そして把握するなり目を泳がせた。
この作品は、以前Pixivに投稿した会話劇のSSです。
この作品を書くにあたっての『会話劇』の定義は、
「会話メイン」「場面をなるべく動かさない」「ちょっとひねる」
となっております。
個別作品タグ【会話劇、全力でコメディ、恋愛】
とある会社の社長室で、無駄に高そうなスーツを着た男が頭を抱えている。
「あー、頭が痛い」
「如何なさいましたか社長。例のライバル企業の社長令嬢に渡す誕生日プレゼントでもお悩みですか」
「何で最初に出てくるのがソレなんだ!?」
社長と呼ばれた男は、自身の傍らで直立している女性に、正しくツッコみをいれた。
対する女性はあくまで冷静に答える。
「本当の頭痛でしたら、社長はまず次のスケジュールを確認してからため息を吐きますので」
「あぁ、そうなのか俺……」
「はい。更に、社長の身近には女性がほとんどいらっしゃいませんので、唯一と言っても過言ではない相談相手の私に気付いて欲しくてわざとらしいため息を吐いたのだとお見受けしております」
「手厳しすぎる!」
「違いましたか?」
「いや、パーフェクト過ぎて怖いくらいだ」
「もっと怖い話を致しましょう。この数日で当社の株価が急激に」
「ごくり」
「上がりました」
「……理由が分からないから、それはそれで確かに怖いな」
「でしょう」
報告された状況的に、本来ならばプレゼントとは別の理由で思考を埋めなくてはいけないところだが、男は女の指摘通り女友達が少ない為、空いたこの時間でどうにか秘書に恋愛相談をしたかった。
社長だって恋愛に悩む一人の人間なのだ。
ただし、公私混同も甚だしいが。
咳払いで場をリセットさせ、男は女に問いかける。
「彼女はどんな物なら喜びそうだろうか」
「私としては諦めたほうが良いと思うのですが、まぁそれでは回答にはなりませんね。好きな異性が悩んで選んだ物でしたら何でも嬉しいなどと非現実的なことは申しません。宝石店にでも連れて行って一番高い物を買ってあげたら喜ぶのではないでしょうか。あぁただし、ストーカーからはどんなに高い物でも受け取って貰えないでしょうから、まずはご令嬢との関係をせめて友人くらいに格上げする必要があると思われます」
「友人だよっ!!」
「休日の日課が昼から夜までご令嬢宅の玄関を見つめる事となりますと、今の世の中の定義ではどストライクでストーカーに該当致します」
「何でそれを知ってるんだ」
「秘書ですので。あの喫茶店はご令嬢宅の玄関を眺めやすくていいですね。私も愛用させて頂いております」
「何の為に!?」
問いを受け、秘書は手持ちの書類を社長の前にぱさりと置いた。
「これは?」
「名付けて、ライバル会社の弱味をまとめちゃいましたファイル~」
「明るく物騒なことを言うな!」
「失礼致しました。これを材料に交渉しておりまして、当面の間は当社の有利に事は進むかと」
「それが株価に影響してるんじゃないのか」
「さぁどうでしょう」
目元も口元も優しく微笑んでいるのにまるで悪魔のようなことをしている秘書は、そのままもう一冊のファイルも自身の上司である社長へと手渡した。
そして強調するようにもう一度笑顔を作り直す。
部下の過剰過ぎる愛社精神に渋い表情をせざるをえない男は、仕方無しにぱらぱらとファイルをめくり進めた。
そして、
「こ、これは……」
「ついでにご令嬢の弱味も無いものかとリサーチ致しました」
「手際が良すぎて怖い!!」
「お褒めに預かり、光栄です」
「父親の後妻の連れ子と幾度となく密会、とあるが……どういうことだ?」
「義理の兄と恋仲になっておりますね、あの牝犬めが」
「何か本音がだだ漏れているぞ!?」
「訂正致します。雌豚に変換していただけますか」
「悪くなった!!」
とは言え、知りたくもなかった現実を知ってしまった男は、ため息を吐いて肩を落とす。
「お義兄さんとよく出掛けているなぁとは思っていたが、まさかそんな関係だったとは……そんなことを聞かされては一気に冷めてしまうじゃないか」
「勝手に冷めた上に、まだ恋人ですらない女性の兄をお義兄さん呼ばわりとは、足の裏でドジョウがのた打ち回るような感覚がするくらい気持ち悪いですね社長、一生ついて行きます」
「とんでもなく罵倒された気がするんだが、終わりが良くて何だか褒められているような錯覚に俺は陥った」
「そんな現実を直視する根性の無いところも素敵ですよ社長」
「ありがとう。ところでさっきの続きなんだが」
「はい」
「君がライバル会社に対しやっていることに関して、俺は知らぬ存ぜぬで問題無いな?」
「勿論です」
「良い秘書を持って俺は幸せだ」
「いざとなれば切り捨てる気満々な台詞を吐いておいてその笑顔。私もこれだけ腐った社長に仕えられることを幸せに思います」
「あんまり何度も罵られると聞き流せなくなってくるから控えめに頼む!」
「かしこまりました」
半泣きの上司に対し、頭を下げて了承した秘書。
「ですが……一つだけよろしいでしょうか」
「どうした?」
「実は私も誕生日が近いのです」
「あぁ、そうなのか」
「そうなのです」
「誕生日ねぇ……」
「はい」
「……宝石店に連れて行って一番高い物だなんて買わないぞ!?」
「いえ、確かにプレゼントを所望しておりますがそんな物は要りません」
「プレゼントが欲しいのは間違いないんだな! ……まぁいいけど、何が欲しいんだ?」
「社長が悩んで選んでくださった物でしたら、何でも」
【完】
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今のところ、短編はこの二本しか作品がありませんが
今後増やしていけたらいいなと思います。
生暖かく見守ってくだされば幸いです。




