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第34話 決着と決心

思いっきり詰め込みました。もうぎゅうぎゅうに押し込みました。どう頑張っても戦闘描写とか上手くいかない。むしろ戦闘シーンが適当。あとサブタイも適当。

そんなんですけど、どうぞ。

「ふぅ…ま、こんなところかな」

 軽く《飛鳥》を一振りして鞘に収める。そのままストレッチ。関節を伸ばすたびにパキパキと音が鳴るのが気持ちいい。

 シルフィアの話を聞いたのが昨日の夜。あれからしばらくして寝てしまったシルフィアをベッドに寝かせ、悪魔のささやきとかいろんな誘惑に打ち勝ち、逃げるように家から出て森に入り、それから夜通しで剣を振るった。かなり眠いが問題ない。これでも現代っ子、完徹には慣れてる。いつか時間のあるときに思いっきり寝れば問題ない。

 …あ~、でも眠い。そして寒い。眠い。寒い。

 いつまでもうだうだしてても仕方ないので踵を返して家に向かう。

 んで、着いたのだが…

「トモヤさーん!どこですかー!いるなら出てきてくださいー!」

 という聞きなれた声とともにバタバタガタガタとやかましい音が家の中から響いていて、俺は家の扉の前で立ち尽くしたままになっている。あ、今なんかバキッていった。

 これは…なんとも…

「入りたくないなぁ」

 しかし、この暴走を止めないと家が壊れかねない。……よく子どもが騒いでると家が壊れるって親が叱るけど、ありえないよね。

 とりあえず、がちゃ。

「ただい――」

「トモヤさん!」

「ごぷっ!?」

 ぐふっ…シルフィアが、普段からは想像もつかないような速度で飛びついてきた。徹夜明けの体には辛いよコレ。

「トモヤさん、一体何処に行ってたんですか?心配しましたよ…」

「い、いや。ちょっと外で…」

 てかヤバい。締め付けられてる。シルフィア案外力強い。胴体がギリギリと締め付けられてる…。

「……目が覚めたらどこにもいないし…本当に心配したんですよ。一緒にいてくれるって言ってくれたのに…どこかにいっちゃったんじゃないかって…また一人になるんじゃないかって」

 ぎゅっと俺の服を握って抱きついてくるシルフィア。その姿を見て俺は何も言えなくなってしまう。

 そうだよな。お母さんが亡くなってからずっと一人だったんだよな。朝起きても誰もいない。ご飯を食べるときもいつも一人。寝るときには誰にもおやすみと言えない。そんな生活。きっと寂しかったんだろう。きっと辛かったんだろう。そんな時、ひょっこり俺がやってきたんだから、嬉しかったんだろう。

「一人になんかしないよ。一緒にいてやるって言ったじゃんか」

 笑いながら、頭を撫でる。シルフィアの目には涙が浮かんでいたので拭いつつ、

「シルフィアは泣いてばっかだな。実は泣き虫か?」

「な、泣き虫じゃありません!」

 ばっと離れて抗議してくる。怒っても可愛いから美少女って得だな。

「分かった分かった。ほら、早く飯食ってグラを助けるための草取りに行こうぜ」

「………うん」

 ややシルフィアの表情が曇る。きっとまだ村とやらに行くのが怖いんだろう。勇気付ける方法なんて知らないんだけど、やれるだけやってみよう。こういうのは気持ちだよ気持ち。

「大丈夫だって。必ず守ってやるから。な?」

「……はい」

 少しだけ、少しだけ表情が和らいだ。やっぱり俺じゃ不安を全部消すのは無理っぽい。他の人ならもうちょっと気の利いたセリフをいえたんだろうけど。

 それから、シルフィアが簡単に朝ごはんを作ろうとしたので手伝うと言い出したら驚かれた。ちゃんとお手伝いしたらもっと驚かれた。そんなに俺は料理が出来なさそうに見えますか…?まあいいや。

