第57話゛先見偵察
刈谷駅の改札を超えると第二中隊は敵からの激しい攻撃に遭った。集中豪雨のように投射される兵器の数々。
「やまちゃん、下がって!」
鉄扇を大きく開き八代が敵の攻撃を防ぐ、八代が魔力を鉄扇に注ぎ込むと鉄扇の各板が広く伸び巨大な盾の役割を成した。
やはり八代を第二中隊に配属したのは正解だった、もし八代がいなければ第二中隊は壊滅していただろう。しばらくすると鉄と鉄がぶつかる音がやんだ、回り込まれる前に敵の背後をつかねば。
「今だ、刈谷駅を制圧するぞ。」
八代が扇を手元に戻すと惨状が広がっていた、全く関係のない民間人がこの集中攻撃に巻き込まれ針のむしろになった死体がゴロゴロと転がっていたのだ。いつも戦争において最大の被害者は民間人だと実感できる状況だった。
だが我々は残酷にも死体を無視するしかなかった、幸いと言えばサイコパスじみているがサーヴァントの持つ武器で人間を殺すとその40秒後には人体の全ての物質が魔力へと分解され空気中に離散するので片付ける必要がない。
「放て!」
駅前広場まで前進した第二中隊は伏兵となった敵軍によって四方八方から攻撃を受けた、八代の防御は周囲140度までが範囲だ。
「質量は力、空気圧縮)」
比叡が魔法をかける、『空気圧縮』一昨日覚えたばかりの新技、だがその新技はものの見事に成功し、周囲の空気を圧縮することでドーム状に薄い膜を作り上げた。直後パスン、パスンと空気を切り、射出された矢弾が第二中隊に命中した。
命中したというだけだ血の一つもでない。『空気圧縮』は完全に敵の攻撃を完全に防ぐ魔法ではない、投射兵器の威力を弱めるのが目的の防御魔法、完全に防御する魔法もあるその多くが土系統の魔法だが、風系の魔法である『空気圧縮』の方が生成そして解除するのが圧倒的に早い。
「空気爆破」
『空気圧縮』は空気を圧縮して膜状の防御網を作っている。当然圧縮を解けば圧縮された空気が開放され周囲に被害をもたらす、その方向を外側のみに限定させて敵を吹き飛ばすために転用したのが『空気爆破』なのである。
「ぐは!」「ぬっ!」「であ!」「うわ!」
などと強風を受け突き飛ばされた敵兵共は身体を打ちつけた。改札から出た後飛ばしていた自分達の味方であるドローンも回転しながら空気爆破の影響で制御を失っていた。
「う〜ん、なんでそんなことするのかな?兄ちゃん。」
アーサー国内でドローンのシミュレーションゲームをプレイするかのように操縦を行っていた炎火はドローンの制御を取り戻すために奮闘する。アイパッド越しに第一中隊全体にその情報が供与されるのだ。
「お前のドローンをぶっ飛ばしたのは俺じゃねぇーよって!」
右足に力を入れ、希薄になった空気を尚も切って接敵する。そのまま転倒した状態からやっと立ち上がった弓手であろう2人の首を取った。悲しいかなこれが戦場だ、だがその残酷な戦場にいるのは敵だけでなく俺も、俺達もその戦場にいる。
「クソ!よくも!よくも!俺の彼女を!」
顔を真っ赤にした男が俺に向かって突撃してきた獲物は長めのリーチを持つドスときた。
「早い。」
血が乗ってしまった刀を軽く素振りして血を落としている間に急接近した敵は薩摩拵では間合いが近すぎて切り捨てることが叶わない、仕方なくこの戦闘装束の現代で言えばポケットなのだろう箇所に携帯していた果物ナイフそっくりの刃物を取り出し、刀を放り出して敵の刃を払い除けようと努力したが、胸という急所を避けたものの脇腹を負傷してしまった。
「ぐふは!」
次こそはとトドメを刺しにかかるその仕草に自分は死ぬのだと覚悟したその瞬間、拳大の石が投射され、その男は声を上げるまでもなく気絶した。
