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第33話 生い立ち

どもども、お久しぶりです。

まずは投稿が遅れたことに謝罪をさせていただきます。

理由は自分が東北地方在住の為、被害がそれなりにあったからです。

幸いに、家が倒壊するなどといったことにはなりませんでした。

ただ、今回の地震によって決して少なくない数の方がお亡くなりになられました。

その方たちを想い、ここに哀悼の意を表させていただきます。

 シルフィアが走り去った後、俺はしばらく森の中にいた。

 どうしてシルフィアがあんな風になってしまったのかは分からない。それでもなんとなく、考える時間が必要だと思ったからだ。俺も、彼女も。

 どれくらいだろうか。木の根に座り、ぼーっと宙を眺めていた。何も考えていなかった。いや、必要が無かった。するべきことは決まっている。

 とりあえず、シルフィアと話す。後のことはそれから考えればいい。

 日が傾き、空の色が紅に変わり始めた頃、俺はようやく腰を上げる。ぱんぱんと汚れを落とし、帰路をたどる。

 家についた時には太陽はほぼ沈みかかっており、家の中は真っ暗だった。扉を開けて中に入るも、窓からこぼれるわずかな月明かりしか頼れるものが無かったのでところどころに足をぶつけた。

 さて。

 とにかくシルフィアと話さないことには始まらない。暗いままだと何処にいるか分からないので記憶を頼りに手持ちのランプを探し出して着火。室内が薄く照らされる。………ちょっと怖い。

 んで、どこにいるかな、と探し始めて約十数秒、手始めに覗いてみた部屋にいらっしゃった。まあそこがシルフィアの部屋だったんだから当然かもしれないけど。

 シルフィアはベッドに腰掛け、毛布を頭から被っていた。俺は特に足音を隠すでもなく近づき勝手に隣に腰掛ける。隣に来た途端ビクッとされたけど気にしない方向で。

「…………」

「…………」

 俺もシルフィアも何も喋らず、ただただ無言でいた。俺から何かを切り出したりはしない。シルフィアが自分から話し掛けてきてくれるのをひたすらに待つ。

 ……うん、なんで女の子って近づくだけでいい匂いがするんだろうね?布団からも同じような匂いが漂ってくるし。やばい、ドキドキする。

 いや待て待て俺よ。今はそんなことを考えてる場合じゃないだろう。もっとシリアスっぽい感じであるべきだ。あ、でもなんだろう。エルナともフィナともアリスとも違う、この嗅いでいるだけで落ち着けるような匂いは――

「……トモヤ…さん」

「…ん、なんだ?」

 表面上は平静だけど内心かなりビビってます。すいません、ヘンなこと考えてすいません。

「なにも…聞かないんですね…」

「まあな…」

 ホントは聞きたいけど、聞かない。俺が聞いて答えたんじゃ、それは意味が無いから。シルフィアから話してくれなきゃ意味が無いから。

 ま、隣に座った時点で軽く催促してるけど。

 シルフィアは俺をしばらく見つめ、ぱさっと頭の上から毛布を落とすと、ベッドから立ち上がり俺の前に立つ。

「…お話します」

「いいのか?無理しなくても…」

「大丈夫です。私が話したいと思ったから、言うんです」

 トモヤさんのことを信じてますから、とシルフィアは寂しそうに笑った。

 ――あるところに小さな村があった。そこには大昔に人から離れていったエルフたちが幸せに暮らしていた。

 ある時、その村に一人の男がやってきた。男は森の中で迷い、ひたすら彷徨い歩き続けた結果、偶然その村にたどり着いたらしい。エルフたちはその男を歓迎した。人に絶望したといってもそれはもう随分と昔の話。エルフの中にそんなことを気にする者はいなかった。

 男はいつしか当たり前のようにその村で暮らすようになった。ある時は農作業の手伝いをし、ある時は長い年月の間に人の暮らしがどうなったかを村の人に話したりして過ごしていた。

 幾ばくかの年月が経ち、男は一人の女性と恋に落ちた。そしてやがて二人は子を授かった。

 そのことを知った瞬間、村人たちは手のひらを返したような態度になった。

 村を歩けば後ろ指を指され、石を投げられる。まだ子が母の胎内にいるときはその程度で済んだ。やがて子が生まれると、村人の行為はさらに悪化した。

 仕事を奪われ、謂れの無い誹謗中傷が広まり、時には明確な殺意がこもった行いさえあった。耐え切れなくなったか、その男はある日忽然と姿を消した。しかし女性は、愛する人に裏切られながら、それでも母として自らの子を育てると決めた。

