第36話 酒はやっぱ二十歳になってからだよね
あー、なんでだろ。思うように書けない。
何故だー、何故なんだー。いざ書こうと思ったらふと他の方の書いている小説に目がいってしまってつい読みふけっちゃうのは何故なんだー。
という訳で、遅れました。申し訳ない。
何とか書き上げたものの、なんとなく不完全燃焼です。
これからも、精進します。
「では、トモヤの帰還と新メンバーシルフィア加入を祝って、乾杯!」
『乾杯ッ!』
ユアンの音頭にあわせみんなで一緒に杯を掲げる。てか新メンバーって言い方変じゃね?
それはさておいて、杯に口をつけ一気に傾ける。大人組の中身は酒だけど、まだ未成年の俺たちはジュースです。
一息に中身を空にしつつ、腕に浮かんだ縄の後を摩り、ぼんやりと物思いにふける。
エルナに蹴り飛ばされて(犯人は後で判明した)気絶して、気付いたら縄でぐるぐる巻きにされて木に逆さ吊りにされてて、エルナとかフィナが体にハチミツっぽいの塗りたくってて、もうあまりの急展開に一瞬訳が分からなかったね。
そのハチミツっぽいのがさっきの熊の仲間の大好物だってのが分かったからさあ大変。縄を解けと言ってもスルーされ、信じてたシルフィアに助けを求めるとぷいっとそっぽを向かれ、そういや見当たらないアリスはどこだと探しているとどこからか大量の生肉を持ってきて俺の周りに配置しだした。俺の死亡率を上げようっていうことですね。
いや~、危なかった。なんとかユアンやおばさんに助けてもらったけど、危うく熊さんの餌になるところだったぜ。
その後、なんやかんやでシルフィアにみんなを紹介して、なんやかんやと飛ばされてからの事を説明して、なんだかしらんが話の途中途中で三人にいいパンチを貰ったりして、なんだかんだで城に帰ってきて現在に至る、っと。ざっくりまとめ過ぎたかな。
それにしてもユアンが精霊魔法にがっつり食いついてきたのは驚いたな。その剣幕にシルフィアがやや涙目になっていたのは可愛かった。そしてその後のリアさんの一撃の鋭さは怖かった。もうね、音がね、『ボコッ』とかじゃないんだよ。『グシャ』なんだよ。あれは人体に向けていいものじゃないと思うんだよね。しばらくしてケロッとした顔で起き上がってきたユアンにはマジで戦慄した。
城に帰ったら帰ったでランとリンが泣きついてくるわ、クレアが目の端に涙を浮かべながら「おかえりなさいませ」って言ってくるわ、もう罪悪感で一杯だった。悪いことしたな、ってしみじみと思った。
そして、結果的に俺を連れて帰ってきたかたちになったユアンは愛娘二人に「ありがとう、パパ!」と言って抱きつかれて有頂天。いきなり「宴だっ!」とか言い出してついつい「おうっ!」っノってしまった。
「トモヤ様、どうぞ」
「おう。あんがと」
空になったグラスにクレアがジュースを注いでくれる。それをまたくいっと呷る。
「っぷは、うめぇ。って、なんだクレア、お前は飲まないのか?」
「はい。私には給仕の仕事がありますので」
「いいじゃねぇか。少しくらいなら」
ほいほい、と近くにあった空のグラスをクレアに持たせ、飲み物を注ぐ。
「あ………しょうがないですね、頂きます」
グラスに両手を添え、ついと傾けるクレア。とても上品だ。それに比べると俺の飲み方は下品だと自分で分かるのが悲しい。
「あー、今度はクレアとイチャついてる」
「トモヤさん、不潔です」
「ちょっと待てやそこのちっこいのども」
なんて人聞きの悪い事を。あの三人に聞かれたらまた折檻されてしまう。そうっと覗き見ると、三人はシルフィアと一緒に楽しくおしゃべりしている。やっぱ女子って仲良くなるのが速いな。
「ふん。何よ、人が心配してたっていうのに、あんたはまた女のこと楽しくやってるなんて」
「心配して損しました」
ぷいっとそっぽを向かれる。あちゃー、これは俺が悪いな。心配させちゃってたか。なんとかしないと。
「悪かったな心配させて。お詫びにまた一緒に遊んでやるから」
そう言いながら二人の頭を撫でてやると、二人は目を細めて気持ちよさそうにする。
「本当!?また一緒に鬼ごっことかかくれんぼとかしてくれる?」
「私も折り紙を教えて欲しいです!」
「分かった。今度遊ぼう。約束だ」
…クックック。子どもは扱いやすいから助かるぜ。
ズビシッ
「そんなこと考えてはいけません」
……何故バレた…?
