのつけ方を聞き逃してしまったという事情がある。


「マッチを使うのは女のやることや。男はこうやるんやで!」

「男は黙ってガスバーナーだなあ?」

「面白いジョークやな。ガスバーナーを点けるのにマッチはいるやろ‥‥。」

「そ、そうだな。」

「違う。いるのは木の棒と木の板、それだけや!むしろ、それ以外のものが致命的な『BE ミスリード』やったんや!」

帝は板と棒を取り出した。

「みとけよ!?これが、『BE 玄人』や!」

そうして、帝はあぐらをかき、板に棒をつきつけ、ゴシゴシし始めたのだ!


「お前、原始人かよ!」

「凛が応援してあげるッス!がんばれ!がんばれ!」

「よっしゃあ!火がついたでえ!」


そうして、無事凛の頭のろうそくに火をともすことができた。

「さて、殺人鬼。この炎を見るッス。」

「みたよー。」

「この音を聞くッス!」

ハーモニカを凛は吹き始めたとたん、小春の様子が一変した。

「ひっ!なんだろー、あたまがむずむずする‥‥。ん‥‥あ‥‥。」

明らかにおかしい。小春は頭の中がぐわんぐわん、脳髄がぐるんぐるんしている感覚に囚われた。


「これぞ我が奥義、催眠アルペジオ!相手の脳波に干渉し、快楽を脳にねじ込む!何人たりとも逃れることはできないッスよ!!七鞠教授のテクノロジーは『BE 究極』!」

「いやいやいやいや!俺そんなもん作ってねえって!」

「私の家のポストに投函してあったッスよ?『催眠ハーモニカ あなたの好きな男性はこれで思うがまま! 作:初行七鞠』ほら。筆跡もたぶん合ってるッス。」

「なんだ‥‥?陰謀か‥‥‥‥?」

七鞠は、何者かが自分を嵌めようとしていると確信しかけた。

「そうだ。さあこい、陰謀論の世界に。共にユーフォリアと闘おうじゃないか、ドクター七鞠!」

「お前と一緒にするな!!」

だが、有海のせいで正気に戻った。


こうしている間にも、小春の調子はおかしくなっていく。

「おねがい!とめて‥‥!なんか‥‥へんだよ‥‥‥おかしくなる‥‥。あっ‥‥‥‥。とにかく、やめてよー。」

そうとう精神がすり減ったのか、小春は地面に付してもだえるだけである。さすがに哀れに思ったのか‥‥‥‥。

「このぐらいにして置くッスか。」

「ふう‥‥。ひどいよ。」

小春は安堵の表情を浮かべる。殺人鬼だった乙女は、もうこの音に頭を弄られて喜んでいる変態になり下がったのだ。

「これでこの女は制御可能になったッスね。この音の虜ッス。」

「こんなのを怖がってた自分が馬鹿みたいッス。このおもちゃ、どう料理するッスかねえー?」


はたして、凛は小春をどうしてしまうのか?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


凛はファラリスの雄牛に入れられていた。ちなみに説明すると、ファラリスの雄牛は牛を模った金属の入れ物に人間を入れ、外部から火であぶり、蒸し焼きにする拷問器具なのである。

「なんで私がファラリスの雄牛で焼かれるッスかー!!?」

「脳内麻薬を操るユーフォリアの正体が、凛だったとは。悲しい限りだ。」

有海は確信した。脳波に干渉する技術を持つ凛はユーフォリアだという短絡的な思考により、友を火あぶりにすることも辞さない。

「魔女を火あぶりにする王子様、かっこいー!」

ちょっと恨みがあるのか、奨励する小春。

「はあ!?何を言ってるッス!?さっさと解放するッス!有海パイセン!お願いッス!」

「音により脳内麻薬の分泌を促す‥‥。1990年代以前のユーフォリアの手口と一致する。重力波が使えないお前は現役ではないにせよ、かつてユーフォリアの一員であったことには変わりはない!」

「はああああ!?全部パイセンの妄想ッス!そんなので焼かれる方の身になれッス!」

いくらクローンで無限蘇生するからと言って、流石に限度がある。当然、ファラリスの雄牛は限度を超えている。


「僕だって苦しいのだ!今まで一緒にいた人間が宿敵だった‥‥。だが、それを乗り越えて人は強くなる。」

「ぎゃあああああああああああ!!もう嫌ッスうううううううううううううううううううううううううううう!!」

しかしこの時、凛の中で葛藤が起こった。


自分はMであることも必要だ。ならば、この拷問を受けることで、またステップアップできるのではないか?自分の体験は、クローンに受け継がれる。ならば自分が犠牲となることで、自らを新たなマゾヒストへと昇華できるのかもしれない‥‥。そうすれば、JKデートクラブはまた新しい段階へと進むのかも‥‥?


「いや、やるッス!パイセン、凛は耐えて見せるッスよ!これで生き残ったなら、次はアイアンメイデンッス!」

「そうか、良い心がけだ!敵ながら、あっぱれ!!」

有海は凛を焼き殺すことを決意したのだ。

凛は拷問を耐え抜き、Mになることを決意したのだ。




WIN-WIN!!




しかし‥‥。

「すまん、有海。ワイ手が疲れてるんや。もう原始的方法によって火がつけられへん。」

「そうか。なら仕方がない。ファラリスの雄牛は、拷問対象を炙ることで完成する命拾いしたな、凛。」

(これで凛ちゃんをたすけられたで。)

嘘である。帝の握力は流石に300kgもないが、普通に42kg(右手)はある。彼は原始的方法によってまだ火を付けることが可能なのである。帝は、優しい嘘によりピンチに陥る女を助けた。まさに漢である。ただ、その男気は今回、誰にも求められていなかったのだ‥‥。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なななな様。ちょっといいか?」

「はい?」

「凛のハーモニカ、俺はお前に作るようお願いしたか?」

「いいえ。してないです。あの時初めて見ました。」

「‥‥‥‥。一体、どういうことだ‥‥?やはり、なりすましか‥‥?」


つづく。


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