第7話 夜襲
一気に進んでいきます。
ブンッ、ブンッ、ブンッ
刃が空を切る音が連続する。
「995…996…997…」
買い物から帰ってきた俺は、夕食が出来るまでの時間、家の庭で素振りをしていた。素振りなど少しかじっていた剣道をやめて以来である。しかも竹刀だったあの頃とは違い、今は真剣。腕に溜まる疲労はかなりのものだった。ちなみに、ノルマは1000回。
「…998…999…1000!だー!疲れたー!」
久しぶりなのに無茶しすぎた。てゆうかこれ重い。普通の日本刀よか大分長いけど、それでも重過ぎると思う。多分、刃の材質が鉄ではないのだろう。振るのが辛い。
「なんにしても、なんとかするか」
こうして毎日鍛えてればなんとかなると思う。
「そういや、魔法ってどうやるんだ?」
しまった。やり方を全く聞いていない。
「やっぱり詠唱とかすんのか?それとも魔法陣?」
考えていると、後ろから声を掛けられた。
「いつまでやってんの。もうご飯の準備できたわよ」
エルナだった。手伝いをしていたのかエプロン姿だった。
「おお、エルナか。丁度いい、ひとつ聞いてもいいか」
「?なによ」
「魔法ってどうやるんだ?」
「どうやるって・・・」
エルナは俺の質問にあごに手をやって考えると、庭に生えている木に手を向け、
「フレイムランス」
手のひらから以前森で見たような棒状の火を出した。棒状の火_よく見ると先端部分が鋭くなっていて槍のよう見える_は木にぶつかり、そのまま爆発した。
「・・・」
呆然としている俺にエルナが一言。
「こんな感じ」
「分かりません」
正直な気持ちだ。今ので分かるほど俺は頭脳明晰ではない。
「そりゃそうか。ん~、あえて言うならイメージね」
「イメージ?」
「そう、イメージ。魔法の形をイメージするの。そしたら勝手に具現化するから」
「そんなのでいいのか?」
「うん。・・・あ、でも、ちゃんと自分の属性に合ったのじゃなきゃダメだから」
イメージか・・・。うまく出来るか心配だ。
あれ?そういえば、
「なあ」
「なによ?」
「オマエ、街で不良に絡まれたとき、なんで魔法とか使って追い払わなかったんだ?」
「それは…、その…」
悲しい顔。俺の質問にエルナはそんな顔をしている。・・・まずい、タブーだったか。
「いや…、言いたくないな「ダメなの」…へ?」
「昔ね、魔法で友達を怪我させちゃったの。傷はあんまり酷くなかったんだけど、その子が痛がってる姿が頭から離れなくて。それ以来、どうしてもひとには魔法が撃てないの」
「そうか・・・」
きっと偶然なのだろう。その友達とやらも、もう許しているはずだ。それなのにエルナはずっと気にしている。
「バカだな」
「そうよね。自分でも分かってはいるんだけどね」
エルナもどうにかしたいと思っている。でも、あと一押し足りないのだ。
「さ、早くご飯いこ。早くしないと、おばさん怒っちゃうよ」
「ああ、そうだな」
走っていくエルナ。どうしてやればいいの分からない俺はただ追いかける事しか出来なかった。
「で、それがアンタの武器かい?」
食事中、おばさんが壁に立てかけている《飛鳥》を見ながら言ってきた。
「はい。俺がいた世界で昔使われていた物です」
「ほう、そんなものが・・・。ちょっと見せてくれ」
「あ、どうぞ」
俺は《飛鳥》を取って差し出す。受け取ったおばさんはゆっくりと刃を抜き放った。
「ずいぶんと長いね。・・・!なるほどね」
なんだ?一瞬驚いた顔をしたと思ったら、急に真面目な顔になった。
「あの、どうかしたんですか?」
「いや。大したことじゃないよ」
おばさんは不適に笑った。ごまかされた気がするが、いいか。・・・あ、やべ、忘れてた。
「おばさんにアレフさんから伝えてくれって言われたことがあるんですけど」
「なんだい」
「確か、近々国の偉い人が来るって言ってました」
「!・・・そうか。ありがとね」
おばさんの目つきが鋭くなったような気がする。
「ねぇ、どうかしたの?」
エルナがおばさんに聞く。勘違いじゃなかったか。
「なんでもない。気にしないでくれ」
そう言われても気になるに決まっている。だが、その後、いくら質問しても、おばさんは答えてはくれなかった。
夜。風呂から上がった俺は、再び庭にいた。魔法の練習をするためである。
「イメージ…か」
装身系の俺は自分の体や武器に魔法を纏わせることが出来るらしい。俺は飛鳥を鞘から抜くと正面に構える。
(魔法を纏わせる・・・って)
「どんな感じだ?」
刀に魔法_俺の場合は水_を纏わせるっていうと、・・・〇EBORNの〇本みたいにか?とりあえずやってみるか。
(考えろ…。雨の〇を纏ったような感じだ…)
しばらく集中するが、刀身に変化なし。もしかして俺、才能無い?