「ん? アリス?」
うつらうつらと舟を漕ぎ始めたランとリンをクレアに任せ、誰に話しかけるでもなくぼけっとしていると、
「…………」
なにやら虚ろな目で宙を見つめているアリスが目に入った。
「おい、どうしたんだ?」
隣に座って話しかけるも返答なし。なんだか蕩けたような表情をしている。流石に心配になりぱたぱたと目の前で手を振ってみる。
するとその手をがしっと両手で掴まれ、
「………ぁむ」
「―――っ!!?!??」
い、いきなり…指を咥えただとぅ…!
「ん………んむっ、んんんっ」
そのままの状態で舌でなめられる!うわぁ、舌のザラザラした感触が伝わってくる…。
「んちゅ……んっ……んふ…ちゅ…ぁう」
エローい!! 擬音というかなんというかもうとにかく音がエロい!ナニコレ!? どしたのこの子!?なに、発情期!?
「お、おい。どうしたんだアリス?一体どうしたんだよ」
とりあえず平静を装って話しかけながら、なんとか指を離させようとして顔を押すが離れない。この…!
「うにゅ……あぅ…にゃぁぁ」
………………………………………………ん? 『にゃあ』?
ぐりぐりと頭を押し返すと、アリスはまるで猫のようにむずがる。あれ、これってまさか。
きょろきょろと辺りを探すと、明らかに酒瓶と思しきものが空っぽになって近くに転がっていた。
「にゅぅぅ…ぁむ………くちゅ…」
俺が動きを止めたことによって指をなめるのを再開するアリスからはアルコール臭が。
……コイツ……酔ってやがる……!
てかなに?コイツは酔うと人の指を舐めるの?意味がわかんない。
「あぅん……えぅ…あくぅ……」
「……………」
指先でアリスの口の中を擦る。
「ひぅ…あぁ…ん、にゃぅぅ…」
続けて舌の上を爪先でかりかりとやさしく引っ掻く。アリスは舌を動かすのを止めて俺にされるがままになっている。反対の手で顎をつかみ持ち上げる。
「えぅ……ぁん…くぅぅ…」
指先で口内の粘膜を刺激するたびに、アリスから艶やかな声が漏れる。右手で口内を弄くりながら左手で首筋や頬をそっと撫でる。
「あっ……にゃっ…んっ…は、ぁぁ…」
涙で潤んでいる瞳をじっと覗きこみながら俺は…、
「…………………………………」
……………………………………………………なにしてんだ俺。
ばっと慌ててアリスから離れる。口の中から引き抜いた指はつうっと細い糸でまだアリスの口の中とつながっていた。つかもう涎でべとべとだ。
うわと若干ひいていると、いきなり背中に誰かがのしかかってきた。
エルナだった。
「アハハハハハハハ!どうしたのよトモヤ、ぼーっとしちゃって?」
いや、ちょっと訂正。空の酒瓶振り回しながら真っ赤な顔で爆笑し続ける、エルナだった。
「おやおやーん?アリスちゃんがアダルトちっくだ~。さては……エッチなことでもしちゃったのかー!」
ばたばたと足を動かしながらさらにもたれかかってくる。うわウゼぇ!酔っ払ってるエルナうざい!
うわー、あれだな。酔ってる時って普段まったくやらないようなことをやるんだな。いつものエルナだったらこんな風にべったりとくっついてきたりはしないだろうし。
そういや酔ってるときの記憶って残る人と残らない人がいるって話だけど、エルナには綺麗さっぱり忘れていて欲しい。素面のときに思い出されたら八つ当たりで蹴られかねん。
「にゅふふふ。へー、トモヤってば小さい子が好きなのかぁ」
「おいそこ、謂れのない中傷をするな」
「だってそうでしょー?ちっちゃい子のアリスに変なことしたんでしょ~?あ、それともトモヤは胸が小さい子が好きなの?だったら…えへへ」
何が嬉しいのか、頬を赤らめてエルナは笑う。あのさ、お願いだから人の肩に顔を載せて笑わないでくれない?息が耳に当たってこそばゆいんですけど。ああ、ちなみに小さい胸が好きなのかという質問にはあえて答えません。否定しないんで。
「……何してるの?」
「ん?おお、フィナか」
声に気付いて顔を上げるとフィナが…仁王立ちして俺をにらんでいた。…ふっ。俺だってそろそろ学習している。大方、フィナもまた酔っているんだろうよ。さぁ、今度はどんな酔い方なんだい?
