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第21話 決着

ん~、何故だろう。書きたいことは腐るほどあんのに思うように指が進まない。

やはり自分には文才が無いのだろうか。

しかし俺は諦めない。頭の中のストーリーを全て描くまでは!

 どこか遠くで名前を呼ばれたような気がした。

 頭の中に靄がかかったように思考がはっきりせず、体はピクリとも動かない。心臓の鼓動がやけに小さく聞こえて、していることさえ忘れていた呼吸も浅いものでしかなかった。口の中はイヤというほどさびの味がし、鼻からは生臭いにおいしか嗅ぎ取れない。手足の感覚がうやむやで、唯一感じる頬からの感触も生ぬるい液体に浸っているものでしかなかった。

 そんな状態の中、また名前を呼ばれたような気がした。だが分からない。一体何がどうなって、誰が俺の名を呼んでいるのか。分からなかった。誰なのか聞こうとしたが声が出ず、ただ息が漏れていくだけだった。

 まるで接着剤でくっつけたように固いまぶたをどうにか僅かばかり押し開ける。視界は狭かったが見えるものがあった。

 凄まじい勢いで飛んでいく座席。

 これはダメだな、と思った。本格的に天からのお迎えが来るかもしれないと思う。

「――、―――――!」

 声が聞こえた。内容までは分からない。だが声の主には覚えがあった。

(……エル…ナ…?)

 いつも以上に鈍い思考がそう判断した瞬間、どっと色んなものが頭に浮かんでくる。体中を包んでいた痛み。その痛みを消していく暖かい感触――きっとフィナだろう。必死に名前を呼んでいるアリスの声。

(……ああ)

 バレてしまった。誰が教えたのだろうか?さっき運ばれていったヴァンだろうか?誰でもいい。全く、なんてことをしてくれたのだろう。

(…バレたら…怒られるじゃねえか)

 こんな危険なことをしたのだから彼女たちは怒るだろう。そして、それは心配したからこそのものである。出来れば彼女たちには心配などしてほしくなかった。朝起きたらそこにおばさんがいて、全て誤解だと分かり、もう追いかけられることがない。そんなハッピーエンドを迎えて欲しかった。

 ふと耳に小さな爆発音が聞こえた。見るとエルナとロトが魔法を撃ち合っている。だがどう見てもエルナの方が押され気味だ。ロトはまだまだ余裕と言った表情をしている。

 仮に魔法が互角だったとしても彼女は勝てないだろう。彼女は人を撃つことが出来ないのだから。

(……………)

 体にはずっしりと疲労が残っているがなんとかする。傷はほとんどフィナが治してくれた。視線を下げれば、手のすぐそばに《飛鳥》が転がっていた。

 …………それじゃあ始めよう。俺が最初に望んだようなハッピーエンドが無理ならば、どうにか別のハッピーエンドにするだけだ。


 柄を握った瞬間、《飛鳥》の刀身は眩く輝いた。不思議と力が湧いてきた。


                    ◆                    ◇


(……ふう)

 ロトの魔法からエルナを助け、内心安堵する。

(…マジでギリギリだった)

 立ち上がれるようになり、何でかは知らないけどものすごく速く走れた。でもタイミング的には結構ヤバかった。

(――さて)

 キッ!と眼前のロトを睨む。ロトは僅かにうろたえるが、すぐに余裕そうな表情を作る。

「ハハハハハ。スゴい。スゴいよキミは!こんなに驚いたのは本当に久しぶりだよ。あそこまでやられて、立ち上がった理由が“根性”?ハハハハハハハハ!………バカにしてるのか?」

 態度が豹変する。愉快そうな笑いから一転し、射殺さんばかりの視線と怒気をぶつけてくる。本気で苛立っているようだ。

「そのゴキブリ並の生命力を称えて、一思いに終わらせてやろう」

 言うと同時に、今までよりもはるかに多い量の針を撃ち出してくる。

 向かってくる数え切れないほどの魔法を前に、背後のエルナがひっと悲鳴を上げる。

 その光景を前にして、俺は、少し足を開き、動きやすいようにする。そして――

――斬る。

 飛来してくる針を一本、時には数本、時には数十本、刃を通していく。両断した針は一瞬で霧散していった。

「…は……?」

 驚嘆の声が聞こえた。それはロトのものだったかもしれないし、エルナやフィナ、アリスだったかもしれない。驚くのも仕方が無いだろう。今の動きは明らかに有り得ないものだった。やっといてなんだが自分でもよく分からない。原因はこの光ってる《飛鳥》だろうけど、詳しいことは知らない。知りたいとも思わない。今はただ、目の前の野郎から全員を守れればいい。