落胆していると、また声を掛けられる。
「アンタ、こんな時間に何してんだい?」
振り返ってみると、それは寝巻き姿のおばさんだった。
「魔法の練習です。といっても全然出来ないんですけどね」
苦笑交じりに言ってみる。
「やり方は知ってるのかい?」
「はい。エルナに教えてもらいました。形をイメージするだけでいいんですよね」
「それは…、まったく、あの子は…」
おばさんが呆れたような声を出している。
「なんか違ってるんですか」
「いや、間違っちゃいない。でも、それじゃ足りないんだよ」
「足りない?」
「ああ、形だけでなく役割も考えなくちゃならないんだ」
「役割…ですか」
「そう。あの子の魔法は見たかい?」
「はい。あの木に向かって撃ってるのを」
エルナの魔法の被害に逢った木を指差す。
「あれは…多分フレイムランスを使ったね。この魔法の役割は爆発、だよ。」
そういや確かにあの魔法は木にぶつかると爆発していた。
「あれはね、爆発はするけど燃えはしないんだよ。役割は爆発だけだからね」
「役割はひとつしか付けられないんですか?」
「いんや、理論上は限界はない。でも実際は違ってね、記録上の最高はたった六つなんだよ。しかも、威力はガタ落ち。たくさん付け過ぎるのはお勧めできないね」
「じゃあ、俺はどんな役割にすればいいんでしょう?」
「そうだね…、やっぱり、切断とかじゃないのかい」
「切断、ですか」
眼を閉じて意識を集中する。刃の周りに水がある・切断する、この二つをイメージする。
「ほお、たいしたもんだ」
おばさんの感心するような声に眼を開く。飛鳥の刃が水で覆われていて、一回り大きくなったようにみえる。
「よっしゃ!成功!」
喜んで気を抜いた途端、水が消えてしまう。
「あー」
「はじめてにしては上出来の方だよ」
「はい。アドバイスありがとうございます」
「いいからさっさと寝な。子供は寝る時間だよ」
子供扱いはイヤだったけど、ここはおとなしく従って寝ることにする。
「じゃ、おやすみなさい」
おばさんと別れた俺はベットに横になりながら、右手に意識を集中させていた。右手に魔法を纏わせようとしているのだ。イメージは、水で出来た籠手・防御、だ。眼を瞑り、明確にイメージする。
イメージが固まると、右手が不思議な感触に包まれる。眼をひらくと、右手が半透明な籠手に包まれていた。なかなかのできばえにニヤリとした。
瞬間、
バリィィィィンツ!!
ガラスを割ったような音が響き渡った。
反射的にベットから飛び降り、飛鳥を引っ掴んで、部屋の扉を開けた。ワンテンポ遅れて、隣のへやからエルナが顔を出す。
家の外から拡声器で増大したかのような声が聞こえてくる。
「メイラ・ベルティ!貴女を殺人罪の容疑でレパーラ中枢都市ミナレットまで連行する!無駄な抵抗はやめたほうがいい!この程度の障壁では我等第一魔兵隊は防げぬ!時間稼ぎにしかならぬぞ!」
メイラ・ベルティ!?確かおばさんのフルネームだったはず。殺人?レパーラ?どういうことだ!?ダメだ、混乱してきた!
「時間稼ぎが目的だってことに気づかんのかね青二才ども」
ダイニングにつながる扉からおばさんが出てくる。
「おばさん!殺人って、それにレパーラって、どういうことなの!?」
エルナが勢いよく問いただす。おばさんは悲しげな表情をして、
「すまないねエルナ。時間が無いんだ」
エルナに右手を向けた。
すると、エルナの体が一瞬で消えた。
「エルナッ!?おばさん!エルナをどうしたんだっ!」
おばさんは右手を今度は俺に向けてくる。
「大丈夫。エルナは無事だよ。これからアンタも同じところに転移させる」
「転移!?」
バリィィィィンツ!!
再び、先ほどと同じような音が響いてきた。
「エルナに、アンタとの生活、退屈はしなかったよって伝えといてくれ」
「ちょっと待ってくれ!今の音は一体・・・」
俺の言葉を無視し、おばさんはさらに告げる。
「それからトモヤ、エルナのこと、守ってやってくれ」
その言葉が聞こえた瞬間、俺の視界は暗転した。
どうでしたでしょうか。
魔法の描写がうまく描けなかったと自負しています。
こっからはサクサクいきます。