017. パーティー追放(下)
――そして現在。
アレクシス、シャノン、リディアは自国への報告を終え、それぞれが覚悟を新たにして大陸中央学園都市の冒険者学校へと戻った。
冒険者学校の生徒襲撃事件による騒動も一応の落ち着きを見せた。だが犠牲になった生徒達の関係者の悲しみが癒えるには、もうしばらく時間が掛かりそうだ。
そして三日間の外出禁止令も解除され、徐々に冒険者学校も何時もの日常を取り戻しつつある。夜の食堂も久しぶりの再開ともあってか、多くの生徒達で賑わっていた。
そんな中、とある四人組の生徒が座るテーブルは、物々しい雰囲気を醸し出していた。
「キミが人間を細切れに斬り刻んだからだ!」
「シオンくんが人間をペチャンコに潰したからです!」
「アンタが人間の頭を木っ端微塵に吹き飛ばしたからよ!」
――ああ、そうか。俺がシンプルに物騒でパーティを追放されるのか。
シオンは三日前のことを思い出す。ダンジョンでの実地訓練で《闇手》に襲撃されたこと。絶体絶命の状況だったこと。――やむを得ず、五人の襲撃者をぶち殺したこと。
「(…いや冷静に考えると俺は悪くないだろ。まあ、殺し方が多少…創造的だっただけで)」
結果が同じ『死』だとして、その課程に拘る必要はあるだろうか。殺すなら慈悲を持って苦しませずに殺せと?それは綺麗事ではないか。殺しに良いも悪いもない。殺しに意味を持たせれば、待っているのは果てのない死の連鎖だと、シオンは考える。
「ま、待ってくれ!確かに残酷な殺し方だったことは認める。だが説明しただろう!ユニークスキル《人間ぶち殺し》は俺が持つ死のイメージを対象に実行する事象の上書き能力。実際に能力を使ったのはあの時が初めてだ!だから能力の扱いに慣れていない分、死のイメージもコントロールできない。あの時は命の危機だったし、情状酌量の余地はあるだろう!」
「と、本人は申しておりますがお二人はどうですか?」
「死のイメージが怖すぎます!」「この三日間、悪夢を見たわ!」
アレクシスが少し茶化すように、シャノンとリディアに意見を求めると間髪入れずに返答が帰ってきた。どちらも相当に怖い思いをしたのだと想像できる。心的外傷だ。
「それにシオン、あの時キミはなんだか手慣れていなかっただろうか?立ち回り方といい、襲撃者に対する脅し方といい…本職の人では、ないよな?」
少し疑うようにアレクシスは目を細める。事実、能力を使用すると決めてからの立ち回りは堂々としたものだった。襲撃者相手に油断せず、一歩も引かず、主導権を握り、状況を切り拓いた。結果最終的に襲撃者の内一人の正体が魔族であったことを除けば、場を支配していたのはシオン。若干、十七歳の青年が、だ。
「巫山戯るな!だれが本職の人だ!まったく…命の恩人に向かってなんてこと言いやがる。アレクシス殿下、俺は貴国から表彰されてもいいのでは?」
「確かに命を救ってくれたことには礼を言おう。だがいいのかい?国から勲章を下賜されたければ、キミの能力を父上に説明しないといけないが?」
アレクシスは何気ない会話の中に探りを入れ始めた。シオンは他の三人が既にユニークスキル《人間ぶち殺し》について国の上層部に報告済みであることは知らないはず。だがシオンがそのことを知っており、既に行動を起こしていたとすれば。
――アレクシスはシオンが《名を奪われし男》であると疑っている。
――シャノンはシオンが《死王》であると疑っている。
――リディアはシオンが《四大魔王》の一柱と関係があると疑っている。
「(…さぁシオン、キミの返答や如何に。唯一無二の能力を持ち、過去を語らないキミの…正体はなんだ?…キミはこれからもボクの友人のままでいてくれるのかい?)」
アレクシス、シャノン、リディアの三人が固唾を呑んでシオンの返答を待つ。
「お前のしたいようにしろ、アレクシス。俺はお前が決断したことを尊重する。分かるよ。どんな相手でも人であるなら殺すことができる《人間ぶち殺し》なんて能力、一個人が持つにはあまりにも大きすぎる能力だ。いや…誰が持っていたとしても持て余すさ。お前は王族としてこの能力を見過ごすことなんかできない」
シオンはアレクシスが本当に自分に聞きたいであろうことを悟った。
「もしこの能力が他の誰かに利用されたら?もし…俺が本心では人間を殺したがっていたら?こんな能力、存在するだけで世界に災いしか齎さない。滅亡の芽を摘むためにも俺なんかとっとと殺した方がいい。だがな…俺は生きていたい!」
だから、シオンは自分の偽りのない気持ちを伝えた。
「俺は亡国…魔法国エルデリアの生き残りだ!冒険者になって俺は国を滅ぼした災厄ダンジョンを攻略する!そして…祖国を取り戻す!」