 んで、ちゃちゃっと食べ終わり、いよいよ出発の時間。それでもやはりシルフィアの表情は暗い。

 そこで俺は一計を案じた。

「ほら」

「…はい?」

 俺が手を差し出すとシルフィアは首を傾げ、視線を手と俺の顔で何回か往復させ、何を思ったのか同じ方の手で手を掴んでくる。これじゃ握手だ。

「いや違ぇよ。逆だよ逆」

「え?こっちですか?」

 言った通りに手が変わり、俺とシルフィアは手をつないだ状態になる。

「うむ。これでよし」

「えっと…なんですか?」

 つながれた手を見ながら不思議そうに言うシルフィア。俺はやや恥ずかしさを覚えつつ、

「こうやって手をつないでれば、シルフィアのこと必ず守れるだろ?だからほら、元気出せ」

「……はい」

 顔を赤らめながら、嬉しそうに手に力を込めてくるシルフィアを見て、恥ずかしい思いをした甲斐があったなと思った。

 俺たちは手をつなぎながら、家から出た。

「……トモヤさん」

「なんだ?」

「あの…あっちの森、凍ってるんですけど…」

「……………」

 …ちょっと調子に乗ってました。



 歩くこと数十分くらいで、視界の先に村らしき建物が集まっている場所が見えてくる。建物はみんな白い。どうやら白い石を削ってつくったっぽい。ちらほらと人影もある。

「…………」

 握った手に力が入る。どうも緊張しているようだ。手もわずかに震えている。その手を握り返すと震えが止まった。手を引いて村へと歩を進める。

 俺達が村へ入る空気が変わった。ぴりぴりとした静寂を肌で感じる。シルフィアの言っていた通り、村の連中は何をしてくるでもなく、少し離れたところから俺達を見て、時折隣の奴とひそひそとなにやら話し合っている。不思議そうにしている小さい子供たちは親に何事かと尋ねている。

 しっかし、これまた見事に全員金髪だな。おまけに目も青い。とはいってもシルフィアの右目ほどじゃない、普通の青色。その目が全て俺、というよりもシルフィアに向けられている。おかげでシルフィアは俯いて、痛いくらいに手を握り締めてくる。それでも、立ち止まったり戻ろうとはしない。ひたすらに俺についてきてくれる。

 村人達の無言の圧力に耐えながら黙々と歩く。すると、人垣を掻き分け、一人の男性が出てきた。

 一見すると三十代前後の姿。でもRPGとかだとエルフはかなり長生きするって言うからもう少し年食ってんのかな?分かんねえや。

 男はきびきびとした動作で歩み寄ってきて、俺達の前で停止する。

「私はこの村で長のようなものをやっているものだが…お前は誰だ?」

「ちょっとした迷子みたいなもんだ」

「迷子だと?そのようなものが何故ここにいる。そっちは…例の『忌み子』か」

「シルフィアをそんな風に呼ぶんじゃねえ…!」

 『忌み子』と言われた瞬間、シルフィアの体が大きく震えたのが分かった。だからこそ、余計に腹が立った。

「ふん。で、何をしに来たんだ」

「…知り合いのドラゴンが腐鱗症とやらに罹っちゃってさ、治すための植物が聖域とやらにあると聞いたんで採りに行こうと思って」

 俺がそう言った途端、村の雰囲気は一変した。

「ふざけるな!」

「聖域に貴様らのような者が入るだと!」

「そんなことは許されない!」

 さきほどまで黙視をしていた村の奴らが全員激昂して叫んでいる。ちょ、うるさい。ほら小さい子泣いちゃってるじゃん。

「静まれっ!」

 目の前の男の一喝で村人たちは途端に黙る。よく躾けられているようで。

「…申し訳ないが聖域とは我らエルフにとって神聖な地。おいそれと部外者の侵入を許すわけにはいかないのだ」

「部外者って…シルフィアだってエルフだろ」

「半分だけな。残りは人間だ」

「テメェ…」

 見下したような言い方をする男に、そろそろ堪忍袋が割れそうになる。

「やれやれ、騒がしいね。何の騒ぎだい?」

「あ?」

 大きくは無いがどこか耳に残る声。それが聞こえてきたほうに目を向ける。人垣が割れ、そこから出てきたのは…婆さん?