「くそっ!」

 ロトは再び魔法を放つ。先ほどよりも数を増やして。それでも斬る。斬り残しはあってはならない。後ろのエルナは動けないのだから。

 全て斬り、さらに数を増やして放たれたものをまた斬る。これを何度も繰り返すと、ロトの顔に焦りが見え始める。

「くそっ…クソッ………くそがぁっ!」

「あんまり汚い言葉を使うなよ。品位が落ちるぞ」

「黙れェッ!」

 もはや悲鳴に近い叫びとともに生み出される幾多の針。それをまた斬る。斬る。

「………ッ!」

 ロトの顔には焦燥と驚愕が貼りついていた。自分の攻撃が次々とかき消されていくのは怖いだろう。圧倒的な力の差を見せ付けられるようで、精神的にも大きなダメージになっているだろう。

「…く、そっ!死ねぇえええっ!」

 ロトが手を俺の頭上に手をかざす。同時に俺の上に影が射す。これは覚えている。俺が押し潰されたアレだ。

 素早く上を仰ぐ。そこには予想通り。いや、思っていたよりも大きな、俺が食らったのより数倍のサイズ。それが一直線に落ちてくる。

 俺も跳ぶ。強化された分も計算に入れ、僅かに足首の膂力のみで跳ねる。それでも、予想よりずっと速く高く飛んだ。水の塊が眼前に迫るのと同時に刃を二閃。十字に斬られ四分割されると、水の塊は一瞬で消失する。

「…………………」

 もはやロトは言葉を発しなかった。ただただ俺を恐れるようにジリジリと後ずさりしていく。それを見た俺は一歩踏み出す。ゆっくりと、しかし力強く。

「……ひっ…!」

 子供のように脅えるロト。その光景を見た俺は、もう目の前の人間をどうこうしようという気持ちが薄れてしまった。正直、もうどうでもいい。とりあえずけじめとして一発だけぶん殴って終わらせよう。

 そう考えてさっきよりも速く踏み出してしまう。どうもそれが攻撃色だと思ったらしいロトは、激しく狼狽した様子になる。なにやら慌てて懐から取り出したのは………紙?

「おいだれか!誰かいるか!誰でもいいから出てきてくれ!」

 ロトはその紙に向かって叫ぶ。気でも触れたかと思っていると、

『―――これはロト殿。なにか御用でございますか?』

 紙から声が聞こえてくる。だが肉声ではなく、一文字一文字で発音が違う、ボカロのような不自然な声だった。

「た、頼む!助けてくれ!」

『助けて?と申しますと、どういった状況なのですか?』

「ば、化物が!目の前に化物みたいなヤツが!」

 失敬だなコイツ。やっぱり殴るの二発にしてやろうか。

『化物ですか。それは……都合がいいかもしれませんね』

 小さく不審な言葉が紙から聞こえてきたが、ロトは反応しない。気付かなかったようだ。

「頼む、助けてくれ!金ならいくらでも払う!」

『ええ、もちろんです。ロト殿には日頃から懇意にしてもらっておりますので。…では―――どうぞ』

 ピッと紙から赤い光が伸び、ロトの額を捉える。

「………ぁ」

 小さく声が漏れるともに、ガクッとロトが膝立ちになる。

『――さあ、どうなるかはお楽しみです』

 ロトの手から滑り床に落ちた紙から声が聞こえる。その紙には、どうみても魔法陣にしか見えない代物が描かれていた。

「何……あれ…?」

 背後のエルナの小さな呟き。魔法陣を注視していた俺は、そこで始めて異変に気付く。

 ロトの額――さっきの赤い光が当たっていた場所に、小さな赤い玉が埋まっていた。あれは…まさか……。

「嘘…」

 フィナの微かな声が聞こえたことで、俺の疑念は確信に変わった。彼女が驚いたのなら間違いないだろう。あれは、以前俺が戦ったヘレイが使ったモノと同じものだ。

「ぁ………あ」

 ロトの目から生気が消え失せ、瞳孔が開きっぱなしになっている。明らかに異常。以前の戦った記憶を思い出し、警戒する。

 変化は一瞬だった。

 たった一箇所。服を突き破って背中から数本の触手が生えてくる。ヘレイのように全身の変化は無いものの、明らかなその異質な状態は、俺の中の警戒レベルを最大まで引き上げるのには十分だった。