「シオン、アンタ…エルデリア出身だったの…?」
過去を語らないシオンが初めて明かした事実にリディアは驚愕した。シオンが亡き母と同じ国の出身だったと知ったからだ。
「危険な能力だと言うことは分かる!だが信じてくれ。俺はこの能力で大陸に住む人々に死を招いたりはしない!この能力に頼ったりもしない!自分自身で道を切り拓く!なぜならダンジョンのモンスターには意味のない能力だから。この能力は自分と大切な人の命の危機だけに使う」
シャノンは思わず胸に熱い想いが込み上がってきた。シオンが聖堂で亡き両親と妹のために祈っていた姿を思い出す。そんな彼が無闇矢鱈に人を殺すような人だとはとても思えなかった。
「誓うよアレクシス。だから頼む。…パーティーを追放するなんて言わないでくれ」
アレクシスは自分を見るシオンの目を見つめ返す。本心だと感じた。それが分からないほど短い付き合いではない。確かに彼は小狡い一面もあるが、自分から誰かを傷つけるような真似はしない。だが逆に考えるとシオンは仲間のためであればどこまでするのだろうかという疑問は残る。
結果的に見ると人を殺すという重責をシオン一人に背負わせてしまったのは、パーティーメンバーの三人が不甲斐ないせいではないか。あの時、もっと力があれば、別の結末もあったのではないか。アレクシスは自問自答する。
「気持ちは伝わった。――だがシオン、キミをパーティーから追放するのは決定だ。決して覆りはしない」
「…そうか」
アレクシスは無慈悲にシオンに言い放ち、シオンは力なく項垂れた。
◆ ◆ ◆
――まさか本当にパーティーを追放されるとは…。
次の日、シオンは自室で目を覚ました後、昨日の出来事について振り返っていた。曲がりなりにも友人と思っていた者達からパーティーを追放されてしまった。こういう事態も覚悟はしていたが、正直に言うとショックだった。
「可哀想に…。これからどうするの?」
魔族の女。吸血鬼種であるカリナ・ノクターナがシオンを慰める。事ある毎にワープゲートの《人工魔法遺物》を利用して、シオンの部屋に入り浸っていた。
「情に訴えかけたが、流石は王族。そして聖女候補と獣人族長の娘。感情よりも災いの芽を詰むことを優先したか。…俺でもそうする」
「じゃあ暗殺者でも差し向けられたりするの?」
「可能性はあるが、直接的な行動は取らないだろう。失敗した場合を考えるとデメリットが大きすぎる。何故なら俺が怒りに任せて人間をぶち殺して周る可能性があるからだ。――フン、もちろんそんなことはせんがな」
シオンは襲撃事件の下手人が所属していた組織《闇手》を壊滅させ、頭領であるギルデバルドの首をグランオーレリア王国へ届けた。宣戦布告と共に。賢い者ならわざわざ虎の尾を踏むような真似はしないだろうが、警戒はしておくべきだとシオンは判断した。
「さて、これから冒険者学校の校長と会ってくる。呼び出されていてな」
恐らくパーティーから追放されたことで話があるのかもしれない。どんな理由で追放したと伝えているのかは分からないが、理由次第では危険かもしれない。
シオンはこれからの学校生活に一抹の不安を抱きながら、校長室へと向かった。
◆ ◆ ◆
「――失礼します」
「おお、来たか。シオン」
校長室に行くと、そこには校長であるガラハド・グリントンが待っていた。白髪と白髭がトレードマークの長年に渡り学び舎を守り続ける老校長である。
「本題に入るが、パーティーから除名されたことは知っておる。だから代わりのパーティーを用意せねばと思っての」
これからも学校生活を送るつもりであったシオンは安堵した。かつてのパーティーメンバーと同じクラスのままなのは若干気まずいが仕方ない。
「さっそく紹介しよう。お主の新しい仲間達だ。…お~い!入ってよいぞ!」
ガラハド校長がそう言うと同時、シオンの背後の扉から勢いよく何者かが飛び出して来た。
「じゃ~ん!サプラーイズ!」
悪戯が成功したように笑うリディアと、その背後で申し訳なさそうに縮こまっているシャノン。してやったりという顔のアレクシス。ここに来るはずのない三人がそこにいた。
「お、お前ら…!どうしてここに?!」
流石に普段は冷静沈着なシオンも驚きを隠せなかった。昨夜とのギャップに戸惑いを隠せない。
「ほっほ!お主らも悪いことするの~。シオンよ、戸惑う気持ちは分かるが彼らが新しい仲間なのだ」
「せ、説明をお願いします…!」
「うむ。実は昨夜、三国の上層部から連絡があっての。お主らをAクラスから除名し、特別クラスであるSクラスの所属とする!」
――Sクラス。