「長老!?何故このようなところに?」

「なんだい、あたしがここに来ちゃいけなかったかい?」

「い、いえ。そのようなことは…」

 すげぇ、あんなに偉そうだった男がめっちゃ下手に出てる。あの婆さん、そんなにすごい人なのか。

「で、アンタがこの騒動の原因かい」

 婆さんが男の隣に来る。近くで見るとかなり小さいな。腰がひん曲がってるってのもあるんだろうけど。年のせいかやや白いものが混じった長い金髪が地面に引き摺られている。

「…騒動を起こしたかったわけじゃない。ちょいっと用があったんだけどそれがコイツらにとって気に食わなかっただけだ」

「ふーん。で、その用ってのはなんだい?」

「龍の腐鱗症ってのを治すための植物が欲しい。聖域ってとこに入れないならその植物を貰えるだけでいい。婆さん偉いんだろ?なんとかしてくれないか」

「貴様!長老に向かってなんという口の利き方だ!」

 黙っていた男がいきなり怒鳴ってくる。いい加減にイラッとしたので指をパチンと鳴らす。それと同時に地面から氷柱が出てきて、男の喉の数センチ手前にその鋭い先端が来たところで止まる。上手くいって良かった。下手したら大惨事だもん。

「ッ!?」

「ほぉ…精霊に認められたのかい」

 驚いて仰け反る男を尻目に婆さんは珍しそうに目を広げる。

「なあ、頼むよ婆さん。どうにかしてその植物をもらえないか?」

「ふむ……どうしても必要なのかい?」

「ああ。どうしても助けてやりたいんだ」

 おふざけなし。ただまっすぐに思いを伝える。婆さんは俺の目を真っ直ぐに見て、

「その武器…古戦器(オーパーツ)かい」

「そうだ」

「…使いこなせるのかい」

「発動できたのは二回だけ。まだ自分の意思では扱えない」

「そうか……」

 質問に答えると、婆さんはまた俺のことを見る。今度は目じゃなくて髪とか含め全身を見られてる。というかこの目は俺の内面まで見透かそうとしているな。てか見透かされてるな。

 じっくり見られること数十秒。そして、

「いいだろう。聖域への立ち入りを認めよう」

「長老ッ!?」

「いいじゃないか。この坊主は精霊に認められた上古戦器(オーパーツ)まで使えるんだ。十分に信用に値するだろう?」

「ですが…しかし!」

 婆さんが理由を言っても男は食い下がる。周りの民衆もざわざわがやがやと口々に何かを言っている。すると、

「喧しい!この件で何かあった場合はすべて儂が責任をとる。それでいいだろう。ほらガキ共、ついてきな」

 言うが早いが婆さんはさっさと歩いていくので、俺はそれについていく。村人たちは呆気に取られている様で、黙って俺達に道を空ける。あ、男の前の氷柱砕くの忘れてた。まいっか。

 何も言わずに先導するばあさんの後ろを、やはり何も言わずに歩く。そういや村に入ってからシルフィア一回も喋ってないな。ずっと俯いてるし。

「ここだよ」

 婆さんが立ち止まる。その先には森の入り口がある。

「この先が聖域。そこに住むある生き物の体に大きな花が生えている。それが腐鱗症を治すための植物だ。悪いけどここから先は儂は行けない。そういうしきたりなんでね」

「そうか。親切にありがとうな、婆さん」

「ふん、別に構いやしないよ。精霊が認めたのなら信用は出来るしね。ところで、精霊とはどんな問答をしたんだい?」

「それは内緒だ」

「そうかい。まあいい。その生き物もただでは花はくれないだろうからね。怪我をしないように」

「おう。んじゃ、行ってくる」

 シルフィアの手を引いて婆さんの前を通り過ぎる。その時、婆さんがシルフィアに何か言いたげにしていたのが見えたが、結局婆さんは何も言わなかった。



 森の中は薄暗く、地面には木の根が浮き出ていて歩きにくかった。ただでさえ木の根が複雑に絡み合っていて躓きやすいってのに、おまけにその上が苔生してるから滑ってしまう。いや、俺は大丈夫だよ?問題はシルフィアで、気をつけるようにって言った傍から転びかけるんだよ。しかも転びかけるたびに俺にしがみついてきて、その度にむにゅむにゅが…いや、なんでもない。

 にしても婆さんが言ってた生き物ってどんなのだろ。さっきから狐っぽい小動物くらいしか見かけないんだけど。あ、シルフィアに聞けばいいか。

「なあシルフィア」

「はい、っとと、なんですか?」

 声かけただけで転びかけないでくださいお願いします。わざとか?もうわざとなのか?

