エルフのトーリ
私こと木井哲郎はファンタジー電話相談所に所属するオペレーターだ。
今日も私は電話口に立つ。
この世界の人々が悩みを抱えて、聞いてほしくて電話をしてくる。そして
「はい、こちらファンタジー電話相談窓口。担当の木井と申します。本日はどのようなご相談になりますか」
今日もこの一言から相談が始まるのだ。
~エルフのトーリさん~
「初めまして、冒険者のトーリっていいます」
冒険者。いわゆるファンタジーの定番の職業ともいえる何でも屋と言い換えられる人々の事だ。人間関係や面倒事も多い為よく相談される。
「冒険者のトーリ様ですか。冒険者というと大変危険なご職業と伺います。本日のご相談はお仕事関係の事についてでしょうか」
「えっと、違います。その、・・・・・・」
何やら言いよどんでいる。そんなにも言いづらいことなのだろうか。相談しようにも内容がわからないとどうしようもない。ここは、話しやすいようにする必要がある。
「トーリ様。私たちオペレーターは守秘義務があります。このお電話の内容を第三者に話したりすることはありません。それに私とトーリ様はこの電話越しでしか接点を持ちえません」
ようはここだけの話だよ。と、安心させるのだ。
電話の向こう側で意を決する雰囲気が漂ってくる。話してくれるのだろうか。
「はい、実は・・・・・・」
「はい」
相槌をする。
「実はみんなから“お前ってエルフらしくない”ってよく言われるのです」
「・・・・・・えぇ、それは大変悲しいと思います」
しまった。つい出だしが遅れ、声が小さくなってしまった。
しかし、かまわずにトーリさんの相談を続ける。トーリさんも落ち込んでいて、これから勢いで話していけばごまかせる範囲だ。
「それでトーリ様はどのようにエルフらしくないのでしょうか」
「はい。みんなが口をそろえて言うのが“耳がとがっていない”って」
それは・・・・・・エルフなのか?
いや待て。人間だって耳の形は不揃いだ。ハートマークを半分にした人だっているし、福耳の人だっている。大きい、小さいの個人差はある。形がいびつな人だっているだろう。
だから、耳の形くらいなら個人差だ。そう、個人差だ。
「それでしたら個人差の範囲だと思います。私の種族はヒューマンですがヒューマンの耳だって個人差で大きかったり、小さかったりします。私たちの伝説の英雄の耳は長いと聞いたことがあります」
そう、個人差なのだ。一緒くたにしてしまうのはよくはない。日本人は真面目だと言われているようなものだ。実際は不真面目な日本人だっている。
「やっぱりそうですよね。このぐらいは個人差ですよね」
「ええ、その通りです」
トーリさんは私の答えを気に入ってくれたようだ。これで適当に流して電話を切ってもらえばトーリさんの案件は終わりだろう。
「あっ、でもですね。まだみんなはエルフらしくないって言うんですよ」
おっと、まだ相談は続くようだ。しかし、トーリさん。ちょっと気分のいい意見が聞かれたからって調子乗ってませんか?
「“なんで、斧を武器にしてんだ”って。別におかしくは無いでしょー」
うん、おかしい。なんで森の賢者って呼ばれるエルフが斧を武器にしてんのよ。伐採でもすんの?
弓使えよ。
でも、これは個人の好みだろう。武器は命を預ける物だ。自分に合った物を選ぶのは当然の事だ。
「おかしくはないですよ」
「だよね!」
「ええ、自らの命を預ける物です。自身の適性に合った物がよろしいでしょう」
本音は飲み込む。私は大人。
「それとさぁー」
まだあるのか。まだあるのか。
「“火の魔法ばっか使うな”って言うんだよ」
森の賢者‼
お前、森の賢者‼
種族単位で、つうかエルフの宗教観的にアンタラ火は忌避するもんだろ!
種族としてもその属性は使えない筈なんだけど?
「それに“たまには野菜食え”ってうるさいんだよ」
食えよっ!栄養学的にも。種族的にも。
てか、もうただの愚痴聞きになっている。もうヤダ。エルフのイメージボッコボッコなんだけど。
「たまにはよろしいかと思いますが」
本当に言いたい言葉は飲み込む。私は大人。私は大人。
「えー」
「お仲間の皆さんもトーリ様を心配されているから言われるのでしょう」
私。トーリさんのお母さんではないのですが。
「んー、じゃあ食べるよ。月一ぐらいで」
「ええ、よろしいかと思います」
もっと食えと言いたい。
「あっ、もうこんな時間だ。ありがとね。相談に乗ってくれて」
「はい。お役に立てたのなら幸いです」
もう電話してくんなよ。
こっちの精神衛生上のために。
「これからエルダートレントを狩りに行くんだ。いってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
こちらが言い終わる前に切れてしまう。しかし受話器を置く前に言いたいことが・・・・・・
「お前はエルフじゃねえ‼」
これくらいは言っても罰は当たらないと思うのだ。




