006. 逢魔時(3)
「ふう…流石に疲れたな…」
シオン達はダンジョンを脱出し、事の経緯を駆けつけた教師達に説明した。先程まで事情聴取のために身柄を拘束されていたが、やっと解放され今は冒険者学校の寮である自室へと帰宅している。
生徒襲撃事件の件で今冒険者学校は上から下まで大騒ぎ。更に冒険者学校の枠を飛び越え《理想郷》の四国共同自治体にまで飛び火している。しばらく冒険者学校の機能は停止するだろう。現に全校生徒に対して、三日間の外出禁止令が発令された。
――コンコン。
外出禁止令の中、自室の扉がノックされた。
「入れ。…待ってたぞ」
「あら!想定通りってわけ?」
シオン達を襲撃した一味にいた、魔族の女がそこにいた。女は変装もせず堂々と来訪した。生徒襲撃事件で冒険者学校が警戒を強めているのに、だ。恐らく自らの力を見せつけるためだろうとシオンは考える。無駄だぞ、と。
「もっと驚いてくれると思ったんだけどな~」
サプライズが失敗した時のように魔族の女は残念がって言った。実力を示すことよりも、イタズラ心の方が勝っていたのかもしれない。
シオンに案内され、遠慮なくソファーに深く腰掛ける。長く靭やかな足を組み、ともすればシオンを妖しく誘惑しているようにも見える。
「ワープができる《人工魔法遺物》があっただろ。魔法かもしれんが。であれば何かしらの制限があるにせよ、どこへでも侵入できる。外出禁止令が出て、警戒も高まっている中で俺を訪ねて来るやつは限られているだろうよ」
――それに。
「お前は俺達をあえて見逃した。そして去り際の言葉…。後々また接触してくるだろうと思ったがまさかこんなに早いとはな…。何の用だ?今更命を奪いに来たわけではなさそうだが」
「確かにワタシはアナタ達を見逃したけど、分が悪いと思っただけよ。アナタは後ろの三人を庇っていて見えていなかったでしょうけど、あの三人…。鋭い目でワタシを睨みつけていたわ。どうやら切り札を持っているのは、アナタだけじゃなさそうよ」
――フフッ。それにしても慕われているのね。
魔族の女は柔らかく微笑んだ。羨んでいるようにも見えた。魔族はある時以降、迫害されている。およそ人としての扱いを受けていない。
シオンは話を聞きながら準備していた紅茶を差し出した。魔族の女は礼を言い、警戒することなく飲んだ。
「美味しい紅茶をありがとう。さて、自己紹介がまだだったわね。ワタシは魔族の中でも吸血鬼族という種族…。名前はカリナ・ノクターナ。カリナって呼んでちょうだいね、ウフ」
そう言うとカリナはパチっとウィンクをした。
「元々ターゲットだったんだ。俺のことは知ってるよな?シオンだ。ただのシオン」
「アナタ達を襲ったこと、謝るわ。誓って言うけどワタシは一人も殺していない。まぁ…その場にいたし、同罪よね。でも大事なコトよ」
人だけではなく、魔族も殺せる能力であれば、シオンはカリナの口を今すぐ黙らせただろう。そうはならなかったから、黙って続きを聞くことにした。
「それに不思議だわ…。アナタは他の三人よりも情報が少なかった。各国の要人よりね。興味が尽きないけど、今は本題に入らせて。ワタシが裏組織《闇手》に正体を隠して所属していたのは、ある方の情報を探すため…」
――何処かに囚われている吸血鬼族の姫、エリゼ・シャドウヴェイルさまを救出するため。