「…また女の子とべたべたしてる。トモヤはそんなに女の子が好きなの?」
おおっと。軽く怖い目でフィナが俺を見る。こいつはあれだな、絡み酒とかいうやつだな。
「いつも思ってるんだけど、トモヤはもっと女性との関わり方を考えるべき。どんな女性にも優しいのは褒められるところだけど、優し過ぎるのもどうかと――」
なんか目の前でくどくど言ってるフィナのお話を右から左へ聞き流しつつ、そういやシルフィアが見当たらないなときょろきょろする。
「………」
いた。なんだか知らないけど頬を赤くして空を見ている。なんだか目が虚ろだ。
そして、徐に着ている服に手をかけ…
「うぉぉおおおい!?ちょっと待てぇぇぇ!!」
何をやろうとしているのかを一瞬で見切った俺はエルナを背中にくっつけたまま走り、その手を掴む。
「うみゅ。なにをするんれすか、トモヤさん」
「うわ喋り方がベタ過ぎる、じゃなくって。お前今何をしようとしてた」
「なにって、ちょっとふくをぬごうとしていただけですよ。あついので」
「暑くねえし、お前は人がいる場所で服を脱ぐのか」
「うるさいれすねー。わたしはわたしのおもうようにするんです。そんなにとめたいならわたしをたおしてみろです」
「思いっきり悪役のセリフだな」
そうこうしている間にもシルフィアは服を脱ごうとし、俺はそれを全力で阻止する。心の中の悪魔が「いっそのこと脱がしちまおうぜ」とか言ってくるけど全力で無視!ていうか俺の中の天使は何をやっているんだ!?
「……なーによ。なんでそんなに頑張ってるのよ。あれか!?コイツの裸は俺だけのものだとかいいたいのかぁ!!」
なんか急にキレたエルナが背後から俺の頬を掴み思いっきり引っ張ってくる。くそぅ、文句を言いたくても上手く口が動かない。
「…また女の子とイチャイチャしてる……!」
これがイチャイチャしてるっていうなら俺の幻想は粉々に崩れ去るわ!つかなんで怒ってんのフィナさん!?
「…んむ、あくぅ……ちゅぱ……っ」
いやー!どっかから沸いて出てきたアリスがまた俺の指をー!今度は親指だー!
……はっ!ちょっと気を抜いた隙にシルフィアが軽く服が肌蹴てやがる!くそ!これはどう対処すればいいんだ!?しかもエルナとフィナが俺が胸ばっか見てるって言ってくるし。ああ、もう…
どうすりゃいいんだ―――――――――!!
「いよぅ、お疲れさん」
「……お疲れ」
四人が眠りこけている隣で疲労困憊状態のになっている俺に、ユアンが妙にニタニタしながら話しかけてくる。
「はっはっは。大分お疲れのようだな」
「まあな。まさかこの四人がこんなに悪酔いする奴らだったとはな」
「全くだな。あそこまで面白い展開になるとは、こっそり飲み物の中に酒を混ぜた甲斐があったぜ」
「ってテメェの仕業か!つか未成年に酒を飲ませんなよ!」
「? 未成年?なんだそりゃ」
俺の全力の叫びにひるみもせず、むしろ気にもしないで疑問を投げかけてくる。その態度にイラッとした。
「未成年ってのは…あれだ、20歳未満の人の事だ。俺のいた国では未成年は酒を飲んじゃいけないんだよ」
「うへー、酒を飲めないとか、人生の半分を損してるぜ」
そこまでいうか、と軽くツッコミを入れる。
「にしても、お前のいた国にはそんな決まりがあるのか…面白そうだな。もうちょい話を聞かせろ」
「は?いや、俺あんまり法律とか詳しくないぞ」
「いいって別に。お前の普段の暮らしとかでいいからさ、聞かせてくれよ」
えー、と渋る俺をに、いいからいいからとグラスを持たせてジュースを注ぐユアン。いつの間にか面白そうだとのことでおばさんとリアさんも寄って来ていた。
「……しゃーないか」
はぁ、とため息を付いた俺は諦めて話すことにする。
俺の世界の話を――。
◆ ◇
「そうだ、肝試ししよう」
「いきなり何言ってんだよアホ」
「頭どうかしてんじゃないのバカ」
「「なんでお前生まれてきたの?」」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか!?」
机に突っ伏した弾を見て、楓と一緒に深いため息を吐く。
時刻は12時15分ちょい。正直あんまり意味がないんじゃないかと常々思う土曜授業の最後の時限が終わり、後は帰りのHRを残すのみのこのタイミングで、いきなりこいつは何をほざいてるんだ?
