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妹シリーズ

危険思想―兄と妹のオモイ―

作者: 宛 幸

 朝、目覚ましをかけるまでもなく目を覚ました僕は、妹を起こしに部屋を出る。

 妹の部屋はぬいぐるみや小物がたくさんあり、如何にも女の子な室内をしている。

 ベッドの上で寝ているであろう妹の様子を見る。

「……すぅ……すぅ」

 小さく寝息を立てて寝ている。

 が、ここでいつもと違うことがわかった。

 息が荒いのだ。顔も赤く、白い肌に浮き出るように色が着いている。

「……すぅ……すぅ……ん…」

 暑そうに寝反りを打つ。

 布団も蹴飛ばし乱れ、パジャマもヘソの所まで見えるくらいに乱れている。

 このまま脱いでしまいそうだ。

 額に手をあてて熱を診る。

 熱い。大分ありそうだ。平均体温が低いだけにきつそうだ。

 とりあえず熱を測ろう。

「……里桜(りお)

「……んあ」

「里桜」

「…………んん…ん?……おにぃちゃん?」

 何度か妹の名を呼んで返事が返ってくる。

「そうだ」

「……おにぃちゃん。えへへ」

 僕の顔を見るなり嬉しそうにハニカム。

 健気でかわいいが、今はそんなこと思っている場合ではない。

「おまえ熱だろ。計るから口開けろ」

「……むぇ?おにぃちゃんは心配性だね。……はぁ…はぁ……別に大丈夫だ、よ」

 起き上がろうとして途中で力が尽きる。

「無理するな。ほら、口開けろ」

「……うん。……あーん」

 綺麗な歯並びだ。犬歯は尖り、健康そうな歯茎に支えられている。

 その口内に計測器をくわえさせる。

 時間が経つまでに下から氷と水を入れた桶とタオルを持って来る。

 タオルを浸け、冷やす。


 ――ピピピピピピピピピ……


 そうしてる間にも鳴り、度を見る。

 ――37度8分

「立派な風邪だな。今日は学校を休め」

「……大丈夫だって」

「大丈夫じゃない。その証拠に力入らないだろ」

「……そんなこと、ないもん。……ん…っ」

「ほら見ろ。起き上がることすらままならない。お兄ちゃんの言うこと聞け」

「……しょうがないな……おにぃちゃんは」

 笑ってはいるが、結構苦しそうだ。

 ここは僕も休んで介護した方が良さそうだ。

「電話してくる。待ってろ」

「……うん」

 妹のおでこに冷えた水に濡らしたタオルを置く。もちろん搾って余計な水分は出してあるが。



 妹の通う小学校と、ついでに自分の通う高校にも事情を説明して欠席の連絡してから妹の部屋に戻って来ると、パジャマを半分脱いだ状態でダウンしていた。

 かけ直した毛布もまたくずれてベッドから落ち、おでこに置いたタオルもお腹の辺りに乗っていた。

「里桜、大丈夫か?」

 近くに寄って声をかける。

「……あ、おにぃちゃん……大丈夫なのに、服が脱げないの……はぁ……ん、はぁ……はは、おかしいね」

 途中途中に息を乱して喋ろうとする妹の姿は見ていて悼まれなかった。

 どうやら着替えようとしていたようだ。

 お腹が出て、その上に先程のタオルが乗っていたのを見て、これだと風邪を悪化させるばかりだと思えた。

「お兄ちゃんが着替え手伝ってやるから、次からは自分だけでやろうとするな」

「……ん、おにぃちゃん……えっち」

「そんなこと言う子は嫌いだぞ」

「……ごめんなさい……っ。……はぁ、はぁ……ん…嫌いにならないで……おにぃちゃんっ」

 冗談を冗談で返したが、弱ってる妹はそれを冗談ではなく本気で捉えたらしく、辛そうな顔をしながら謝る。

「嫌いにならないから大人しくしてろ。着替えるか?」

「……うん。……はぁ……さっきから汗ぐっしょりで気持ち悪いの……ん」

「わかった。服はパジャマの着替えでいいよな。段を教えてくれ」

「……うん。えっとね…」

 服が入ってる箪笥の言われた段から替えを出す。ついでに下着も。。。うん。下着も。

「この際体も拭くか?」

「……そうだね。……そうしたい」

 服一式を近くに畳み置く。

「わかった。新しいタオル取ってくる。今度は本当に大人しくしてろよ」

「……うん。いってらっしゃい~……」

 ついでに水も新しくするか。

 桶もいっしょに持って行くことにした。



「起きることできるか?」

「……うん」

 一人では無理そうだった為、肩を抱えながら起こした。

 息をさらに乱した。

 それだけ体力も低下してるってことか。

「じゃあ脱がすぞ」

「……恥ずかしい」

「いつも風呂一緒に入ってたじゃないか」

「それは自分が好きでだもん……はぁふ。……こうやって改めて見られると思うと……恥ずかしいの」

「そうか」

 そう言われるとこっちまで気恥ずかしくなってしまうが、仕方あるまい。

「ほら、手を上げろ」

「……ばんざーい」

 上着を脱がす。

 どうやら下着は着ていないようで、下は綺麗な白い肌が露出していた。

 あまりにも綺麗で、つい見入ってしまう。

「……おにぃちゃん?」

「あ、あぁ」

 不審がられないように目を然り気無いように逸らし、ポーカーフェイスで熱湯で濡らした新しいタオルを軽く水に浸け温度を調節する。

「……どうだ、熱くないか?」

「うん。いい塩梅(あんばい)

