第32話 前兆
受験まで、十日切ったぜイェーイ!
という訳で、そろそろ本気でヤバくね? と思い始めた作者です。
一応志望校は自分の学力では平気なのですが…やはり油断禁物ということで。
そんなこといいながらも勉強そっちのけで書き上げました。
遅いくせに中身は短いという初期の頃のような状態です。すいません。
湖から帰ってきてからいろいろと試した結果、この精霊魔法とやら、けっこう使えた。
基本的には前から使ってた魔法と変わらず、ようはイメージすればいいだけだった。考え一つで床が氷で覆われたり、壁から氷柱を生やすことも出来た。
だが、そんなことをする機会などは当然あるわけがない。日常で使いどころといえば飲み物を冷やしたり、でっかい氷塊を作って生物の日持ちを良くする位だった。……家庭的過ぎるわ! まあシルフィアが喜んでくれたからよしとしよう。
それはさておき、本当にこの魔法ってどんなときに使えばいいんだろ?せっかく精霊さんに貰った力だし、なるべく有効活用したい…
「というわけでやってきました森の中」
とりあえず広いところに来ればなんか浮かぶんじゃないかと思って来たんだけど、そう上手くもいかない。うーん、と唸りつつ木の根の上に腰を下ろす。
木に背中を預けてぼけーっとする。さらさらかさかさと風が吹き木の葉を揺らす音が耳に心地いい。目を閉じて、わずかに差し込める陽光の中でまどろむ。
『………ォォ…』
「ん?」
今、なんか聞こえた気がする。……なんだ…?
『……グォォ…』
動物か?それにしてはなんか弱弱しいっていうか……苦しそうっていうか…気になるな。ちょと見に行くか。
こびりつく眠気を振り払い、立ち上がって声が聞こえてきた方へ向かう。声はかなり小さいけど注意していればちゃんと聞こえる。悟られないように静かに、足音を立てずに。でもちんたらしてるとどっか行っちゃうかもしれないので迅速に。
『…グォォ……グォォ…』
よし。近づいてきた――ってあれ?この声、聞いたことが…
声の主はもうすぐ近くにいる。ちょうど目の前を背の高い大きな草が遮っているけど、その向こうから声がする。
草を押しのけた先は少しばかり開けている場所だった。そこでうずくまり苦しそうな声を上げていたのは、
「グラ…?」
だがいつもと様子が違った。倒れた体勢のままうめき声を上げている。グラだってドラゴンだ。そのドラゴンがこんなに苦しそうだなんて…、ただ事じゃない…と思う。
「お、おい。大丈夫か」
駆け寄って声をかけるも返答なし。気付いていないのかもしれないと思い、軽く叩こうとすると、
「…ガ、ガァァァ!」
「うわっ」
触れようとした瞬間、グラは勢いよく立ち上がり、俺はその勢いに押され尻餅をつく。
「グォォォ!」
「っぶな!」
立ち上がろうとするといきなりグラが噛み付いてこようとしたので、服が汚れるのも構わず地面を転がって避け、慌てて立ち上がる。
「グォォ、グォォ」
グラは俺のことを血走った目で見、砂煙を上げながら突進してくる。
「どうしたんだグラ!俺だ!トモヤだ!分からないのか?!」
「ガァァァァ!!」
それを回避しながら呼びかけるが変化なし。木々をなぎ倒しながら止まり、再び突進してこようとして、呻きながら膝をつく。やはり弱っているようだ。ならなんで襲い掛かってくるのだろうか。
ちらりと横目で手にしている《飛鳥》を見る。グラはこれを、というよりこの鞘を怖がっていたはずだ。弱っている上に怖がっていたものに自ら突っ込んでくるなんて…どういうことなんだ?
―――窮鼠猫を噛む
あれ?なんかいきなり慣用句が浮かんできたんですけど。どゆこと?なんで?てかどういう意味だっけ。
確か『追い詰められたねずみは怖い』的な意味だった気がする。……ああ、そうか。
「追い詰められてんのか…」
元々何らかの理由でグラは弱っていた。そこに恐れているものが近づいてきた。だからこうして死に物狂いで反撃して来てんのか。
ていうかよく見て。そして気付いて。俺だから。むしろ俺がねずみだから。俺のほうが追い詰められてるから。とか何とか考えてるうちにまた突っ込んできた!
