第5話 初めてのおつかい
投稿遅れました。これからはもう少し早く出せると思います。
閉じているまぶたの隙間から朝日がはいってきて、無理やり意識を覚醒させられる。重たいまぶたをどうにかして開けようとしながら、昨日のことを振り返る。昨日の記憶は、夕食の後、用意してもらったベッドにダイブしたところで途切れている。そして、異世界に来たのだと改めて思い、これからどうしようかと考えながら、ゆっくりと眼を開くと、
目の前には、穏やかな寝息を立てて眠っているエルナがいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だ。衝動的な欲求に支配された覚えはない。
だとしたらナゼだ?こんなおいしいイベントが起こるようなフラグを立てた覚えはない。じゃあどうして?
思考を重ねていると、エルナがわずかに動いた。起きたのかと思い、反射的にエルナの顔を見る。どうやら杞憂だったようだ。いくら考えても答えが見つからないので、何となくエルナの顔を観察してみる。眠っているときに髪を結んでいるはず無く、今は髪を下ろしていた。その姿がとてもきれいで思わず見惚れてしまっていた。
不意に、エルナの両目が半分ほど開かれた。バッチリ眼が合った。合ってしまった。
エルナはゆっくりとした動作で眼をこすると、今度ははっきりとした眼でこちらを見てきた。………これはあれだな。キャアアアアアアアッ!とか悲鳴を上げながら殴られるな。
エルナはというと、こちらを確認し、一度ギュッと眼を瞑ると再び俺のことを確認した。そして、間違いではないことに気づくと、ポッと頬を真っ赤にした。
「ト、ト、トモヤ!?」
「え、えと・・・。とりあえず、お、おはよう」
「う、うん。お、おは・・よう」
真っ赤になって俯くエルナ。・・・・ナニコレ、メッチャ可愛いんですけど!なんか女の子っぽいんですけど!あれ?もしかしたら殴られたりせずにすむ?
「イ…」
「イ?」
「イヤァァァァァァァァッ!!!!」
腹に感じる鈍い痛み。一瞬の浮遊感。背中に走る衝撃。ここまで認識した時点で俺は自分が吹っ飛ばされて壁に叩きつけられたのだと分かった。
朦朧とする意識の中、思った。本当にこれからどうしよう、と。
「ごめんなさい」
気絶から復活した俺が一番最初に聞いたのはエルナの謝罪だった。
「すまないね。エルナったら夜中トイレに行って戻ってきたときに布団を間違えたらしいんだよ」
立て続けにおばさんに謝られて俺は先程のことを思い出す。
「殴られ損ですかチクショー」
「う…。だ、だからゴメンって...」
「もうその話はここまで。早くしないとご飯が冷めちゃうよ」
おばさんの鶴の一声で俺たちは飯を食べ始めた。ちなみに、メニューはパンとスープだけの質素な物だった。
「……」
「……」
食事中、俺たちは終始無言だった。といっても量が量なのであっさり食べ終わったが。
全員の食事が終わるのを見計らい、おばさんが言い出した。
「エルナ、今日はトモヤと一緒に街まで買い物に行って来てくれよ」
「え…、な、なんでトモヤも一緒なのよ?」
確かにそうだ。昨日こっち世界に着たばかりの俺がついて行くよりも、慣れているエルナが一人で行ったほうが効率が良い筈だ。
「今回はちょっと量が多いからね。……それに、トモヤの武器を見繕ってやらないといけないからね」
「そりゃそうだけど」
・・・・・・おかしい。今、変な単語が聞こえた気がする。
「あの~、ひとついいですか?」
「なんだい」
「えっと、俺の武器って何ですか」
「あれ?言ってなかったかい?装身系の魔法使いは武器の携帯を許可されているんだよ。魔物に襲われても平気なようにね」
「そうなんですか」
「んじゃ、これからすぐに行って来てくれ。・・・・・ああ、そうだ、武器屋の主人にコレを渡しといてくれ」
そう言っておばさんが渡してきたのは一通の手紙だった。
「あの、これは?」
「いいから渡しといてくれよ。それじゃ」
言うが早いがおばさんは裏口から出て行ってしまった。