 背中を優しく撫でるように拭くと、気持ち良さそうに目を細める。

「……」

「……ん、ふぅ……はぁ」

 妹の少し乱れた吐息以外は静かになる。

 静寂が続くと、妹と自分だけがそこから切り離された時間に居るようで、不思議な錯覚をした。

「……そういえば、おにぃちゃん」

 そんな沈黙を破いたのは妹の里桜だった。

「ん?」

「…今日、休んでくれたんだよね。わたしのために」

「……別になんでもないよ。それに、僕だけだしね、里桜の看病できるのは」

「……ありがと」

「あぁ」

 一通り背中回りを拭き終わる。

「それに、妹を放って置ける程、僕の神経は図太くないからね。これも妹の特権だよ。兄の看病付きで休めるのは」

「あはは、なにそれ。……でも嬉しいな」

 大分元気と余裕が出て来たようだ。

 でも油断はできない。

「前と下はどうする?僕がしてあげようか?」

「……えっと、なに?おにぃちゃん、妹の体いじくりたいの?」

「してもいいならするけど?」

「なんかえっちぃ」

 楽しそうにジト目をしてくる。

「なら届かない所とか拭いてやるよ。それならいいだろ」

「……うん。そうだね。そうしてくれると助かるよ……ん」

 タオルを水に浸し、搾ってから渡す。

「……はぁ……ん……んふ、はぁ…」

 前の方を拭く姿は色っぽく、熱で上気して赤くなるがさらに肌を艶かしくする。

 綺麗だった。

 妹をこんな目で見るのはおかしいとは思う。けど、それを止めることができなくなる程に、自分はもう妹の魅力に気付き、取り込まれているのだ。

「……おにぃちゃん」

 染みひとつない肌は、玉子肌のそれで、つるつるしていて触れると柔らかく気持ち良さそうだ。

 だが変に触ると嫌がられる可能性がある為に不用意に触れるのは避けるのが――

「……おにぃちゃんってば」

「え」

 妹が口をツンと尖らして見ていた。

 どうやら呼んでいるのに反応がないから気分を害してしまったようだ。

「ご、ごめんっ。何かな?」

「……下、脱ぐの手伝って」

「わ、わかった」

 恥ずかしそうにもぞもぞと言う。

 どうやら怒っているのは杞憂だったようだ。

 ボーッとしていたのが妹の肌を見ていたからと気付かなくてよかった。

 うん、それでいい。

 恥じる妹も、照れる妹もどちらもかわいく愛おしい。

「背中支えてるから」

「……うん」

 ズボンを脱ぐに当たって僕が脱がすより本人が脱がす方がいい。それは当たり前だ。

 だから僕は背中を支えるのだ。

「……終わったよ」

 これで一枚のシンプルな白いショーツ以外は生まれたままの姿だ。

「よし。このままだと風邪が悪化するかも知れないから、上なんか着ようか」

「……うん」

 シャツとパジャマの着替えを着せる。

「……」

 ここで僕は黙ってしまった。

 気付いてしまったからだ。ショーツだけの常態で、上だけ着せる意味に。

 ……………………すごくかわいい。

 そう思えた。

 このままだとなけなしの理性がどうにかなりそうだった。

 だけど留まった。

 兄として、人として、妹に手をかけるわけにはいかないから。

「……おにぃちゃん……恥ずかしいよ」

「あ、ごめん」

 どうやら僕がジロジロ見ていたのが恥ずかしかったらしく、下を向いて羞恥する。

 その姿をかわいかったが、それよりもかわいい妹を困らせるのは兄として僕個人としてどうかと思って次のミッションに移行する。