 娘への被害を避けるために周りに誰もいない森の奥に家を構え、女手一つで娘を育て続けた。一人だけで田畑を耕し糧を得る。どうしても必要なものがあれば村へ行き、泥だらけになるまで頭を下げ、どれだけ拒絶されようともすがりつき物資を得る。そんな暮らしをしながらも娘へ愛を注ぐのは止めなかった。そのお陰で娘は真っ直ぐに育った。

 娘は母親が大好きだった。母もまた、娘の笑顔を見るのが楽しみだった。

 だが、そんな生活も長くは続かなかった。娘が十を過ぎた頃、母は倒れた。長年の無茶な生活のせいで、その体は病魔によって蝕まれていた。

 もう助からない、と母は悟っていた。そのことを病身の母から告げられてから、娘は泣き続けた。来る日も来る日も、母の手を握りながら。

 母は娘の姿を見、悲しそうな、けれど笑顔で、やがて息を引き取った。

 それ以来、娘は一人で暮らしていた。

「その娘というのが、私です」

「………………」

 何も言えなかった。

 どこかで聞いたことがあるような話だった。悪く言えばよくある話だった。エルフと人の子、つまりはハーフエルフとかいうのだろう。そんな話は前の世界のゲームでよく見た。

 それなのに。それえも何も言えない。原因は、シルフィアの表情。

 笑っていた。

 形は笑顔で、寂しそうで、どこか諦観していて、やっぱり悲しげで。いろんな感情がごちゃ混ぜになっている顔。 正直…見ていられなかった。

 何も言えない俺を、シルフィアは予想していたような目で見ていた。

「……やっぱり、怖いですよね」

 その言葉に、いつの間にか俯いていた顔をハッと上げる。声は震えていた。今にも泣き出しそうだった。なのに、顔は笑っていた。

「分かっていました。エルフと人の混血児は忌むべき存在。気持ち悪いと思うのは当然です」

 淡々と言う声。それは俺へ向けてではなく、自分自身に言い聞かせているように感じる。

「…最後に一つ、お見せしたいものがあります」

 震える声。シルフィアは自身の顔の半分を覆い隠すように伸ばしている髪に手をやる。

 なにか事情があるんじゃないかと思っていた俺は声をかけようとしたが、それよりも早くシルフィアは髪をかき上げた。

 俺の予想とは違い、そこには傷一つ無いきれいな肌しかなかった。

 ただ一つ違うとすれば、それは。

 深い海のような蒼の右目とは違う、まるでアメジストのような紫色の左目。

「…これが、混血児である証。父から受け継いだ瞳です」

「……………」

「そう…ですよね。いくらトモヤさんが優しいとはいえ嫌なものは嫌ですよね。分かってました。分かってましたから、平気です。気にしませんから」

「……………」

 はぁ、と小さく息を吐き、俺の前で儚げに微笑んでいるシルフィアにデコピンをかます。

「あぅっ!…何するんですかぁ?」

 涙目になっている。俺のデコピンは結構痛いらしい。だがまあそんなことは置いておく。

「お前はバカか?何を勘違いしているんだ」

「え?」

 キョトンとしやがって。心の底からそう考えてたのか。

「そりゃ確かにお前の話を聞いたときは話を聞いたときは何も言えなかった。予想以上に重い話だったからな。でも、お前の左目を見て黙ったのは理由がぜんぜん違う」

「……じゃあ、どうしてなんですか?」

 うっ…言わなきゃダメか。かなり恥ずかしいけど…ええい!

「綺麗だったから」

「え?」

「その…シルフィアが……綺麗だった…から…」

「……………」

 いーやー!恥ずかしい!なにを面と向かって綺麗だとかほざいてんの俺!?どんなプレイボーイですか!?死ぬ!死にたい!羞恥心のあまり自害したい!