「で、どうして肝試しなんだ?聞いてやるから出来るだけ簡潔に答えてそのまま帰れ」
「おう!……ってやっぱり扱い酷くね!?」
「「黙れ」」
「うう…酷い。イジメ、かっこ悪い!」
弾がなんか言っているが軽く無視しながら帰り支度を済ませる。教科書なんかは全部置いていってるのでかばんの中身は筆箱と配布されたプリントくらいだ。
「なになに~。どうしたの~?」
とてとてと教室の前のほうから一人の女子がやってくる。
こちらは上浦京子。楓の親友的なポジションにいるクラスメイト。特徴はとても高校生には見えないその低身長。目算だと140cmくらいだろうか。本人も気にしているらしいのであまり口にすることはしない。
「ようちびっこ。飴いるか?」
「ちびっこじゃないよっ。アメは貰うけど」
俺が差し出したミルク味のアメを受け取ると嬉しそうに頬張る。その姿ほどっからどう見てもただの子どもである。
「いけませんよ京子さん。まだ授業は終わっていないのですからアメなど食べては」
爽やかな声で横合いからやさしい注意をしてきたのは才崎修也。成績優秀。スポーツ万能。おまけにイケメン。駄目押しとばかりに物腰が柔らかく、誰に対しても優しいという完璧超人。うん、軽い不幸に遭えばいい。
だがしかし、やはり神様というものはいるのであろう。この男には一つ問題がある。
コイツは………真性のロリコンなのである!
入学して早々、同年代または先輩の女性方から熱烈なアタックを受けたにも関わらず、全員に丁寧なお断りの返事をし、学園一の美人と名高い生徒会長様に告白されたときは、
『残念ながら僕は14歳以下にしか性的な興味を持てないんです』
と言って完膚なきまでに叩き伏せたのはまだ記憶に新しい。
…余談だが、その生徒会長はそれから極度の男性不信に陥り、それから同性愛の道を進んでいられるとか。
まあどうでもいいか。
「う~、ごめんなさい」
「これからは気をつけてくださいね」
まるで幼稚園児と保父さんのやりとりである。ちなみに修也的には京子はどうなのか、と以前聞いたところによると、
『確かに京子さんの体型は幼いです。しかし、彼女はもう高校生。僕からしたらすでに対象外です。ロリ体型ならばいい、などというような下賎な輩と僕を混同視しないでください』
とかなりマジな目で言われた。あれは怖かった…。
「それで、一体どうしたのですか?なにやら弾さんが叫んでおられたようですが」
「そうそう。弾くんがうわ~って大声上げてたけど」
「ああ。実は――」
俺は弾がいかにアホな奴なのか、ついでに弾が肝試しをしようと言い出したことを話した。
「そうですか。肝試しとは中々面白いと思いますよ、有吉さん」
「うんうん。季節的にもピッタリだと思うよ、有吉くん」
「なんか距離を置かれた!?」
なにが悲しかったのかまた机に突っ伏す弾に、ふと俺は尋ねる。
「んで、いつやるんだ、肝試し?」
「ああ、今日だ。今日やろう」
「…バカかお前?夏休み3日前だぞ。夏休み中でいいだろ」
終業式は日曜日をはさんで月曜日に行う。中途半端だと生徒たちはぶーたれているが教職員たちは華麗にスルーしている。
すると、突然弾の両目からぶわっと涙が溢れ出した。
「何が夏休みだー!部活と補習に俺の夏休みはほとんど持っていかれるんだぞー!そんな暇あるかー!」
「ああ、なるほど」
つい先日やった期末テストが今日返却されたのだが、その時このバカが悶えていたのを思い出す。赤点でも取ったのだろう。コイツが所属している野球部の練習も厳しいらしいからな。俺は帰宅部だけど。
「と、いう訳で。せめてひと夏の思い出が欲しいと思い、肝試しを発案したわけです」
「いやいや。部活はともかく補習はお前がちゃんと勉強しなかったせいだろう?ちゃんと日頃から予習・復習をしていればこんなことにはならなかったはずだ」
「そうよ。自己責任よ」
俺と同じ帰宅部で今回の期末テストで学年一位の点数を取った楓が言うと、ものすごく説得力があります。
「……なら智哉、お前テスト期間中毎晩なにしてた?」
ジト目で弾が聞いてきたので、俺は正直に
「エロゲ」
と答える。
「おかしいだろ!普通の日とかならまだしもなんでテスト期間中にエロゲやってんだよ!?それでなんで赤点にならないんだよ!?」