「……おにぃちゃん」

「なに?」

「…………拭いて」

「え?」

「……おにぃちゃんが拭いてって言ったの」

「……え、でも」

「……だめ?」

 照れながらの上目使いは反則だった。

「わかった」

 縦に首を振る返事をするのに時間は要しなかった。

「……あ、ん……ふぁ……」

「えと、痛かったか?」

「……うぅん。くすぐたかっただけ。続けて」

「あぁ」

 里桜はうつ伏せになり、僕は太股(ふともも)から下を拭いてゆく。

 その際にチラチラ視界に映る、妹の小さいお尻を包む白い布の存在の自己主張が気になったが、そこは堪えながら右と左交互に脚を拭いてゆく。

 カモシカのような引き締まった美脚は見ても触っても極上の代物だった。

 タオルからはみ出た指がぷにぷにの肌に当たり、興奮して心臓の鼓動が打ち震えて止まないが、それよりも妹の喘ぎ声のような声の呻きに気を取られてしまって――いや、それも含めての板挟みだった。

「……んふ、……あん…っ。……気持ちいいよぉ……はぁ…はぁ……んっ」

 なんて悩ましい声を出すんだ。うちの妹は。

 テンションが上がり、変に意識が昂り高揚を隠すことができなくなる程に妹は脅威であり、驚異の魅惑的なヴォイスなんだ。

 ……ヤバイ、理性が吹き飛びそうだ。

 けど、そうしたらきっと里桜に呆れられる。

 それだ兄としての威厳が終わり、娘が異性を意識し出して洗濯を別々にされてしまう父親のようになってしまう。

 考え過ぎだと思うが、あり得ない話でもない。

 だとしたらここはやはり抑えなくては。

 兄として、人として。

「……ふぁ……っ、ん……あははははっ、くすぐったい~……ひぃ、ひぃ……んははっ……はぁ……はぁ…ん」

 最後に足の裏を拭いてると、身をよじってタオルから逃げようとする。

 だけどきちんとちゃんと最後まで拭くと、乱れた息を整えるように呼吸をして落ち着いていた。

「ズボンと下着ベッドの上に置いとくから、一人でできるようなら着替えておいて」

「……あ~い」

 僕は理性崩壊をする前に逃げるように立ち、部屋を出ようと扉のノブに手をかける。

「あ、そうだ。食欲はあるか?あるならお粥を作って来るが」

「……食べりゅー」

 笑い過ぎて呂律が回ってないようだったが、一応返事はくれたのでそれを聞いてから部屋を出た。


* * * * *


 おにぃちゃんはずるい人だと思う。

 だって優しいし、気が利くし、頼りになるから。

 ちょっと意地悪しようものなら、それを何倍にも返して、最後はわたしが謝ってしまう。おにぃちゃんはすぐに許してくれるけど

「……はぁ……はぁ、んふ」

 くすぐったくなって暴れた結果、ぐったりしてしまった体を力を振り絞って起こす。

「…………ふぁ」

 頭がボーッとする。

 朝よりは大分楽になったが、まだ立てるくらいの力は残っていない。

 寝れば少しは体力が戻ると思うけど、おにぃちゃんがいないと、不安で怖い。

 きっと熱で浮かされたんだ。

 こんなにもおにぃちゃんか恋しいなんて。

 いつもなら……うぅん。いつでもおにぃちゃんのことは考えている。

 おにぃちゃんのことを考えなかった日はないくらいだ。

 だけど、熱で体温を奪われ、力もなくなって、だからなのか、ひどく兄の存在が恋しく思える。

 早く来て……!