「お兄ちゃん!その人はまだ死んじゃいない!」
ドローンで偵察している妹はサーヴァントの生死が分かる。俺は刀を広い上げトドメを刺した、勝負に勝った筈なのにどこか虚しさと恥ずかしさがあった。
その後、第二中隊の任務は本題に至った。偵察ドローンの防衛である、このドローン武装もできるみたいだが、その場合サーモグラフィーとカメラを取り外さないといけないみたいで要は偵察モードでの戦闘力ゼロなのだ。
高高度まで飛ばせばいいとも考えたが、サーモグラフィーとカメラの範囲が30メートルまでしか届かないというので、こうして護衛をつけた。
「後方20メートルから敵襲!人数は3人。」
その声とともにパシャパシャと撮影する音が聞こえる。敵が分かればそれでいいので戦闘は行わない。
「空気よ集まりて壁となせ、空気城壁!」
空気圧縮と同じ原理で一方向に圧縮された
空気の膜が張られた、目を凝らさないと見えない程薄いので実質見えない壁というものである。
「やっぱ魔法言うとき何だか恥ずいな〜。」
比叡は左手の指先で髪の毛をくりくりさせながら目を泳がせていた。
確かに高校2年生がいかにも中二病の中坊が好きそうなワードを真面目な面して言い放つことは高1の俺でも言ってはいけないことを言ったみたいに胸がきゅうと締め付けられそうだ。それが刈谷市内の繁華街のど真ん中というのなら尚更である。
任務を終えた第二中隊はパスポートのこれまた恥ずかしい?言葉を言って無事帰国した。
刈谷駅は第三中隊によって学生寮みたく木端微塵に破壊したので正規ルートでは帰れないようになっている。
破壊者は古賀である、そして人払いをしておく必要とまで言わないが礼儀ってものでそれをしてくれたのはロリのサーヴァントだ。
どうやらロリの母は東京でルーラをやっていたみたいだが人口比に応じてルーラが多い傾向にあるこの業界では東京は激戦区なのでとても大変だったのだろうか、その疲れもありある時体調を崩してしまった。その時にロリに譲渡したらしい。
そしてロリ母の実家は資産家みたいでその召使いに頼んでサーヴァントになって貰ったのだ。その内の一人は魔術系の装備を扱っていてその術式の中に人払いがある。
「よく帰ってきたニャ!」
アーサー国内のリビングに戻ってきた。ここも段々安心感のある場所になってきたなと感じる。
机の上は現像された写真で埋め尽くされている。写真は第二中隊の成果の証であり、それを見た俺達は満足感や達成感を感ぜずには居られなかった。
「写真こんなに撮ったんだ(ゃ)な〜。」
四人で声を漏らす、比叡のみが関西弁であるため『だな〜』に『やな〜』が少し混ざっている。
「爆破させた写真もありますよ〜!」
第三中隊はインフラ破壊が任務だったから満足感や達成感というより興奮を覚えている。理科の実験で反応が起きた時と似た気持ちなのだろう。
一方、第四中隊は疲れ切って話すことのできる者がいない。彼らの任務は敵を殺さず戦闘を続けることだ。まさに疲労困憊と言ったところなのだ、戦闘データの収集ありがとうございます。なんて言っても聞こえないのでそっとしておいてあげることにした。
そして作戦は第二段階へと進むことになる。俺のペアは比叡だ、よりにもよってあまり折り合いがよくない相手になるとは、しかも大変気まずいことに作戦の第二段階で籠もる城がホテルのシングルルームなので気まずさMAXである。ツインにしなかったのは単純に予算の問題というものだが今日から1週間程この生活が続くらしい。
提案者ながら不満がある、まぁまだ国内があるので添い寝の形にならないことはよしとしようじゃないか?むしろ残念なことなのか?
色々と思惑を巡らせながらホテルにチェックインした。




