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遷姫の本心

〈寒き雨春に極まる冷たさよ 涙次〉



【ⅰ】


 ルシフェルの復帰後第一回目となる、黑ミサ。その「祭壇」として坂崎玖紀子は起用された。【魔】たちに取り囲まれ、實は人間界では孤獨であつた彼女(それは彼女の髙慢な氣質に依るものだつたが)は、魔界の王女となつたが如く、鼻髙々であつた。

 然し、ルシフェルはたゞの一回こつきりで、彼女を「棄てた」。悦美なり霧子なりの見せる、人間としての一定の深さを、彼は「祭壇」に求めた。それには、玖紀子は失格であつた。余りに「淺い」彼女なのだつた。彼女は、【魔】にしても、慾しくない人材なのだつた。


 だが取り敢へず、玖紀子を拐帯してきた功で、カンテラに斃された「三匹【魔】」の蘇生が決まつた。

 

 人間界では、カンテラ一味は「約束不履行」と云ふ(かど)で玖紀子の事務所に民事訴訟を起こされ、結局和解、と云ふ決着にはなつたのだが、後味は、カンテラにとつて、余り良いものではなかつた。



【ⅱ】


「三匹【魔】」が次に狙ふのは、誰か。誰あらう、それは、謝遷姫。カンテラ一味の「使ひつ走り」牧野の體内の「龍」に潜む、中國清代の名門女性、と云ふだけで、「三匹【魔】」の好餌とされたのである。


「兄弟よ、俺たちの次なる標的は、謝遷姫だ」「兄弟よ、俺たちの次なる標的は、謝遷姫だ」「兄弟よ、俺たちの次なる標的は、謝遷姫だ」-「三匹【魔】」は、皆そつくりの體型、そつくりの顔立ち、の他、云ふ事すら三匹一緒なのである。彼らは三つ子のやうだつた。彼らは、玖紀子に身長の事で嘲笑された男たちの、怨念に依つて生まれた。實際、三つ子だつたのかも知れない。だがそれはだうでもいゝ事だ。


「三匹【魔】」の嗜好からすれば、遷姫は恰好の獲物と云へた。まづ、脊がすらつと髙い。これは、彼らにとつて、必須の条件だつた。更に、ルシフェルは、女=「祭壇」には、取りも直さず「美」、そして前述の人間的「深さ」(これはルシフェルの、人間を蹂躙してゐる、と云ふ自己滿足の為に必要な条件なのだ)、を要求してゐた。更に更に、カンテラ一味係累の女、と云ふ事は、彼を滿足させるには、充分過ぎる程、充分なのだつた。



【ⅲ】


「兄弟よ、しかしあの女の夢には潜入出來ぬ」「兄弟よ、しかしあの女の夢には潜入出來ぬ」「兄弟よ、しかしあの女の夢には潜入出來ぬ」何故なら、牧野、「龍」、と云ふ障壁の、そのまた奥にゐる遷姫である。【魔】羨望の女は、羨望とされるだけの「遠さ」を持つてゐた譯。彼女を攫ふには、カンテラなりじろさんなり、魔界軍への門戸が開かれてゐる者の夢に、彼女が登場することが、第一義であつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈隻眼の姫はこの世に現れぬ咽喉から手が出る女であれど 平手みき〉



【ⅳ】


 魯良待(ろ・りようたい)は、遷姫の戀人であつた。彼は「善の」野武士集團の首領。その仇を取つてくれた、カンテラ・じろさんコンビに、遷姫は深く謝意を表したかつたが、それも果たせずにゐた。翡翠(ひすい)(かんざし)、謂はれのある物だつたが、これ一つでは彼女の氣持ちが収まらなかつた。

 じろさんには、中國拳法の極意書の巻き物を以て、その禮とした。じろさんは感激の(てい)であつたけれど、人外の者であるカンテラには、何を禮とするか... 悩みに悩んだ末、許婚者の悦美とは深刻なセックスレスに陥つてゐる彼に、女と云ふ一つの奥深さを知らしめる物- それは自分の肉體なのだが、を捧げる事にした。


 カンテラの外殻(=カンテラ)中、夢の中。「かんてらヨ、」「その聲は遷姫だな」「ワタシヲ抱イテハクレヌカ」これにはカンテラも愕然とした。

「そ、それでは余りに良待さんに惡い」「我ガ本心ハ、正直、揺レ動イテイル。良待トオ主ガ余リニ似テイルノデ」するすると、遷姫、チャイナドレスを脱ぐ。

「ま、待つてくれ」だが、實體化すれば掻き消えてしまふ、男としての慾望が、この夢の中では、炎の如く燃えてゐるのを、カンテラは止めやうがなかつた。これは、一つには、カンテラが火焔のスピリットであるせゐ、なのではないか? 作者はさう思ふんだけど、皆さんはだう思はれます?



【ⅴ】


 結果、遷姫の思ひは通じ、カンテラは生まれて初めて、情熱的なSEXをした。夢の中での出來事とは云へ、その味は、じつとりとカンテラの肌に染み付いた。


「ぐへゞ、お樂しみのところを濟まねえが」「ぐへゞ、お樂しみのところを濟まねえが」「ぐへゞ、お樂しみのところを濟まねえが」-「三匹【魔】」はその機を逃さなかつた。カンテラが太刀を持つた時には、時すでに遅し。遷姫は魔界に墜ちてゐた...


【ⅵ】


 悦美サンニハ秘密ニシテオクレ、と遷姫は云つてゐた。奪回劇も、他に漏らしてはならぬ。さて、カンテラ、だう出る? 勢ひ、孤軍奮闘で、ルシフェルに立ち向かはなければならぬのは、目に見えてゐた。カンテラの眞価が問はれる。そこには、悦美の父親であるじろさんは、勿論、ゐない。悦美を裏切つた己れが、余りに小さく見えるカンテラであつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈まごゝろを春の(くさめ)が吹き飛ばし 涙次〉



 次回に續く。そんぢやまた。アデュー!!





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