「……ん」

 だめだ。

 ボーッとして考えるといつも大好きなおにぃちゃんのことばかり。

 わたしはかぶりを軽く振って思考を飛ばしてから残りの着替えを手に取る。

 せっかくおにぃちゃんが用意してくれたんだ。

 これ以上おにぃちゃんに迷惑はかけられない。

 結局はかけてしまうけど、手間はできるだけ減らしてあげたい。迷惑はかけたくない。

 親が忙しくて一緒にいられない時はいつもおにぃちゃんが一緒にいてくれた。

 それはおにぃちゃんという存在が、わたしにとってかけがえのない大切で、大事で、安らぎをくれる唯一の“いどころ”なんだ。

 わたしは兄がいないとなにもできない、なにもしてあげることができない。

 わたしが一緒にいてほしい時はいつもいてくれたし、望めはそこにはおにぃちゃんがいた。

 だからわたしはそんな優しいおにぃちゃんに恩返しをしてあげたい。なにかあげたい。

 だけど、体調をくずしてしまった。

 また迷惑をかけた。

 おにぃちゃんは呆れてるだろうか。

 こんな弱いわたしを、嫌いになるだろうか……それは嫌だ!

 それだけは……っ。

「…………早く戻って来て、おにぃちゃん」

 寂しい思いをして涙を溢しながらも、おにぃちゃんに嫌われないように言われたことをちゃんとする。

 結局おにぃちゃんのことばかり考えてしまったななんて思いながら。


* * * * *


 お粥とすり潰した林檎をお盆に乗せて部屋に戻ると、里桜はちゃんと着替えを済ませていた。

 だが寒そうに縮こまっているのを見て肝を冷した。

 机の上に粥を乗せたお盆を置き、妹に近寄る。

「大丈夫か、寒いのか?里桜っ?」

「……おにぃちゃん…?」

「あぁ、そうだ。里桜、おまえのお兄ちゃんだ」

「おにぃちゃん!」

 びっくりした。

 何がびっくりしたって、いきなり飛び込んで来た妹にびっくりした。

「ど、どうしたっ?里桜?」

「……おにぃちゃん…おにぃちゃん……おにぃちゃん…」

 何度も何度も繰り返し呼ぶ。

 僕がいなくて寂しかったのだろうか。

 それは申し訳なかった。いないといけない時に限って離れてしまい、すごく胸が引き締められる。

「大丈夫だ。僕はここにいる。ほら、泣き止んで」

「……うん。おにぃちゃん……そばにいて。もういなくならないで…」

「あぁ……もういなくならない。約束する」

「……おにぃちゃん」

 こんなにも心細かったのか。

 そう思うと兄としてまだ甘いことを思い知らされる。


 ――もっとしっかりお兄ちゃんしないとな


 改めてそう思った。

 しばらくして落ち着いた頃、再度話を持ち出す。

「お粥、作って来たから食べよう。朝から何も食べてないだろ?」

「……うん」

 粥を小皿に移す。

 一口分掬って息を吹きかけてちょびっと食べて温度を確かめ、妹の口元に持ってゆく。

「ほら、あーん」

「……え、あ。……あーん…ぱくっ。……むぐ…むぐ…」

 まさか僕の方から食べさせて貰えると思ってなかったのだろう。

 戸惑ったあとに口を開けて含む。

 小さなお口を動かして味わうようにして食べる。

「とうだ?」

「……んくっ。……ふぅ。…うん。おいしいよ」

「よかった。ほら、あーん」

「……あーん……ぱくっ。……むぐ…むぐ」

 食べてる間に次を掬って冷まし、飲み込んだら口に運ぶ。その動作を繰り返す。

 それを空になるまで何度も繰り返した。

「……もうお腹いっぱい」

「そっか。林檎のすったやつもあるけど、……今はいいか」

「…………それも食べる」

「だけどお腹いっぱいなんだろ?」

「いいの。食べるの」

 わがままのような甘えた声を出されると弱い。

「ほら、あーん」

「……あーん……ぱくっ」

