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黒いハイヒールの女〜執行編〜

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/06/18


「執行編」


幼女強姦罪により、男は拷問収容所に叩き込まれた。


焼けた鉄を執行人の手によってケツに突き刺され、囚人の断末魔が部屋中に響いていた。


「嫌か?」


黒いハイヒールの女こと、紫月が問う。


紫月(しづき)(24)。

長い髪をキツく結び、ぴっちりと分けられた前髪。

膝丈のスカートと黒いハイヒールを履いたスーツ姿の美しい女だ。


「嫌に決まっているだろ!

こんなこと誰が望む!」


「その言葉そっくりそのままお前に返すよ。

子どもの人生を壊しておいて甘ったれるな。」


「お前、国に雇われてるんだろ?だったら俺たちをケアするべきだ!さっさと傷も手当しろ!俺には人権があるんだ!幼女好きも受け入れるべきだ!」


怒り狂う囚人に対し、紫月は淡々と続けた。


「犯罪を犯した時点で貴様の人権は一才剥奪された。

子どもの人権を踏みにじっておいて自分の人権を主張するとは・・・

そんなだから誰にも求められないんだ。

なぜ貴様のような薄汚い自分がいけると思った?

女の子がお前など求めるはずがないだろう。

貴様には需要がないんだよ。」


「なん、だと・・・?」


「我々はこれから全力で子どものケアに専念する。貴様をケアする時間など一秒もない。」


「な・・・。」


囚人は言葉が出ずに痛みに耐えるしかなかった。


その後、同じ囚人たちと同じ部屋に死ぬまで監禁されることとなる。

皆一様に拷問を受けた者たちだった。


監禁された場所には、

肉の焼けた匂いと密集した囚人たちの汗の匂いで充満していた。

傷の手当てもなく、食事も与えられない。

痛みに耐えて死んでいく他ないのだ。


「良かったな、仲間と死ねて。」


マスクをしたままそう吐き捨て、紫月は部屋を去っていった。

ハイヒールのカツカツという音とともに。



少しして背後から声をかけてきたのは新人の神無(かんな)(22)だ。


「相変わらずキレッキレでしたね!

紫月様!」


「様はよせと言っているだろう神無。」


ピシャリと言われても気にも止めず、

廊下を歩きながら更に神無が続ける。


「はい!紫月さん、そういえば俺、拷問収容所のことはさっき見ましたが、精神破壊収容所についてはまだ知らないんですけど、

精神破壊収容所に入れた人たちって3か月後はどうなるんですか?

社会復帰するとか?」


紫月がため息をつく。


「そんなわけなかろう。

一度でも犯罪を犯せばここからは出られんよ。」


「じゃあどうするんです?」


「ここで強制労働さ。清掃のな。他にも資材の持ち運びとかあったな。」


「清掃?あー、確かに部屋数多いですしトイレとか排水溝とかその分ありますもんね。」


「つまり、自分たちの墓場は自分たちで磨くということだ。」


「なるほど、それなら俺たちの仕事減っていいですね!あの人たち、反抗する力も無さそうでしたし。」


「精神を破壊しておくと調教しやすくていいのさ。」


神無がメモ帳を開く。


「3か月間、一切のコミュニケーションは禁止。会話や笑顔は絶対に禁止で目を合わせるのも禁止でしたね。こっちは小部屋で一人ずつ監禁か。」


「まぁな。いかに自分が必要とされてないか思い知らされる良い機会だよ。この間も精神破壊収容所で・・・。」



泣き叫ぶ囚人に対し、冷めた目で紫月は切り捨てた。


"貴様はいかに自分が必要とされない存在かを知れ。"


囚人はしばらく項垂れていた。




「できるならこんなことはせず平和に生きたいものだが・・・。」


やれやれと紫月が首を横に振りため息をつく。


「でも、紫月さんが率先して作り上げた

"KAD(Kill And Death)"って組織が始動してから性犯罪かなり減りましたよね?」


紫月の胸元にはキラりと光る金色の桜のバッチ。

そこに剣が突き刺さっている変わったモチーフだ。


「ああ、公園のトイレには非常ベルを設置してあるし、もちろん中は映さないがギリギリまで監視カメラで見ているし、電車やバスにもスカートの中が見えない位置にいくつも付けてある。

講義も始めていて、防犯ブザーとか護身術とか自分でできることも教えているしな。

犯罪を犯した者がどうなるか噂をわざと流したのも当たりだな。」


「さすが紫月さんですね。」


「それにしても先程の男には呆れたもんだ。」


「どうかしたんですか?」


「神無がいない間に聞かれたんだ。

なんで別室にいる男にはあんなに手厚く食事や綺麗な部屋を提供しているのかって。」


「あ、それ、俺も気になってました。」


二人は食堂へ来ると飲み物を買い、椅子に座った。


「中には自分をここへ入れてくれと言ってきた

やつもいてな。」


「え?自分から?」


「ああ、このままでは自分は犯罪者になってしまうから殺して欲しいと。

だが、まだ犯罪を犯していない人物を殺せるはずもなくてな。」


「まぁ、確かに趣味嗜好の範囲内では裁けませんよね。」


「そう、犯罪を犯していない限り我々は手を出せない。

そしてそういった人たちをある意味では保護する為の部屋、綺麗に整備されている集中治療部屋がそこなんだ。

とは言え、食事がグレードアップして部屋が綺麗になり、カウセリングを設けるくらいなのだが。」


「それで、あの男はなんて言ったんです?」


「あの人たちにはそういった素性があると言ったら、

俺にだって酷い素性があってこうなったんだとか言っていたな。過去がどうたらこうたらと。」


「紫月さんはなんて返したんですか?」


「貴様の事情など知ったこっちゃないと言った。」


「さすが紫月さんですね!」


「同じ状況でも手を出さずにいる人はいる。

一生性行為をせずとも犯罪を犯さない人もいる。

酷い目に遭ったからと言って人を傷付けていい理由にはならない。」


「当然です!」


その時、先程の部屋から悲鳴が上がった。


「え、なに!?」


「始まったな。」


「拷問の続きですか?」


「いや・・・拷問はあれで終わりだ。

あれは・・・そうだな。ある意味では拷問かもしれんな。なんて言ったらマリアに悪いか。」


「?」




先程の監禁部屋。


マッチョな男性が入って来るなり、口角を上げた。

その胸元には紫月と同じバッチが付けられている。


「あらぁ、これまた豊作ねぇ♡」


「な、なんだあんたは?」


「アタシ?アタシはね・・・。」


マリアがぐいっと一人の男の胸ぐらを掴み、床に押さえつける。

焼けたケツの穴に持っていた消毒液をくるくると回した後、無理矢理ぶち込んだ。

 

