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第44話 Second day

こーんかーいはー、みーじーかーいーよー。

ゴメンねっ!

 懐かしい夢を見た。前の世界の思い出だった。

 それで思い出したのだが、昨日散々初デートとか言っていたが、一回だけデートと思しき事をしたことがありました。

 いやでも、あれはデートといえるのだろうか?相手は八歳の女の子だったし……待ってくれ。勘違いしないでくれ。決して疚しい気持ちがあった訳ではない。成り行きでそうなっただけだし。しかも最終的にはロシアン・マフィアに銃で狙われる羽目になったし。ファミリーのボスの娘とは思わなかったぜ。出来れば最初に言って欲しかった。

 そのファミリーで内部抗争があって、反抗勢力の手から逃れるためにやってきたお嬢様と、何の因果か近所の商店街を散歩することになった俺。そこで現れる刺客達。向けられる銃口。少女を庇いながら必死に逃げる俺。いやー、あれは危なかったな。最後足撃たれて絶体絶命だったし。あそこで親父が偶然通りがかってなきゃ、母さんからのお使いで金物屋さんに研いで貰ったばかりだった柳葉包丁を持っていなきゃ、完全に頭ぶち抜かれて死んでたね。というか包丁で銃弾ぶった切るとか親父マジ何者。

 あの子元気かな。今頃どうしてんのかな?今度会うときはピロシキ作ってくれるって約束したっけ。本当に懐かしい。中三の時期の修学旅行の次に印象深い出来事だったぜ。別れ際にキスされて(頬に)俺が女性陣に殺されかけるというイベントさえなければいい思い出だったのに。

 今日も今日とて、街の広場の銅像に寄りかかりながら人を待つ俺は故郷の事を思い出して軽くセンチメンタルな気分になっていたりする。三秒で元に戻ったけど。

 ふむ。今日はシルフィアだっけか。今回もまた現代風ファッションに身を包んだ状態で来てくれるのだろうか。

 期待していいはずだ。あのユアンが外すとは思えない。昨晩全力でお礼を言った後、これからも任せろ的なコメントを頂いたし。

 ああでも不安だ。ここから城まではそれなりに距離がある。ここまで来る途中で暴漢に襲われたりしないだろうか。危惧していることは向こうも同じようで、ここまで来る間そこかしこに明らかに訓練を受けた動きをしている人がいた。恐らく兵士の人だろう。それでも心配は拭えない。監視の目にいくつか穴があったのを見つけた。勘のいい奴ならそれに気付く筈。やはり心配だ。

 一度不安になると際限がない。なんかもう最終的には魔王とかドラゴンとかが来て攫われてしまうんじゃないだろうかってところまで考えが行き着いてしまった。

 だから、「トモヤさ~ん」と声を上げながら向こうから走ってきたシルフィアに気付いて一番最初に感じたのは多大な安堵感だった。安心して安堵して、もう衝動的にシルフィアに抱きつきそうになったけど、流石にそれはと自粛した。

 軽く深呼吸して精神状態を平常運行に回復させ、そういえばと思い服装チェック。

 ファンシーなウサギが描かれた暗色系のTシャツにハーフパンツ。思っていたよりも普通だった。もっとキワモノだったりしたら嬉しいな…と一瞬考えたりしたが、まああまり破壊力がないもので安心した。

 しかし、その考えはすぐに撤回されることになった。

 考えが甘かった。…足りなかったというべきか?そもそも服に破壊力は要らなかったんだ。シルフィアには標準装備で破壊力バツグンのモノがあったじゃないか……!

 というか、近づいてくるにつれて気付いたけど、あのシャツちょっと小さいんじゃね?体格的には合ってるんだろうけど、一部分が規格外なせいでピチピチだ。見ろ、道行く男共を。二度見、もしくは三度見してるぞ。唖然としてるから声をかけられるようなことはないけど。

 一通りの男の視線を集めてから、シルフィアは俺の前に辿り着いた。

「お待たせしました、トモヤさん」

「おう。まあそんなに待ってないけどな」

 社交辞令である。こっちの世界で通じるかは知らんけど。

「それで、ですね。その…えっと…」

 やや赤くなりながらちらちらと俺に視線をやるシルフィア。落ち着かないように視線を彷徨わせながら度々自分の体を見下ろしている。ああ、これは俺でも分かった。

「似合ってるよ、シルフィア」

「本当ですか!?」

 一転してぱあっと表情を明るくする。そこまで嬉しいか。

「えへへ、トモヤさんに褒めてもらえるなんて、ちょっと無理した甲斐がありました」

「無理?なんかしたの?」

「はい。何でしたっけ、確か…『ぶらじゃー』というのを着けることになったのですけど…ちょっとキツくて」

 なん…………だと……?

