第14話 彼女の選択
あれ?この話、もっと短くなる予定だったのにな…
書きたいこと書いてたらこんなんなってしまった。でも後悔はしていない。
それでは、どぞ
目が覚めると、知らない天井…ではなく、一度見たことのある天井だった。ふと寝る前のことを思い出して、体の節々の痛みを感じる。傷は全部フィナに治してもらったので、これは筋肉痛かなとぼんやり思う。
周りを見渡す。日差しが差し込む窓、隣で安らかに寝息を立てているフィナ、壁に立て掛けられている《飛鳥》、こちらを見下ろして頬をひくつかせているエルナ…。
あれ、おかしいな。今なんかおかしなもの二つ程見えた気が…。もう一度確認してみよう。日差しが差し込む窓、今日もいい天気だな。隣で安らかに寝息を立てているフィナ、どんな夢みてるんだろうな。壁に立て掛けられている《飛鳥》、昨日のアレは一体なんだったんだろう。こちらを見下ろして頬をひくつかせているエルナ、あれは完全に怒ってるよ。…これは…そうだな…うん、わかった。
「夢だなコレは」
「いいからさっさと起きなさいよ!」
現実から逃げようとした俺にエルナが一喝する。やっぱり夢じゃないのね。
「ん~、うるさい…」
エルナの声がうるさかったようで、フィナは眉をしかめて…なぜか俺に抱きついてきた。俺、抱き枕扱いかよ。
「ほ~う、随分と仲がよろしいようで」
エルナがキレていた。何故かは知らんが不機嫌度数が上昇していた。
「まあ、落ち着けエルナ。俺もいまいち現状が理解できていないんだ」
「へー、つまりアンタは無意識のうちに女の子をベッドに誘い込むような男だったんだ」
「断じて違う!」
酷い誤解だ。俺はそこまで女に飢えてない…と思う。
「…うるさい」
抱きついていたフィナが、今度は俺の胸に顔をうずめてくる。このコ、ホントは起きてんじゃないの?
「随分と見せつけてくれるじゃないの…」
「だー待て待て誤解だ!あー畜生、またこんな事に…」
「「また?」」
フィナとエルナの声が重なる。ってかやっぱりフィナ起きてたし。
「トモヤ、今またって言ったわよね?」
「どういうこと?」
「ちょっと待って!なんで二人とも興味津々なんだよ!それよりフィナ、お前いつから起きてた!」
「「そんな事はどうでもいい」」
「なんで息ぴったりなんだよ!」
くそッ。一体何がこの二人をこんな状態にしたんだ。逃げようにもすぐ後ろは壁だし前方は怖い人しかいないしもう八方塞がりだ。
「さあ、早く」
「説明して」
…………………………神様。どうにかしてください。
数分後、俺の必死の説得によって、二人は落ち着きを取り戻し、俺は難を逃れた。そして今、俺は二人の前で床に正座させられている…
「これってまだピンチじゃね?」
「なに一人でぶつぶつ言ってんのよ」
目の前で椅子に座っているエルナがこちらを睨みながら言う。ちなみにフィナはエルナの後ろでぼーっと突っ立っています。
「まあいいわ。とりあえず、アンタのさっきの発言については後々聞くとして」
あ、忘れたわけじゃないんだ
「今聞きたいのは昨日のアンタの行動についてよ」
あ~、やっぱりそのことですか。
「気付いたらベッドはもぬけの殻だし、宿屋の女将さんに聞けば怪しい研究所に行ったって言うし、研究所に着いたらあんなだし、挙句の果てにアンタはへレイっていう人と戦ったらしいし、アンタ一体何考えてんのよ!」
めちゃくちゃ怒ってるな。怒髪天を衝くとはこういう時につかうのか。
「いろいろ思うところがあったんだよ。ごめんな、心配かけて」
そう言うと、エルナは顔を赤くして、
「心配なんかしてないわよバカじゃないの!アタシが言いたいのは、なんでアタシを置いていったのかってことよ」
「だってお前気持ちよさそうに寝てたし」
「うっ………」
「それに、下手したら戦うことになるかもって思ったから。お前に怪我なんてして欲しくないし」
「うう…………」
理由を並べていくにつれてエルナの顔が赤くなっていく、それに比例してフィナの表情がやや不機嫌に見えてくる。
「それから…」
「いいっ!もういいっ!」
続きを言おうとしたら、エルナに遮られる。
「え、でも…」
「いいのっ!もういいったらいいの!」
真っ赤になった顔で睨まれたらさすがに黙るしかない。
「次は私」
今まで後ろにいたフィナがすっと前に出てくる。ってか次って?ターン制なのこれ?