瞬間、悲鳴が上がる。


「ひえぇ・・・。」


周りの囚人たちも声を漏らす。

誰もが恐怖の表情を浮かべている。


そして、マリアはコンドームを付け一気に男の患部を貫いた。

焼けた槍で腹部まで貫かれた直後だ。

当然、更なる悲鳴が上がる。


「やめろおぉ!俺は幼女としたいんだ!」


「ふざけんじゃないわよ、アンタが襲った女の子にはね人生があったの。

セックスはね好きな人とするものなのよ。

アンタはそれを奪った。

女の子の人生もね。」


「あの子は喜んでた!だからいいだろ!」


「口が塞がれてる状態で分かるわけないでしょ?女の子はね、痛みと恐怖に怯えていたの。」


「そんなことない!濡れてた!」


「馬鹿言わないで。女の子はね、恐怖や痛みから自分を守ろうとそうなる場合があるの。

そんなことも知らないからアンタは惨めったらしくこうなってんのよ。」


「いいから早く止めろ!」


「私にはアンタが喜んでるようにしか見えないけどね♡」


「いやだあぁ!!!!」


周りの囚人たちは完全に震え上がっている。


「アンタたちも順番にヤるから待ってなさい♡」



食堂。

一通り話を聞いた神無が頷いた。


「なるほど・・・そういうことですか。」


「マリアのやつ、また派手に暴れているみたいだな。モノは成人男性の倍はあるらしいから相当な痛みだろうな。」


「そんなに!?てゆーかマリアさん、さっき会いましたが優しい人でしたよ。これも仕事でですか?」


「いや、マリアは自分で志願してきたんだ。

最初はKADの組織の中で意見が出た。

三日間かけて肉を削ぐとか、モノを麻酔なしで切り落としてGPSで管理するとか、ガス室を作って一斉にとか案は出たんだが、

その労力と時間は無駄だと私が言ったんだ。

かと言ってすぐに死なれても当人たちの念は晴らせない。

そこで、実際に被害に遭われた人たちに協力を経て新たな案が出た。」


「それが焼けた槍で貫くことだった。」


「ああ。」


「じゃあ、マリアさんも?」


「あれはオマケみたいなものだ。」


「オマケ、ですか。」


「やーだ、あなた達!こんなところにいたの?」


その時、ドアの方から声が甲高い声が聞こえてきた。


「マリア、終わったのか?」


「やーね、まだ半分残ってるわよ。

いくら私でも15人は一気に相手できないわ。

今頃残りの7人は恐怖に怯えているはずよ♡」


「ちゃんとゴムはしたか?それと消毒。」


「あら、ちゃーんとしたわよ、いつも紫月ちゃんに言われてるからね。」


「マリアが変な病気になったら大変だからな。」


「なんて会話だ・・・。」


「別部屋の犯罪者たちもまだ残っていたな。」


「女の犯罪者ね!アタシ、女には興味ないのよねぇ。」


「問題ないさ。女の場合、焼けた槍を突き立てた後、胸を削がれて放置されるだけだからな。」


「あ、そうか、女の人の場合もあるのか。」


「当然だ。」


「KADの組織、神無ちゃん入れて200人だったかしら?」


「ああ、ちょうどな。私が選抜している。」


「神無ちゃん、良かったわね。面接に受かって。」


「はい、落とされると思ってました。

紫月さんの眼力凄かったので・・・。」


「神無は害が無さそうだと判断したんだ。

入場許可証である腕時計には嘘発見機が内蔵されていたし。」


「あら、そうだったの?知らなかったわ。」


「お、俺も・・・。」


「まぁ、そんなものなくても目を見れば嘘をついているか分かるがな。」


「それで犯罪犯したことがあるか聞いたんですね。」


「ああ。」


「まぁ、紫月ちゃんのおかげで事件もだいぶ減ったし良かったわよ。」


「私一人の力じゃないさ。

皆んなの協力がなければできなかった。

私一人では全てを把握して守ることはできないからな。」


「神無ちゃん、これからは紫月ちゃんのサポートしっかりするのよ。じゃあ、私は続き行ってくるわ♡」


「え、もう!?」


「アタシ、15分休憩すればいけるのよ。」


「す、凄い・・・。」


「神無ちゃん。」


「はい、なんですか?」


「この仕事は大変なことや嫌な場面に遭遇すこともあるけど・・・負けちゃダメよ。

一緒に守っていきましょ。」


「はい!」


こうして今日も紫月率いるKADの組織のおかげで

この国の安全は守られている。






「呑み会の帰り道」

 

前に神無とマリア、その後ろに紫月が歩く。


「神無ちゃん。」


急にマリア(27)が真面目なトーンで神無の名前を呼んだ。


「はい、なんでしょうか?」


「仕事の話になっちゃうんだけどね。」


「?はい。」


「アタシはね、

被害者が子どもでも大人でも相手が嫌がっていたら傷付けたらいけない、それだけのことだと思うの。」


「俺もそう思います。」


「絶対傷付けちゃいけない大事なものなのよ。体も心もね。」


「はい。」


「それと、さっきはチェリー君だなんて言ってごめんなさい。でも、決して馬鹿にしたわけじゃないのよ。」


「いいんです。本当のことですから。」


「神無ちゃん、あなたは本気で好きになった女性としなさい。」


マリアは柔らかな表情に変わっていた。

その中にはどこか子どもを見守る母親のような優しさも見えた。


「え?」


「セックスは本来、好きな者同士が愛し合う為にする行為。だけどあなたはそうね、風俗も浮気もしなさそう。」


「しないですね、たぶん。」


「あなたならきっとそう言うと思った。

欲はね、溜めて溜めて本気で好きな女の為に全てを注ぎなさい。」


「意外です、マリアさんは浮気くらいナンボのもんよ!とか言うのかと思ってました。」


「あはは、そう見えるのも無理ないわね。」


「真面目なんですね。」


「そうかしらね。」


「もし、この先俺にそんな相手が現れて、その人も俺を好きになってくれたら・・・その時はめちゃくちゃ大事にします。」


「100点だな。」


ずっと無言だった紫月の声が後ろから聞こえる。


「ね!アタシも今そう思ったわ!」


「まぁ、浮気中に彼女が怪我をしたとか妻が殺された例もある。気をつけることだな。」


「え!!」


「そうね!事件性がなかったとしてもまず最初に紫月ちゃんの強烈な蹴りが炸裂するわよね。神無ちゃん、気をつけるのよ!

