こんな夢を観た「在宅ワークをする」
メール・ボックスを覗いてみると、友人、知人のメッセージに混ざって、知らないアドレスからメールが届いていた。
〔在宅のお仕事:自宅のパソコンで、簡単、即収入! 初心者、大歓迎!〕
ああ、スパム・メールっていうやつだな、とわたしは顔をしかめた。こちらから頼んだわけでもなく、勝手に送りつけられてくる迷惑メールだ。
「そう言えば、先日、例の大手ネット・ショッピングで秋物のトップスを買ったっけ。あそこ、断ってもスパムが来るからやめたほうがいいよ、って中谷に言われてたんだよね」
とは言え、「初心者でも簡単にお金がもらえる」という謳い文句に、好奇心が抑えきれなかった。
「見るだけ。見るだけなら大丈夫。怪しい内容だったら、すぐにゴミ箱へ入れちゃえば済むことだし」
わたしはメールを開いた。
〔お仕事の内容は、「バグ取り」をしていただきます。おっと、「なーんだ、専門職か。難しそうだぞ」だなんて思わず、先をお読み下さいね。本当に簡単な作業なんですから!〕
そんな断りのあとに、具体的な手順が書かれていた。
かいつまんで話せば、自宅のパソコンで、指定されたサイトを閲覧する。キーボードの右上にある「PrintScreen」ボタンを押す。
すると、今見ている画面がキャプチャーされるので、ディスプレイに貼り付いた「バグ」をつまんで剥がすだけ。
「どうも、よくわからない。『バグ』って、プログラムの中のミスのことじゃないのかなぁ」わたしは首を捻った。
試しに、メールに記載されているサンプル用アドレスをクリックしてみた。
コスメの紹介サイトだ。どこにでもある、何の変哲もない通販に見える。
「PrintScreen」を押し、キャプチャーした画面をWindowsの標準アクセサリ「ペイント」で表示させてみた。
「あっ!」見ているときは気がつかなかったけれど、静止画にしてみると、画面のあちこち、ゲジゲジのような「バグ」がたくさんくっついていた。走査線の間を、目にも止まらぬ速さで飛び回っているのらしい。
「そういうことね」わたしは合点がいき、液晶モニターの表面に爪を立て、1匹、1匹、剥がし、部屋のくず入れへ投げ捨てた。「これならやってみてもいいかも。暇つぶしにもなるしさ」
さっそく、メールに返信を出して応募する。
「バグ」1匹につき、1円の報酬だ。1日、千匹退治すれば、それだけで千円も振り込まれる。ちょっとしたお小遣い稼ぎになった。
慣れてくると、爪で1匹ずつ剥がすのが非効率だと気づき、フライパン返しを持ってきて、数十匹単位で削り取る。これで、日収がいきなり1万円を超えた。
「すごい、すごい。この調子だと、どんどん貯金ができちゃう」わたしはほくほくと喜んだ。
夢中になるあまり、つい深夜過ぎまで没頭することがままあった。
しんと静まり返った中、1人、もくもくと作業するのは孤独なものである。
時折、部屋のどこからか、カタンっ、などと物音がしようものなら、脈拍が一気に跳ね上がってしまう。物音の正体は、立てかけてあった本が倒れたり、明日捨てようと思っていた段ボールの束が弾けただけ。集中しているものだから過敏に反応してしまうのだ。
「キャプチャー完了っと。さて、何匹映ってるかな」立ち上げたままの「ペイント」で結果を表示させる。
「ひゃあっ!」わたしはイスから転げ落ちてしまった。
画面いっぱいに、白い服を着て、髪を振り乱した女性が、恨めしげにこちらを睨んでいる。
ゲジゲジが這い回っているくらいなのだ。幽霊がうろついていたっておかしくはない。
わたしは、なるべく画面を見ないようにしながら、パソコンのスイッチを消した。