「あの時、私が殴られて気を失っている間、何があったの?」
至極真面目な表情でフィナが聞いてくる。これはおちゃらけて答えるものじゃないな。
でもどうしよう。フィナの両親のことや、体が勝手に動き出したこと、《飛鳥》の刀身が光ったことは言うべきか否か…………よし。
「フィナが殴られたのを見て、俺がキレて、へレイを斬ったら偶然胸の赤い球体が傷ついたんだよ。そしたら急にへレイの様子がおかしくなって、斬っても傷が治らなくなった。そしたらいきなりあいつの体が文字通りバケモノみたいになった。腕とか切り落としてもすぐに生えてくるようなバケモノだ。しばらくやりあって、俺が胸の球体を叩き壊したら死んだ」
言うのはやめた。フィナに伝えるのは今じゃなくていいし、後のことは俺の気のせいかもしれないし。
「そう…」
話を聞いたフィナは何かを考えるような仕草をする。
ん~、どうするかな?あの赤い球体について聞きたい気もするし、なんか聞いちゃいけないような感じもするし、そもそも聞いたところで俺が理解できるのかどうか微妙だし。というわけで聞くのはやめよう。
「トモヤ、もう一つだけいい?」
なにかを考えていたフィナがこちらに向き直って言ってくる。
「ん、いいぞ。なんでも聞いてくれ」
「トモヤは私の両親についてなにか知ってる?」
「………」
うわー、ピンポイントで来たよ。あれ、でもなんでだ?
「なんでフィナはそのことを俺に聞くんだ?」
「あの時、気を失う直前、トモヤとへレイの会話が少しだけ聞こえたから」
なるほど。核心に入る前に気を失ったのね。観念して話そうとした俺は、ふと思い留まり、エルナに視線を向ける。
「アタシ、ちょっと出てくるわね」
俺の意図を察してくれたらしいエルナが立ち上がる。ここからの話は他人が軽く聞いていい話じゃないからな。
すると、出て行こうとするエルナをフィナが制す。
「行かなくていい」
「でも…」
「いい。エルナの話は聞いたから。これでおあいこ」
フィナの言葉を聞いたエルナは微笑む。どうやら、俺が寝ている間にいろいろあったみたいだな。
「じゃあ、話すぞ」
「(コクリ)」
居住まいを正すフィナ。どうでもいいけどいつまで正座してればいいのかな俺。
「結論から先に言う。フィナの両親はもう死んでいる」
「……」
覚悟はしていたのか、フィナの表情にあまり変化はない。それでも、全くショックがないという訳でもないだろう。後ろのエルナも苦々しげに表情を歪ませている。
「フィナは小さい頃から天才的だったらしくてな、その頭脳をへレイが欲しがったんだ。だけどフィナの両親は断った。それでも諦めなかったへレイが二人を殺して、孤児になったフィナを強引に引き取ったらしい」
「酷い話ね…」
「……」
エルナが呟くように言い、フィナは俯いて無言を貫く。だが、その肩が小刻みに震えていることに、俺とエルナは気付いていた。
「…アタシ、ちょっと調べたいことがあるから、ちょっと出てくるわね」
そう言って立ち上がったエルナは、こちらに視線を送ってくる。その中身を理解した俺は小さく頷く。エルナが出て行き、部屋には俺とフィナだけが取り残される。
「……」
俯いたまま喋らないフィナ。俺から何かを切り出すつもりは毛頭ない。すべてはフィナの反応待ちだ。
「……」
「……」
無言の時間が過ぎていく。俺はなにをするでもなくただ中空を眺めている。………正座で。
この体勢はさすがにないなと思い、立とうとする。
「私のせい、なのかな?」
―――フィナの呟きで完全にタイミングを外したが。
「な、何がだ?」
「私の、お父さんとお母さんが殺されたこと」
「…」
ああ、そうだったな。この子は、優しすぎるんだったな。へレイと戦った後も、俺の怪我は自分のせいだと言って涙を流していたっけな…。本人は欠片ほども悪くないというのに。どちらもへレイが悪いというのに。
気付くと俺はすっと立ち上がり、フィナを抱きしめていた。
「あ……」
「バカだな、オマエ」
俺はゆっくりと語りかける。
「オマエは悪くないのに、なんで一人で勝手に抱え込んじゃうんだよ」
「でも、でも…」
フィナの体が震える。俺はその震えが止まるように、さらに強く抱きしめる。
「大丈夫だよ。オマエはこんなに立派に育ったんだ。オマエのお父さんとお母さんも、きっとあの世で自慢してるよ。だから、自分のせいだなんて思うな」
「うっ…んっ」
「いいよ泣いても。今は俺しかいないから」
俺がそう言うと、フィナは俺の胸に顔をうずめて泣き出した。構わないと言ったのに、それでも声を押し殺して。俺はそんな彼女を見て、すこしおかしくなった。フィナの肩をさらに強く抱きしめる。少しでもいいから、彼女が安心できるよう、そう祈りながら。
数分後、フィナは泣き止んだ。すると、頬を赤く染めて離れていってしまう。きっと恥ずかしがっているのだろう。しかし、時折フィナはこちらを見ている。それに気付いた俺がフィナを見ると、顔を赤くしてそっぽをむいてしまう。そんなやり取りが何回か繰り返される。徐々に部屋の中の空気がちょっとおかしくなっていく。
(ねぇ、なにこの空気。気まずい。というよりなんだろう。ここから逃げ出したい。でも逃げ出したらダメなような気もする。なんなんだオイ。どうすればいいんだこれ。なにか、なにか変化を…そうだエルナだ。エルナ、早く戻ってきてくれ。頼むっ)
そんなことを考えている間も、フィナは俺のことを見てくる。気になってフィナの方を向く。すると、フィナはすさまじい速さで別の方を向く。一体何度目のやり取りなのかも分からなくなり、ため息をつきそうになる。
「ただいまー、って…」
俺の願いが通じたのか、戻ってきてくれたエルナだったが、部屋に入るなり訝しげな表情になる。この部屋の微妙な空気を感じ取ったのか。
エルナはまず俺を見て、次に赤くなっているフィナを見て、再び俺を見た。そして何を思ったかは知らんが、助走無しで俺にとび蹴りを繰り出してくる。…って、
「あぶない!!」
ギリギリで回避し、無様に転がる俺。対してエルナは華麗な着地を決める。いや、そんなことどうでもいい!