アタシ、痛がってる神無ちゃんなんて見たくないわ!イヤイヤ!」


「き、気を付けます。」


それは、いつもの破天荒なマリアの新たな一面が垣間見れた瞬間だった。





「勇敢な青年」


食堂。


「さっきの紫月さんもキレキレでしたね!」



囚人が嫌がる女を犯すのがいい、風俗は楽しんでいるからダメだと言い出した。


マリアの裏拳が炸裂し、囚人の体が吹っ飛んだ。


「アラ、ごめんなさい。つい手が出ちゃったわ。」


「構わん。」


鼻血を出しながら囚人がこちらを睨んでいる。


「なに、しやがる・・・。」


先程、焼けた槍で腹部まで貫かれた後だ。

息も絶え絶えと言ったところだろう。


紫月は冷酷な表情でうずくまる囚人を見下ろして言った。


"仕事は基本的に嫌なことをしてお金をもらう場所だ。

風俗穣たちは金をもらってそれをしている。

つまり嫌なことをしているんだ。

それを楽しんでる、喜んでるはずかない。

そんなことも分からないから貴様は今ここにいるんだよ。"




食堂メニューの麻婆豆腐を食べながら紫月が神無に言う。


「神無は悪さできんだろう。」


「分かるぅ。」


マリアはマッチョな体を左右に揺らした後、焼き肉定食を食べながら相槌を打つ。


「はい、俺、気が弱いので。」


ハンバーグ定食を食べながら神無が答える。


「何言ってるの!神無ちゃんはそこが魅力的なのよ〜。」


「そ、そうですかね?」


チラッと神無が紫月を見る。


「いや、神無は芯がしっかりしているよ。」


「え?」





面接の時。


「志望動機は?」


「傷付く人たちを守る為です。」


「過去に事件に巻き込まれたことは?」


核心をつかれ、空気が張り詰める。


「・・・。」


「言いづらければ答えんでもいい。」


「・・・妹がストーカーに遭い、自殺未遂をしました。直接的な被害はありませんでしたが。今は病院で治療を受けています。

でも、妹から笑顔が消えてしまったんです。」


「そうか。面接はこれにて終了だ。」


「え、もう?あの、俺ほんとに・・・。」


「採用だ。」


「本当ですか!?」


「ああ。私も妹がいたんだが強姦に遭ってな。

自殺してしまったんだ。」



妹は風俗で働いていた。仕舞いには誘ったんじゃないかと男性警官から言われた。

しかし、女性警官が来て殴られた跡があるのだから事件だと一括した。

その男性警官はその後、クビになった。

私はそれを見て国に直接乗り込んでKADという組織を立ち上げた。

今はまだ東京だけだがいずれは全ての県に導入されるだろう。



「そ、そうだったんですか・・・。その犯人は・・・。」


「捕まえて、この世にはもういないよ。」


「それは・・・良かったですね。」


「ああ。ここでは特別手当がボーナスとして支給される。そのお金で妹さんに何か買ってやれ。」


「え、ありがとうございます!」


「それと、この仕事は心理的負担が大きい為、勤務時間は一般的な企業よりも短い。

仕事がない時間は妹の側にいること。

以上だ。」




食堂。


「やーだ、神無ちゃん、頬に米つぶついてるわよ〜。」


マリアが自分の頬をツンツンする。


「まじか。」


「違う違う、左よ〜ん。」


こういう場合、マリアは絶対に他者に触れない。

恋人以外とはスキンシップを取らないようだ。

お互い執行人で、相手もまた囚人たちをある意味で脅かしている。

元々恋人同士で志願してきたのだ。

事件に巻き込まれた経験は二人ともなかったが、子どもたちを守りたいと強い意志を伝えてきた。

男性カップルを採用したのはこれが初めてだった。


「あ、本当だ。ありがとうございます。」


自分で米を取りつつ神無がマリアにお礼を言う。


「良いのよぉ。」


紫月が二人のやり取りを見る。


神無、君は勇敢な青年だよ。

妹の為にここまで来たのだからな。


「それはそうとマリア、ジョーニとはどうだ?」


「順調よ〜ん。」


「ジョーニ?」


「アタシの彼氏よ。」


「え、マリアさん、恋人いたんですか!?」


「いるわよぉ。意外でしょう〜。」


「俺なんて今まで一度もできたことないのに・・・ショボン。」


「話はそこか。」


「やーね、神無ちゃんならすぐにできるわよぉ、ね!紫月ちゃん!」


「ん?ああ、高嶺の花じゃなきゃな。」


「もう、紫月ちゃんたら意地悪ね〜。

大丈夫よ、神無ちゃんとってもいい子だもの。きっといい子が見つかるわ。

でも、自分磨きは怠っちゃダメよ!」


「ありがとうございます・・・。」


マリアさんは喝を入れてくるタイプだと思っていたけど。

この間の呑み会の時から思ってたけど、マリアさんって優しいんだよなぁ。

でも、的確なアドバイスはちゃんとくれる。


「神無を甘やかすな。」


「だってぇ、神無ちゃん可愛いんだもの。」


紫月さんも、言い方はキレがあるけど

優しい人だ。

妹と同じように苦しむ人を増やさないように国に独断で声を上げたと聞いてる。

行動力と決断力のある人だ。


「俺、ここに来れて良かったです。」


マリアと紫月が目をぱちくり。


「そうか。」


「アタシも神無ちゃんが入ってくれて良かったわぁ。なんかこう、ワンちゃんみたいで癒されるのよね。」


「俺って犬ポジションなんですか!?」


「まぁ、妥当だな。」


「ひどい!」


KAD組織が作り上げた監獄の要塞。

食堂にはしばらくの間、

キャハハとマリアの甲高い笑い声が食堂に響いていた。




マリアがお手洗いに行った後。


「そうそう、神無の妹さんをストーカーしていた男は先程捕まえたよ。」


「え!?あれからだいぶ経ってますよね?

