014. それぞれの事情――リディア・サンフィールド(1)
「リディアー!帰ったか!ガハハハ!」
「パパ!ただいま!」
アストリア大陸部族連合。獣人族と亜人族を中心とした連合体。様々な民族や文化の坩堝である。獣人族や亜人族はあくまで大きな分類で、更にその中に氏族という分類が存在する。
氏族とは共通の祖先を持つ血縁集団。または共通祖先を持つという意識や信仰による連帯感の下に結束した血縁集団のことであり、特に純血であることを重んじる傾向にある。より強くより濃く祖先の力を受け継ぎ保持するためだ。
リディア・サンフィールドは砂漠一帯を縄張りにする、太陽の鷹を祖に持つとされる光輪鷲氏族の族長の娘である。
父はタロン・サンフィールド。リディアにはない燃えるような紅い両翼が特徴的な大男。アストリア大陸部族連合の代表を務めている。久方ぶりに娘と再会し、豪快に喜んでいた。
再会の挨拶も程々に、リディアは故郷の民族衣装へと着替えた。彼女の衣装は、太陽の光を浴びる砂漠のように、煌めく金色と鮮やかな赤で彩られている。
「我が娘が無事帰ったぞ!宴だ!こんなに目出度いことはない!」
巨大な焚き火を中心に氏族の家族達が集まり帰郷祝いの宴が始まる。リディアはその中でも特に目立ち、まさに煌めく砂漠の舞姫といった出で立ちであった。
頭に巻かれた金のターバンの下からは、リディアの長く艶やかな赤い髪が流れるように垂れ下がり、風に揺れるたびにしなやかに舞う。彼女の舞う姿は、まるで砂漠の中で繰り広げられる幻想的な物語の一部のように、華麗で神秘的な雰囲気を醸し出していた。
――あ~!楽しかった!
冒険者学校から故郷への移動の疲れもあってか、リディアは一通り宴を楽しんだ後、いち早く切り上げて実家の部屋に戻った。主役が抜けた後でも彼らは構わず踊り明かすだろう。今なら泥のように眠れる自信がある。その言葉通り、リディアはすぐに眠りへと誘われた。
◆ ◆ ◆
「あ!羽なしがこっちに来るぞ~」
他氏族の幼い少年たちがリディアをからかう。羽なし。リディアは光輪鷲の一族で唯一翼がなかった。太陽の鷹を祖に持つことで氏族の者は皆、紅い翼が生えている。
「(いつかわたしだって…はえてくるもん)」
母はリディアが幼い頃に亡くなってしまった。母は人間だった。リディアは獣人と人間との混血。そのせいか父の獣人の特徴をあまり受け継いでいなかった。そして、そのことが原因で他氏族の子供たちからいじめを受けていた。
父であるタロンと母であるセリナ。まるで太陽と月ほど正反対の二人は恋に落ちリディアを授かる。もちろんタロンは将来族長を継ぐ立場。氏族の者達からは大いに反対されたが、それでも二人が結ばれることを止めることはできなかった。
セリナもそれが分かっていたからか、氏族に受け入れられるよう相当な努力をした。結果、彼女が死んだ時には氏族の皆が大いに悲しんだ。それほど愛された存在になったのだ。
「えいっ!」
リディアが自分をからかってきた少年たちを指差す。すると指先からこぶし大の火球が生成され、放たれた。
「どぅわっ!逃げろ!」
少年たちはたまらず逃げ出した。リディアは父の翼は受け継がなかったが、母の魔法の才能を受け継いでいた。それがリディアを支えるたった一つの誇り。魔法を使う度に母との絆を感じる。会えないことは寂しいが、母を側に感じた。
「でもあいたいよ、ママ…」
◆ ◆ ◆
――嫌な夢見ちゃった…。
目が覚めるとまだ夜だった。中途半端な時間に目が覚めてしまった。リディアは眠気が去ってしまったので気分転換に散歩に出かけることにした。
「あれパパ?」
「ん?リディアか」
外に出ようとしたが居間で父が一人、お酒を飲んでいた。
「それママの写真?」
「ああ。リディアがこんなに立派になったぞ、と報告してたとこだ」
タロンはセリナの写真立てを手に取り笑いかける。リディアは父がずっとそうして、亡き母と語り合っていたのだろうと思うと胸が苦しくなった。自分も同じ気持ちだから、分かる。
「ママってどんな人だったの?小さい頃の記憶しかなくてさ。凄く優しい人だったってことは覚えてるけど」
「そうだ。優しい女だった。そして情に厚く、正義感が強かった。だから止めるべきだったんだ」
――災厄ダンジョンの攻略なんて不可能だったんだ。