「どうだ?」

「……んくっ。これもおいしい」

「よかった」

 全部空になるまで食べた里桜はちょっと苦しそうだったが、本人が大丈夫と言ってる手前、あまり口出しもできなかった。もう食べ終わったあとと言うのが大きいが。

「……おにぃちゃん」

「ん?」

「近くにいてね」

「あぁ。ずっといるさ」

「……添い寝は?」

「なんだ、甘えん坊だな」

「……だめかな…?」

「いやいいさ」

 眠たげに目をこする里桜はかわいらしかった。

 そんな妹の添い寝はご褒美以外のなんでもなかった。

「……添い寝なんていつ以来だろうな」

 髪の上から頭を撫でてやる。

 そうすると安心をしたように目を瞑って寝息を立て始める。

「……おにぃちゃん」

 今度は胸にうずくまり寄ってきたので、背中をポンポンと軽く叩いてあやすようにした。

「……ふん、ふふん♪」

 鼻歌で子守唄を歌ってやる。

 安心した寝顔はかわいくて仕方ない。

 天使と言われるのはこれ所以、仕方ない。

「……里桜、かわいいよ」

 本当にかわいい。

 寝ていて聞こえないだろうが。

 顔が近い。それもゼロに近いと言うこと。

 ちょっとでも動けば触れてしまいそうな位置。

 妹の桜色の唇――魅惑的だ。

 このまま流されるようにキスをしたら、里桜は怒るだろうか?きっと怒るだろう。

 だって、女の子にとっては大事なファーストキスなのだ。

 そんなこんな妹に欲情するような兄に奪われたとなったら、心に消えないキズができても不思議でもなんでもない。むしろ当然だろう。

 だからこの感情は抑えるべきだろう……なんだろうが、つい考えてしまう。


 ――もし妹と繋がったら?


 妹も女なのだ。子供でも、(れっき)とした女なのだ。

 男と女。邪な気持ちを抱くのも無理もない。

 無理もない?妹だってのに?血の繋がった妹だぞ?何が無理もないだ。

 そんなの自分がキズつかないようにする為の言い訳に過ぎない。

 だけど、そんな風に思ってしまえるのも確かだ。

 妹が好きだ。

 それも異性として。

 意識のできる女性として。

 血の繋がった妹が好きなのだ。

 それはもはや否定もできない。

 だがそれはいい結果をもたらすことはない。

 今が大事な時期なのだ。成長期の妹に必要なのは真っ当な志しであり、不当な汚れた想いではないのだ。

 そんなのわかってる。わかってはいるが、心が、気持ちが追い付かない。

 好き。好きなんだ。妹のことが大好きなんだ。

 もうそれは心の根にまで染み着いた想いなのだ。

「……すぅ……すぅ」

 気持ち良さそうに寝息を立てている。

 かわいい寝顔。

 それを見ていると安らぎ、妹を支えたいという、兄としての、先に生まれた者としての願望が生まれる。

 だがそれと裏腹に、犯したいとも思える。かわいい顔を舐めたい。口にキスを、首筋には痕が付くくらいに、そしてその先の身体にも、、、。

 僕は人としてどうかしている。

 道徳に反し、倫理からずれ、背徳と言う荒波に揉まれて快楽を得ようとしている。

 僕は兄として罪を犯そうとしているのだ。

「……すぅ……すぅ…んん……ふぁ、んふぅ……すぅ…」

 愛しい妹の頬に触れる。

 なぜか目元から水が流れた。


* * * * *


 兄の呼ぶ声がする。

 それに応える為にわたしも呼ぶ。


 ――おにぃちゃん


 だけど兄には声は届かない。

 どうすれば届くのだろうか。

 幼いわたしにはわからない。


 ――おにぃちゃん!おにぃちゃん!


 今度は大きな声で呼んでみた。

 だけどそれでも届かない。

『里桜、おまえは泣くな。強くなれ』

 これは……おにぃちゃんの声?