あ、でも事件あったの一年前だから期限は関係ないのか。」


「仮に何十年経っていても証拠さえあればKADには期限はない。遡って逮捕もできる。

年齢も性別も素性も関係なくな。

ようはやったかどうかの事実だけだ。

相手がどうだろうと当人の傷は変わらないのだからな。」


「すご・・・。」




それから数日後。


「病院行ったのか。」


「はい、妹が笑ってくれたんです。

ホッとしたみたいで。」


「良かったな。」


「紫月さんのおかげですよ。」


「偶然さ。」


紫月さんは微笑んでいるように見えた。



 

「事件編」


殺人、強盗などの事件は管轄外だが、

時にKAD組織は狙われることもある。


神無が誘拐され怪我を追ってしまった時のことだ。

まだ護身術を習っている最中だった。


ナイフで刺され、腹から血が出ていた。

その血を見て妹を思い出し紫月は同様する。


あの日、自分で首を切って死んだ妹と重なったのだ。


「紫月ちゃん、アタシは止血するからあなたは救急車を・・・なにボーっとしてるのよ、しっかりしなさい!早く救急車よ!」


「あ、ああ。」


紫月がようやく我に帰り、急いで電話をかけた。

いつも気丈に振る舞っている彼女の手が震えていた。

その様子を見ていた神無は紫月を心配する。


「だい、じょぶですか?」


「!・・・馬鹿、人の心配をしている場合じゃないだろう。」


その様子を見てマリアは安堵する。


良かったわ。

神無ちゃんのおかげで紫月ちゃん正気に戻ったみたいね。




病院。


「いや〜傷が浅くて良かったわねぇ。」


「しぶとい奴だ。」


「はは・・・。」


紫月さん、大丈夫かな・・・さっき凄く辛そうだった。


「飲み物買って来る。」


「アタシ、コーラ!」


「神無は?」


「良いんですか?」


「ああ。」


「じゃあ、俺はお茶で。」


「分かった。」


紫月が部屋を出た後。


「紫月さん、大丈夫でしょうか?」


「紫月ちゃんの過去、聞いた?」


「はい。妹さんが強姦に遭って自殺したと・・・。」


「そう、なら話しても大丈夫ね。

たぶん、血が出てる神無ちゃんを見て妹さんを思い出したんだと思うわ。」


「妹さん・・・。」


「自分で首を切って死んだのよ。可哀想に。」


「そんな・・・そこまでは知りませんでした。」


「似てるのよ。」


「?」


「神無ちゃんと妹さん。」


「え、そうなんですか?」


「写真見たことがあるんだけど、面影がどことなくね。」


「妹さんのこと最初に話したの神無ちゃんくらいじゃないかしら。」


「そうなんですか・・・。」


「神無ちゃん。紫月ちゃんのことお願いね。」


「俺ですか?」


「神無ちゃんなら紫月ちゃんの心を開けるかもしれない。」


「そんな、俺なんて何も・・・。」


「いいのよ、あなたはいてくれるだけで。」


「分かりました。」


紫月さんのおかげで妹は笑えるようになった。

難しいだろうけど紫月さんの傷も少しずつ癒えるといいな。





 

「カレシ」



食堂。


気になる。ジョーニという男性。

マリアさんの恋人か・・・ってことは同じようにマッチョで長い茶髪を後ろで縛ってるイカつい感じの男性なんだろうか。

ダメだ想像力が乏しすぎる!


「あら、なによ、アタシの顔じろじろ見て。」


「わっ!すみません!ジョーニさんってどういう人なんだろうなって単純に気になってしまって。」


「あー、ジョーニね。

同じ要塞の中にいるからいずれ会うだろうけど知りたいの?」


「はい!」


めちゃくちゃ知りたい!会ってみたい!


「写真あるわ、ハイ!」


マリアが携帯の待ち受けを見せる。


「ブホッ・・・ゲホゲホ!」


途端、神無は飲んでいた水を盛大に吹き出してしまった。


「ちょっと、やだ、何してるのよもう!」


マリアが咄嗟にカウンターからティッシュを取って来てくれた。


「ありがとうございます・・・。」



「もー、そんなに驚くことないのに。」


「予想と違ったんだろ。」


「あら、そうなの?」


「はい・・・マリアさんと同じタイプの人かと・・・。」


「やーね、こんなゴツいのアタシだけで充分よ。」


びっくりした。

口にピアス、長いサラサラの黒髪、しかもすらっとしたイケメンではないか!


「破天荒なとこは瓜二つだがな。」


「アハ、そうかしらね。」


ここに来て一番ビックリしたかもしれない。

それにしてもここ最近、ずっと情報量多いな。

特にマリアさん関連。


執行内容は話てないが妹は俺がKAD組織にいることを知ってる。

なんとなく気付いてはいそうだが。


紫月さんに憧れているのと、

主にマリアさんの話をすると笑ってくれる。


「マリアさん、ありがとうございます。」


いきなり神無に深々とお礼をされる。


「あら?アタシ、神無ちゃんにお礼言われるようなことしたかしら?」


「さぁ?」


こんな風に平和で楽しい時間がずっと続いて欲しい。

そう思う神無であった。







「カレシ2」



「マリア!」


三人で廊下を歩いていると後ろから声がした。


「ダーリン、任務は終わったの?」


この人が噂の!ダーリン?


「ハニー、君に早く会いたくて速攻で終わらせて来たんだ。」


は、ハニー!?


「もうダーリンたら〜。」


「廊下でイチャつくな。」


「はーい!」


てか、本当にイケメンだな・・・。

どうやって知り合ったんだろ?