「…その花が生えてる動物ってのはどんなのなんだ?」

「えっとですね、確か体色は緑で四足歩行で、特徴は背中に大きな花が生えていることです。私も本で読んだだけなのでこれ以上は分かりません」

「そっか…」

 となると適当に歩き回るしかないか。

 …………。

 …………………。

 …………………………。

 見当たらない。

 今歩いてる道が獣道だから適当にあるいてれば見つかると思ったんだけど、そう上手くはいかないようだ。

 しょうがない、いったん休憩しよう。シルフィアも疲れてきてるだろうし。振り返ってその事を言おうと――

「!」

 今、目の前の草むらの奥からなんか聞こえたような。

「あの、トモヤさん?」

 振り向こうとした瞬間、また慌てて元の方を向くという奇行をした俺にシルフィアが不安げに話しかけてくる。

「ごめんシルフィア、ちょっと待ってて」

「え?あの…」

 何か言いたそうにしているシルフィアと手を離し、出来るだけ音を立てないで草むらを覗く。

 草むらの向こうは小さな池があった。そしてその畔にたたずんでいたのは、


「フ、フシギ○ナ!?」


 な、なんでこんなところに?まさか例の背中に大きな花を咲かせた生き物ってアレのことですか?いやそんなバカな。いくらなんでもそんな面白い展開になるはずが無い…よね?

「トモヤさん、やっと見つけましたね」

 いつの間にか隣に来ていたシルフィアが嬉しそうに言ってくる。

「え、なにを?」

「なにをって、あの花ですよ。私達が探していたのは」

 フシギ○ナの背中に咲いている花を指差す。………あはははは。もういいや。どうにでもなれ。

 草むらから飛び出だす。そこで気付かれて緩慢な動作で振りぬこうとしているうちに駆け寄り、走り際に抜いていた《飛鳥》で斬りかかる。狙った場所は前足。

「ぐっ!?」

 硬い。それなりに速度と体重をかけたはずだったんだがな。と、そこでフシギ○ナが動きを見せる。どっしり構えたかと思うと背中の花から蔓を伸ばしてくる。つるのむちか!

 ぐにゃぐにゃと動いて気持ち悪いが、数は二本。避けきれない量でもない。

 しばらくかわしていると痺れを切らしたのか蔓を引っ込めて、今度ははっぱカッターを飛ばしてくる。考えていたより速い!

「どわっ!?」

 目の前に分厚い氷の壁を出してギリギリ防ぐ。

「トモヤさん、大丈夫ですか?!」

 シルフィアが雷で牽制しながら近づいてくる。ただ、こうかはいまひとつのようだ。

「バーナ!」

 フシギ○ナが連続ではっぱカッターを繰り出してくる。念のため壁の後にもう一枚壁を出し、その裏で一息つく。

「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな」

 質問に答えながら壁の状況を確かめる。げ、かなりひび割れてる。こりゃ長くはもたないな。

 さて、どうしたもんか。腕を組んでむむむと悩む。

「……トモヤさん」

「ん?なに」

 見るとシルフィアは何かを決意したような顔をしていた。

「私が囮になります。その隙にトモヤさんはあの花を――痛っ!」

 ばちんとデコピンを当てる。涙目になっているがどうでもいい。

「はぁ…お前バカか?」

「うぅ…なんでですか?」

 まだ分からないのかと今度は頭を叩く。軽くぽんとだけど。

「ずっと言ってんだろ?お前を守るって。それなのに、お前をそんな危ない目に合わせられるかよ」

 ぽふぽふと頭を撫で、立ち上がる。念には念を入れてもう一枚壁を作る。同時に、壁が一枚砕け散った。

 そっと覗くとフシギ○ナははっぱカッターを出すのを止め、代わりに背中の花を太陽に向けていた。花の中に少しずつ光が溜まっていく。あれは……!

