第46話 最終日
やっほー。作者くんだよ。
つい先日、この作品でたまーにやってる現代の話をやってほしいという意見があったんだが
どうしよう?
まあそこんとこは作者であるこちらの気分しだいということで
大きく鼻で吸い込んだ空気の匂い。口に流れ込んできた空気の味。肌で感じる空気の感触。目で見える空気の色。そのどれをとっても昨日とは違っていた。まあごく僅かなもので普通ならば気付かない。俺はその理由と原因を知ってるから分かるのだが。
実は今日、この街には国の兵士がほとんどいないのだ。市中を見回る兵だけでなく城の護衛のための兵も含め、みんなそろってこの街を出ていて、国王のユアンもついて行ってたりする。
始まりは十数日前、レパーラ北東にある峡谷で怪しげな施設が見つかったとの報せが入ったらしい。調査のために数人の兵を向かわせたが、連絡が途絶えた。何かアクシデントがあったとも考え、さらに人数を増やし再度向かわせたがまたも連絡がつかなくなった。いよいよ事態を重く見たユアンは武装した一個小隊を送った。が、またしても音信不通に。
合計で32人の犠牲者(あくまで予想)が出たとなってはいつまでも椅子にふんぞり返ってる訳にはいかない、とユアン自ら指揮を取り、兵達の生死の確認と謎の施設の破壊のために今朝早く出発した。僅かでも戦力の足しになるかと思って一緒にいこうかと持ちかけたのだが、断られた。
曰く、「これは俺たちの問題だ。お前が首を突っ込むことじゃねえ。お前はお前で自分の日常を過ごせばいい。大体明日もデートだろ。こんなことしてないで明日に備えてさっさと寝ろ」とのこと。確かにそうだな、と思ったので、とりあえずその言い草は無いだろと脛を蹴り上げて部屋に帰った。
「………ッ!」
物思いにふけながら爪を弄くってたら、ついささくれを剥き損ねてしまった。ぷくっと膨らんだ血に顔をしかめながら、とりあえずは傷口を凍らせて止血する。
氷の魔法は便利だ。こんな風にちっこい傷口を絆創膏代わりに塞いだりできる。傷に雑菌が入ったりする心配が無くて助かる。最初は冷たさを我慢する必要があったけど、今では冷たくない氷を作れるようになった。役に立つのか?気付いたら使えなくなってた水や風の魔法よりは役に立つだろうからいいけどさ。
そういや街の兵士が少ないって事は昨日みたいにからまれたら自分達で何とかしないといけなくなるのか。いざとなったら冷凍ビームだな。出せるかは知らんけど。
「――トモヤーッ!」
お。向こうからアリスが元気一杯に走ってきた。元気があるのはいいんだけど、そんな風に大声で名前を呼ばないで。周りから「あんな小さい子と…」的な視線が突き刺さる。
ホットパーカーにショートパンツ、そして黒いニーソ。絶対領域が眩しくて、目を焼かれること覚悟で凝視していたらあっという間に目の前に来た。足速いなコイツ。
「ねえねえ、どう?似合ってる?」
目をキラキラさせながら尋ねてくるアリス。着た事の無いもの着れてテンション上がってんのか?
「ああ、とってもカワイイよ」
「えへへー」
満面の笑み。輝いて見える。眩しい…このコ眩しいよ!ヤメテ!そんな顔見せないで!俺みたいな薄汚れた人間からしたらその笑顔は眩しすぎる!
あ、よく見たら服のすそから尻尾が出てる。ぶんぶんと振り回してるから嬉しいのか。愛らしいので頭を撫でる。
「あぅー」
顔を蕩けさせ始めたので、調子に乗って耳をいじりながら首のあたりも撫でてやる。
「はぅー、ダメだよトモヤー」
陽だまりに置いたバターみたいに蕩けきった笑顔。反応が面白かったので尻尾をもふもふしながらお腹をさすろうとし――止めた。
周囲からの冷たい視線!温度はもう絶対零度!俺にはそこまで低温は出せない。
そこに立ってるのが居た堪れなくなったので、ふにゃふにゃになったアリスを引っ張って一目散に退散した。
「あー、ワンちゃん!」
それなりに人通りのある道を歩いていると、隣にいたアリスが走り出した。向かったのは前から来ていた優しげなお姉さんとその手にもたれたリードに繋がれている犬。詳しくないから種類は分からないがとりあえず撫で心地はよさそうだ。
アリスは楽しそうに犬を撫でながらお姉さんと歓談している。一瞬で仲良くなったな。スゴいぜ。
そこそこ動物好きな俺も混ぜてもらおうと近づき、
「ウ~、バゥッ!」
吼えられた。さっきまでアリスに撫でられてあんなに気持ちよさそうだったのに、今では歯を剥き出しにして威嚇してきやがる。
くそっ、いつもこうだ。初対面の動物は必ずといっていいほど俺に敵愾心を向けてきやがる。俺が一体何をした。
お姉さんとアリスが必死になだめているが犬っころは威嚇をやめない。むしろ二人を俺から庇う様な位置に移動している。
……はっ!上等だ。犬畜生が俺に歯向かった事、後悔させてやらぁっ!!