「こちら新人の神無ちゃん!可愛いでしょう〜?」


「へぇ、君が神無君か。よろしく。」


「よろしくお願いします!」


ペコリと神無がお辞儀をする。


「確かにいい子だな。」


「?」


「でしょでしょう〜?」




食堂に入り、休憩を取る。

話題はジョーニとマリアの馴れ初めだ。


 


3年前。会社合同の合コン。

 

ジョーニはイケメンなこともあって女子からの人気が高かった。


「ねぇねぇ、ジョーニ君ってどんな子がタイプなの?」


「タイプなんてない。」


「またまたぁ、意地悪しないで教えてよ〜。」


その時、少し遅れてマリアが登場した。


「遅れてごめんなさい〜。」


場が一瞬で凍り付く。


「え、この人も合コンの出席者なの?」


「何かの間違いじゃない?」


「安心しなさい。アタシは人数合わせで来ただけよ。

第一、アタシ、男にしか興味ないし。」


「は?え?」


「ま、まさのゲイ?」


その時。

ガタンと立ち上がった人物がいた。

そして、「女神だ。」と言い放ったのだ。


「「え?」」


女性陣が固まる。


「君、名前は?」


「マリア。」


「マリア・・・名前まで美しい。」


「この人、酔ってんの?」


マリアが隣にいた男に質問する。


「いや、ジョーニはザルだから酔わないよ。」


どう考えてもアタシに言い寄るなんておかしい。

こんなイケメンが、ゲイの中でもよりによってこんなガタイの良い顔もイカついアタシをよ?

最初はふざけてるのかと思ってたから嫌いだったのよ。

アタシを馬鹿にして遊んでるんだわって。


だからアタシ、帰り際に言ってやったのよ。


「ゲイを甘く見ないことね。

こんな風に言い寄ってきて襲われても文句言えないわよ?からかうなら、せめて可愛い女の子にでも・・・。」


「望むところさ。俺は本気だよハニー。」


何が目的か分からないまま体の関係を持った。

 

だけど・・・。

 

ある日、公園の海岸。

柵越しに海を眺めていると、サアアッと潮風がマリアの髪をなびいた。

 

「あなた、本気なのね。」


「だから言ってるじゃないか。最初から君にゾッコンだって。」


「だっておかしいじゃない。よりによってアタシだなんて。」


「今更だろう。それに、他の人におかしいと言われる分には構わないけど、マリアに言われるのは傷付くな。」


「ごめんなさい。

アタシ、自分が嫌いで、あなたの気持ち考えてなかった。なんとか普通になりたくて大学まで入って・・・でも、ダメだったわ。

相変わらずアタシは男が好きだし、女の子になるには体も顔もゴツ過ぎる。」


「いいじゃないか。マリアはそのままでいいんだ。」


その時からマリアにとってジョーニは特別な人だと思うようになった。


「アタシ、子ども好きなのよ。でも、すぐに逃げられるわ。」


「俺もだ。目が吊り上がってて怖いって泣かれた。」


「アタシたち、子どもは持てないわ。かと言って、直接関わる仕事は難しそう。」


「そうだな、それなら子どもを守る仕事はどうかな?」


「子どもを守る?警察官とか?」


「いや、KAD組織って知ってる?」


「聞いたことあるわ。内容もだいたい知ってる。」


「紫月さんっていうまだ21歳の女の子なんだけど、

KADを立ち上げたコなんだ。」


「あら、それ凄いわね。」


「たまたま、事件現場に居合わせたんだけど、

逃げそうになった犯人を俺が捕まえたんだ。」


「やだ、凄いじゃないの!」


「そしたら、彼女の強烈な蹴りが炸裂してさ。

その時、スカウトされたんだ。

あの強さと凛とした表情。一瞬でファンになってね。

働きたいと思ってる。どうかな?君も一緒に。」


「アタシを受け入れてくれるかしらね。」


「俺が交渉してみる。

今、子どもを狙った犯罪が増えてる。

俺たちは子どもを作れない。だけど好きなのは事実だ。

だから一緒に救わないか?子どもたちの未来を。」


ジョーニが手を差し出す。


「その話、乗ったわ。」


マリアはその手を取った。




食堂。


「というわけ。」


「う、うっ・・・。」


「何でこの子泣いてるの。」


「感動したんだろ。」


「あらあら、ほら、ティッシュよ。」


マリアがカウンターから取ってきたティッシュを神無に渡す。


「ありがとうございます・・・ずびー!」


「本当にわんころみたいだな、君は。」


「そうですか?ずびっ。」


「でしょ〜?素直で可愛いのよ。」


「マリアの方が可愛いけどね。」


「やだ〜、ダーリンたら!」


「あのー、ずっと気になってたんですけど、何でマリアさんがハニーでジョーニさんがダーリンなんですか?」


「あら、知りたいの?」


「な、なんとなく。」


「それはアタシが受けでジョーニが攻めだからよ。」


「受け?責め?」


「聞かない方が良いぞ神無は。」


「え、何でですか?」


「まぁ、確かに君は聞かない方がいいかもしれないな。」


「あらそう?じゃあ辞めておくわ。

でもね、神無ちゃん、アタシ今だにこの人が何でアタシに惚れたのかよく分かってないのよ。」


「実は知ってたんだよ、マリアの存在を。」


「え!?そうなの?もっと早く言いなさいよそういうことは!」


「破天荒でマッチョな社員がいるって聞いてたから気になって見に行ったら、すっかり射抜かれてしまったんだよ。」

 