「ソーラービームまで使えんのかよ!」

 だっと壁の後から飛び出す。それに反応してフシギ○ナはからだの向きを変える。これでよし。ソーラービームなんて喰らったらあの程度の壁なんて一瞬で蒸発するからな。

 大きく迂回するようなかたちでフシギ○ナに近づく。狙うは体の側面。だが完全に近寄る前に光の充填は終わったようで

「バナッ!」

 ゴウッ!と凄まじい速度で光線が発射される。服が汚れるとかそんなの気にする余裕はない。全力で体を投げ出して避ける。

 ソーラービームは俺の体の少し横を通り過ぎ、森にある木々を吹き飛ばし、爆発。立ち上がった俺は爆風に後押しされるようになりながら駆け出した。フシギ○ナは反動でしばらく動けない。今が好機!……あれ?ソーラービームって反動あったっけ?ま、いいか。

 狙っていた体の側面にたどり着き、刃を叩きつける。硬い。だが強引に押し付ける。続けて突き。狙いは脚の関節。間接部分は多少軟らかかったようで刃が入る。刃を体内に入れたまま斬り上げるとそのまま斬れる。

 これならいける。そう思った俺は一気に畳み掛ける。

 《飛鳥》を振りかぶり、大きく弧を描くようにして一閃。たっぷりと遠心力の乗った一撃は足の傷をさらに広げる。すぐさま刃を返し先程とは真逆の軌跡を描いて振るい、また傷を大きくする。続けて小さな動きで斬りつけ牽制。そして大上段に振り上げ体重を乗せ刃を叩きつける。

 気刃斬り。何度も画面で見たから動きは覚えている。あとはそれを実際にやってみるだけだったんだが、思っていた以上に上手くいった。

 だが、これで終わりじゃない。俺達の目的はコイツの背中の花。コイツを倒すことじゃない。故に、もう一度だけ刃を振るう。

 全身を使い一歩踏み出す。前ではなく左右の足を交差させ踏み換えるように前に出る。足の動きと連動させ、体ごと捻るようにして全身を回転させる。上半身の回転にあわせ、円を描くように周囲を刃で刈る。

 振り切った後も勢いは止まらず、しばらく振り回される。が、手応えはあった。

 気刃大回転斬り、だっけか。あんまり覚えてないけど、その一撃で、フシギ○ナの背中の花は根元から切り飛ばされた。

「バァァ…」

 フシギ○ナは倒れる。あれ?そんなにその花は重要な部位だったの?だったらゴメンね?

 今更ながらに申し訳なくなった俺は切り取った花を引っ掴んで逃げるようにシルフィアの元に向かった。

「お疲れ。花は採ったし、帰ろうか」

「……………」

 あれ?シルフィアが睨んでくる。なして?怖くないけど。

「えっと…なんで睨むの?」

「……トモヤさん。必要なのは花びらと葉っぱが一枚ずつでよかったんですよ?そんな風に丸ごと切らなくても良かったんです」

「え、マジ?」

 コクンと頷くシルフィア。……え~…。

 振り返って見てみると、倒れたフシギ○ナの周りにはいつの間にかフシギ○ネとかフシギ○ウっぽい小さい生き物が集まっていた。フシギ○ネっぽいのはフシギ○ナの傷を心配そうに見て、フシギ○ウっぽいのはこっちを見て威嚇してくる。

「…………」

 シルフィアが非難するような目で見てくる。

 ………………………え、これ俺が悪いの?



 村に戻って俺が花を丸ごと持っていたことでまた一騒ぎあったことはさて置いて、その花を食わせたり塗ったりしてグラを治療したこともさて置いて。

 今、俺は家のテーブルを挟んでシルフィアと座っている。これからはちょっとマジモードだ。

「…シルフィア。俺はそろそろ帰ろうと思ってる。前いた場所に」

「はい。私も付いて行きますよ」

「そうだな。急すぎるってのは分かってる。でもきっとアイツらも心配してる――って……え?」

「ですから、私も付いて行くと言ってるんです。…ダメ、ですか?」

「え、え?い、いや、全然構わないんだが…」

「そうですか。なら良かったです」

 良かった良かった、と言うシルフィア。……急展開過ぎて付いていけないのは俺だけ?