「ガウッ!」
「……え~っと、あんな子と付き合って、アナタも大変ね」
「あ、あははは……はぁ」
アリスとお姉さんの小さな会話は、犬とガチンコ勝負を繰り広げている俺には聞こえなかった。
……………………………………………。
…………………………。
…………。
「くぅ~ん、くぅ~ん」
俺(勝者)の足元で犬(敗者)が腹を見せて服従のポーズを見せている。「よしよし、愛いやつめ」といいながら撫でる。
『――――――』
『――――――』
勝負が終わったとき、気付いたらアリスとお姉さんはちょっと離れたところにあるいい感じの外カフェでドリンクを飲みながら談笑していた。犬と本気で戦う男は相当にアレだったのか、道行く人達も心なしか俺たちの半径十メートルには近づかないようにしているように思える。
…………別に、悲しくなんかないし。
「く~ん」
お前だけが味方だ、犬。
微妙な顔をしたお姉さんと俺に忠誠を誓うと言ってくれた犬に別れを告げ、そろそろどっかで飯でも食うかとアリスと会話しながら歩いていると、偶然到った広場でお祭り的なイベントが開催されているのを発見した。屋台やら出店やらが所狭しと立ち並んでいて、少し離れたここからでもかなりの熱気を感じることが出来る。
「うお、スゴいなアリス」
「おじさーん、たこ焼きふたつください!」
「気がついたらすでに注文してた」
「あいよ!お嬢ちゃんカワイイからサービスだ!」
「わー!ありがと!」
「あ、これ代金です」
「毎度あり!」
今時珍しい気風がいいおじさんからたっぷりおまけして貰ったたこやきを持って、屋台から離れる。
「はふううううううう」
「そんなに慌てて食うな。たこ焼きは逃げない。あ、まじで美味い」
「本当だね!」
「全部食うの早いよ」
あっという間に食い尽くしたアリスが物欲しそうにこちらを見てきたので、食わせてやると思わせて自分が食うというのを立て続けにやってやった。涙目でぽかぽか叩かれまくったが痛くなーい。
「もういいもん!こうなったらトモヤの財布が空になるまで食べまっくってやるもん!」
「金の出所はユアンの懐なんだが。あ、おい待て」
言うや否や走り出すアリス。お金を持ってないのに注文ばかりするもんだから急いで追いかけて支払う。そしてまた勝手に注文しているアリスを発見し商品を持って追いかける。
このやり取りはいい加減めんどくさくなった俺がパタパタ走り回るガキを捕まえて拳骨を落とすまで続いた。
「うー…まだじんじんするぅ……もう!女の子にこんなことするなんて酷い!」
殴られた箇所を冷やしながらアリスが憤慨する。ちなみに冷やすのに使ってるのは俺が創った氷の塊。
「うるへー。悪いのはお前だろが。大体女として見てもらいたいなら、もうちょい体にメリハリを――」
「うん?」
「なんでもないっす。はい」
能面のような張り付いた笑みを向けられてはビビらざるを得まい。
「………そんな事分かってるよ。どうやったら大きくなるんだろ…」
「ん?何か言ったか?」
「なんにもっ!」
自分の胸元に手をやりながら落ち込んでいる時点で粗方の事は察せるんだけどな。大丈夫。そういうのにも需要はあるから。言ったら殴られるから黙ってるけど。
「ふぅ、ほとんど食い終わったな」
暴走したアリスが買い漁ったものはかなりの量があり、持ち運ぶのに分身を四体も作る羽目になった。周りの人達はぎょっとしてたけど。
「そうだねー、最後に甘いものでも食べたいね」
「食いすぎだバカ。太るぞ」
「…………」
「太って胸が大きくなっても意味が無いだろ」
「にゃっ!?そ、そんな事思ってない!」
狼狽していてバレバレなアリスちゃんは放っておいて、甘いものか、と考える。まあ、悪くない。
「ん~、おお。おいアリス、アイスでも食うか?」
「食べる!…じゃなくて、ほ、ホントに体のことなんか気にしてないんだよ?」
言い訳は聞き流し、とりあえずは食べるそうなので買いに行く。何味がいい?