「何がそんなに良かったのよ?」


「さぁ、俺にもよく分からない。でも、一目惚れって言ったのは半分本当だよ。

行動が面白くて目を離せなくなったのも確かだけど。」


「それって、動物みたいな感覚ってことじゃなぁい。ねぇ、神無ちゃん!」


「マリアさんがそれだけ魅力的だったってことじゃないですか?」


曇りなきまなこで言われ、三人が固まる。


「この子、この職場で働いてて大丈夫?カフェとかレストランで働いた方が良くない?」


「アタシも最初そう思ったんだけどぉ。」


「いや、神無に飲食業は無理だ。」


「えー、どうして〜?」


「マリアはまだ知らんのだろう。

機材はぶちまける、滑って転ぶなんてしょっちゅうだ。レストランなんぞで働いたら皿やらコップやら割るのが目に見えてる。」


「すみません、気を付けてはいるんですが・・・。」


「神無ちゃん、やっぱりあなたの居場所はここしかないわ。」


真顔でマリアに言われ、とほほと項垂れる神無であった。







「見えるんです」



休憩室。

扇風機を浴びながら畳の部屋でくつろぐマリアと神無。

今日は犯罪がなく、仕事がないのだ。


「暇だわねぇ。」


「いいじゃないですか、犯罪が減って傷付く人たちが減って。」


「そりゃそうだけどさ〜。」


と、その時ガラッと扉を開け紫月が入ってきた。


「お前たち、サボり過ぎだ。」


「だって紫月ちゃん、犯罪が無ければアタシたち出番ないじゃないのよ〜。」


「そうですよー。」


「全く、神無はすっかりマリアに毒されおって。」


「だって、監視カメラのチェックはAI導入で100%判別可能になっちゃったし〜。」


「バイトでも探しますかね?」


「アラ、いいわね。」


「ダメだ!」


「なんでさぁ。」


「そっちの方が良くなったらどうするんだ。」


「あなた可愛いわね。」


「うるさい。大体、お前たちが普通の仕事なんぞできるはずないだろう。」


「あー!紫月さんひど〜い!」


「ブーイングの嵐よ〜!」


「はぁ・・・。」


「紫月ちゃんも休みなさいよ。ずっと働きっぱなしじゃないのよ。

アタシらが手伝えない仕事なのは分かるけどさ。」


「いや、まだ後片付けが残ってるんだ。」


「あなたが倒れたら妹さんも悲しむわよ?」


その言葉にストンと座布団に正座をする紫月。


「アラ、素直ね。」


「紫月さん、真面目に妹さん心配してますよ。

あなたが自分を責め続けてること。」


「何故そう思う。」


「時々、妹さんの霊が現れるんです。」


「まじ?」


「神無、見えるのか?」


「はい。」


「嘘じゃないのね。」


「ピンクのレースワンピを着た綺麗な女の子です。」


それは、紫月が誕生日プレゼントで妹にあげた服。

死ぬ間際に着替えていた服だ。

そのことは誰にも話してない。


紫月の目から涙が落ちた。

正座から体育座りに座り直し、顔を膝に隠した。

そんな紫月にあえて二人は何も言わない。


「神無ちゃん、アタシは?なんか見える?」


「マリアさんはずっと、おばあちゃんの幽霊が見えます。割烹着を着た。髪長くて後ろで縛ってます。」


「ばあちゃんだわ・・・ん?待って、今あなたずっとって言った?」


「はい。」


「まさか、執行中も?」


「はい。」


「ちょっとー!それはまずいじゃないのよ〜!」


マリアが頭を抱える。


「でも、マリアさんのおばあちゃん、執行中、やれやれー!って掛け声してますよ。」


「え"」


「ぶっ。」


紫月が顔を隠したまま思わず吹く。


「いつもは優しい穏やかなばあちゃんなんだけどねぇ。テレビを見てる時だけは白熱してたの思い出したわ。」


マリアも泣き始めてしまう。


その時、再びガラッと扉を開けて今度はジョーニが入って来た。


「神無君、マリアを泣かせたのか?」


「違います!」


ジョーニに追いかけ回される神無を無視して二人は会話する。


「紫月ちゃん、神無ちゃんなら紫月ちゃんの心開いてくれるわよ。」


「ああ。」


紫月は泣いてるやら、マリアは泣止んでいるやら、神無はジョーニに追いかけ回されてるやら。


今日は一日平和だった。







「真面目な彼」


ある日の午後。

公園のトイレに女子高生が押し込まれる様子を発見した黒崎(27)は駆け出した。


スーツの胸元に付けられた金色のバッジがキラリと光った。


金色の桜のバッチ。そこに剣が突き刺さっている変わったモチーフだ。


中に入ると男は男子トイレの床に女子高生を組み敷いていた。

彼女の口にはタオルが巻かれ、ジタバタと暴れている。


入って来た黒崎を見て、一瞬動揺するもすぐにニヤニヤとしながらこう言った。


「あんたも黙っててくれりゃ加わってもいいぜ?」


なんて下卑た笑みだ。


「ああ、そうさせてもらう。」


そう言って黒崎はバッグから手錠を取り出した。


「へへ、なんだよ。いい趣味してんな。

じゃあ、この女の手首に頼むぜ。」


黒崎の手が伸び、女子高生は暴れるの辞め目をぎゅっとつむった。


カチャ。


手錠をかける音が聞こえたが、彼女の手に違和感はない。


「?」


「おい、あんた、何してんだよ。俺に手錠かけても仕方ねーだろ。」


スッと腕時計を見て時間を確認する。


「午後19時15分。強姦魔逮捕。」


「な、へ?あんた、け、警察か!?」


「俺はKAD組織の者だ。」


黒崎は女子高生から離れた場所に男を捕らると、電話をかけた。


「いだだ!手荒な真似すんなよ!」


「その程度で手荒だと?それなら女子高生に暴行をくわえたお前は殺人鬼だな。」


「だいたい、何で場所移動しなきゃいけないんだよ!」


「馬鹿かお前。さっき襲われたばかりで男二人が近くにいたら怖いだろうが。

そんなことも分からないから手錠をかけられてるんだ。」


その後も、ギャンギャン喚く男だったが、そんなことは無視。

電話での会話は続けられた。


ルルル。


「紫月だ。」


「紫月さん、強姦魔を逮捕しました。女性を一人、護衛でお願いします。」


「分かった。」


ツーツー。


電話が切れる。

その時、男は黒崎の胸元のバッジにようやく気付いたようだ。


「あ、あ・・・そのバッジ・・・うわ、嫌だ!俺は拷問なんて!!」


バッジを見た瞬間、男の顔色が変わった。


女子高生は不思議そうに首を傾げている。


「知ってるなら犯罪を起こすな。」


途端、男はヘラヘラと女子高生に視線を向ける。ゴマスリ状態だ。


「なぁ、お嬢ちゃん、さっきの合意だったよな?な?」


呆れてものも言えんな。


「と言っているがどうする?この男はこれから我々が連行し拷問を受ける。

だが、君が助ければ受けずに済む。

代わりにまた野放しになり、犯罪を繰り返すだろうがな。」


「もうしない!しないから助けてくれ!な?ちゃんと更生するから!」


しかし、女子高生は冷ややかな笑顔で黒崎に言った。


「とびっきりの拷問、お願いします。」


「な・・・。」


「だとさ。残念だったな。」


「くそぉ!!女が男をなめるなぁ!」


「その女性がいなければ産まれることさえできないくせに馬鹿なことを抜かすな。」


「うるさいうるさい!男は性欲が強いんだよ!