 ロトの背中から生えた触手はしばらく蠢き、ぎゅっとその身を縮め、爆発的に伸びる。方向は三つ。俺とエルナ、フィナとアリス、そしておばさん。

 俺は強化された体のフルスピードで駆け出した。向かってくる触手を中ほどで切断し、さらに駆ける。最初に捨てていた鞘を回収。おばさんの元へ向かうと同時に鞘を全力でフィナとアリスへ向かっている触手へ投げる。

 まだ倒れているおばさんに向かう触手を切り裂くと同時に投げた鞘が触手を引き千切る。予想以上の威力だ。

 斬られた触手は動きを止め、ゆっくりと戻っていく。そしてヘレイと同じように、斬られたところから一瞬で再生する。

 再生した触手は、優先事項でも決めたのか、目標を俺に絞って襲い掛かってくる。

 俺は再び走る。触手は素早く追尾してくる。それを逃げ切れるものは逃げ、先読みして回り込んできたものは斬る。

 裁判所の中を駆け巡りながら、横目でロトの様子を確認する。目には生気が無く虚ろで焦点があっていない。ただ無心に中空を見つめ、触覚の動きにつられるように体が僅かに動いている。

 哀れ。

 今のロトを見た率直な気持ちがそれだった。そして何故だろう。おばさんに罪を着せた張本人なのに。エルナたちを襲おうとしていたヤツなのに。どうしてだろう。どうしてこんなにもアイツを―――

(――助けたい…)

 分からない。理由が見つからない。ただ、まあ適当にアイツが死んだりしたらおばさんの無罪が証明されないとかそこら辺の理由でいい。理由なんて後付けでいい。大事なのは今、俺がどうしたいか。そして、そんなの、もう決めた。

(…助けてやる…!)

 やるべきことを決めた俺は壁に向かって走る。ぶつかる寸前、跳躍。考えられないほど高く跳び、勢いそのままに壁を走る。天井近くに来た時点で再び跳躍。そしてロトの真上、天井に足を着け、体全体をバネのようにして、天井を蹴る。

 一直線に降下してくる俺を迎え撃つため、触手が伸びてくる。その全てを斬る。斬る。斬る。斬―――

「―――――ッ!」

 バチィッ!と、触手の一本が柄を握る手に当たり、《飛鳥》が弾き飛ばされてしまう。

 ドンッ!と重石を載せたように疲労が体にのしかかってくる。空中にいるためバランスがとれず、体がブレる。

(まだ…)

 体を強化していた《飛鳥》が手元に無いため、もう体に力など残っていない。ロトから生えていた触手は全て斬った。再生してまた攻撃してくるより、自分の落下速度の方が速い。

(まだ…)

 それでも体に力が入らない。このままだとロトの真横に、頭から落ちることになる。もしかしなくても即死だろう。

 だが、

「まだだっ!」

 諦めるわけにはいかない。諦めたくない。例えぶつかった衝撃と膨大な疲労で手指の感覚が無かろうと。

 それでも、この五指を握り締める理由はある。

「あああああああああああああああああっ!!」

 体中から残りかすの様な僅かな力をかき集める。その力を全て、握り締めた右拳に込める。空中の不安定な体勢のまま、腰を捻り、戻す勢いとともに拳を突き出す。ただ一点。ロトの額の赤い玉目掛けて。