「エルナ!いきなり何しやがる!」
「なんかしたのはアンタの方でしょ!正直に言いなさい。フィナに何をしたの?」
「何言ってんだよ!何もしてねぇよ!」
「嘘よ!じゃあなんであの無表情のあの子が顔赤くしてんのよ!」
「!それは…その…」
「言いよどんだわね!さあ言いなさい。フィナに変なことしたんでしょ!」
「変なことなんかしてないって!」
「だったら…フィナ?」
何かを言おうとしたエルナの肩をフィナが掴む。
「大丈夫。なにもなかった」
いつものように無表情で話すフィナを見て、エルナは小さく息を吐く。
「フィナがそう言うなら、分かったわよ」
そしてエルナは俺を見て、声を出さずに口だけを動かす。内容を理解した俺は得意満面に笑ってみせる。そんな俺をみて、エルナが呆れたように笑っていた。
ちなみにエルナが伝えてきた内容は簡単。
『うまくやったわね』
「トモヤ、エルナ。お願いがある」
フィナがそう言ってきたのは、さっきのゴタゴタがあってからしばらくした頃だった。
「なんだフィナ。改まってどうしたんだ?」
俺が聞くと、フィナは何かを言おうとする。が、躊躇う。俺とエルナは急かすようなことはしない。フィナの決心が固まるまで待つ。
やがて、意を決したようで、フィナは口を開く。
「私も二人についていきたい」
「いいぞ」
即答する。否定する理由が見つからない。フィナがあまりの即決に面食らったような顔をしているが、気にしない。
「エルナ、オマエもいいよな?」
振り返って後ろにいるエルナにも尋ねる。きっと、エルナも快く頷いてくれるはずだと信じて。
「ん~…」
当のエルナさんはなにやら渋い顔をしていらしたが…
「やっぱり、ダメ?」
悲しそうな表情でフィナが言う。
「違う違う。フィナが来てくれるのはかまわないんだけど。ちょっと…」
賛成の意を示すが、やはり渋い顔になる。
「なんか問題でもあるのか?」
「ええ、一つね。アタシ達、レパーラに行くためにこの街に来たじゃない」
「ああ」
「それで、さっき出た時に国境を通るための方法を調べたのよ。そしたら…」
「そしたら?」
「通るために必要な通行証が高いのよ。一番安い簡易通行券でも、結構高くてさ…」
嘆息するエルナ。どこの世界でも金が大事なのか…、世知辛いな。
俺が余の不条理に嘆いていると、フィナが口を開く。
「それなら、問題ない」
そう言ってフィナはポケットからなにかを取り出す。それは、宝くじ位の大きさの紙。
「それ、簡易通行券じゃない!フィナ、それどうしたの?」
フィナが持っているものを見たエルナが驚いたように言う。
「研究所にあったのを持ってきた」
無表情で言うフィナ。でもやっていることは泥棒に限りなく近い。でもいいか。
「よし。これで問題解決だな。だろ、エルナ」
「ええ。これで国境を通ってレパーラに行けるわね」
通行券を渡してくるフィナ。…あれ?
「フィナ、俺だけ一枚多い気がするんだけど…?」
俺の手元には2枚、フィナとエルナの手には1枚ずつ。
「1枚余った。持ってて」
…ったく、そんなに淡々といわれると断る気も失せてくる。とりあえず2枚ともポケットに詰めておく。
「さて、じゃあ改めまして、これからよろしくな、フィナ」
「よろしくね」
挨拶をする俺とエルナ。それに対してフィナは、
「こちらこそよろしく」
ご丁寧に頭を下げる。そんなフィナに俺とエルナは小さく笑ってしまう。
「じゃあ行きましょう」
部屋の扉からさっさと出て行ってしまうエルナ。
「あ、ちょっと待てよ」
慌てて追いかけようとして、思い留まる。そしてフィナの方を向き、
「行こう、フィナ」
手を差し伸べる。
「分かった」
優しく、けれどしっかりと俺の手を握ってきたフィナの手を握り返し、先に行ってしまったエルナの後を追いかける。
あ~暑いですね。作者はクーラーとか極力点けない人なので、日中は暑いです。ムシムシしてあんまり手が進みません。
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