 そこまでの存在感を遺憾なく発揮していながら、それでもまだ抑えられている?一体本気になったらどれだけの被害をもたらすというのだ………くわばらくわばら。

「まいいや。とりあえず、行こうか」

「はい!」

 うん、元気のいい返事だ。軽く笑いながら俺たちは歩き出した。



 十数分ぐらいかな?適当に歩き回りながら雑談をする。

 歩いている場所は昨日エルナと歩いた通りとは違う。デートするついでにこの街を色々見て回りたいなーと思いまして。四回もあるんだし。

 そういう訳でふらふら。足の向くまま気の向くまま。気になる店があったら軽く覗いたりしながらも歩き続ける。

 すると、

「うえぇぇぇえぇん!お母さーん!」

 と。通りの向こう側から大きな泣き声が聞こえてきた。

「迷子でしょうか?」

「十中八九そうだろう」

 心配そうなシルフィア。そうだな………………………………………………………よし。

「(泣いてるの女の子みたいだし)行ってみようか」

「……………トモヤさん、変なこと考えませんでした?」

 聞こえない振りをして小走り。…………………………野郎を助けてなんになるって言うんだ。こういうのを乗り越えて男の子は大きくなっていくんです。

 じとっとしたシルフィアの視線に耐えつつ通りを進む。そこにはやはり、おさげの少女がいた。歳は五歳くらいか?なんかの店の前でわんわん泣きじゃくっている。周りの大人は見て見ぬ振り。大人って汚い。

 駆け寄るとするが、俺よりも先に少女のところにたどり着いた人影が。シルフィアだった。

 しゃがみこんで女の子の目線に高さを合わせつつ、頭を撫でたりしてあやしながら事情を聞いている。突っ立って見ているのもあれなのでてってこ駆け寄った。

 丁度話を聞き終えたらしく、シルフィアは少女の頭を撫でながら困った顔で言ってくる。

「道を歩いている途中でお母さんとはぐれてしまったそうなんです」

 いやまあ大体は予想ついてたよ。とりあえず少女を安心させるために俺もしゃがんで目線を合わせる。

「お母さんに会いたいか?」

「……うん」

 ちょっとずるい質問だったな。返事は決まってたし。微笑みながら俺も少女の頭に手をのせる。

「だったら泣き止め。一緒に探してやるからさ」

 わしゃわしゃと多少強引に手を動かす。ぐわんぐわん頭を揺らされ、少女は小さく笑った。



 少女のお母さんはあっさり見つかった。

 向こうも探していたみたいで、少女を肩車しながら通りを練り歩いていたらあっちから慌てて走ってきた。

 何度も頭を下げる母親と手を繋ぎながらぶんぶんと手を振る少女に小さく振り返す。

「良かったですね。お母さんが見つかって」

「そうだな」

「……お母さん、か…」

 ぽつりと呟くのが聞こえ、ちらりと横を見やる。そこにはいつまでも手を振る少女を優しげな、しかしそれだけではない感情が入り混じった目で見つめているシルフィアの姿が。

 その感情の名はきっと、羨望。

 もしかしたら違うのかもしれない。ただあの娘の姿に昔の自分の影を重ねているのかもしれない。だとしても、どこかに憧れの念はあるのだろうけど。

 あー、めんどくせ。

「…ふんっ」

「ひゃっ!?ト、トモヤさん!?なにするんですか!?」

 しんみりしていたシルフィアの頭を鷲掴みにし、先ほどの少女にしたようにがんがん揺さぶる。さっきまでの空気は綺麗に霧散した。

「あぅぅ…いきなりひどいです」

 目を回しながら抗議してくるシルフィアを見てとりあえずはもういいかなと判断。視界が回復した頃を見計らってポケットからあるものを取り出す。

「はい、あげる」

「へ?あ、あの…」

 シルフィアはいきなり差し出されたもの――紫色のヘアピンに戸惑っている。

「うりゃ」

「え…ッ、きゃ…!」

 迷子の親探しの最中、シルフィアの目を盗んでこっそりと購入したヘアピンで、顔の左半分を隠すように垂らされた髪を留め、そのアメジストのような左目が出るようにする。シルフィアは一瞬呆気にとられたが、すぐさま何が起こったのか把握し慌てて左目を手で隠す。

「トモヤさん!何を…」

「もういいだろ。隠さなくて」

「え……?」

 ぼりぼりと後頭部をかきながら、

「あの森じゃともかく、ここらへんじゃ目の色が左右別々なんて珍しいことじゃない。むしろ俺の黒い目のほうが目立つ」

「で、でも…」

「それに言ったろ?もしシルフィアになんかあったら、俺が守ってやるって」

「ッ!」

 少しずつ潤んでいく右の目。俺はそっと左の目を隠す手をどける。同じように潤む瞳を見つめながら、

「何度でも言う。俺が守ってやる。だから…もう悲しい顔なんかすんな」

「……っ……っっ…は、はいぃ」

 ぼろぼろと大粒の涙をこぼしだす。あーあー言ってる傍から。

 でもいっか、と思う。これは悲しい涙なんかじゃなく、きっと真逆のものだから。

 よく、涙は枯れたとか言う人がいるけど、それはダメだろ。

 悲しい涙は枯れてもいいけど、嬉し涙は枯れさせちゃいけない。

 迷子の子どものように泣くシルフィアを泣き虫、とからかいながら、俺は満面の笑みだった。

 だって、俺がつけたヘアピンは外されることはなかったんだ。

 それはこの女の子が、また一歩、前に進んだ証拠だと思う。

 









語るべき事などない。




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