 自分で言っといてなんだが恥ずかしい。でも本当にそうだったんだから仕方な――

「嘘、ですよね」

「…え?」

「嘘ですよ、私が綺麗だなんて。トモヤさんは優しいから、私を励まそうとしてそんな――あっ」

「…………」

 俺は無言でシルフィアの腕を引っ張り、こちらに倒れてきた体を立ち上がって抱きしめる。

「あ、あの…」

 俺の胸に顔をうずめながらシルフィアが戸惑いがちに声をかけてくる。

「嘘なんかじゃない」

「え?」

「シルフィアは、本当に綺麗だった」

「…やっぱり嘘です。トモヤさんは優しいから」

「はいそこ間違い」

「え?」

「別に俺はやさしくなんか無い。思ったことははっきり言う。好きなら好き、嫌いなら嫌い、やりたくないならやりたくない。自分のために嘘はついても、他の人にために嘘はつかない。そういう人間だよ俺は。だからシルフィアが綺麗だってのは嘘じゃない。俺の、心からの言葉だ」

「………ッ」

 俺の胸の中でわずかに嗚咽が発せられた。発生源は分からない。ということにしておく。

「シルフィアが怖い?気持ち悪い?そんなことない。少なくとも俺はそんなこと思わない」

「……私、母が死んでから一度だけ村に行ってみたことがあるんです」

 唐突に、シルフィアは切り出す。その体は少しだけ震えていた。

「別に村の人たちは私に何をするでもありませんでした。何もせず、ただ遠巻きに見ているだけでした」

「……………」

「でも、その目が…怖かったんですッ!まるで人じゃないものを見ような目で…!」

「…ッ」

「もう嫌なんです!またあんな目で見られるくらいなら、いっそのことここから出なければ――」

「ふざけんな!」

「ッ!?」

「確かに、ここから一歩も外に出なければ誰にも嫌われない。でも、代わりに誰にも愛されない!外に出れば誰かに疎まれることもある。非難されることもある。拒絶されることもある。でも、それでも、大切な人に出会って愛して愛されることが出来る!」

「……ッ!」

「それに、お前はグラを助けたくないのか!?お前のお母さんが死んでから、ずっと一緒にいた友達なんだろ!助けたくないのかよッ!?」

「助けたいですよ!私だって!見捨てることなんか出来るわけないじゃないですか!でも…ッ!」

「だったらそうしろよ!村人の目なんか気にしないで、行けばいいじゃないかよ!」

「でも…でも…!」

「……守ってやるから」

「え?」

 涙で濡れた目で見上げてくるシルフィア。その頬を優しく撫で、優しく言う。

「俺が、守ってやるから。村のやつらが後ろ指を指してくるなら追い払ってやる。石を投げてくるなら打ち返してやる。お前がいやな目で見てくるやつがいたら凍らせてやる」

「………ぁ」

「一人で苦しまないでくれ。誰かに頼れ、俺に頼れ。一緒に苦しんで、一緒に何とかすればいい。俺にも少し背負わせてくれ、お前の苦しみを」

「…うっ…うっ」

 言いたいことを言い終えると、シルフィアは泣きだす。

「う、く。うぇ………う、うぁぁぁん!」

「よしよし」

 声を上げて泣くシルフィアの頭を撫でる。泣き止ませるためではない。むしろ逆。今ここで全部出させるために。

 それからしばらく、シルフィアは泣き続けた。まるで、小さな子どものように。

「…っ……っ…」

 あー分かる分かる。思い切り泣くとしゃっくりでるよね。

「ほーら、もうそろそろ泣くのをお止め」

 くいとシルフィアの顎を掻い摘んで上を向かせる。目の端に涙が溜まっていたので親指で拭ってやる。

「なあ、シルフィア」

「なん…ですか」

「シルフィアは、自分のその目、嫌いか?」

「それは……」

「どっち?」

「あまり…好きにはなれません」

「そう…か。残念だな」

「?」

 俺の言葉に不思議そうにするシルフィア。その左右で色の違う目をじっと覗き込み、小さく笑う。

「俺は好きだよ。シルフィアのその目」

「…………あぅ」

 シルフィア?どうした、顔真っ赤だぞ?

 俺が首を傾げると、シルフィアはぎゅぅと俺の胸に顔を埋める。

「…やっぱり、トモヤさんは優しいです」

「いやだから……ま、いいか」

 またも見当違いなことを言ったので訂正しようとしたが、やめた。しょうがないか、と呟き、しがみついてくるシルフィアの頭をぽふぽふと撫でた。





































    後書きはないぜッ!

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