だから仕方ないんだ!あんただって一皮剥けば同じだろ!」


「一緒にするな。俺は生涯ただ一人、妻だけだ。」


そう言った直後、背後から声がかかった。


「黒崎さん、お待たせしました。」


「さすが早いな。本条さん、すまないが彼女の護衛を頼む。一応、話を聞かなくてはならないからな。」


本条(26)「分かりました。安心してちょうだい、私たちは国に認められたKADという組織よ。性犯罪限定で取り締まっているの。」


「KAD・・・警察と同じバッジだけど少し違う。」


本条は警察手帳の中身を見せた。


「そうよ、警察の中の言わば特殊捜査隊と言ったところかしら。」


「なんだ、婦警さんなかなか美人じゃねーか。」


男は見境がないのか本条に近付き、お尻を触ろうとした。

が。


ダンッ!!!


「いでえぇーー!!!!」


本条は胸元から出したボールペンの芯を出し、男の手のひらを一気に壁に叩き付けた。

その衝撃で芯が出たボールペンが手に刺さっている。


あまりの痛みに男がしゃがみ込んで手を押さえた。


「ほら、立て。」


黒崎が一ミリも動揺することなく冷酷に言う。


「いやいや!鬼か!痛過ぎて無理だって!」


「今から拷問が待ってるんだ。そのくらい我慢しろ。」


「こんなの人権侵害だ!」


「残念ですが、あなたの人権は先程剥奪されました。」


「KAD組織にはそんなもの存在しない。」


ピシャリと二人に言われ、男は項垂れた。




KAD組織、要塞。


「黒崎、本条、よくやった。後は執行人のところへ連れて行く。

本条は彼女から事情を聞いてくれ。帰りは家まで送るように。今回の件は知られたくなければ親御さんに補導したとでも伝えてくれ。」


「はい。」


「黒崎はまた任務に当たってくれ。」


「分かりました。」


「それと、君も下校後はなるべく早く帰りなさい。」


「ご、ごめんなさい。」


そう言って紫月は男を連れて去っていった。




数日後。学校。


数日前、強姦魔に襲われ、黒崎に助けられた由衣(17)はすっかり丸くなっていた。


友人A「えー!ゆっこ、ボーイフレンドたちの連絡先、全部切ったの?」


友人B「真面目な男がいいって急にどうしたのよ!」


由衣は窓の外を見て言った。


「へへ、内緒〜!」


と、その時。

教室にいた男子たちの会話が聞こえてきた。


クラスメイト1「なーなー、知ってる?島田、まだ童貞なんだってよ!」


クラスメイト2「まじかよw、今度女の子たち集めてきてやろうか?」


島田「い、嫌だ!」


「「え?」」


思わぬ反応に二人はハモる。


「僕は、結婚する人としたか、そういうことはしたくないんだ。」


「ぶっは、マジかよ!今時女だってそんな夢見ないぜw」


「島田ぁ、お前ってマジやべーよw」


その言葉に、あの時の黒崎の言葉を思い出す。


「一緒にするな。俺は生涯ただ一人、妻だけだ。」



友人A「なにあれ。」


友人B「あんなんじゃ島田のやつ、一生童貞だよ。」


友人A「言えてるー。ね、ゆっこ!」


「どうだろ。」


ふーん。島田、いいじゃん。

まぁ、島田と私じゃ違い過ぎるか。

私、処女じゃないし。きっと清純派タイプのお嬢様が好きなんだろうな。

って!いやいや、島田の好みなんて別になんだってよくない?

何考えてんのよ私!



その数日後。

なぜか島田に呼び出され、告白される由衣だったが、満更でもない様子だった。


「てか、なんで私?」


つま先で地面を軽く蹴りながら聞く。


「椎名さん、分け隔てなく接してくれるし明るくて可愛いから。」


なによ、島田。嬉しいじゃん。


「でも、私、処女じゃないよ?」


「ゲホゲホッ、やっぱりこの前の聞かれてたよね・・・。」


「まぁ、あんだけ騒いでたらね。」


「はは、僕ダッサ・・・。笑っていいよ。夢見てるって。」


「そうかな?別にいいじゃん。島田がそうしたいって思うなら。ダサくないよ。」


「あ、ありがとう・・・あのさ、椎名さんはモテるし、その、初めてじゃないのは知ってるよ。

でも、僕は自分と同じものを相手には求めてないんだ。ただ、好きな人がいい。それだけなんだ。」


「大事にしてくれる?」


「え?」


「もし・・・私が島田の彼女になったらさ。」


「もちろん!大事にするよ!好きな人なんだから!」


必死になってる島田が愛おしく見えた。

ああ、私って島田が好きなんだ。


「ものすご〜く!大事にしてくれる?」


顔を真っ赤にしながら言う由衣にさっきまで慌てていた島田は落ち着いた表情になり頷いた。


「うん。」


「よし!じゃあ、島田の彼女になってあげる!」


「え、本当に?」


「嬉しい?」


「当たり前じゃないか。好きなんだから嬉しいよ。」


「ただし、こーんな可愛い私と付き合うんだから浮気したら絶対許さないからね!」


「しないよ、椎名さんって結構可愛いこと言うんだね。」


「本気で言ってるんだよ?」


「分かってるよ。今まで付き合ってた男の人、みんな浮気してたもんね。」


「ガ〜ン・・・島田、あんた、童貞のくせになんでそんなこと知ってるのよ。」


「だって、椎名さんが付き合う男の人、しょっちゅう歩いてる女の子違ってたから。

椎名さんは一人ずつちゃんと別れてから付き合ってたみたいだけど。

僕、ゲーセンによく行くから見かけるんだ。

あっちは僕のことなんて気付いてもなかったけど。」


「はぁ〜・・・もう、なんなのよ。」


全てを見透かされていたことが恥ずかしくなり、由衣がしゃがみ込む。


と、その時。


「お前たち〜!下校時刻過ぎてるぞ!」


「あ、やばい先生だ!島田!行くよ!」


「うん!」


由衣は勢いよく立ち上がり島田の手を掴んだ。


「「すみませ〜ん!!」」


二人は手を繋いだまま走った。

少し前までの下校後の行く宛と言えば、由衣はボーイフレンドと、島田はゲーセンだった。

そんな二人に新たな時間ができた。


由衣の家の前。


「島田、ありがとね。帰り気を付けてよ?」


「誰も僕なんか狙わないよ。」


「そんなの分かんないじゃん!私みたいにいいなって思う人いるかもしんないじゃん。」


「ありがと・・・。」


数秒見つめ合い、由衣がキスをしようとしたが

島田は驚き過ぎてすっ転んでしまった。


「わあぁっ!」


「ちょ、島田!?」


どし〜ん!


