008. それぞれの事情――アレクシス・オーレリア(1)
一方その頃、アレクシス・オーレリアは故郷であるグランオーレリア王国へ向かう魔晶列車の座席で流れる風景を見ながら物思いに耽っていた。
魔晶列車はダンジョンで発掘できる魔晶石を動力源とした列車で、不戦協定の地《理想郷》から各国へと運行している。ただし、各国間の移動を容易にするため、現在は各国の要人か裕福な者など素性・身元がはっきりとした者にしか利用できない。そのため警備も厳重である。
到着まで後三時間ほどある。アレクシスはふと、クラスメイトでパーティーメンバーであるシオンと初めて出会った時のことを思い出していた。
***
ボクがシオンと交友を持ったのは、入学式から三ヶ月ほど経った頃だった。同じクラスだったけれど所属している派閥が違うこともあって、交友を深める機会がなかった。
派閥は大体が国ごとに別れている。グランオーレリア王国。ルーミリオン神聖共和国。アストリア大陸部族連合。今は戦争関係ではないし、大陸中央学園都市は国の垣根を超えた場所だけど、やっぱり同じ国出身の者と固まりがちだった。
――ある時、校舎の片隅でシオンがグランオーレリア王国の貴族に絡まれている所を目撃した。
「お前目障りなんだよ!」
見るからに意地の悪そうな肥満体型の貴族の青年――あれは確かBクラスのランドールか――にシオンは突き飛ばされ尻餅をついた。我が国の貴族の行動に恥と怒りを覚えながら仲裁に行こうと近づいた時だった。シオンがボクに気づいたのか、こちらをチラリと見て目で訴えかけた――来るな、と。
「なんで…なんで俺がBクラスでお前みたいな平民がAクラスなんだ!」
冒険者学校に入学すると能力測定が行われる。また入学試験の実技・筆記試験の内容も考慮した、Aを頂点としFを最底辺とするクラス別けが実施される。貴族の自分が平民より下だと判断されたのが余程腹に据えかねるらしい。
「俺に言われてもな。お前の両親のコネでもAクラスに入れないとは、本人の出来が相当悪いらしい」
「き、貴様ぁっ!」
ランドールが大きく腕を振りかぶり、シオンを殴ろうとした瞬間。ボクは飛び出し、腕を掴んで止めた。流石にこれ以上は見過ごせない。
「暴力はやめよう」
「ア、アレクシス様?!」
ボクに気づいた彼は大人しく腕から力を抜いた。一部始終を見ていたボクはいきなりシオンに絡んだランドールと、言い返すにしても言葉選びが悪かったシオンを喧嘩両成敗とし、その場をおさめる。
「シオン…だったよね。大丈夫かい?」
「助けてくれたことには感謝するが、余計な世話だったな」
想定外の言葉が返ってきた。思わずムカついてしまったのは仕方のないことだと思う。シオンは舌打ちをして、近くに仕掛けていた写真機を回収した。
「やつに殴られていれば決定的瞬間を収められてた。今後何かに使えそうなカードだったんだがな」
事もあろうにシオンはわざと相手を挑発し、自分に手を出すように仕向けていた。普段、遠目に見る彼は人当たりの良さそうな青年の印象を受けたが、こんな裏の顔があったとは…。
「殿下、埋め合わせをしてもらおうか」
「な、なに?」
「俺と一緒に剣術の訓練をしてくれないか」
こうしてボクは王子の自分に対しても、まったく物怖じせず接してくるシオンのペースに巻き込まれ、友人、いや悪友となった。
***
「殿下!到着しましたぞ、我らが故郷グランオーレリア王国です」
気づけばアレクシスは寝てしまっていた。どうやら目的地に着いたらしい。先程まで夢を見ていた気がするが内容を忘れてしまった。
これから彼には大仕事が待っている。
――グランオーレリア王国現国王アルダール・オーレリアとの謁見だ。