「けじめの、一発だぁあああああああああああ!!」

 ドガンッ!と拳が赤い玉に当たるとともに、バキッ!と指から、グキッ!と手首から、ブチィッ!と手首の中から、ゴキッ!と肩から音がして、完全に右腕の感覚が無くなる。

 無様に床に落ちると、ロトの額にあった赤い玉が割れて落ちてくる。ロトのからだは大きく揺らぎ、ドサリと倒れる。一瞬見えたロトの目は、もう虚ろではなかった。

「終わっ…た、か…」

 思わず呟き、疲れから床に倒れこもうとして、

『―――終わりましたか』

 ロトが持っていた紙から声がし、一気に気を引き締める。

「…だれだテメェ?」

『ふむ。あれはまだ調整段階だったのですが、それでも倒してしまうとは。いやはやお見事』

 俺の問いには答えず、声の主は喋る。

『そろそろ時間ですね。では、異世界からの旅人さん。機会があったら、また会いましょう』

「待っ―――」

 待てと言い切る前に、紙は青い炎に包まれ消えてなくなってしまう。僅かに残った灰をしばらく見つめ、疑念を振り払うようにその場から離れる。

 転がっていた《飛鳥》と鞘を拾い上げる。《飛鳥》は柄を握るとまた輝いて体は軽くなったが、鞘に納めるとそれも消えてしまった。

「おばさん、メイラおばさん」

 エルナがおばさんを起こそうと体をゆすっている。しばらくするとおばさんの目がゆっくりと開いていく。

「おばさん……」

「ああ、エルナかい…」

 おばさんはまだ若干ぼんやりした目で周りを見回し、

「………全部、終わったんだね」

 小さくそう呟いた。

 俺はそれに僅かに首を傾け肯定しゆっくりと後ろを向く、というなんかカッコイイ気がしないでもない動作をし、

「トモヤのっ……バカぁーーーーーーー!」

「ぐほっ!」

 半泣きのアリスに腹をぶん殴られて奇声を上げた。アリスよ、俺一応重症なんだけど。

「トモヤのバカバカバカ!死んじゃったかと思ったんだよ!」

 腕をぶんぶん振り回して叩いてくるアリス。動作は可愛いけど一撃一撃が強い。ちょ、ま、痛ッ。

「………………」

「あの~、フィナさん?」

 無言無表情で同じようにフィナが叩いてくる。コイツぁ腰が入ったいいパンチだ……って本気じゃねコレ。

「痛い痛い痛い痛い!ちょっとフィナ本気で怒ってない!?」

「…………嘘ついた」

「へ?」

 フィナはそれだけ言ってボスボス殴り続けてくる。これ以上のダメージは洒落にならないので手をつかんでガード。

「え、何?嘘って何?」

「……隠し事は無いかって聞いたら、無いって言った」

 ああ、そういえば入浴中にそんなことを聞かれたような無いような。いやぁ、あん時はここまで大事になるとは思わなんだよ。じゃあ、とりあえず。

「ごめんなさい」

「……(ゲシゲシ)」

 くッ、今度は脛にローキックか。芯に響くぜ。

「まあ、そこまでにしといてやってくれ。かなりダメージもあるだろうしね」

 こっちにやってきたおばさんが助け舟を出してくれる。まだ足取りがおぼつかないのかエルナに支えられている。

「―――で、この子らはどちら様だい?見たことない顔だけど」

「…フィナ」

「アリスと言います。よろしくお願いします」

 無表情で最低限のことだけ言うフィナと、折り目正しくお辞儀までするアリス。相対的だねぇ。

「ほう……」

 おばさんはフィナを見、アリスを見、何故か自分を支えているエルナを見て、俺にニヤニヤした笑いを向けてくる。

「いやぁトモヤ、アンタも隅に置けないねぇ。はっはっはっはっは!」

「?何のことですか」

「気付いてない?いや自覚が無いのか。どっちにしても面白いねアンタは!」

 バシバシバシと肩を叩いてくるおばさん。何気に一番痛い。

 しかしどうしたんだろう。おばさんの発言の後三人の顔がやや赤くなったような……………ん?

「あ……れ…?」

 グラグラと視界が揺れる。ちゃんと立っていられな―――

「おっと」

 バランスを崩して倒れた俺の体をおばさんが受け止めてくれる。

「……無理も無い。この場所がこんなになる位の戦闘をしたんだ。疲れて当然。あとはアタシに任せてゆっくり休みな」

 おばさんの声が聞こえた。確かに尋常じゃないほど疲れた。ああ、眠いな。

 抗いようの無い眠気が襲い掛かって来た為、バァンッ!と裁判所の扉が開いて鎧姿の奴らが入ってきても、俺は動くことが出来なかった。

個人的には部分部分に違和感があります。

いきなり自己反省です

他に何か間違いなどがありましたらご指摘ください

修正するとともに今後の糧としていきます






………………実はもうエンディング考えてたり



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