「ストロベリー!」
あいよ。
ぱぱっと買ってきたコーンアイスをぱくつきながら、ふらふらと街中を散策する。
「甘くておいしいね」
「そうだな。……ふむ、材料さえあれば俺も作れそうだな」
「ホント!?」
「ああ、今度厨房借りてみようか」
「うん!」
早くも楽しみなのか鼻歌を歌い始めたアリス。尻尾も千切れんばかりに振り回してるし。上手くいくかどうか分からないし、失敗したらどうしようかと今から不安になってきた。
それにしても、
「へいへい、アリスちゃんよ」
「どうしたのトモヤ、いきなり変な口調になって」
「なんとなく。それよか、何か獣耳生えてる人とすれ違う割合が増えてる気がするんだけど」
「ああ、それはこの辺りがこーぎょーを盛んに行ってるからだよ。獣人は普通の人より力が強いからね、こういうところでは重宝されるんだよ」
へー。俺としてはアリスがそんな難しい事を知ってるのに驚いてるけど。
変なところに感心してると、最後のコーンのひとかけらを飲み込んだアリスがなにやらもじもじし始めた。
ははん、さては…
「アリス、ト「言っとくけど、おトイレじゃないからね」………」
完封されてしまった。しかも至極冷静に。地味にショックだ…。
「まったく、トモヤはホントにトモヤだね!」
どういう意味やねん。
「私はね、トモヤは獣人である私の事をどう思ってるのか聞きたかったの!」
「え、アリスのこと?う~ん……可愛い女の子に愛らしい耳と尻尾がついてて二倍お得、みたいな」
「か、かわっ!?」
凄い勢いで顔に血液を集めた彼女は、ぶんぶんと顔を振り、
「……あ~もうっ!ホントにトモヤはトモヤだねっ」
だからどういう意味やねん。
アリスの質問の意味が分からず首を捻っていると、見かねたアリスが、
「だからね、トモヤが―――――――――――――ッ!?」
何かを言いかけたアリスが血相を変えて空を仰ぐ。周りの獣人の人達も反応に僅かな差異はあれどほぼ全員が警戒するように空を見ていた。
つられるようにして俺も上を見て、何かを見つける。
太陽を背にしているようでよくは分からないが、目を凝らすと徐々にその輪郭が大きくなっていくのが分かった。鳥かと思ったが、違う。でも他にどんなものがあんな高くまでいけるのか。
「―――――!?」
姿をよく見ようとした瞬間、俺は何かを感じた。
それが何かを確かめる間もなく、ほとんど反射的に、いや本能的に、アリスを庇うように押し倒す。
ヒュンッ、という何かが空を切るような音が聞こえてきたような気がしたが定かではない。その次の瞬間、およそ刹那より短いであろう間隔の後、ここからほんの百メートルも離れては居ないだろうという場所に何かが『落ちた』。
ドォオオオオオオォオオォオン――――!!という爆砕音と、それに見合った巨大な衝撃が一帯に広がる。
建物が崩れる音。地面に亀裂が走る音。その場に居た多くの人の悲鳴。俺の腕の中のアリスの震えがやけに大きく感じた。
数秒後、破壊の音が鳴り止んだのを感じて、おずおずと俺は顔を上げる。
記憶にあるほんのちょっと前までの光景とは違いすぎることに愕然とする。その時、何かが聞こえた気がして俺は何かが落ちた場所に目を向けた。
銀色。
其れしか認識できなくなるほどに輝かんばかりの白銀の毛並みをもった狼が、そこには佇んでいた。
周囲の破壊の爪痕と、倒れ伏している人達をまるで気にした風も無く、その銀の狼は、
「オオォオオオオォオオオオオオオオオオォォォオオオオンン!!」
天に向かって咆哮した。
急展開乙
展開がまあまあだなと思う
次はバトル回になるので、
みんな、期待すんなよ!(戦闘描写に)