「えっと…いいのか?シルフィア」

「?何がですか」

「いや、その…色々と」

「いいんです。決めてましたから。トモヤさんが出て行くというなら、私も付いて行こうって」

「そうなの?」

「ええ。……いつまでもこの家にいたって何もありませんから。そう言ってくれたのはトモヤさんじゃないですか」

「え?…あー」

 そういや言った気がする。外に出れば云々出なければ云々、って。今になって冷静に考えるとあり得ないくらい恥ずかしい。

 でも、

「本当に、いいのか?」

「はい」

「…グラのことは」

「腐鱗症は治療しましたし、グラは賢い子ですから私がいなくてもちゃんと生きていけます。本人が言ってたんだから間違いなしです」

 本『人』って部分に引っかかるが…というかもう伝えてるのかよ。

「えっと……じゃあ…」

「何を言っても変わりませんよ。私はもう、決めましたから」

「………分かったよ。一緒に行こう」

 何を言っても無駄だということが分かった。あんなにキラキラ輝いてる目を曇らせるのは不可能に近い。俺が折れるしかないよ、これは。

 で、準備があるというので家の外で待つことにする。しばらくして古びたトランクを持って、白い幅広の帽子を被ったシルフィアが出てきた。

「んじゃ、行こうか」

「あ、待ってください」

 重そうにトランクを引き摺るシルフィア。ええいまどろっこしい!

「貸せ、俺が持つ」

「あっ…」

 シルフィアが何か言う前に強引にトランクを奪う。ぐっと肩に負担がかかるが、そこは男の子。意地を見せて平然と振舞う。

「……ありがとうございます」

 シルフィアが微笑む。ほら、ちょっと痩せ我慢しただけでこんなにいい笑顔が見れるんだ。安いもんだろ。

「ほっほっほ、若いのう」

「え?」

 声のする方を向くと、婆さんと例の村の長だっていう男がいた。それに気付くとシルフィアはまた俯いてしまう。

「行くのかい?」

「ああ。心配させてる奴らがいるんでな」

「そうか。ならば、ほれ」

 婆さんが何かを投げてくる。キャッチしてみると、それは古びた紙。ってか地図だなこれは。

「…何これ?」

「見ての通り地図じゃよ。この森を抜けて一番近くの村まで行く道が書いておる」

「そっか、あんがとな。婆さん」

「構わんさ。儂にはこれくらいしか出来ない」

 婆さんは悲しそうに呟く。そして視線はシルフィアに。

「娘よ」

「……はい」

「お主は、儂達を恨んでおるか」

「………正直に言えば、恨んでいます」

「…そうか」

「………でも」

「…なんじゃ?」

「今地図をくれた事と…今まで私のことを見逃してくれていたことは、感謝しています」

「…最初のはともかく、後の事はなんのことかわからんのぅ」

「そう…ですか」

 それだけ言うと、シルフィアは黙って婆さんに一礼し、そして歩き出した。俺も一礼し、同じように歩く。婆さんも、男も、何も言わなかった。

 でも、俺、思ったんだ。何も言わなかったけど、婆さんも男も、シルフィアのこと大切に思ってるんじゃないかって。

 本当にシルフィアを忌むべき存在と思ってるなら、さっさと殺していたと思う。だから、さっきシルフィアが言ったように見逃してたんだと思う。

 今さっき気付いたんだけど、あの婆さんの目、それにあの男の目。シルフィアの右目と同じで、まるで海みたいに蒼かった。だからきっと、あの二人は………。

 もしかしたら違うかもしれない。何か別の理由があったのかもしれない。でも、そう思った方が後味がいいから、俺は勝手にそう思うことにする。

「………」

 無言でシルフィアが手をつないでくる。俺はその手を、ぎゅっと握り返した。


                    ◆                    ◇



「行きました…ね」

「そうだね。でも心配するこたァない。あの坊主、なかなかいい目をしていた。ちゃんとあの子の事を守ってくれるさ」

「ええ。…あの少年、おそらく…」

「ああ、『渡り人』だろうね。まったく、ああまで明るいと余計に悪く思うよ」

「お気持ち、お察しします」

「いいんだよ察さなくて。この事は儂のような老愚が抱えるべき問題。お前のような若者が気にすることじゃない」

「いいえ。我らエルフは一蓮托生。先人達の罪は我らの罪でもあります」

「はっ、若造が大きな口を叩く」

「申し訳ありません」

「ふん。…さて、あの坊主は真実を知ったら……やはり、儂らを恨むだろうね」

「それよりも、まず心がどうにかなってしまうやもしれません」

「そうだね……願わくば、あの坊主が真っ直ぐに進めることを……」



どうも、妙な複線のようなものを張った作者です。


今回も何も言うことはありません!


以上ッ!




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