「もう、大丈夫?」


手を差し出す由衣。


「だって、椎名さんがいきなり顔近づけてくるから・・・。」


「キスくらいで大袈裟ね。」


「大事だよ!それに、手繋いだのだって椎名さんが初めてだし・・・それだけでいっぱいいっぱいなんだよ。」


島田の童貞はしばらく続きそう。

でも、いっか。手を繋ぐのもキスをするのも好きな人がいいって改めて思わせてくれた。


「島田」


「うん?」


ちゅっと軽く頬にキスをする。


「!!!?」


ぷしゅ〜っと島田が真っ赤になる。


「また明日ね。」


「は、はぁい・・・。」


ダッシュで帰っていく島田を見守る。


だって島田は私の特別な人だから。






「真面目な彼②」


喫茶店。


むすっとしながら目の前の椅子に座っているのは椎名由衣さん。僕の彼女だ。


「ねー、機嫌直してよ。」




遡ること1時間前。


喫茶店に向かう途中、初恋の話題になり、

由衣は小学校三年生の時の鈴木君だという話になった。

それに加えて島田にも聞こうと試みた。

きっと、島田は私って言う。そう意気込んでいたのだ。

しかし、島田の初恋は中学二年生の時のしおりちゃんだと返ってきたものだから結衣は大変ご立腹なのである。


「島田が初恋済みなんて聞いてない。」


「って言われても、同じ図書委員ってだけで何もなかったよ?」


「分かってるよ、過去のことだもん。

私だって色々な人と付き合ってきたし文句は言えない。」


「そうだよー、僕なんかそれ見ちゃってるんだから。」


「でも、なんだかちっとも面白くない。」


「そんなにしおりちゃんにヤキモチ妬かなくても。」


「それよ!」


「え?」


「なんで、しおりちゃんは名前で、私は椎名さんなのよ。それが面白くない!」


「じゃあ・・・名前で呼んでいいの?」


「もちろんよ。」


腕を組み、結衣が頷く。


「結衣さん。」


「ドキッ・・・。」


んん!?名前って呼ばれ慣れてると思ったけど意外と破壊力あるわね!?


「これでどう?」


「い、いいんじゃない。」(ツーン。)


「あ、じゃあ、僕も名前で呼んでよ。」


「え」


「ひょっとして名前知らなかった?僕は。」


京兎(けいと)。」


「なんだ、知ってたの。」


なによ、こっちは名前呼ばれてドキドキしたって言うのにあっさりしちゃってさ。

しおりちゃんって子に呼ばれ慣れてたってわけ?


怒りが冷めやらぬうちに喫茶店を出て街を歩く。


「あれ、由衣じゃん。」


「ほんとだ。」


その時、二人組の男の人が話しかけてきた。

あ、この二人、結衣さんと付き合ってた人たちだ。


「なに、俺ら振ってこんなのと付き合ってんの?」


「ひょろっとしてメガネかけて、いかにも根暗そうw」


「うるさいわね、別にいいでしょう?」


「そんなつれないこと言わないでさ〜、また付き合おうぜ。」


「なんなら、その子も一緒でもいいからさ。」


「嫌よ。」


「いいじゃん。結衣とのセックス良かったって評判なんだからよ。」


「ちょっと、彼氏の前で辞めてよ!

彼はあんたらと違って純粋なんだから。」


「え、まじ?まだヤッてないの?」


二人組のうちの一人が島田に絡む。


「なぁ、結衣のアレ、めちゃくちゃいいぜ?

早くヤッちまいなよ。そしたら童貞卒業でき・・・。」


ぐんっ!


「うわっ!?」


瞬間、島田が自分の肩を掴んでいた男の腕を払い、胸ぐらをぐいっと引き寄せた。


え、島田?


「彼女を侮辱するな。そういうのは、自分の中だけに留めておけよ。女の子の心を傷付けるな。」


「京兎・・・。」


「な、なんだよこいつ。何マジになってんだよ。」


「ふざけんじゃねー・・・。」


島田が掴んでいない方の男が殴りかかろうとした時だった。


「おい、喧嘩はよさないか。」


背後から声が聞こえて振り返ると、そこには黒崎がスーツ姿で凛と立っていた。


「いこうぜ・・・。」


「お、おう。」


結衣に絡んだ二人は黒崎の威圧感に負けて去っていった。


「ありがとうございます、黒崎さん。」


「どういたしまして。」


「知り合い?」


「あー、うん。この間しつこいナンパに合って助けてくれたの。あの時はありがとうございました。」


「いえいえ、この子は彼氏?」


「はい。」


「意外だな、もっと派手な相手を連れてるかと思ったよ。」


「変わったんです。大事にしてくれる人っていいなって。」


「へー、良かったね。」


「へへ。」

と島田がはにかむ。


「俺、警察なんだけどね。」


「え!やっぱりそのバッジ、KADですよね?」


「よく知ってるね。巡回をよくするんだけど最近、夜に君を見かけなくなったんだ。

それは彼のおかげかな?」


「はい。もう大変なんですよー!

下校後、いつも家まで送り届けられるし、

遊びの日も17:00には帰らされるし。過保護過ぎません?」


「う〜ん、俺には惚気てるようにしか聞こえないけどね。」


「小学生じゃないんだからもうちょっとさ〜。」


「でも、受け入れてるところ見ると満更でもないんじゃない?」


「そ、それは・・・。」


「じゃあ、俺は行くよ。お二人さん仲良くね。」


「「はい」」


事件のこと黙ってくれて助かったな。

てゆーか黒崎さん、結構巡回してるんだ。大変そう・・・ん?


周りを見ると同じスーツとバッジを付けた人たちがちらほらといた。

こうやってよく見ると怪しいな・・・。


しかもなんか増えてる!!


「結衣さん、どうしたの?」


「なんでもない!行こ!」


「うん。」


あ、と結衣の動きが止まる。


「?」


「京兎、さっきはありがと・・・。」


「僕は当たり前のことをしただけだよ。」


結衣が島田の手を引いて歩き出す。

島田は繋がれた手を見て嬉しそうにはにかむのだった。




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