二日目
翌日。
俺は昨晩、外から何時間も延々と聞こえ続ける女の歌声が気になってほとんど寝付けず、眠れたのは朝日が射し込んだ頃だった。
ので、自然と家族の中で一番遅起きとなる。
俺が起きたことに気付いた母が、少し小走りで近付いてきた。
「……おはよ」
「おはよう。あのさ、あんたはそこに誰か見える?」
起きて間もない俺は、昨晩俺達の寝室となっていた仏間に居る。
母はその仏間の隅にある、仏壇を指差していた。
「見えないけど」
「いや、あたしも見えないんだけどね」
「意味わからん」
「あの子が、見えたって言うのよ」
あの子、と言って母が視線を送るのは、廊下で遊んでいる弟だった。
「あの子がそこに、『おれよりちょっと年下の男の子がさっきまでいたよ』って言うの」
「隣んちの子じゃなくて?」
「最初はそう思ったけど、よく考えたらこんな朝からうちに入って来ないでしょ。それにね、その男の子……あんたに似ていたってさ」
「お、俺?」
何だ、ご先祖様は幽霊になったら若返って、その人は俺に似ているのか? なんて想像を張り巡らせる俺。
だが母は、そんな俺の想像をあっさりと覆す事実を話し始める。
「でね、実は……あの子を産んだ翌年に、あたし子ども堕ろしてるんだわ」
「マジで!」
「だから何となく、あの子が仏壇の前で見たっていう子どもは、あんた達の弟なんじゃないかって思ったら悲しくなっちゃってさぁ」
「突然のカミングアウトやめてくんない、俺、アナタの息子」
「あっはは、ごめんごめん。いやーでももし堕ろさずに産んでたらまた男の子だったんだねぇ」
「その前に俺としては、水子は成長する、と言う事実のほうが興味深いけど」
何となく今までは、赤ちゃんのままで母親の肩に乗っていそうなイメージだった。
仏壇に再度目をやったが、俺には何も見えない。
昨日仏間から聞こえていた声は、俺の、居たかも知れないもう一人の弟の声だったのだろうか。
……声からすると俺には、家族を妬み、恨んでいるようにしか思えないが。
その後遅めの朝食をとってから皆で墓参りをして、盆にやることを一通り終えた俺達は、住み慣れた家に帰るため車に荷を積み込んでいく。
正直、こんなところさっさとおさらばしたい。
毎年思っていたことだが、今年は更に強く思う。
車を背に、目の前のNTT基地局を見上げながら親達の準備が終わるのを待っていた時だった。
白い建物、白い鉄柵、白い敷地、何故か白一色の無機質なその場所に、何となく違和感を感じて目を凝らす。
みみず?
俺は特に深く考えずに基地局に、柵ぎりぎりまで近付いてその違和感の正体を見ようとした。
基地局の敷地内、その白く綺麗に舗装された地面に、点々と黒い何かが這っている。
いや、違う。
それは動いていない。
軽く登って越えられる高さの柵を越え、もっと近くで地べたを見下ろしてみる。
するとそこには、複数の文字列が拙く並んでいた。
『ケーキをたべて
ふとって
1回休み』
『しゅくだいが
おわらない。
2回休み』
『兄ちゃんに
おこられた。
1回休み』
――休みすぎだろう。
というツッコミを心の中でした後、ふと気付く。
その、本来ならば人生ゲームのボードのマスに直接書かれているような内容の文字が、基地局の敷地内の『地面』に書かれていることの意味を。
俺は猛ダッシュでそこから抜け出して、はは、と力無く笑った。
【完】
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
初めてのホラーで、多分今後ホラーを書くことはもう無いでしょう。
ちなみに、この作品は八割ノンフィクションでお送りしております。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
※8月8日、オチの部分をもう少し分かりやすく誘導する文章に書き換えました。