「とうっ!」
ギリギリまでひきつけて全力で横に跳ぶ。グラが体勢を立て直してまた来るまでの時間でなんとか対策を考えなければいけない。
第一に、グラを傷つけるわけにはいかない。アイツは訳が分からなくなってるだけだし、なによりアイツは友達だ。だからグラを傷つけずに、尚且つアイツに正気を取り戻させないといけない。キツいな。
方法は浮かんでいる。いけるかどうかは分からない。でも、このままダラダラしていたら、俺より先にグラの方がどうにかなっちゃいそうだ。やるっきゃない。
数秒で思考をまとめ、やることを決めた俺は目を閉じ集中する。魔法はイメージ。精巧にイメージすればその通りになる。
どうやらグラが立ち直ったようで、こちらに向き直り再び突進してくる。グラの足音が徐々に近づいても集中を切らさない。
もう彼我の距離は数メートルといったところで、かっと目を開く。予想よりグラの巨体がかなり近くにあることを確認する。間に合うか。
《飛鳥》を抜刀し、刃先で地面を四ヶ所突き、刀を横に構える。
「――次の舞・白連!」
叫ぶと同時に刺した地点から大量の冷気が雪崩のように現れる。
「グォォォ!?」
膨大な量の冷気はグラの巨躯に激突し、瞬き一つする時間でグラは氷漬けになった。
「………ふぅ」
動かないのを確認して一息つく。
…しっかし、よくもまあ上手くいったもんだな。三秒で思いついた策にしては上出来だ。いや、思いついたっていうか思い出した技だな。つかこれもう魔法じゃないし。
「あ、いけね」
このまま氷漬けだとグラが逝っちゃう。
でもこの厚さの氷ぶった斬んのは無理だしな。やっぱこう、指をパチンと鳴らして中身もろとも氷が砕け散るっていうのを――ダメだって。それだとグラ死んじゃう。
ということで指パッチン。すると俺が考えたとおりに氷だけが砕けグラは無事。よかったよかった。
いや待て俺よ。一番大事な問題が残っているだろう。なんでグラがあんなに弱っていたかってことだ。
ぐったりしているグラに恐る恐る近づく。どうやら完全に気を失っているようだ。大丈夫。死んでない。ちゃんと呼吸してるし。………かなり弱弱しいけど。
「あ」
ちょっとやりすぎたかな、と今更ながら心配になっていると、視界に異変が移った。
グラの体は緑色の鱗というか甲殻で覆われている。だが、その背中の一部分。その甲殻は、黒かった。
一応他のところも見てみるが特に変わったところも無いので、やはり原因はそこだと判断する。ただこれが何なのか分からない。俺はとりあえずシルフィアを呼ぶことにし、いつの間にかまた苦しそうな声を吐いているグラを一瞥し、走り出した。
ろくに説明もせずに家から引っ張り出されたシルフィアは、倒れているグラの姿を見るなり駆け寄り、心配そうに声をかける。シルフィアのことは分かったのかグラは小さく鳴いた。
俺が黒くなっている甲殻のことを教えると、シルフィアは血相を変えてその甲殻を見て、とても…悲痛な表情になった。
「なあシルフィア、グラはどうしたんだ?」
「……グラは…『腐鱗症』という病にかかっています」
「不倫症?」
あちゃー。それはどうしようもないね、って違うな。きっと漢字が違うんだろう、どう書くかは分からないけど。
「はい。見ての通り、鱗が腐っていく病気です」
あぁ、腐鱗ね。
「ただこの病気の恐ろしいところは、本当に腐っているのが鱗ではなくその下の肉だということなんです。鱗はついでに過ぎません。病は徐々に体を蝕んでいき、脊髄や体の重要な器官まで到達したら…絶命します」
怖ッ!病状怖っ!なにより説明が淡々としてて怖ッ!
「な、治す方法は無いのか?」
「………あります」
「本当かっ!」
答えるまでのわずかな間が少し気にはなったが、ひとまず置いておく。
「どうすればいい?」
「…治すには、ある植物が必要です」
「植物?」
「はい。その植物の葉をすり潰したものを黒くなっている部位に塗り、花を食べさせることで治すことが出来ます」
「じゃあその植物ってのを探さないと!」
俺は慌てる。いつからグラがこの病気にかかっていたのか分からない。いつ死んでしまうかもしれない。急がないと、そう思っていた俺は、ぴたっとその感情を押し殺す。
震えている。
シルフィアの体が、震えている。寒いからではない。あれは…怖がっている?
「…場所は、分かっています」
「……どこ?」
「………聖域」
「え?」
俺が聞き返すと、シルフィアの震えはさらに増す。それでも彼女は言葉を続ける。
「この近くに村があるんです。そこで、聖域と祀られている場所に…あります」
「…だったら、早くそこに「出来ません!」…え?」
俺の言葉にシルフィアが割り込む。その声はどこか必死で、悲しかった。シルフィアは俯いていて前髪で表情は良く見えない。体の震えは酷くなっていた。
「…ごめんなさい。……でも、出来ないんです……!」
振り絞るようにそう言うと、シルフィアは走り去っていく。
「………」
俺はその背中を見ていることしか出来なかった。
最初に、次の投稿は遅れます。
最低でも3月8日以降になりますね。モンハンの方もあるので、多分そっちを優先すると思います。あしからず。
あ、後これからもちょくちょく他作品の氷系の技を使わせようと思っていますので。
では、これで