エピローグ
僕の作曲はそれからほどなく完成し、ロスでのレコーディングも済ませた。
グロリアについては、セデュが法的措置をちらつかせたのか、ちょっかいをかけてくる様子もない。
そうこうするうち撮影も無事終わり、今日は打ち上げのパーティーだ。
イヤらしい大人たちの権謀術数渦巻くパーティーから早々に離脱して、ティーナほか若手の数名と、スタッフさんの何人かと、セデュと僕はマリブのビーチに向かった。
黄昏の海岸に焚火を灯して、ギターを持ち込んだ美術さんがムーンリバーを歌う。裸足でビーチに立ったティーナはくるくると優雅に無邪気に踊り、彼女の影が飛び跳ねる。うっとりとそれを見つめるソバカスに赤毛の若手俳優が、さかんに拍手を贈っている。
僕らはそれを遠目に眺めて、波打ち際を散策した。
サンダルを脱いで手にもって、裸足を波にくすぐられるに任せる。寄せては返す波は真昼の日差しにあたためられたままなのか、どこか生暖かくて、心地よい。ずぶずぶ足先が埋まりそうになるたび、砂ごと波が洗い流す。
歓声の隙間に潮騒が聞こえて、ひどく懐かしいような気分にさせる。
セデュは僕の隣を歩いている。波間に沈む、溶けてるみたいな太陽を見ているのか、それとも僕を見ているのか、振り向かない僕にはわからないけれど、彼がそばにいてくれることを痛切に感じる。
砂からうまく足が抜けなくなってよろめくと、彼がすぐに僕の手を取る。
「大丈夫か」
「へーきだよ。まぶしくて、きもちいいねえ、黄昏の海。新しい曲想が浮かびそう」
「それはよかった」
言いながらも手を離さないセデュを見上げれば、蕩けそうに見つめる瞳と目が合う。
キスされるのかな、とぼんやり考える僕の肩にセデュは手を置いて、
「踊らないか」
と、甘い声で囁いた。
「ええ、僕、踊りは苦手だなあ、やったことないもん」
「大丈夫、リードする。お前は揺れているだけでいい」
肩と腰に手を置いたまま、耳元にセクシーな声を吹き込まれては、僕に抵抗する気力はなくなってしまう。
遠く聞こえるムーンリバーと、潮騒に合わせて僕らは踊る。
金色の夕日にきらきら輝く水面を前に、時を忘れて、離れないように、きつく抱きしめあって。
「愛している。おまえは、わたしの命だ」
「おおげさなんだよなあ、いっつもさあ…」
「おまえは? 私といて、幸せを感じていてくれるか?」
揺れながら念を押す、心配性のセデュに、僕は満面の笑顔を向けた。
「しあわせだよ、ぼく、最高にしあわせだ!」