『強い奴は泣かない。だから里桜、おまえは泣くな。泣かないで、強くなるんだ』

 そうだ。これはおにぃちゃんの声。

 きっと夢を見ている。

 幼い兄が出て来る夢。


 ――おにぃちゃんはつおいの……?

『そうだ。おれは強い。けど、おまえはもっと強くなれ。弱虫なんてもう言わせない。おれは里桜を守るが、里桜はおれを守れ』

 ――うん。わかったっ。りお、つおくなる!


 兄は強い。だから妹も強くないといけない。

 そんなこともあったな。

 おにぃちゃんがわたしを守ってくれる。だからわたしも強くなっておにぃちゃんを守ろうとした。

 でも結局とうがんばろうとおにぃちゃんばかり強くなって、わたしは弱いままだ。

 だって、今もわたしは泣き虫だから――



「……ん」

 どうやら夢を見ていたようだ。

 幼い頃におにぃちゃんから強さを教えてもらった夢。守るって約束した大切な記憶。

 だけどわたしは守られてばかり。

 すごく自分がいやになる。

 目を薄く開ける。

 おにぃちゃんが目を閉じている。

 ……おにぃちゃんの寝顔かわいいな。

 だけどそんなおにぃちゃんの目から光る粒が流れ落ちる。

 それが涙だと気づくのは、落ちた滴がシーツに染みるのを見た瞬間だった。


 ――なんで泣いてるの?


 もしかしたらまだわたしが寝ぼけているのかも知れない。

 まだボーッとして視界に移る世界はボヤけているから。

 あやふやであいまい。

 だからあの強いおにぃちゃんが泣いてるように見えるのかな?

 訊いたら答えてくれるかな?

 なんで泣いてるの?

 それってわたしのせい?わたしが弱いから?

 おにぃちゃんにばかり甘えてるから?

 ……どうしておにぃちゃんが泣くの?

 弱いのはわたしなのに……。

 強いはずのおにぃちゃんが泣くのがわからなかった。

 強いおにぃちゃんはどこに行った?

 もしかしたらおにぃちゃんは強くないのかも知れない。だから泣いてるんだ。

 自分が強くないから、代わりに泣いてるのかも知れない。

 もしかしたら、もしかしたら……。

 おにぃちゃんが泣いてる理由を寝ぼけた頭でひっしに考える。

 おにぃちゃんは強くなくて、わたしが泣いてばかりいるから、おにぃちゃんは自分が泣かない強い子になって、わたしも泣かない強い子になってほしくて、だけどおにぃちゃんは本当は泣くのを我慢してただけかも知れなくて……。

 おにぃちゃん、おにぃちゃんっ。

 泣かないで。おにぃちゃんに泣いてほしくないよ。

 わたし強くなるからっ。泣かないくらい強くなるからっ。

 そしておにぃちゃんを守れるくらいになるから、だからおにぃちゃんは泣かないでっ。泣かないでわたしを守って……!


「……守ってやる、里桜」


 おにぃちゃんが何かつぶやいた気がした。

 わたしは安心してまた眠りに着いた。


* * * * *


 起きると、胸元が湿っているのを感じた。

 妹を見ると、目元な濡れていた。

 それを見て泣いたのだとわかった。

「……守ってやる、里桜」

 幼い頃に約束した。

 そう、約束したのだ。

 だから泣いてはいけない。

 辛くても、苦しくても、強くある為に、泣いてはいけないのだ。

 だから僕は妹の涙を指で拭い取る。

 妹は、里桜は笑っていた。

 寝ながらも笑っていた。

 僕は目標を貰った。愛しい妹から、強き目標を貰ったのだ。

 絶対に泣かないように強くなって、かわいい妹を守ると。

 例え妹が泣いても、僕さえ、兄さえ笑って強い所を見せれば笑ってくれる、泣かないでいてくれる。

 そうだ。里桜は僕が守る妹なのだ。

 決して恋仲になる相手ではない。

 だが、だけど、この恋焦がれる想いは……封印をしなければならない。

 そう。妹の里桜がちゃんとした、いつまでも守ってくれるような恋人を作るまでだ。

 僕は兄として認識をし直した。


 ――僕は、妹を守れる強い男になる!


 と。あの日、幼い頃に戻ったような思いで。

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