通常は能力ごとにAからFへと振り分けられるが例外が存在する。それがSクラスだ。ただし入学時にSクラスに振り分けられることはない。Sクラスに昇格する条件は幾つか選考基準が存在するが、その一つに偉業の達成がある。
「お主らは大陸中を跨って暗躍する裏組織《闇手》の襲撃者達を倒し生徒達の命を救い、紛れ込んでいた魔族も撃退した!その実力、既にいち生徒の枠に納まること能わず…。よってSクラスへ昇格するものとする!」
興奮気味にガラハド校長は語る。シオンは冒険者学校への報告内容が改竄されていることに気づいた。
「(能力を秘匿するため、報告では魔族の女が襲撃者を殺したと説明したが、俺達が襲撃者を殺したことになっている。まぁ事実だがな。恐らくアレクシス達は自国の上層部へ報告した。そして三国間で話し合った結果がこれか。なるほど…Sクラスへ昇格させることで隔離するというわけか)」
ガラハド校長は説明を続ける。
「Sクラスは自由じゃ。これまで通り学校の授業に参加してもよし、大陸中央学園都市内のダンジョンを攻略してもよし!何をしても自由じゃ!ただし、Sランクになると依頼受注義務が発生するから気をつけよ」
不戦協定の地《理想郷》内のダンジョンは比較的攻略難易度が低い。逆に四国に存在するダンジョンは災厄ダンジョンが近いため攻略難易度が高い。つまりランクの高いプロの冒険者は自国のダンジョン攻略に手一杯なのである。
そこで四国の中心地《理想郷》内のダンジョン攻略は主に学生を中心に行われる。もちろん助っ人のベテラン冒険者が同伴する場合もある。Sクラスとはつまり、《理想郷》内の最高戦力と言ってもよい。
よって《理想郷》内での揉め事や事件の解決、ダンジョン攻略などの依頼を受注する義務が発生する。
「承知しました。お前たちも同意済みか?」
シオンはアレクシスたちに確認をとる。Sクラスは半端な覚悟では務まらない。
「ああ!この機を逃すはずがない」「私も皆と一緒に頑張りたいです…!」「Sクラスになると出来ることが広がるからね~」
どうやら既に三人とも覚悟は出来ているようだった。
「じゃあ、パーティー復活か?」
「いや、シオンは追放されたままだ。…それにパーティーは解散する」
「は…?どういうことだ?」
シオンは呆気にとられた。パーティー追放からの再加入。美しい物語だ。ここまで良い流れで進んできたのに、急に冷水をかけられ、せっかくの高揚した気分が冷めてしまった。
「おっと、大事なことを忘れておったわい。シオンよ、Sクラスではパーティーは存在せん。代わりにクランと呼ぶ。つまりプロの冒険者と同じ扱いと言うわけじゃ」
――クラン。
冒険者の共同体。大抵の場合、四~六人程で構成するパーティーよりも大規模な存在だ。つまりクランリーダーの方針によっては軍隊程の数と力を持てるようにもなる。
「シオン、昨日はすまなかった!実はキミよりも先にボクたち三人はこの事を事前に知っていたんだ。何時もキミには手玉に取られているからね…ちょっとした意趣返しさ!」
そう言ってアレクシスは思わず見惚れてしまうような笑顔でウィンクした。シャノンは申し訳なさそうに俯いている。彼女の性格上、反対したのだろうがどうやら押し切られてしまったようだ。リディアもこちらをニヤニヤと意地の悪い顔で見ている。
「フ…フハハッ!アッハハハハハ!」
シオンは大笑いした。少し涙も溢れていた。久しくこんな気持ちを忘れてしまっていた。そうだ、本来学校とはこうして友達と馬鹿なことで笑い合う場所ではなかったか。これほど感情をあらわにしたシオンを見るのは三人は初めてだった。アレクシスとシャノン、リディアも思わず釣られて笑顔になる。
シオンは改めて仲間達の顔を見渡した。それぞれに事情や思惑が存在したとしても、大切な仲間であることに代わりはない。失って、奪われてきたシオンが初めて手に入れた宝物。何があっても彼らを守り、共に進むと決めた。
パーティーを追放されたと思ったら、パーティーが解散していた。だが、新しくクランとして生まれ変わる。
冒険は続く。そこに待つのは破滅か栄光か。誰にも分からない。それでも彼らの表情は明るい。共に進むと決めたから。
校長室の窓から陽射しが差し込み、彼らの新しい門出を祝福するように照らした。
お読みいただき、ありがとうございます!
今回で一旦、第一章は完結となります(連載は続きます!)。
勢いで書いたので、これまでの話を改定・増筆予定です。
なので更新ペースが落ちるかもしれません。
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