「あっ!ちょ、待って!」
椅子から立ち上がりエルナが呼び止めるが、おばさんは戻って来なかった。
「…」
「…」
「…とにかく行こうか」
「しょうがないわね」
やや脱力した感じでつぶやくと、エルナは身支度を整えに行った。
「スッゲェ…」
思わずそう漏らしてしまうくらい街は凄かった。なにがスゴイかっていうと、大きさだ。ぱっと見ただけで俺がいた街の2倍はあるなって分かる位だ。
「なにボケっと突っ立ってんのよ。早くしなさい」
気づくとエルナは先に進んでいた。
「酷っ!ちょっと待てよ」
あわてて追いかける俺のことをエルナはちゃんと待っていてくれた。
「ったく、何してんのよ」
「ゴメンゴメン。でまずはどこへ行くの?」
「まずは、アンタの武器を買いに行くから。ついてきて」
・・・・・武器か。
「なあ、エルナ、武器ってどんなのにすればいいんだ?」
「知らないわよそんなの」
「知らないって、おまえ…」
「うるさいわね。いいのよ、あたしは放出系なんだから。武器のことなんて知らなくても問題ないのよ」
「そういやそうだったな」
ふと、周りを見てみる。買い物をしている人、知り合いと話している人、何をするわけでもなくただ歩いている人。元いた世界と大差ないように思える。が、そのうちの半分ぐらいの人がナイフや弓矢、変わったものでは棍棒、斧を持っている。おそらく、あれ全員が装身系の人なのだろう。
「着いたわ。ここが武器屋よ」
目の前には、いかにもといった様子の古めかしい店があった。
「いや、ボロくね?」
「文句言わない。ここが一番安いんだから」
値段で決めんのかよ。…まあ、確かに女の二人暮らしとはいえ、家計はお世辞にも潤っているとはいえないのだろう。
「ほら、さっさと入る。・・・ごめんくださーい」
エルナが先に店に入っていってしまった。
「じゃ、俺も行きますか。失礼しまーす」
店に入って最初に感じたのは、強烈な鉄臭さだった。あまりの臭いに鼻をつまむと、
「こら、失礼でしょ!・・・えーと、アレフさーん、いますかー?」
「はいはいはーい、ただいまー」
エルナが呼びかけるとカウンターの奥から声がした。しばらくすると、カウンターの奥からつなぎ姿で埃まみれの若い男が飛び出てきた。
「いやー、ゴメンゴメン。物置の中を整理してたら色々面白そうな物が出てきてね、ついつい調べてみちゃったんだよ」
「相変わらずですね。アレフさん」
「返す言葉も無いよ。…ん?そちらの彼はどちらさまだい?」
「彼は…ほら!自己紹介する!」
エルナに睨まれた俺はあわてて自己紹介をする。
「はじめまして。篁 智哉です」
「はい、はじめまして。ボクはアレフ・リノールといいます。・・・その名前と容姿から察するに君は『渡り人』かい?」
「!!」
名前と外見だけで分かるなんて、実はすごい人なのか?
俺の考えていることが分かったのか、アレフさんは苦笑する。
「そんなにすごいことでもないよ。黒髪もそうだけど名前を聞けば大体の人は分かるはずだよ」
「へぇー、そうなんですか」
俺は横にいるエルナをチラッと見てみる。・・・気まずそうに眼をそらしましたよ。
「それはさておき、今日は何の用ですか?」
「ああ、俺の武器を買いに来たんだ」
「武器…ということはトモヤくんは装身系か。…属性は?」
「確か…風と…水だったっけ?」
「自分の事位ちゃんと覚えておきなさいよ。ったく、それで正解よ」
うるさいな。こっちに来て色々有り過ぎたんだよ。
「そうか・・・だったら武器は刃物がいいね」
うん。理由が全く分からんが、ここはその筋の人に任せた方がいいな。・・・あ、
「そういえば、メイラおばさんからこの手紙を渡しておくように言われてました。」
「ん~、なになに?・・・・・・げっ」
「「げっ?」」
ハモッた。結構恥ずかしいな、これ。
「いやー、トモヤくんが買う武器を出来るだけ安くしろってさ。昔メイラさんにはお世話になったから断れないんだよな」
そう言ってアレフさんは苦笑する。世話って何したんだ?
