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蛇公爵が、運命の人に出会ったら。〜こじらせ公爵と、幸薄令嬢の初恋物語〜  作者: 織子


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第一話ーマーシャル·グレイシス


ーーー待て待て待て。この娘、異常に可愛いんだが?




❋❋❋❋❋❋


この世界にも慣れたものだ。20数年も生きていれば、異世界だろうともう何が起きようが大抵の事には驚かない。

それは蛇の獣人であり、大国ダナンディアの公爵であるマーシャル·グレイシスには当然の事だった。


獣人、魔族などの、半人外の者たちと、人族が共生している世界に、マーシャル·グレイシスは転生した。


The、ファンタジーそのもののような世界で、魔法はおろか、聖女にも、勇者にも会った。

しかし幼少期の辛い体験のせいか感情の一部が欠落し、そのような伝説の人物に会っても、ドラゴンを倒すなんて夢物語のような実績があっても、マーシャル·グレイシスはなんの感慨も湧かなかった。




ーガシャン!


そんなマーシャル·グレイシスが、たった1人の令嬢の可愛さに驚き、グラスを落とすなど、誰が信じただろうか。




「大丈夫ですか?」

その令嬢は、淡いクリーム色の髪をなびかせ、翡翠のような瞳を見開いてこちらを見た。


「こちらをお使いください」

そう言って白いハンカチーフで、赤く染まったシャツをポンポンと拭いてくれた。


(かたじけない)

「早く落とさないと染みになりますよ」

(赤ワインだからな)


「·····?」

返事がないことに、令嬢はきょとんとこちらを見上げる。


(·····ッッ!?)

マーシャルは動揺し過ぎて声が出ない。ぱくぱくと口だけ開き、自分でもどうしたらいいか分からなかった。



「マーシャル?どうした」

後ろから来た友人の一言に、令嬢は驚いて頭を下げた。


「公爵閣下でありましたか。無礼を働いてしまいましたら申し訳ありません」

「いやいや、見てたよ。グラスを落としたのを助けてくれたんだろう?もう行っていいよ。ありがとう」

友人はそう言って令嬢を下げさせた。令嬢はお辞儀をすると、そそくさとその場を去った。


マーシャルはありがたいやら、ありがたくないやらで友人を睨んだ。


「うわ。なんだよ。困ってたから来てやったんだろう?俺にそんなに睨みを効かせるのはお前くらいだぞ」


マーシャルはため息をつき、謝った。

「そうだな。助かったよ」


「ほら、早く着替えに行くぞ。じゃないと会場中のご令嬢たちが、ハンカチを持って詰め寄ってくるぞ」


何を言っているのやら。マーシャルはとりあえず友人に付いて会場を出た。




「ぼーっとしてどうした?珍しいな」

マーシャルを連れ出した友人は、勇者アレンデル。マーシャルと仲間たちと共に、魔王を倒し、ドラゴンを倒し、ダナンディアの英雄となっている男だ。爵位も授与されている。


「ああ、いや。なんでもない」

マーシャルは自分でも分からず、そう答えるしかない。


「ふぅん?お前、陛下に挨拶したか?まだなら一緒に行こう。俺はまだちょっと礼儀作法に自信がない」

アレンデルに言われ、着替えてまた会場に戻った。


王家主催のこのパーティーは、未婚の貴族が主に招待されている。公爵という地位にあるマーシャルと、侯爵の爵位を賜った勇者アレンデルが、いつまでも未婚の為に開かれた婚活パーティーとも言える。



「ダナンディアの唯一の太陽に、マーシャル·グレイシスがご挨拶申し上げます」

マーシャルが言うと、アレンデルもそれに習ってお辞儀をした。


「久しいな。公爵、侯爵。元気そうだな?」

玉座に座るユリウス·ダナンディア1世も、マーシャルの旧知の仲だ。


「陛下もお変わりないようで」

「そんな話し方はよせ。我々の仲だろう。で、どうだ?気になる令嬢はいたか?」


アレンデルはジロりとユリウスを見て言った。

「そんな訳ないでしょう」


勇者アレンデルには想い人がいる。ユリウスの妹姫だ。ユリウスはそれを知っていながら言ったのだ。

「まぁ侯爵はそうだろうな。公爵はどうだ?」

「いえ私も···」


ユリウスは盛大にため息をついた。

「はー、アレンデルは仕方ない。だがマーシャル。もう24になるんだったな?そろそろ相手を決めてくれ。公爵ともあろうものが、未婚のままではいられないぞ」


マーシャルは言われ慣れ過ぎて、 右から左に受け流した。

女性は面倒だ。後継者は養子を取ればいいと思っていた。自分の好きではない蛇の血を、次に繋げたいとも思わない。自分に嫁ぎたい女性もまたいないと思っている。


明らかに聞いていないマーシャルに、ユリウスは言った。

「マーシャル。今日のパーティー、一度は令嬢とダンスしろ。命令だ」


マーシャルはユリウスに即座に視線を戻した。ユリウスはニヤリと笑っている。


(ーはぁ。面倒だ)

マーシャルはげんなりして承った。

「·······御意」


こんなことなら、衣装が汚れた時点で帰っていれば良かったと思い、とりあえず会場を見渡す。

我知らず、クリーム色の髪を探している自分に気付く。

(先ほどのご令嬢の姿は見えないな)


白蛇の獣人であるがゆえに、真っ白な髪と、血色の悪い白い肌。目つきの悪い紅い目。皆、自分が恐ろしいのだろう。目が合った女性が固まっていくのが分かる。

(私はメデューサか)

ーふぅ。陛下も酷な命令をするものだ。


マーシャルは諦めたように会場から中庭に出た。






その姿を見て、ユリウスとアレンデルは言った。

「全く。あれで女性に嫌われていると思っているのだから、手に負えないな」

「ええ。男でも見惚れてしまう容姿です。女性が緊張するのは当然のことなのに」


2人はいっそ哀れな男の背中を見て、同情を含めてため息をついた。



読んで頂きありがとうございます。

いいね!ブクマ、コメント等いただけると嬉しいです。励みになります。


第2話は明日の9時頃更新予定です。

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