「なんでだろうね(笑)」
「笑うなっ!」
思い切り噛み付いてくる弾を適当にあしらう。
「確かに、智哉さんが普段勉強していないにも関わらず、テストで結果を残しているのは多少疑問ですね」
「学年二位が何言ってんだっつーの」
ちなみに修也と楓の順位は度々入れ替わる。学年一位になる比率は4:6ってとこか。まあ学年二位でも十分にスゴいんだけど。
「うー。すごいなーみんな。私なんか毎日ちゃんと勉強してるのにそんなに頭良くないよ」
「何言ってるの。京子は華道とか茶道とかお琴とか一杯習い事してるじゃない。十分すごいわよ」
京子の父親はどっかの会社の社長らしい。詳しくは知らないけど、家とかど~んとデカかったし。遊びに誘うと「今日はお花のお稽古があるから」とかマジで言ってくる。
「つか肝試しやるつっても、場所がないだろ。ここら辺あんまいいとこないぞ」
いくつか墓地はあるものの、すぐそばにコンビニやらなんやらが建っているため雰囲気ぶち壊しである。
「ふふん、抜かりはない。こんなこともあろうかと前々からそれっぽい場所を探していたのだよ」
「いや、その時間を勉強に使えよ」
「うるせいっ。とにかく、場所は町外れにある廃病院だ。なんでも数年前の不況の影響を受けて潰れたらしい。解体の目処も立ってないから肝試しのスポットとしては良く使われてるらしいぜ」
ふーん、とおざなりに反応するみんな。
「んじゃそこでいいや。詳しいことは――」
「は~い、みなさん。帰りのHRをしますから席に戻ってくださ~い」
言葉の途中で担任が教室に入ってきたので、ひとまず自分の席に戻る。
俺の席は窓際の後からの二番目、なんてベストポジションではなく、窓から三列、後ろから二番目の席。よりによって後ろの席には楓が座っているのでおちおち居眠りも出来ない。しようものならシャーペンで背中を刺される。
尚、先程言ったベストポジションには弾が座っている。「これで俺にも春がー!」と席が決まったときに喜んでいたが、今では直射日光に耐え切れず我等が担任に早くも席替えを申し出ている。
「連絡事項は特にありません。今日も終わってあと一日だけ頑張ればお待ちかねの夏休みです。みんな、もう少しだけ頑張りましょう」
教壇にたってにこにこしながら言うのは担任の初音美玖先生だ。
あれだよ?けしてご両親は某ボーカロイドから名付けた訳じゃないよ。むしろこっちが先だからね。こっちのほうが遥かに先輩だからね。時代先取りしまくってたからね。
「…どうしてでしょう。それとなく失礼なことを考えられてる気がします」
おっと気付かれてしまった。自重自重。
「まあいいです。それでは日直さん、帰りの挨拶を――」
「先生!ちょっといいですか!」
「え?なんですか有吉くん」
いきなり弾が立ち上がって声を上げたもんだから先生はちょっとビックリしてる。それを尻目に弾をぐるりと教室のみんなを見渡し、
「本日20時より、町外れの廃病院で肝試し大会を開催する!参加は自由!他クラス、他学年の奴を呼んできても構わん!ひと夏の甘い思い出を作りたい方は振るってご参加ください!」
『おおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
「何でこのクラス無駄にノリがいいんだよ!?」
はっ!こんな大っぴらに言い出したら流石に先生が止めるんじゃないか?
「いいですねー、肝試しですかー。………ホント、羨ましいです。私は学生時代勉強しかしてこなかったので、ひと夏の甘い思い出なんてこれっぽっちもないんです…。ああ、もし願いが叶うなら、もう一度あの頃に戻りたい……!」
なんか号泣しながら何かを強く願っていらっしゃいました。見てて可哀想だけど肝試しが止められなくて良かったと思う。弾が言い出したときはいよいよトチ狂ったかこのバカ、と思ったけどこうなってくるとものすごく楽しみだ。
俺は期待に胸を膨らませた。
「………………」
後ろの楓は、なんかムスッとしてたけど。
いえーい、なぜか過去編突入ー。ひゅーひゅー。
…いえね、ネタが尽きたわけじゃあないんですよ。ただなんとなく書きたくなってしまっただけで、女性陣の悪酔いの仕方もなんか微妙です。
なんだろ…なんかもう…
すんませんでしたぁっ!!