「よし!じゃあトモヤくん、エルナちゃん、ちょっと一緒に物置まで来てくれないかい?」
「なんでですか?」
「蔵の中のものにね、どうもこの世界のものではないと思うものがあったんだよ。良かったら見て欲しい」
「俺が分かる程度のことならいいですよ。エルナはどうする?」
エルナは俺の問いに少しだけ考えると
「あたしはパス。二人が見てる間、買い物済ませてきちゃうわ」
「いいのか?量が多いって言ってたけど」
「大丈夫よ。それじゃあ行ってくる」
そういってエルナは、店を出て行った。
「じゃ、アレフさん、行きましょうか」
アレフさんは頷くとカウンターを開けて奥へ入っていき、俺もそれに続くことにした。
「え~と、これじゃないし、これでもないな」
そういいながらアレフさんは物置からドンドン武器を出してくる。ナイフ、ムチ、剣、ボウガン、馬鹿でかい鎌。危険極まりないな。なんでも物置を整理してたら、いきなりエルナの声が聞こえてきて、あわてて出したものを物置にねじ込んだらしい。
「あった!これだ!これだよ!」
声が聞こえたのでそちらを見てみると物置に上半身を突っ込んでいたアレフさんがゆっくりと立ち上がったところだった。
「これなんだけど、なにか分かるかい?」
アレフさんが手を差し出してくる。その手に握られていたのは、以前の俺には縁遠く、今の俺にとって懐かしく感じられるものだった。
「これは・・・刀です」
「カタナ?」
「はい。俺がもといた世界の、もといた国で、昔使われていたものです」
「ふむ。やっぱりか」
「やっぱり?」
「うん。この…カタナはね、どうも『渡り人』が造ったようなんだよ」
『渡り人』が・・・。ということはその人も日本人なのか?
「ちょっといいですか」
「もちろん」
アルフさんから刀を受け取る。写真などで見た事はあったが、実際に持つのは初めてだ・・・当たり前か。それは予想してたより重たかった。俺はその刀を鞘から一気に抜き放ってみる。刀の長さは1.5m程で、刃は鈍く光っている。
「どんな感じだい?」
「どんなって言われても…。手にするのは初めてだしよく分かりません」
「そうか」
「……でも」
「でも?」
「なんとなくなんですけど・・・なんかしっくりします」
なぜだろう?初めて持ったはずなのに、手に馴染む感じがする。
「なるほど。・・・・・・よし!トモヤくん!」
「は、はい!」
俺の返事を聞いたアレフさんが勢いよく呼んでくる。
「このカタナは君にあげよう」
「え?いいんですか?・・・でも俺、金持ってなくて」
「そんなものはいいんだよ。もともと売り物じゃないし。それに、そのカタナも君にもたれてる方が喜ぶだろうしね」
そういってウィンクしてくるアレフさん。ここまで言われるとな・・・
「分かりました。ありがたく頂きます」
刀を鞘に戻す
「うん。遠慮なくもっていってくれ。・・・あ、ちょっと待って」
「はい?」
「飛鳥」
「へ?」
「そのカタナの銘、というものらしいよ」
「飛鳥、か」
「その子、大事にしてやってくれよ」
「もちろんです。じゃ、俺はこれで」
カウンターを抜け、ドアを開ける。
「トモヤくん」
店を出ようした瞬間、呼び止められる。
「何ですか?」
「メイラさんに、近々、国の偉い人がここらに来るって伝えといてくれないかな」
「わかりました」
「それじゃあ、二人によろしく」
「はい、さようなら」
俺はドアをくぐって外に出る。そして――
「エルナ、どこだろう」
迷った。
感想などがあったらぜひ教えてください。
楽しみにしています。